九四式拳銃製作記

これは九四式拳銃の製作情況をリアルタイムで記録したものです。なお、他ページと重複する画像は削除しました。

12月2日
 いよいよ九四式拳銃の製作に入りました。迷いましたが、形式はモデルガンにします。迷った、というのは、この銃はプラキャスト製ガレージキットとして製作しにくい銃だからです。プラキャストの弱点は、強度(硬度、剛性)、精度が出ないことです。肉を薄くすることが難しいため、例えば伸縮式の望遠鏡みたいなものを作ることが苦手になるわけです。九四式では、フレームがスライドを包んでいる部分があり、ここをリアルに再現すると、中心にファイアリングピンがあり、そのまわりをボルトが包み、そのまわりをスライドが包み、そのまわりをフレームが包むという4重構造になり、再現が難しいわけです。九四式はショートリコイル式では珍しく、リコイルスプリングがバレルに巻かれています。ブローバックのような普通の形式で作ると、リコイルスプリングによってバレルが強く後方に押されてしまうわけで、これでは困ります。そこでバレルにカラーを巻き、このカラーをフレームで保持してバレルにはリコイルスプリングのテンションがかからないようになっています。ここも中心にバレル、そのまわりにカラー、そのまわりにスライド、という3重構造になります。このカラーは肉厚がたぶん0.5mmくらいしかなく、内部にスプリングを収納して後端のみで保持し、内部がスプリングの縮みしろになるようになっています。しかしプラキャストでそんな肉薄のパイプを作るのは無理で、肉を厚くして前部で保持するしかありません。そうするとスライドのストロークが短くなってしまいます。また、このカラーを保持しているのはフレームから伸びた2本のアームですが、きわめてきゃしゃで、こんな形にするのはとても無理です。トリガーとトリガーバーの関係は、普通の押す、引く、といったものではなく、斜面にそって押しのける、というものです。これはパーツが柔らかかったり、ガタがあったりすると機能しにくい方法であり、また長い距離動かすのにも向いていません。トリガーバーとハンマーの関係も、ハンマーの軸と離れた部分をハンマーの軸と平行のピンで横から保持し、これが横にどくことでレットオフしますが、これだとハンマーにガタがあるとレットオフしなくなる可能性があります。トリガーバーを大きく動かすのは難しく、トリガーバーの軸を前に持っていくと後部の移動距離は大きくなるもののテコの逆でトリガーとトリガーバーの関係に無理が生じます。
 型取りにも問題が多いです。銃のピンは大部分が横に貫通しており、左右分割の型でそのまま作ることができます。しかし九四式のトリガーバーの軸は上下に貫通しているため、型で再現するのは無理です。後加工で開けるとなると、前述のように難しい問題を多く含むトリガーバーの軸にばらつきが出やすくなります。フレーム内部の、ロッキングブロックが移動する階段状の部分も型で抜きにくい部分です。またフレームは普通なら中心線にパーティングラインをもってきて左右に抜き、中身は上に抜く、という型になります。しかしこの銃のフレームには、スライドを包むアーチ状の部分があるため、中身が上に抜けません。もちろんフレーム上部の中身を下に抜くのは不可能です。フレームをモナカにするのはいやなので、タイルを1つづつずらして絵を作るパズルもどきの複雑な型で抜くか、それも不可能ならアーチ部分のみ別パーツにするしかないでしょう。
 てなわけで、非常に困難な部分が多いモデルアップですが、あーでもないこーでもない、ひょっとしてこうしたらいけるんじゃないか云々と考えるのも楽しかったりします。

九四式ホルスター1九四式ホルスター2

 中田商店で買った九四式のホルスターです。十四年式、パパナンブ、二十六年式のホルスターは11,000円するのに、九四式のものは4,300円となぜか安価です。以前十年式信号拳銃のホルスターがきつかったので、どうしても肉厚になりやすいプラキャスト製モデルを入れるのは無理かな、と思いました。しかし、形になっているところにすっぽり入れる、といった十年式のものに比べ、九四式のものはメガネケースに近いとでもいうんでしょうか、フレキシブルで、これなら多少厚くても入りそうです。

