ドイツ警察の新弾薬「アクション4」

「DWJ」2003年10月号

 「DWJ」2003年10月号に、ドイツ警察の新弾薬、「アクション4」に関する記事がありました。「9mmパラベラム VS .40S&W VS .357SIG」で紹介した内容に、「ドイツの警察は9mmパラベラムを使用しているが、フルメタルジャケットではなく変形しやすい特殊弾薬が使用されている」旨の記述がありました。この記事の中には「ホローポイント」「ソフトポイント」にあたる単語が頻出するのにもかかわらず、あえて「変形しやすい特殊弾薬」という異なる表現が使われているのは何故なのか疑問でしたが、それはどうもこの弾薬のことだったようです。確かに変形しやすい特殊弾薬ですが、ホローポイントでもソフトポイントでもなく、もちろんフルメタルジャケットでもないこの弾薬に関する説明をお読みください。


「技術的指針」に基く首相の証明書を交付された新弾薬「アクション4」

 警察用新弾薬「アクション4」は「技術的指針」を初めて満たした。この寄稿は、この新弾薬がいかにして要求を満たしたかに関する成立史である。

 「技術的指針」は警察が火器に使用する弾薬が満たすべき、広範囲の要求項目を示したものである。ウルム射撃試験局(公的な試験研究所)は、ある1つの警察用弾薬を認可した。射撃試験局のルドルフ・フリエス局長が2003年7月4日、RUAG Ammotec社に公式の証明書を交付したのだ。

