アフガニスタンでの戦訓

 「Visier」2002年12月号に、先に紹介したイラクでの戦訓と同じスタイルの、アフガニスタンでの戦訓に関する記事がありました。当然古い情報になってしまいますが、興味深い内容もあるので紹介します。


送弾不良、マガジンリップの変形、威力不足、これらはアフガニスタンへの投入によって浮上した装備の問題点である。

 アフガニスタンにおいてこの1年、対テロ作戦の第一段階として、カンダハルに部隊が投入されてきた。まだこの作戦の終わりは見えていないが、今この段階で使用された装備に関して総括しておく必要がある。何故なら、試行錯誤に許される時間は多くないからである。新たなテロは引き続き起こっているし、新たな紛争地域も常に現れ続けているのだ。そして再度のイラク攻撃に向けた準備と思われる動きも見られる。

アフガニスタンにおける実験

 アフガニスタンにおける対テロ戦争は、装備の新しい投入方法と、近代的兵器システムの巨大な実験場として機能した。戦争の初期段階で、あるコマンド部隊は空からの新世代誘導爆弾およびミサイルのみの援護を受けて行動した。戦争全体は無人偵察機と衛星からの情報に基づいて指揮、コントロールされた。現代の特殊部隊による戦闘では、アサルトライフルや手榴弾といった武器よりも、GPSナビゲーションシステム、衛星電話、ラップトップパソコン、レーザー照準装置、暗視装置などの方が、相対的に大きな価値を持つようになってきている。

ハイテク戦争の手法は一方において多くの電気機器へのエネルギー供給を必要とするようになった。バッテリーは戦闘用装備の中で、大きく、重い一部分を占めている。このため、バッテリーは現代のコマンド作戦の泣きどころとなっている。いくつかの重大な失中および味方撃ちは、旧式なバッテリーの機能不全に起因している。無線装置のバッテリーは2ポンドもあるが、エアフォースコマンドの報告によれば、ほとんど北極圏並の外気温となる高い山脈地帯ではこのバッテリーは使用可能な時間があまりにも短すぎる。一部の兵は24ないしそれ以上のバッテリーを携行せざるを得なかった。この重量は兵士が携帯する装備全体(130〜150ポンド)の1/3にも達する。しかしこれがなくては装備が使用できないのだ。これはよく訓練された体格のよい兵士にとっても過大な負担であり、アフガニスタンに展開する特殊部隊にとって重大な問題となっている。

口径をめぐる問題

 アフガニスタンでも、昔から続いている9mmパラベラムと.45ACPのどちらがいいかという論争がまたしてもくり返された。アンチベレッタ陣営である復古主義者たちはとりわけ特殊部隊に多い。これらの人々は、ほとんど例外なくプライベートでは.45ACPのカスタムを使用している。

 しかし、少し調べればこういった意見のもつれは解決されるはずである。特殊部隊の最近の投入例であるソマリア、アフガニスタンにおいて、ピストルは取り上げるに値する働きを全く示していない。親ベレッタ、反ベレッタ陣営とも、その大部分は充分な実例に基づいてではなく、感情や噂に基づいて議論しているにすぎないのだ。ペンタゴンはアフガニスタンにおける実例を調査したが、その結果はピストルの使用について証言しうる兵はわずか9人しか見つからず、しかもその中で実際に発射した兵はたった1人にすぎなかった。ちなみにその銃は.45だった。

 一方アメリカ兵がスタンダードなライフルとして装備しているM16A2およびM4カービンの場合は事情が異なる。使用弾薬である5.56x45mm M855の62グレイン弾頭が持つストッピングパワーに対しては、ソマリア戦と同様、いやそれ以上に大きなクレームが生じている。M4カービンの14.5インチバレルによって、約4gの弾頭は初速886m/s前後の初速となる。135〜145m先では弾丸の速度は750m/s以下に低下する。これによる人体に対する威力低下が問題となる。近距離における傷、組織破壊とこの距離におけるそれは同じではなく、大きな傷を与えることができなくなってしまう。より長いバレルを持つM16A2およびM249(FNミニミ)の場合は充分な打撃力を持つ距離が伸びるが、それでも200m程度である。アメリカは現在新しい弾薬を研究している。この弾薬は現在の銃を流用できるよう配慮されている。6.5x45mm弾薬がそれで、人体だけでなく遮蔽物にも効果が大きい。5.56x45mm弾薬でもそうであったように、例えばスチールと鉛のダブルのコアを持つ弾頭など各種のタイプが研究されている。

 5.56mm弾薬に関し否定的な経験的事実が示されたことによって、当然の結果として新しいPDWカテゴリーに使用される4.6および5.7mm新弾薬の有効性にも疑問が生じることになる。目下2〜3ダースのH&K MP7(4.6x30mm)がドイツ軍によってテストされている。特殊部隊もテストを行っているが、ドイツ軍特殊部隊はこの銃をいまだ実戦投入していない。アフガニスタンで示された実例から見て不安である。

 彼らが戦っている敵兵が使用する非常に頑丈で汚れに鈍感なカラシニコフアサルトライフルと違って、対テロ連合軍の兵士たちが使用するライフルは砂塵やマガジンリップの変形によって絶えず送弾不良を起こしている。M203グレネードランチャーは砂塵の中ではひっかかって動かなくなる。一方CIAのチームが投入したH&Kの40mm多目的ピストルはその信頼性を証明した。アメリカ海兵隊と空軍の地上戦闘部隊は、たいていそのライフルとマガジンを1日に3回クリーニングしている。イギリス海兵隊も同様のクリーニングを行っているが、彼らが使用するH&Kによって改良されたSA80A2の送弾不良はおさまらない。その原因はアメリカ軍のそれと同じく、しばしばマガジンリップの変形に起因している。SA80のセーフティレバーはときどき動かなくなり、あるいはパーツの交換が行われるかもしれない。イギリスもアメリカも、支給するクリーニングキットをできるかぎり有効なものにしようと努力している。

