5.56mmステアーフレシット

歴史
 
 フレシットは矢状、または針状の弾であり、口径より小さいため、バレルから発射することを可能にするためには駆動面あるいは駆動カゴが必要である(頑住吉注:フレシットを乗せ、あるいは包んで加速するいわゆるサボが必要だということです)。この弾は非常に高い銃口初速度と良好な貫通力を持つ。これはほとんど直線状に、そして非常に遠距離まで飛行する。そのような矢状弾はすでに、石または鉛製の球状弾が存在するより前に火器および火薬を使う砲に使用されていた。1400年以後になって初めて、手で持って使う火器からは全て鉛球状弾が発射されるようになった(頑住吉注:「Faustfeuerwaffen」の「初期のリボルバー」の項目には、「皇帝カール5世(1500〜1558)の財産に由来する3本のバレルを持つホイールロックペッパーボックスがトリノのArmeria Reale Museumにある。この銃は1530年頃ニュールンベルグで製造され、長さ20cmのバレルからスチール製の矢を発射するように作られている」旨の記述がありました)。

 20世紀の30年代、ドイツにおいて100km以上の射程を持つPeenemunde(頑住吉注:「m」はウムラウト ペーネミュンデ)およびRochling(頑住吉注:「o」はウムラウト ロッホリング)の遠距離砲用矢状砲弾が開発された(大規模器具のセクションにある鉄道砲の項目を見よ 頑住吉注:いわゆる列車砲です。ちなみに戦艦大和、武蔵の46cm砲ですら射程は約42kmだったそうです。驚異的な射程ではありますが、矢状である以上炸薬量は小さかったはずです)。こうした試みが成功によって締めくくられた後、この種の発射体を手で持って撃つ火器にも導入する試みがなされた。1950年、アメリカ陸軍は歩兵兵器用フレシットの実験を行った。この際その弾道学的性質は大部分、砲兵弾薬から歩兵弾薬に引き継がれ得た。ベトナム戦争の間、.223レミントン(5.56mmx45NATO)を使った実験が実施された。この弾はUSスチールヘルメットを760mで貫通し、銃口初速度1,516m/sを持ったが、充分な命中精度を持たなかった。このため軍は70年代の初めにはこうした弾に対する興味を急速に失った。

 1980年にアメリカ陸軍はアドバンスドコンバットライフル(ACR)の研究注文をステアー社に持ち込んだが、同社はちょうどケースレス弾薬(「Uselパテント」)に取り組んでいた(頑住吉注:誤解を与えるような記述ですが、5.56mmステアーフレシットはケースレス弾薬ではありません)。90年代以来OICWと呼ばれるプロジェクト(始めはSPIW、その後SAWプロジェクト、そしてその後にOICW)の下で、ある兵器が探求された。それはアメリカ歩兵がそれを持って新世紀に入りたいと意図されるものだった。ステアー社はこの予選にステアーACRを提出し、この銃は5.56mmステアーフレシット弾薬を使用するものだった。しかしこのOICWプログラムはH&KのOICWデザインに決着した。

5.56mmステアーフレシット
 
 5.56mmステアーフレシットは、プラスチック薬莢、駆動カゴ、リング信管、そして本来のフレシットからなっている。この結びつき全体はSCFもしくはシンセティックケースドフレシットと呼ぶ。薬莢の全長は45mmである。弾全体が薬莢内に位置しているため、これは同時に弾薬の全長でもある。SCF内では長さ41.25mmのフレシットが4つの部分に分かれた駆動カゴによって保持されている。この駆動カゴは後にフレシットをバレルを通して運ぶものでもあり、これも同様にプラスチック製である。弾薬重量は5.1gであり、これは.223レミントンの重量の半分以下である。弾自体は重量0.66gである。ACRのバレルは弾を追加的回転運動によって安定させるため回転させられる。このためProduktionsfehlerをkompensierenすることもできる(頑住吉注:「Produktionsfehler」は「製造」+「ミス」、「kompensieren」は「相殺する」、「埋め合わせる」、といったような意味ですが、どういうことか分かりません。バレル自体が回転して弾に回転を与え、ライフリングがないため、難しい作業であるライフリングを切る工程での不良品が生じない、ということでしょうか)。

