.300ウィスパー仕様Aebi-A1

「Visier」2005年3月号の「スイス銃器マガジン」ページに、特殊なサブソニックライフル弾薬である.300ウィスパーを使用するボルトアクションライフルのレポートが掲載されていました。この銃はCZが製造したライフルをAebiという耳慣れないメーカーが.300ウィスパー仕様に改造したものだということです。


.300ウィスパー仕様Aebi−A1

Hasle−Ruegsau(頑住吉注:前の「u」はウムラウト。地名ですがどこか分からず検索したところ、こんなページが見つかりました。 http://www.myswiss.jp/area/11/biel.htm 「ヨーロッパ屈指の長さを誇る木造アーチ橋がある 」スイスの比較的小さな街のようです)にあるライフル工房Aebiが.300ウィスパー弾薬仕様に改造したCZ−モデル527(頑住吉注: http://www.czub.cz/index_en.php 公式ですが、この銃の紹介ページには直接行けないようです。まず左の縦に並んだイラストのうちピストルをクリックし、「ENTER」をクリックし、下の画像は無視して横に並んだ上のメニューのうち「Centerfire Rifles」をポイントして現われた「Lite」をクリックするとこのシリーズの紹介ページが表示されます)の最初の紹介は「スイス銃器マガジン」2002年11月号で実現した。それ以来いろいろな改良が改造手法に導入され、この結果この「ささやき弾薬」仕様のボルトアクションライフルの改めての観察は完全にやりがいのあるものとなった。Martin Schoberはこのスペシャル銃器を間近で詳細に見た。

アメリカで、J.D.Jonesによって前世紀の60年代に.221Fireball(.223レミントン弾薬の子孫)を元に開発された.300ウィスパー弾薬(Wisper=ささやき)は、その強みをとりわけ軍用において、そして狩猟の特別領域でも完璧に発揮させることを意図したものである。この弾薬はサイレンサーを装着したロングアームとの共同作業により、特に他の弾薬/銃器コンビネーションの次に挙げる欠点を排除することを意図している。すなわち、弾道学的にしばしば不充分であるハンドガン弾薬9mmルガー(サブソニック)または.45ACPの欠点を、サブソニック領域内で飛ぶ弾丸である.300ウィスパー弾薬の著しく改良された弾道係数によって解消することが意図されている。音速以下領域用には大きすぎる発射薬スペースを備えているロングアーム用弾薬.308ウィンチェスターの欠点も、.300ウィスパーを使うことによって大部分とりのぞくことができる。それだけでなく、.300ウィスパー弾薬は、より長い.308サブソニックと比較して短い、軽量な閉鎖機構/銃器システムしか必要としない。

 これにより、以下の事実が明らかになる。.300ウィスパーにより、音速のギリギリ下の弾速(サブソニック)をもって可能な限り高い弾丸エネルギーが達成される。この銃器/弾薬コンビネーションによってマフィア、または密猟者の銃を連想する人は、ひょっとすると完全に間違っていないのかもしれない。しかし、事実としてこの銃に絶対的に必要不可欠なサイレンサーの獲得は銃器法の中で詳細に規制されている。すなわち4.2条のうち(a)では、銃器の付属品としてのサイレンサーが、そして(b)ではレーザーおよび暗視ターゲット器具が定義されている。5.1条(e)では銃器付属品の携帯、仲介、輸入等が禁止されている。5.3条では州に例外を承認する権限が与えられている。誰が最終的にそのような承認を得るかというのは、我々がここで行ったような純技術的に限定された考察とは別問題である。
 
 この革新的ライフル工房は、CZボルトアクションライフル527をモデルAebi−A1に改造するにあたって次のような方法を取った。この弾薬のためのバレル素材には、ドイツの評判の高い会社Lothar Waltherのものを使用し、次に組み込みのためCZ527のレシーバーに手を加えている。マズルは追加でM16x1ネジを備えており、ここにサイレンサーをマウントできる。

 次に、Aebi−A1ボルトアクションライフルのシステムは腐食に対抗する特別処置が施されている。スイス軍のストゥルムゲベール90にならって、バレルとシステムはSAN社(かつてのSIG)において黒色のPTFEからなるコーティングがなされており、これによりこの銃は不都合な天候状態に対し非常に強力に守られている(頑住吉注: PTFEコーティングって何だろうと思って検索したところ、こんなページが見つかりました。車にも使われているんですね。 http://www10.ocn.ne.jp/~aegis/aegis02-4-2.html )。