12月8日
 九四式の仕様が大筋固まりました。順を追って説明します。
バレルはロックありのリアルショートリコイルにできそうです。ただし、ロッキングブロックが階段状に動く実銃のシステムは作動、型抜きの両面で無理があるので、斜め下に直線的に動くシステムにアレンジしました。これで問題なく動いていますが、ロッキングブロックをスライドが押し下げる部分にけっこうストレスがかかります。プラキャストで複製した場合にちゃんと動いてくれるか、動いてもパーツの磨耗、変形ですぐトラブルが起きないかはやってみないとわかりません。場合によってはロッキングブロックをなくした擬似ショートリコイルにアレンジせざるを得ないかもしれません。
 パーツの構成はほぼ実銃通りで、スライドが後退した状態でファイアリングピンを押し、スライドとボルトを結合しているクロスボルトを抜いてスライドは前、ボルトは後に抜く、というフィールドストリップは実銃通りになります。まあ、実銃ではホールドオープンさせて行うのに対し、スライドを手で抑えながらやらなければならないという違いはありますが。
 マガジンキャッチ、マガジンセーフティは形状は違うものの、実銃通りのシステムになります。実銃では両者の軸が同じです。鉄製ならこれでいいんでしょうが、パーツの強度が低く、スプリングも強くできないキットだとマガジンセーフティのスプリングによるストレスがマガジンキャッチにかかってスムーズに動きません。面倒ですが軸を2重(芯は2mmネジで、それに3mm真鍮パイプをかぶせる。後者がマガジンセーフティの軸となり、マガジンキャッチの軸である前者にストレスが伝わらない)にさぜるを得ませんでした。
 トリガースプリング、ハンマースプリングは、ガイドもなしにコイルスプリングを弧状に曲げるという大胆不敵なもので、これは無理では、と思ったのですが、やってみると意外にも問題なしでした。
 内部の形状は違うものの、トリガーバー、ハンマーの関係は実銃通りです。ハンマーの頭のローラーも再現します。これは実際にスライドを弱いリコイルスプリングで押し戻すのに有効のようです。トリガーバーの前部を押すとトリガーを引かなくてもハンマーが落ちるという実銃の欠点も結果的に実銃通り再現されることになります。
 セーフティは珍しいことに、軸がフレームを貫通していません。フレームの左の壁だけで保持しているわけです。当然ですが、軸が浅くしか入っていないほどガタが出やすくなります。事実、実銃では末期に粗製濫造されたものの中に、セーフティがガタによって機能しないものもあったそうです。キットではこれでセーフティを保持するのは無理なので、軸を貫通させ、その分ハンマーを小型化せざるを得ません。
 グリップは一般的なチェッカリングのある黒いプラスチック製ではなく、単純な木製を再現します。理由は1.以前「神様」六人部氏が作った無可動モデルとちょっとでも違うものにしたい、2.個人的に、勝っている頃の日本軍より、滅んでいく日本軍に思い入れがある、3.全体が黒1色より茶色の部分がある方が外観的にアクセントになってよろしい、5.何より作りやすい(笑)といったことです。末期になると、コッキングピースも角型になって仕上げもボロボロになりますが、そこまでは行ってほしくない。ということで、1944年12月、つまり終戦の前年の師走(57年前の今頃)に作られた、という設定にしました。九四式は製造年月がはっきり刻印してあるのでこのへんわかりやすいです。
 さて、最後に最も問題となった点、トリガーとトリガーバーの関係についてです。九四式では、トリガーを引くことによって軸をはさんだトリガーの上部が前進し、これによって垂直の軸を持つトリガーバーが動く、というシステムになっています。それなら例えばこんなデザインなら問題ないわけです。

トリガーバー1

 これは上から見た図です。ゆるやかな斜面に沿ってトリガーバーが押され、前部が外に押し出される、というわけです。しかし九四式では逆にトリガーバーの前部を内側に引きこんでいます。それならこんな方法が考えられます。

トリガーバー2

 トリガーバーの突起の斜面に沿ってトリガーバー前部が内側に引きこまれる、というわけです。上の方法より無理がありますが、これならまだましです。しかし実際には下のようなデザインになっています。

トリガーバー3

 パーツの前進によって他のパーツをおしのけるのではなく内側に引きこむ、斜面が急である、力がかかる部分が支点から大きく横にはずれている、そして上から見た図では表現されませんが、トリガーの上部は単純な前進ではなくかなり回転運動が加味されている、ということです。ずばり言って麒次郎おじさんのデザイン、無理ありすぎです。十四年式ではトリガーを引くとシーソーの前部が押し上げられ、後部が下降してレットオフ、という非常にシンプルで確実なデザインだったのに、どうしてこんな設計をしたのか理解に苦しみます。この通り作ってみましたが、パーツがしなったり折れたりするばかりで全然動きません。セーフティの固定もそうですが、強度の弱いキットでも無理なく動く設計の方が実銃でも余裕があるということであり、必要に迫られて粗製濫造したり、異物が入ったり、使いこんで磨耗したりしても問題が生じにくいはずだ思いますが、そんなこといまさら言ってもしょうがないですよね。で、ここはこんな風にアレンジしました。

トリガーバー4

 トリガー上部の前進によってL字型パーツが反時計方向に回転し、トリガーバー前部を内側に引きこむ、というわけです。実銃にないパーツが1個増えてしまいましたが、これなら動きは確実ですし、外観は崩しません。なお、実銃ではトリガー上部がスプリングで上に押された別パーツになっています。ショートリコイルによって後退したバレルの後下部が急な斜面に沿ってこのパーツを押し下げ(またかい!)ディスコネクトするわけですが、これも再現は無理です。バレルの後退ではなくロッキングブロックの下降によって押し下げることを考え、理屈上はできることを確認しましたが、いろいろな意味で問題が多そうなので断念しました。残念ですがディスコネクトはしません。

