アベンジャー変換システム

DWJ2003年6月号

 ドイツの銃器雑誌、DWJ(ドイッチェン・バッフェン・ジャーナル)6月号に、興味深いガバメントのカスタムが掲載されていました。4ページのレポートの最初の部分を要約して示します。


 M1911は登場と同時に世界で最も成功したピストルとなった。1905年に原型となる銃が完成して以来、数え切れないテストや改良を経てきた。そして「改良しようとしてかえって悪くする」罠からも逃れてきた。IPSCマッチではM1911系のレースガンが多用されており、全てにコンペンセイターがつき、複数のガスポートが開けられ、ダットサイトが乗せられている。しかし、これらはメカの本質に関わる改良ではない。
 発明から98年、今年のショットショーとIWAで、あるM1911の変換システムが紹介された。これは伝説的名銃M1911の下部構造を流用し、リコイルを抑える効果のある革命的な上部構造に交換するものだ。このアベンジャー変換システムは固定バレルを持ち、革新的な発射システムを持ち、排莢方向を左右に自由に変更できる。作動部の重さは最小とされ、きわめてリコイルが小さい。

背景
 「私は銃器製作ということをよく理解していなかった。」製作者のペーター・スピエルベルガーは語った。アベンジャー変換システムを理解するには彼の経歴を知る必要がある。彼はヴォルフ社のEDV部門のリーダーで、「ウルトラマチック」ピストルを作っていた。しかし、ウルトラマチックは多くの複雑な技術を採用しており、真に試作の域を脱したとは言えない。社の財政は苦しかった。社を救ったのは銃ではなく、ホルスターだった。1997年、「パワー・スピードホルスター」を開発し、これがアメリカで公用に採用されるなど高く評価され、オーストリア国内でもよく売れた。
 アベンジャー変換システム誕生のきっかけはある偶然のできごとだった。1人のコレクターが、コレクション用にウルトラマチックを求めた。販売にあたり、スピエルベルガーはウルトラマチックを分解し、説明を加えた。するとコレクターはこう言った。「私は買った後で分解、組み立てを楽しむのだが、この銃は分解したら自分ではとても組み立てられない」。
 スピエルベルガーは自分でこの銃をネジ1本に至るまで分解してみて、何故この銃が試作の域を脱することができなかったかを悟った。部品数が多すぎ、細かすぎ、複雑すぎ、許容誤差が小さすぎたのだ。そこで彼はよりよい、単純な銃を作るという考えに至った。コレクターがウルトラマチックを再び組み立てようという絶望的な試みを行っている間に、彼は2枚のアイデアスケッチを描いた。3週間後、彼は設計を完成させた。それは技術上ウルトラマチックとは大きく異なっていたが、外観はそれを思い起こさせるものだった。彼が決めた条件は、バレルが固定であること、できる限り作動部が軽量であること、そしてそれに加えて重大な点は、コンプリートガンではなく、M1911の変換システムであるという点だった。
 2か月後、彼は閉鎖システムを視覚的に理解させる透明アクリル製のモデルを作り、さらに4か月後には初めて実射可能な試作品を完成させ、ウィーンで射撃試験を行った。彼はこれを持ち、友人でもあり、仕事仲間でもあるアメリカのアーロン・ホーグの元へ飛んだ。ラバーグリップやホルスターのメーカーとして有名なホーグは、出迎えた空港から直接レンジに行き、この銃を存分に撃った。そしてホーグは秘密裡に伝説的ビアンキカップシューターのミッキー・ファウラらを呼び寄せた。彼ら専門家は充分な射撃ののち、感激して感想を述べた。リコイルが極めて小さく抑えられていることは全員が評価し、同時に操作性や重量に関する改良意見を伝えた。その後、スピエルベルガーはこの銃をショットショーで一般に公表した。


 本題の前に余計なことですが、私は正直これを読んで誠に失礼ながら「アホか」と思いました。オーバーエンジニアリングなものを、そうと分かっていながら信念を持って作っていた、しかし商業的に苦しいので妥協したものを作らざるを得なかった、というならいいです。しかし、(ウルトラマチック製作からたぶん10年くらい経ってから)コレクターに言われて初めて気づくというのはないでしょう。皆さんだって、頑住吉があるとき誰かに意見されて、「そ、そうか! 全然気づかなかったけど、私の作る製品は機種的にマイナーすぎたんだ!」とか叫んで突然M16電動ガン用のアクセサリーとかばかり作り始め、「私はガレージキット製作というものを理解していなかった」とか言ったら「アホか」と思うでしょ?
 余計な話はさておきアベンジャー変換システムのお話です。この後レポートはメカの説明に入るんですが、残念ながら訳を示せるほど理解できません。私のドイツ語力が低いのが大きな原因ですが、ここまでの部分はたぶん85%くらい理解できていると思うんで、それだけではありません。最大の原因は、本文中のパーツ名称が写真やイラストなどでどれのことか説明されておらず、どれの話をしているのかよくわからないということです。もちろん専門誌を読むようなドイツ人には簡単に理解できるんでしょうが、私にはちょっと無理です。そこで、推測も交えてですが分かる範囲のメカを説明します。
 フレームは流用ですから当然ノーマルのガバメントそのものです。バレルは固定です。これはたぶん命中精度を高めるためで、ウルトラマチックもそうらしいですからスピエルベルガーのポリシーなんでしょう。で、スライドではなくボルトが後退するようになっています。後退した状態の写真をイラスト化するとこんな感じです。