警察武装の歴史 
 終戦後、3つの占領地区に分かれた西ドイツ地区は警察を再建した。始め武装は統一されておらず、主に占領国が指定した拳銃が装備された。西ドイツ連邦共和国が建設されると、警察権を持つ連邦構成各州は、ドイツ警察の統一的なハンドガン用弾薬として.32ACPを採用した。銃としては主にワルサーPPおよびPPKが供給され、2、3年後にはフランスのマニューリン社がライセンス生産を始めた。しかし、直径7.65mm、重量4.8gのフルメタルジャケット弾には210ジュールのマズルエネルギーしかなく、きわめて深刻な威力不足に当初から直面することになった。
 いくつかの警察署は9mmパラベラムを使用するサブマシンガン(ベレッタおよびワルサー製)も採用した。60年代、H&K社初のサブマシンガンとして、9mmパラバラムを使用するMP5の供給が始まった。この銃は、当時主流だったボルトの重量による閉鎖システムと違い、ボルトの重量を軽くした全く新しい改良コンセプトを採用していた。MP5の登場以後、旧式化した先行モデルとの交換は急速に進んだ。
 70年代、バーデン・ヴルテンベルグにおいて、9mmx18弾薬を使用するハンドガンという特別な方法が試みられた。しかし、この弾薬の採用は実現しなかった。この銃と弾薬による警察武装は、不満足な妥協案に過ぎなかったからである。
 1974年、技術委員会が委任した「弾薬研究グループ」が作られ、市場を幅広く精査し、流通する全ての種類のハンドガン用弾薬を技術的に研究するという作業が行われた。この研究グループは、連邦刑事局の管理下にあり、4人の常任共同研究者を含んでいた。この4人のうち2人は警察のエキスパートであり、他は弾傷研究に関する長老ディプル医学博士、物理学者カール・セラーだった。そして筆者も人体内弾道の専門家として参加していた。
 250種の弾薬が研究対象となり、弾頭、弾薬の異なるバリエーションを含む108の異なる重量の弾丸をゼラチンやスチール板を並べたターゲットに撃ち込む実験が実施された。この結果は入念に分析され、目録化された。
 この弾薬研究と同時に、フルメタルジャケット弾が実際に使用された34の実例(主に..32ACP)が分析された。
 2年半の集中的研究の後、1976年に「黄色い本」と呼ばれる広範囲のデータを収めた総括文書ができた。
 研究グループは、当時すでに現在の「技術的指針」にあたるものを推薦する用意はできていた。つまりそれは犯人やハードターゲットに対する充分な効果を持ち、しかも無関係の人間を危険にさらす可能性が最小となる9mmパラベラムの最善の妥協点である万能警察用弾薬である。
 これらの弾薬研究グループの活動と平行して、当時2つ目の研究グループが連邦および州の警察内部で召集された。この研究グループも高度な専門家によって構成されていた。彼らは国際的視野も含めた、現代公用に使用されている9mmパラベラムに関する研究報告書を作成した。これらは現在まで「技術的指針」作成の資料として使用され続けている。
 弾薬、銃の両研究グループは非常に緊密に連携して研究活動を行った。こうして得られた結論は、ドイツ警察にとっての最善の妥協点はある特定の警察用9mmパラベラム弾薬の使用であるというものだった。
 こうしたマーケットにすでに存在する弾薬の技術的精査と同じ頃、ダイナマイト・ノーベル社は新しい警察用9mmパラベラム弾薬「アクション1」の開発に着手していた。完成した全銅製の変形しやすい新弾薬は、25年以上前のものでありながら、すでに現代の警察用万能弾薬に関する要求を全て満たしうるものとして存在していた。
 しかし、当時はまだ警察用弾薬の重大な決定をなすには機が熟していなかった。警察内部の意見や国際法などに基き、弾頭重量8.0g、フルメタルジャケットで高い貫通力を持つ古典的軍用弾薬と同じものの採用が決定した。そこで、ドイツ警察は銃器には当時最新のものの使用を許されたのに、使用弾薬はアンティークともいうべき不充分、不適当なフルメタルジャケット弾しか発射してはならないということになった。
 この状況は25年以上変わらなかった。しかし、9mmパラベラムのフルメタルジャケット弾が大きな欠点を持つ不適当なものであるという意見は、実例によって補強され続けてきた。
 こうした警察の装備を投入した結果として、1999年ミュンヘンにおけるある家屋内での使用時、犯人のすぐ背後にいた無関係の人間を殺してしまうという事件が発生した。9mmパラベラムのフルメタルジャケット弾は、犯人の体を貫通した後、無関係の人間に致命傷を与えうる大きな残存エネルギーを保っていたのだ。
 これを受けて1999年6月11日、ついに内務大臣主催の会議が招集され、警察用弾薬として9mmパラベラムのフルメタルジャケット弾を使用し続けることの是非が俎上に登ることとなった。
 警察技術研究所(PTI)は以下の要求、「技術的指針」を満たす、より優れた警察用新弾薬を早急に開発、試験し、手に入れることを委任された。
○無関係な人物を危険にさらす可能性を減らすこと。
○跳弾の可能性を減らすこと。
○犯人の抵抗や逃亡ができなくなるように、ソフトターゲットに大きな効果があること。
○弾丸が砕けて破片を生じないこと。
○ハードターゲットや自動車に対して充分な効果があること。

 内務大臣主催の会議はこうした弾薬を警察全般に採用することを企てたのだった。
 これより以前の1995年当時、技術に関する特別委員会が設立されており、望ましい9mmパラベラム弾薬に関する「技術的指針」を作成していた。この委員会は警察の外郭団体となり、「UAFEM」と改名された。この統合によって新警察用弾薬を定めるための「技術的指針」の内容はさらに拡大された。それは以下の項目を含んでいた。
○9mmパラベラムの新弾薬に関する全般的要求
○現在使用しているフルメタルジャケット弾より安価な訓練弾薬に関する特別要求。
○警察用に使用する弾丸に関する特別要求。
 1999年11月、内務大臣主催の会議は、このように「技術的指針」を拡大することに同意し、以下の決定をした。
 「連邦および州に委任されたIMKは、『技術的指針』を確認し、適当な弾薬に証明書を交付し次第、警察全般用に使用される弾薬の制定を行う」
 弾薬に関する「技術的指針」と同時に、「UAFEM」は使用すべきハンドガンに関する「技術的指針」を完成させた。提出されたものの中には警察用ハンドガン(MP5A4およびMP5Kを含む)に関する要求が存在していた。
 警察用弾薬、銃に関する両「技術的指針」はドイツ警察が実際の使用および訓練のために装備する9mmパラベラムの最適なシステムを保証するものだった。