 この弾薬はノーマルな弾丸と違ってプライマーではなく、リング信管を持つ。これは弾の端部にあって薬莢の周りにぐるっと配置されているリングであり、これへの打撃によって発射薬に点火するものである。フレシットは尾部のフィンによって火薬の中に立っている。偏った点火によって生じた回転を補うために尾翼は大きく作られ、これは飛行安定性にも寄与する。その上駆動面を高い遠心力によってより良く切り離すという結果も生む(頑住吉注:この部分いくら読んでも意味が分かりません。ただ、尾翼を持つものの弾は回転し、バレルを出た後この回転による遠心力でサボが開いて脱落しやすくなる、というのは間違いないと思います)。

製造

 フレシットは製造上比較的高価である。だから多くの国はこうした弾薬を自国の軍用に調達することを拒否している。スチール製の原材料は引き伸ばされ、焼きなまされ、その後尾翼フィンが圧着され、先端が研磨され、矢全体が表面硬化処理される。その際多くの未完成製品が歪み、事後研磨しなくてはならない。このことはエンドエフェクトにおいて命中精度を低下させる。引き続いてフレシットは駆動カゴに適するようサンドブラストされる。最後にフレシットはカゴごと薬莢内にもたらされる。

飛行弾道および傷弾道

 この弾は非常に良好な弾道を示す。初速1,480〜1,500m/sの場合、600m以遠になって初めて速度が約910m/sに低下する。弾道は極度にフラットに推移し、このためフレシットは600mにおいてサイトラインからたった33cm上を飛行するだけである。.223レミントンの場合、弾道の高さはすでに155〜180cmになる。600mにおいてフレシットは依然35mmのスチールを貫通する。

 この弾は人体内に恐るべき傷をもたらす。これは国際的に激しく非難され、戦場において禁止される理由であった。というのは、ターゲット媒体(例えば20%ゼラチン)内部でフレシットは安定を奪われ、変形した。NATOのテストでは先端が釣り針状に曲がり、あるいは弾全体がU字型になった。それだけでなくこのフレシットはターゲット内で90〜180度回転する傾向にもあった。こうした変形および横方向の運動によって、飛行体はそのエネルギーの大部分を放出し、比較的大きな傷穴を開けた。この回転はさらに、弾が安定フィンを先にしてターゲット内をさらに突き進むことも意味した。

 一般に使用されている全ての防御ベスト、戦闘ヘルメット、スチールヘルメットはNATOによるテストにおいて成功裏に克服された。その際、弾はしばしばこうした防御物の一部をノーマルな衣服の一部の場合のように傷穴内に引き込んだ。これはそこで同様に損傷を引き起こすことができる。特に傷の領域の周りをぐるっと囲んでいる防御ベストの破片は二次的な損傷を導く。

 この弾の傷穴はターゲット媒体(人、獣、あるいは弾道学ゼラチン)内では予測不能である。弾はスチール内は比較的直線的に進むが、ソフトターゲット内では変形し、そこで方向を変える可能性があるが、それは物理学的に与えられた限度内でのことである。ステアーフレシットが、多くのウェブサイトにあるように「胸から太腿へ」進むことは言うまでもなく有り得ないことである。

弾薬の名称:5.56mmステアーフレシット
開発:ステアー
導入の年:1980〜1990
全長/薬莢長:45mm
弾薬重量:5.1g
弾丸全長:41.25mm
弾丸直径:1.58mm
弾丸重量:0.66g
有効射程:約1,500m
最大射程:3,500m以上
銃口初速度:1,450m/s
600m飛行後の速度:910m/s