 同じ理由から、好感を与えるこの銃のオリジナル木製ストックが、人間工学的に造形され、グラスファイバーで強化されたグレーのプラスチックストックに交換されている。残念ながら天然素材の木製ストックは、湿気に際して劣った性質を持っており、水分を吸収し、それにより膨張する。バレルのフローティング領域がこのストックマテリアルの膨張によって圧迫される可能性があり、これがバレルの振動に不都合な影響を与え、すなわち命中精度が低下する。プラスチックストックによってこの危険は排除されるし、その上このプラスチックストックは約2〜3倍損傷(折れなど)に対し丈夫である。銃器をラフに扱った際、プラスチックストックでは木製ストックの場合より引っかき傷やへこみも強く現われない。主観的には木製ストックはたいていの銃器所持者向けにベターであるように見えるが、客観的にはプラスチックストックの物理的長所が勝っていると見なされる。

 銃器重量3.0kg(スコープなし)により、.300ウィスパー弾薬仕様のAebi−A1ボルトアクションライフルは射撃の際温和なリコイルになる。その上、ストック後端の滑らないソフトなゴム製バットプレートも役立っている。

 このボルトアクションライフルはどんな機械的サイトも持たない。レシーバーはその上面前後に、簡単な、そして正確なスコープのマウントのためのレールを備えている。セーフティ操作は銃の右面、操作しやすくボルトハンドルの後ろに取りつけられたレバーセーフティによって行われる。セーフティオン位置ではトリガーも、前部に2つの閉鎖用突起を持つボルトも意図しない作動を阻まれる。

.300ウィスパー弾薬の性質
 非常に大きな命中精度ポテンシャルを除き、絞られた尾部を持つ.300ウィスパーの重量220グレイン/14.3gのホローポイント弾に「弾道学的奇跡」を期待すべきではない。その理由はテストで使用されたRUAG製スイスP-弾薬の約320m/sというサブソニック領域内の初速である。100mの射撃距離で、依託した銃は再三にわたって5発のグルーピング20mmを達成できた。ライフリングピッチ8インチ/203.4mmと銃口領域で20mmの直径を持つ500mmのWaltherバレルは、弾丸を非常に良好に安定させる。これは素晴らしい射撃精度がはっきり示している。

 だが、弾道に関しては.300ウィスパーは異なるように思われる。弾道は銃口において約320m/sというその「だらけた速度」のためにそれほどよくない(サイレンサー使用銃の場合、弾丸の速度は330m/sを越えないべきである。もしそうでないと、弾丸自体が衝撃波を引き起こし、はるかかなたからでも音が聞こえることになる。サイレンサー自体は発射ガスによる発射音だけを抑制できるに過ぎない)。都合のよい射撃距離75mにおいて、220グレイン弾の弾道カーブはまっすぐ伸びた線よりもむしろバナナのように見える。25mにおいてはまず3cm上昇し、50mでは4.5cm上昇、75mでは弾道がサイトラインと交差し、100mでは弾丸はすでに11cm低下し、125mでは30cm低下、150mでは実に54cm低下する!

 それに反して弾丸の速度は銃口における320m/sから、150mの約294m/sまで本質的でない低下にしかならない。これはマズルエネルギーが730ジュールから、150mの616ジュールの値までしか減らないことを意味する。
 
 230グレイン14.9gラウンドノーズ弾を持つハンドガン弾薬の.45ACPと比較してみる。似たような弾丸重量を持つこの弾薬の場合、弾道は.300ウィスパーに対してほとんど倍劣ったものになる。これは.300ウィスパーよりなお湾曲するということである。同じく75mの射撃距離ではおよそ以下のような値になる。25mでは6cm上昇し、50mでは8cm上昇、75mでサイトラインと交差し、100mでは18cm低下し、125mでは47cm低下、150mでは84cm低下する。「劣った」弾道係数のため、.45ACPの弾丸速度は同様により強く低下する。マズルにおける260m/sが、150mにおいて225m/sにまで低下する。これにより、結果として次のようなエネルギー値になる。マズルにおける504ジュールが、150mでは約377ジュールになる(頑住吉注:これでは個人的にピンとこないので別の表現をすると、.300ウィスパーの場合150mで約84%のエネルギーが残存しているのに対し、.45ACPでは約75%しか残存せず、もともとのエネルギー量が違うこともあり150mでは1.6倍以上の開きになる、ということです)。これらの数値から、.300ウィスパーを使えばそのスマートな220グレイン弾により、弾道学的に著しく高い値を達成可能であるということが明らかである。これは.45ACPはその許された最大ガス圧が1400気圧に限定されているために、.300ウィスパーのように約320m/sというサブソニック弾速の最大値まで引き上げることができないからである。

結論
 例えば人口密度の高い地域内での安全のための害獣の射殺のような特別な用途向けに、この弾薬/銃器コンビネーションは全く確実にその特別な意味を持つ。特別許可によって入手可能なサイレンサーの助けにより、地域住民に対する騒音を伴うミッションは大幅に避けることができる。その上、高速の弾薬を使う銃に比べ危険範囲は著しく減少する。射撃精度は卓越している。だが、特殊弾薬の湾曲した弾道のため、レーザー距離測定器が正確な射撃距離の算定のために絶対に必要になる。