9mmパラベラム新弾薬に関する「技術的指針」
 「技術的指針」は責任あるUAFEMによって作成されたものだ。
 1999年、UAFEMの会議が招集され、そこには弾薬、銃器産業、射撃試験局、該当する検査研究所も集められた。これにより、ふさわしい専門能力を持つ研究所も参加し、新しい要求と検査条件が用意された。
 ここできわめて広範囲にして最高に専門技術的な、満たすべき要求項目のリストが完成された。それは以下の項目であり、4つの研究所によって試験が実行された。

ウルム射撃試験局による試験項目
○全般的クオリティーシステム
○弾薬技術および弾道学上の要求
○警察用弾丸に関する要求
○5種類の材質突入後の弾道に関する6つの異なる要求
○警察用銃器に使用した場合の作動性

WIWEB連邦研究所による試験項目
○爆発物質の化学的調和性と安定性

WTD91連邦研究所による試験項目
○発射による有害物質流出の測定

連邦刑事研究所による試験項目
○刑事技術(硝煙反応の検出および弾丸の鑑定による発射した個人の識別)

 UAFEMは1999年「技術的指針」に関する最初の情報開示を行い、2001年さしあたりの使用に値する情報開示を行った。

全般的要求とアクション4
 クオリティーシステム、弾薬技術、銃器の作動性、ならびに爆発物質の化学的安定性、調和性に関する研究項目は、今回「アクション4」を開発したRUAG Ammotec(ダイナマイト・ノーベル社から引き継いだ)がすでに研究し、完成させてきた内容であり、何ら新しい挑戦ではなかった。

弾丸に関する要求
○弾丸の構造は鉛、あるいは鉛を含まないコアを持つフルメタルジャケットまたはソフトポイントにするか、弾丸全体を鉛を含まない素材で作るか考慮すること。
○弾丸は供給に妨げが出ないことが保証されていること。
○発射によって大きく損傷したり分解しないこと。例えば作動確実性の保証のためのキャップをつけ、発射後にはがれ飛ぶようなものは不可。
○射撃後の弾丸は、発射した個人の識別が可能なこと。つまり裁判においてどのバレルから発射されたものか特定できること。
○5つのさまざまな材質に撃ち込んだ場合の6つの要求を満たすこと。
 
 これら全ての要求は、全く新しいコンセプトに基いた「アクション4」弾薬開発技術者によって満たされた。この機能原理は先行の警察用弾薬「アクション1」〜「アクション3」(これらは今回の要求では不可とされたキャップがはがれ飛ぶタイプだった)のそれを放棄して得られたものだった。「アクション4」では、バレル内、空中、命中後の弾道において先行製品の何倍もの長所が期待できる、キャップが一体化された構造になっていた。弾丸の重量は6.1gに確定した。

命中後の弾道
 「技術的指針」は、非常にたくさんの素材のターゲットに充分な効果をもたらす必要がある万能警察用弾薬が満たすべき条件を示していた。この要求と「アクション4」による実験結果を以下に示す。