 グリップを固定する頭の非常に大きいネジは合うものがないので、久々に真鍮削り出しで作ってもらうことにしました。小さいスプリングはだいたい既製品で間に合うのですが、リコイルスプリングになるとちょうどいい、というものはありませんでした。そこで、初めてスプリングを特注することになりました。けっこうお金がかかります。価格はキット12,000円、完成品22,000円、といったところになるのではないかと思います。
 近日中に製作段階の画像をお見せできると思います。

12月15日
 今こんな感じです。

九四式製作途中1九四式製作途中2

 いつも通りまず機能を再現し、問題ないことを確認してから細部の造形に入る、という手法です。すでに、全ての機能がそろい、作動も問題ありません。いちばん難しいグリップをずるして(?)簡単にしたので、造形で特にこれといって難しい部分もありません。1点ものとして作るなら比較的楽な銃です。ただ、精度、剛性の低い素材を使って量産するとなると、非常に問題の多い銃でもあります。現在特に心配なのは、ロッキングブロックがちゃんと動いてくれるか、フレームをどんな型で抜くか、トリガーバーをどんな素材で作るか、といったところです。制約上、やはりスライドのストロークは1cmくらい短く、ボルト前面とマガジン後端がツライチくらいまでしかさがりません。また、バレルに巻くカラーの肉厚をとるため、バレルは実銃ががたぶん直径約11mmあるのに対し、10mmにせざるを得ませんでした。大体のサイズ、形は完成品とほぼ同じになったので、ホルスターに入れてみましたが、無理なく入りました。
 ウェイトはバレル内、グリップ内、マガジン内に入り、ある程度の重量感は出せると思います。

12月24日
 細部の造形も大筋終了し、ゴム印で作った刻印も入れ終わりました。5箇所に入るのでけっこう大変でした。そろそろサーフェイサーを吹いて仕上げ段階に入ります。
 注文して作ったグリップを止める頭の大きなマイナスドライバーで回すネジ、リコイルスプリングも手元に届きました。私の注文など、せいぜい1万円代で、たいした金額ではないんですが、小さな町工場のおじさんたちはよろこんで注文を受けてくれ、ネジの納期も以前より明らかに早くなっています。嬉しいことではありますが、やはり不景気のせいでもあるんでしょうね。
 ランヤードリングもちょっと難物です。素直に長方形の角をとった形、またはD型にしてくれればいいのに(これなら豊富に既製品があり、いちばん近いものを使えばあまり違和感のないものができる可能性が高いわけです)、台形の角をとった形になっています。こんな既製品はありませんでした。近いDリングを万力で押しつぶしたら近い形にならないかと思って試しましたが当然失敗しました(笑)。プラキャストでは強度が低すぎます。そこで直径2mmちょっとのハンダ線を治具を使って曲げることにしました。強く押せばゆがんでしまいますが、折れることはまずなく、銃を吊り下げるくらいは充分できます。

12月30日
 サーフェイサーを吹く直前の状態です。

仕上げ直前1仕上げ直前2

 現在はすでにサーフェイサーを吹いてパテ盛り、細部の修正、仕上げに入っています。1月6日にイベントに行く予定なので、試作第一号を知り合いに見てもらいたいのですが、間に合うか微妙なところです。

1月3日
 型取りが半分以上終了しました。問題はやはりフレームで、過去最大となる7ピースの型を製作中です。その内容は、前部のレール内部(前に抜く)、フレームの中身(前上方に抜く)、マガジンセーフティの入るスペース(トリガーガード内・つまり前に抜く)、フレームのアーチ状部分内部(後に抜く)、グリップ下部の内部(下に抜く)、そしてこれらを左右からはさみこむ、というわけです。内部の各部分はテーピングなどでシリコンゴムがもれないようにした状態で流し込みますが、それぞれどの方向を上にするかが違うので、当然一気にやるわけにはいかず、1箇所流し込むたびに硬化するまで少なくとも数時間おく必要があります。今朝屋外の温度計を見たら4.5℃だったように最近の東京地方は非常に寒いですが、こういう作業は換気しながらやらなくてはいけないため、窓を開けて換気扇を回しながらの作業になります。このため寒いだけでなく硬化にも時間がかかります。1発でOKの型ができればいいんですが、どうなるでしょうか。

1月6日
 昨夜試作第一号が完成しました。型はやはり問題が大きく、トリガーガード内に抜く部分を上下2分割にし、フレーム内部をロッキングブロックが入る部分とその他に2分割しました。これは型の作り直しなしに対処できますが、結果的に9ピースという無茶な型になりました。作動面でいちばん心配だったロッキングブロックはなんの問題もなく、原型よりスムーズに動いてくれています。まだ細部に手直しを必要とする部分がいくつかありますが、とりあえず、

 完成したモデルを手に取り、動かしてみると、やはり「変な銃だなあ」という感じが強くします。この感覚はぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。

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