 M4カービンおよびM16A2のハンドガードは長い銃撃戦時には非常に熱くなる。また特に夜間ガタガタ音をたてることが問題である。フラッシュライト、レーザーサイトなどを装着するレールは緩むことが多く、アメリカ兵たちは粘着テープで補強することが多い。


 アメリカ軍などが使用するハイテク兵器の有効性は明らかですが、問題点もあるということです。そもそもそれを使用することができない途上国のゲリラたちからすればぜいたくな悩みと言われそうですが、バッテリーをめぐる問題です。電動ガンを使ってゲームをしている方の中には実体験している人が多いでしょう。バッテリーというものは寒冷時には消耗が早くなるんですね。ゲームの場合は多くても大型バッテリー2個とフラッシュライト、ダットサイト、レーザーサイトなどに使うバッテリー少々くらいで重さが問題になることは少ないでしょうが、実戦に使用する装備ではときに20kg以上になるということですから大変です。この問題は近い将来解決する見込みはないと思われますし、それどころかOICWといった次世代小火器が導入されればますます深刻化せざるを得ないでしょう。

 現代の兵士にとってのピストルは、戦闘機の機関砲に似ているかもしれません。現代の空中戦において機関砲が使われることは少なく、第一次の湾岸戦争時でも機関砲によって撃墜したイラク機は皆無だったそうです。「Visier」がここで言っているのは、ピストルは実際にはほとんど使われないのだからそんな感情的に議論したってしょうがない、ということだと思われます。確かに、例えばアサルトライフルなどもっと強力な武器がない状態でAKを持った複数のゲリラに襲撃されたとして、ピストルがなければ助からないが、あれば助かるという可能性はきわめて低いでしょう。しかし戦争の形態にはさまざまなものがあり、最近の戦争で使った例がほとんどないからといってどうでもいいというのも乱暴すぎる気がします。先に例として挙げた戦闘機用機関砲もそうですが、一時期の状況によって「〜不要論」が浮上し、のちに誤りとされた例は多いですし。9mmと.45の間には明確に性質の差があり、両者が実際に使われた例は最近の戦場にはなくても、アメリカの警察の使用例としていくらでも見つかります。9mmの高性能ホローポイント弾ですらストッピングパワー不足と評価され、.40S&Wが主流となっている現状を見れば、9mmのフルメタルジャケットでは不充分と見るべきだと思います。個人的には軍用にも.40S&Wのフラットノーズあたりを使うのがいいのではないかと思います。まあ予算との相談でそこまですることはないという結論もありうるわけですが。

 5.56x45mmは軽量高速弾であり、高速によって高い殺傷力を得ようというコンセプトです。しかし軽量な弾は空気抵抗によって減速しやすく、ライフルにとっては比較的近距離にすぎない150m以下で、すでに750m/s以下という標準的なライフルの初速程度まで低下してしまうわけです。こうなれば当然単なる威力の小さいライフル弾に過ぎません。以前より重くした現NATO弾ですらストッピングパワー、射程は不足であり、「イラクでの戦訓」でとりあげた新弾薬が研究されているわけです。また、この事実から類推してこれと同等か小さな口径であり、はるかに軽い弾頭を持つPDW弾薬は当然威力不足と懸念される、という指摘がなされています。弾頭が転倒して傷を大きくするなどの主張にも一理はあるんですが、私はいろいろな情報から判断して、やはり人間をストップするにはある程度重量のある弾丸が必要なのではあるまいかと思っています。ただ、PDWの場合小型軽量という条件から、ある程度の妥協をするのはやむを得ないわけで、この用途にはこれが最善という判断もありうるとは思います。

 アサルトライフルの作動不良の原因として、砂塵と並んでマガジンリップの変形が挙げられています。確かにアルミ製のマガジンは変形しやすいでしょう。ただそれは最近始まったことではなく、問題にするならとっくに済ませておかなくてはならないことのような気はしますが。この点では意外なようですがG36シリーズなどのプラスチック製がタフで信頼性が高いようですね。

 H&Kの40mm多目的ピストルは以前アームズのガンスミス記事用に作ったことがあります。CIAが使っているというのは初耳でした。M203より砂塵に強いということですが、確かに中折れ式の方がスライド式より砂塵の混入によってスタックしにくそうな気はしますね。ただ、CIAが一般兵士のM203と同じ一日中砂まみれになるような使い方をしたのかどうか不明ですし、どこの国にもそういう傾向はあるでしょうが、自国の兵器に甘い評価を下す傾向はドイツ人にもあるようなので、多少割り引きは必要かも知れません。

 SA80(L85)の改良型A2がロイヤルオーディナンスの傘下に入ったH&Kの手によるものだというのは知りませんでした。たぶんH&Kの技術者としては全然違うセンスで作られたダメな銃の改良は楽しい仕事ではなかったろうと思います。最善を尽くしたんでしょうが、信頼性の低さは相変わらずということです。本当はアメリカよりイギリスの方が新しいアサルトライフルを切実に必要としているはずなんですが、今のところそういう動きはないようですね。

戻るボタン