1、ソフトターゲット(ゼラチン)に対する効果
 「5mの距離から、100mmの試験バレルにより、15cmx15cmx35cmというサイズの20%のゼラチンを、裸および服を着せた状態でそれぞれ10回射撃する。ゼラチンブロックに対する侵入深度は20〜30cmの範囲でなくてはならない。エネルギーの発散は最初の5cmでは1cmあたり30〜60ジュールの範囲でなくてはならない。」
 この条件は最高の効果をもたらすために高度な専門家が設定した条件である。また、同時に1cmあたり60ジュール以下の制限というのは政治的判断でもあり、これ以上は内務大臣主催の会議が受け入れないであろうという判断による。
 「アクション4」のゼラチン内における機能原理は3つの局面に区分される。
局面1 「アクション4」の弾丸が5mの距離からの射撃によって約420m/sの速度で着弾する。弾丸重量は6.1gなので、540ジュールのエネルギーをもってターゲットに突入することになる。
局面2 ターゲットに突入することによって弾丸内部でキャップが移動する。これによって弾丸本体の先端部は押し広げられる。こうして制御された拡張が開始される。続いてキャップ後部は弾丸本体内のボーリング底部に達し、移動は妨げられて停止する。
局面3 ゼラチン内に3〜5cm侵入すると、弾丸先端部は直径約11.5mmの最終的拡張に達する。この過程で1cmあたり最大55ジュールのエネルギーがターゲット内部に放出される。
 拡張した弾丸は25〜29cmゼラチン内部に侵入する。これは充分な貫通力を保証している。
 弾丸本体の材質、ボーリングの寸法、キャップの制御された移動、それによる弾丸の拡張は精密に関連づけられて設定されており、「技術的指針」で要求された諸条件の実現を保証する。 

2、ハードターゲット(並べられた鉄板)に対する効果
 「技術的指針」には以下の内容が書かれている。
「ハードターゲットに対する効果は以下の条件の並べられた鉄板を射撃することによって確認される。100mmの試験バレルにより、5mの距離から5発、垂直な鉄板を射撃する。この鉄板は1mmx250mmx250mmというサイズの低温圧延鋼板(ドイツ工業規格ナンバー10130)である。鉄板の間隔は20mmとする。弾丸は最低4枚の鉄板を完全に貫通しなくてはならない。」
 「アクション4」の弾丸はこのようなハードターゲットに対する命中により、キャップが真鍮製の弾丸本体内部に押し込まれ、先端がフラットになることによって弾丸が斜めになることが防止される。この効果により、4〜5枚の鉄板が貫通でき、ハードターゲットに関する要求は達成された。

3、ガラスに対して射撃した場合の効果
 「技術的指針」では、以下の条件を満たすことが求められた。
○複合された強化ガラスを貫通後、ゼラチンブロックに10〜30cm侵入すること。
○強化ガラスを貫通後の弾道は、本来の弾道から25度以上屈折してはならない。
○強化ガラス貫通後の弾丸は、その重量の10%以上を失っていてはならない。

 実験では、45度の角度から自動車の複合強化ガラスを射撃した。これ以外の条件は鉄板を使った実験と全く同じとされた。強化ガラスの背後30cmの地点には35cm厚のゼラチンが設置された。
 「アクション4」の弾丸はガラスに命中したことによってほとんど変形しなかった。命中により、弾丸の一部はガラスによって削られたが、その重量の8〜9%を失っただけだった。そして貫通後の屈折角度、背後のゼラチンへの侵入深度も「技術的指針」の要求を満たした。

4、タイヤに対する効果
 「技術的指針」は、警察用弾丸にタイヤに穴を開け、空気を抜き、車両を速やかに停止させるうる能力を持たせるため、タイヤに類似した素材に、貫通後に弾性で閉じず、開口し続ける穴を開ける能力を要求している。
 実験では鉄板に対する実験と同じ条件で、タイヤに類似した織物で強化されたゴム素材を射撃した。
「アクション4」の弾丸は命中により、キャップが移動して弾丸本体の先端部が拡張した。これにより生じたシャープなエッジが紙に穴を開けるパンチのような役割を果たして素材に丸い穴を開けた。これによりタイヤに閉じない穴を開けて空気を速やかに抜く能力が確認された。

5、跳弾の減少
 「技術的指針」は以下の基準を満たすことを要求している。
 「3つの異なる斜めの角度で石の壁に射撃する試験を行う。この結果跳弾後の弾丸の持つエネルギーがフルメタルジャケット弾より小さいこと。」
 実験では鉄板に対するものと同じ条件下で、45、60、75度の角度で跳弾実験を行った。実験はNATOの敷地内で行われ、撃ちこむ素材にはドイツ工業規格106号の石材が使用された。
 この結果「アクション4」は跳弾防止に関する要求を問題なく満たした。