 クオリティは当然価格に反映される。すなわち、プラスチックストックを持ち、黒色のPTFE保護コーティングがなされた.300ウィスパー仕様のAebi−A1ボルトアクションライフルははスコープなしで価格が1950スイスフランである(頑住吉注:18万円くらいで、意外に安い気がします。ちなみに同じ号に載っているジェリコは895スイスフランとなっています)。例えば人口密度の高い地域内での安全のための害獣の射殺のような特別目的には、さらにサイレンサー(認可をとって!)が必要となる。このためさらに350〜800スイスフラン加算される。手頃なレーザー距離測定器、オプティカルサイト用マウント、スコープはさらに1000〜1500スイスフラン帳簿に加える。

テクニカルデータ
モデル:Aebi−A1 .300ウィスパー(ベースはCZ527)
銃器タイプ:モデファイされたモーゼル閉鎖システムを持つボルトアクションライフル
メーカー:Ceska Zbrojovka A.S. ライフル工房Aebi
口径:.300ウィスパー
銃身長:500mm
サイト:なし。スコープマウント用に備えられている。
マガジンキャパシティ:4発
セーフティ:閉鎖システムの右側にセーフティあり。
全長:965mm
全幅:74mm
重量(未装填):3.0kg
素材:本体は黒色のPTFE表面保護コーティングで腐食から守られたスチール
ストック:人間工学的な、グレーに着色され、グラスファイバーで強化されたプラスチックストック(全天候防御)。
装備:バレルにはサイレンサー用ネジがある。トリガーシステムには「触発引き金」がある

価格:1950スイスフラン。プラス、スコープおよびマウントに約700スイスフラン、サイレンサーに350〜800スイスフラン。

Aebi−A1から発射した.300ウィスパー弾薬の成績

弾薬 弾丸重量(グレイン/g) 弾丸タイプ 初速(m/s) 初活力(ジュール) リコイル(ジュール)
スイス-P 220/14.3 ホローポイントボートテイル 320 730 4.0
Cor−Bon 220/14.3 ホローポイントボートテイル 318 721 4.0

 この弾薬自体に関してはこんなサイトがあります。

http://www.ammo-one.com/300Whisper.html

http://www.accuratereloading.com/300whisper.html

 特殊目的で、しかも薬莢が小さいこと自体が長所なのだからしかたないですが、見た目はかなり不恰好ですね。

 .308にもサブソニック弾は存在しますが、大きな薬莢内スペースにちょっとだけの発射薬を入れて点火すると問題が生じることがあるようで、「ステアー『タクティカルエリートSD』と『M9A1SD』」の項目にも、「最初に特殊薬莢のサブソニック弾をテストした。これは弾丸がセットされる先端の穴以外の薬莢全体が肉厚になっているというものだ。薬莢の小さな内容積はバレル内の弾道を安定させ、H&N製の穴が開けられて本来はハイスピードな軽量弾を、極端に少量の発射薬で発射することを可能にしている。」といった記述がありました。.300ウィスパーは薬莢内スペースが元々小さいので無理なくサブソニック弾が発射できるわけです。しかも最初からそれに適した設計にすれば弾薬全体が短いですから機関部もボルトストロークも短くでき、圧力が低いので閉鎖システムも単純にでき、命中精度に悪影響が出ない範囲で軽量化もできます。
 どうせサブソニックならば別に無理してライフル弾薬を使わず、ピストル弾薬を使えばいいのではという疑問もありましたが、.300ウィスパーの細長く、先が尖り、ボートテイル形状になった弾丸は.45ACPより空気抵抗が少なく、遠距離(まあライフルにとって150mは遠距離とは言いがたいですが)での速度低下が小さくて済むという長所があるわけです。しかも.45ACPでは薬莢の強度上音速以下ギリギリまで初速を上げることができないというんですが、これはどうなんでしょう。.45ACPには音速を超える+P弾薬もあったはずですが。もうひとつ疑問なのは、9mmパラベラムのサブソニック弾より明確に優れているのかどうかで、空気抵抗は確かに.300ウィスパーの方が小さそうですが、150mまでの範囲ならさほどの差にはならないという可能性もある気がします。ただ、9mmパラベラムではたぶん100mで20mmの命中精度は難しいでしょうね。これはおそらく、画像でもはっきり分かるようにこの弾丸のバレル内に接する前後長(ドイツ語で言うところの「Fuhrungsflache」:前の「u」はウムラウト)がピストル弾よりはるかに長いことなどが理由だと思われます。

 ここでは市街地での害獣の射殺などの用途に触れられていますが、この弾薬は本来軍、警察特殊部隊などによる使用を想定したものと考えられます。残念ながらその目的で実際どの程度使用されているのかには一切触れられていませんが、汎用性がきわめて小さい弾薬なのでさほど広く普及してはいないんではないかと思います。








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