上に示された値は平均値である。火薬、弾、弾薬あるいは他の影響によって偏差が引き起こされる可能性がある。

全記述には保障なし。文章はFatherChristmasによる。


 この記述は弾薬に関するものであり、ACRという銃自体に関してはあまり触れられていません。これに関しては、

http://world.guns.ru/assault/as56-e.htm

http://www.steyr-aug.com/acr2002.htm

http://remtek.com/arms/steyr/acr/acr.htm

http://en.wikipedia.org/wiki/Steyr_ACR

 といったページをご覧ください。

 フレシット弾は重量が小さいため非常に高速で発射され、空気抵抗が小さいためその高速が遠距離まで持続します。当然弾道はフラットになり、これで他の条件が同じならば命中率が向上し、特に遠距離を高速で移動するターゲットに命中させやすくなるはずです。しかし実際には、発射時にバレルと直接密着していない、サボが脱落するときにアンバランスが生じる、安定用のフィンは風の影響を受けやすいなどの理由で命中精度が低く、広く採用されるには至っていません。これはたぶん無誘導のロケット弾は命中精度が低いというのと同様、フレシットがフレシットである以上矯正し得ない欠点なのではないかと思われます。ただ、たいていの場合歩兵用ライフルにそれほどの命中精度は必要とされないと思われ、大きなメリットをあきらめざるを得ないほどなのかは疑問でもあります。同じ銃から通常弾とフレシットの両方を発射するということも検討する価値があるのではないでしょうか。と、言いたくなるほどここに示されているフレシットのスペックは優れています。初速は通常の軍用ライフル弾の約倍、600m飛行した時点の速度ですら通常のライフル弾の初速以上です。防弾鋼板ではないはずですが、たとえ軟鉄であっても35mm貫通というのは信じられないほど凄い数値です。600mでの弾道の上下差がわずか33cmなら実際上サイト調節は不要でしょう。

 何となく鋳造で簡単にできるようなイメージがありましたが、フレシットの製造がこんなに面倒なものだとは思いませんでした。これでは価格は高くならざるを得ず、全軍に装備する主力アサルトライフルに使用するのは大変でしょう。単にコストがかかるから大変、というだけでなく、大規模な戦争になったら生産が間に合わなくなるおそれもあると思われます。

 フレシットは飛行中は安定していますが、密度の極端に異なるソフトターゲットに突入するとバランスを失って転倒し、傷を大きくする性質があるようです。「国際的に激しく非難され、戦場において禁止される理由であった」というような記述がありますが、実際にフレシット弾が禁止された事実はないはずで、使用したら非難され、また禁止される充分な理由があり、これもネックの一つだった、といった意味でしょう。ちなみにヘルメットやボディーアーマーは体を守るものですが、貫通された場合その破片が傷をさらに大きくするという点は知りませんでした。

 この弾薬をG11に使われたケースレス弾薬と比較すると、

5.56mmステアーフレシット 4.73mmx33DM11
弾薬重量 5.1g 5.20g
弾丸重量 0.66g 3.25g
全長 45mm 33mm
初速 1450m/s 930m/s
初活力 680J 1380J

 となります。エネルギーは重量には比例し、速度には自乗に比例しますから軽量高速弾の方がエネルギーが大きくなる傾向にあるとは言え、フレシットの重量は極端に小さいため、強めのピストル弾薬程度のエネルギー量になってしまっています。運動量となると現NATO弾のわずか1/4、強力な.22LR程度しかなく、リコイルはきわめて小さいでしょう(厳密にはサボもリコイルを生じますが)。元のページには両者の比較画像もあります。当然薬莢がない4.73mmx33DM11の方がコンパクトですが、重量は弾頭が極端に軽い5.56mmステアーフレシットの方が軽量になっています。当然これは大量に弾薬を携行する際に有利になります。両方ぽしゃったわけですから比較するのも虚しいですが、5.56mmステアーフレシットは4.73mmx33DM11に負けないほど革新的な弾薬だったんではないかと思います。果たして試みられては消えていくフレシット弾が普及する時代は来るんでしょうか。









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