2001年始め、部分的証明書の交付
 これらの実験により、硝煙反応を除く「技術的指針」の要求を満たすことが証明されたため、2001年始め、部分的な証明書の交付が行われた。これにより、「アクション4」の警察での実用が許された。

刑事技術に関する要求
 残る刑事技術上の問題に関しては新たな2つの要求が作成された。
○警察用弾丸はターゲット命中後もどのバレルから発射されたものか鑑識によって特定できなくてはならない。
○硝煙反応は環境に関わらず残存しなくてはならない。
 前者の要求に関しては、「アクション4」の弾丸本体は真鍮製であり、問題なく満たしている。
 後者に関しては従来のものでは要求が満たされなかった。そこでRUAG Ammotecの化学担当者は「SINTOXプライマー」の使用を選択した。これによって、環境に関わらず科学的分析によってその人物がこの弾薬を発射したことが問題なく特定できるようになった。
 
 部分的証明書交付に続く2年におけるこの修正により、「アクション4」は完全なものとなった。この他にもたくさんの過程でこの弾薬がさまざまな要求を満たすものであることが確認されていった。
○特殊な環境に持ち込んでの実験。
○爆発物質(プライマーおよび発射薬)の化学的安定性と寿命。
○長期保存後の弾道成績。
○点火に関する敏感さ。
○製造プロセスに関する安全性。

 「SINTOXプライマー」の使用により刑事技術上の要求も満たしたことで、「アクション4」には完全な形での証明書交付が行われることとなった。弾薬開発着手から4年、このような過程を経て、RUAG Ammotecの試みは大成功のうちに終わり、2003年7月、ウルム射撃試験局より、要求を完全に満たしたメーカーに証明書交付が行われる初のケースとして、「警察用弾薬9mmパラベラムSINTOX ACTION4」に証明書が交付されたのである。


 いかがでござんしょうか。やっぱりドイツ人の考えること、やることって、日本人ともアメリカ人とも全然違いますよね。アメリカでは「マイアミ銃撃戦事件」の後で激しい議論や研究が行われたといっても、ここまではしなかったでしょうし、一部の州では警察用弾薬を多数決で決めたそうですしね。もちろん人命がかかっていることなんですから緻密にやってやりすぎということはないんですが、あまりにも極端すぎてほのかにユーモラスな感じさえします。
 タイトルには「首相の証明書」とありますから、直接交付したのはウルム射撃試験局でも、証明書の名義はシュレーダー首相なんでしょう。「アクション4」は2001年から使用が始まり、今回全面的に証明書が下りたことでおそらく今後のドイツにおける統一的な警察用弾薬になっていくと思われます。
 さて、問題の「アクション4」とはこういうものです。