 毎度のことながら絵が下手でごめんなさい。このホームページを見ている方から教えていただいたんですが、GUN 誌2003年6月号のIWAリポートにも側面写真が1枚掲載されていたので、手元にある方はそちらも参照してください。また余計な話ですが、この写真のバックにはメーカーの宣伝ポスターらしきものがあって、婆さんがこの銃を持っている写真が使われていますが、ありゃ何のつもりでしょうか。スピエルベルガーの奥さんでしょうか。誰も止めなかったんですかね(オーストリア人がこんなの読むわけないんで無茶苦茶書いてますが、言いつけないでくださいね)。
 私はこのごく小さいボルトのみが後退するのかと思ったんですが、スライドの両サイドにある金色っぽいプレート状の部分もフルストローク後退するらしいです。平均的ガバメントのスライド重量が約450gであるのに対し、アベンジャー変換システムの作動部分は約280gであり、約37%も軽量であるとされています。ストレートブローバックの場合はスライドが重いほどリコイルがマイルドに感じられるようですが、ロック機構がある場合はまた別で、作動部分が軽い方が銃の動揺が小さくなるということなんでしょうか。ボルトには、前を支点に後部が上下動するロッキングブロックが付属しています。閉鎖状態では後部は上昇していて「つっかえ棒」の役割を果たし、ボルトの後退を妨げています。プレートが後退すると、プレートの後部がロッキングブロックに当たって後部を下降させ、これによってボルトは後退できるようになるようです。しかし、プレートが何故後退するのかがわかりません。普通はロック解除にバレルの後退を使うところですが、この銃はバレルが固定なので当然違います。
 ボルトはロックされていて、前方にある部品が後退してロック解除、という点で、このシステムはガスオペレーションのライフルにやや似ています。ですからバレルの前方に穴があり、ここからガスを導入してプレートを後退させる、というなら分かるんですが、そういう様子はないです。

バレルまわりイラスト


 この部分はこんなパーツ構成になっています。右が前です。黄色い部分がバレル、灰色の部分がプレート、緑色の部分がスライド前部に当たる(ただし動かない)部分です。空色の部分はパイプ状のパーツで、この後部ががバレルに巻かれたリコイルスプリングを受けています。青い部分は左右への突起部で、緑色の部分のスリットを通して左右に突出し、プレートの穴にはまっています。緑色の濃い部分はプレートのガイドレールに当たる部分です。ひょっとすると、前進しきった状態でも空色のパーツの前に空間があり、発射時のガスがこの空間に充満して空色部分を後方に押すのかもしれません。あるいは発射のリコイルそのもので後退させるのかもしれません。写真で見る限り、これを復帰させるスプリングはモデルガンのもののように弱そうです。後退の理由は不明ですが、この力は普通のシステムより弱いんでしょう。たぶん、作動部分が軽いことに加え、作動部の後退が比較的ゆっくりなのでリコイルが軽く感じられるんではないかと思います。
 具体的な操作はよく理解できませんが、排莢方向の変更は簡単に、短時間で可能のようです。普通の銃でスライドに当たる部分は動かないので、マウントレールが設置され、全幅を広げることなく真上にダットサイトが乗せられます。ボルトの後退はM16シリーズのようなというか、オーストリアの銃ですからステアーTMPのような、コッキングハンドルで行います。上の下手なイラストで分かるように、コッキングハンドルとボルトはM16やTMP同様、後退のみの連動で、ホールドオープン時にはコッキングハンドルを前進させておくことができ、コッキングハンドルは作動時は前進したままとなります。

 DWJはこのアベンジャー変換システムを「ガバメントが登場して98年、ついに登場した真の改良型」「あらゆるコマーシャルユースで成功疑いなし」などと絶賛しているんですが、どんなものでしょう。システム自体よくわからんのですから何とも言いがたいですが、少なくとも直感的には木に竹を継いだようというか、あまりナチュラルなシステムではないような印象を持ちます。まあ、もし本当に重要なものなら遠からず日本の専門誌で紹介されるでしょうし、されなかったらたいしたものではなかったと思ってかまわないと思います。


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