アクション4

 左が使用前、右がソフトターゲットに撃ちこんだ後の状態です。まず使用前の状態を見てください。緑色の部分が真鍮製の弾丸本体、青い部分が樹脂のキャップ、赤い部分は空間です。使用前の外形はフルメタルジャケットとほとんど同じで、銃に問題がなければ送弾不良の可能性は小さいはずです。このままの状態で飛行するので空気抵抗も小さいでしょう。命中すると、右の使用後のように、樹脂のキャップが強烈な打撃で弾丸本体に叩き込まれます。キャップの後部は逆テーパーになっているので、くさびを打ち込むような形で弾丸本体の先端を広げます。直径11.5mmということは.45口径くらいに広がり、先端が平らですから強い打撃力を発揮するはずです。キャップが後退できるのは元々用意されていた空間の分だけで、いっぱいに後退すると強制的に停止させられます。これ以上拡張して貫通力を一定以上に減殺することはなく、弾丸本体は真鍮製ですからちぎれたり砕けたりすることはないわけです。良く考えられていますね。
 本文にあるように「アクション4」は9mmパラベラムの特殊弾薬であり、弾頭は重量約6.1g、初速約420m/s、弾丸本体は真鍮製です。キャップの材質は書いてありませんが、樹脂であるのは確かで、発射前、発射して変形した状態を見た感じからジュラコンとかそんな感じの強靭で粘りのある樹脂かなあという気がします。
 一方鉄板に撃ちこまれた弾丸を見ると、先端はソフトターゲット着弾時ほど拡張せず、ほぼ円筒形のような形になってかなり大きな貫通力を発揮しています。車のボディーや強化ガラスを貫通後も大きな威力を発揮する可能性を持ち、タイヤにもパンチで開けたような丸い穴を開けて早く空気を抜くことができるというのは感心すべき特長だと思います。
 以前「EMB-A」という特殊弾薬を紹介しました。「EMB-A」と「アクション4」は、「西ヨーロッパで治安対策用に新開発された9mmパラベラム特殊弾薬である」「弾丸が軽量高速である」「弾丸本体が均一な銅合金でできている」「ソフトターゲット着弾後、制御された拡張が行われ、それ以上拡張したり、砕けて破片を生じたりしない配慮がなされている」「外形がフルメタルジャケットに近く送弾不良が少ないよう配慮されている」といった数多くの共通点があります。しかし「EMB-A」はソフトターゲット着弾後は可能な限り早くエネルギーを放出し、ひたすら貫通力を下げることを目指した航空機内用特殊弾薬であり、万能警察用弾薬としてはそれではダメなわけです。犯人の体の深部に到達してできるだけ早く行動不能にする能力、遮蔽物を貫通した後に高い威力を発揮する、特に自動車のウィンドウやドア等を貫通した後にも犯人をストップできる能力、走っている車のタイヤから急速に空気を抜き、停止させる能力などが要求されます。それでいて犯人の体を貫通後に無関係な第三者に被害を与える可能性はできるかぎり低くなくてはならないのですからきわめて難しいバランスが要求されます。この「アクション4」はあれもこれも欲張って、総合的に最も高い妥協点を目指したものです。跳弾後のエネルギーがフルメタルジャケットより低ければよいというのはややハードルとして低すぎで、満たして当然なのではという疑問もありますが、それを除き文句ないくらいさまざまな要求を満たす、現時点において最善の警察用弾薬であろうという気がします。
 ただまあ政治的判断から発揮するエネルギーを一定以内に抑えていることなどもあり、これはあくまで現在のドイツ警察における最善の弾薬であって、これをそのままアメリカに持ち込んでベストといえるかはまた別の話でしょう。ひょっとしたらドイツでも今後テロの凶悪化、あるいはボディーアーマーを着用した犯人による凶悪犯罪の増加などにより、優秀な「アクション4」であっても9mmパラベラムでは威力不足とされる事態が生じないとも限りません。
 もちろん日本警察にとって最善である保証もないわけです。ドイツが戦後採用した警察用弾薬.32ACPは、現在日本警察がSIG P230に使用しているものと同じです。私は1970年代頃までドイツ警察はこれに満足していたのかと思っていましたが、この記事では必ずしもそうではなく、始めから威力不足は大問題だったとされています。日本の場合現在でもこれで威力不足が顕在化していないというのは喜ぶべきことでしょう。しかしもし不幸にして犯罪の凶悪化などによりより強力な弾薬が求められた場合、まあここまではいかなくとも緻密な研究、検討の上で使用弾薬を決定してもらいたいもんです。ところで日本の警察もMP5の装備を始めましたし、この他一部で9mmパラベラムのハンドガンも使用しているという話を聞きますが、使用弾薬は何なんでしょう。フルメタルジャケットである可能性が高そうな気がするんですが、それだとドイツで現実に起きたような巻き添えの死者を出す可能性がある、というか日本の場合住宅事情その他から欧米よりその危険が大きい気がして、ちょっと不安です。


 
 
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