「穴」の型取り

 ガレージキットの場合、パーツに開いた穴はごく浅い穴をマーキングとして開けて型取りし、後加工で穴を開ける方法が一般的のようです。この方が型が作りやすく、また長持ちします。しかし、私の場合は自分で完成品を作る上で、型で穴まで造形した方が楽なので、可能な場合はなるべくそうしています。

イラスト1

 細長い穴の奥にはなかなかシリコンゴムが入っていきにくいので、こんな風に注射器の先に、針の代わりに瞬間接着剤注入用のノズルをはめ、穴の奥に注入します。ノズルの先はシリコンゴムには細長すぎるので、適当に切断しないとうまくいきません。途中に気泡があるとそこからちぎれやすくなるので、細いピアノ線でかきまわしたりして気泡がないが確認し、あったらつぶしておきます。気泡がなければけっこう長持ちするものです。穴の中をなるべくなめらかにした方が長持ちしやすいですし、ちぎれるとすれば根元からのことが多いので、外観や機能に支障がなければこの図のように入り口をわずかに面取りしてやるとちぎれにくくなります。このようにしておけばたとえ途中でちぎれても、穴が途中までは複製されるので、それを深くするのは位置決めの必要がなく楽なわけです。

 さて、パイプ状につながった穴の場合はどうすべきでしょうか。

イラスト2

 黄色い部分が型、グリーンの部分はプラキャストが流し込まれ、パーツになる部分です。基本はこれですが、特にパーツが長い場合、これではずれが生じる場合が出てきます。応用として、こんな方法をとる場合もあります。

イラスト3

 基部がずれることは当然ありません。先端が反対側の型とかみあう形にすればずれは防げるわけです。ところが困ったことに、さらに長くなってくるとこれでもだめになってきます。シリコンゴムは熱によって少し膨張します。特にこのように細長い部分は膨張率が大きくなるようです。

イラスト4

 一定以上膨張すると、こんな風に内部でゆるやかにカーブしてしまいます。シリンダー軸など、精度が要求されるパーツの場合、これはかなり深刻な問題となります。マキシンBFRのときはこの方法で何とかなりましたが、調整が大変でした。ペッパーボックスの場合はもっと細長いのでこの方法ではもう無理でしょう。そこでこんな方法をとりました。

イラスト5

 突起を双方から出し、これを短く切断します。そこにぴったりの真鍮パイプをかぶせ、ここにプラキャストを流し込むわけです。突起は真鍮パイプの位置決めを行うとともに、パイプ内にプラキャストが流れ込まないための「栓」の役割を果たすわけですね。これによりまっすぐで、なめらかで、強度がある軸穴ができるわけです。これで非常になめらかに回るバレルグループができました。作動の調整が楽なのもかなりの部分がこのおかげだと思います。

 ペッパーボックスの場合はこれに重量アップと安全対策も加えました。

イラスト6

 
 このようにあらかじめ真鍮パイプにワッシャーと、ウェイト用ハンダ棒を巻いたものを通しておき、プラキャスト内に鋳込まれるようにしました。ウェイトとワッシャーがプラキャスト内に封入されるように、真鍮パイプ途中には輪ゴムを巻いています。
 バレルグループが重いとシリンダーストップに負担がかかって折れやすくなりますが、このようにウェイトが中心に近いほどこの問題は小さくなるはずです。シリンダーストップにグラスファイバーを鋳込んだことと合わせ、かなり早くトリガーを引いても折れそうな感じがまったくない製品になったと思います。
 ワッシャーは各バレルの4割くらいをカバーする形で鋳込まれます。マズルから穴を開けていこうとすると、ドリル先端がワッシャーのエッジに当たり、外側にそれようとするので、まっすぐ穴を開けることはきわめて困難となります。もちろんワッシャーはモデルガンのインサートのような超硬材ではありませんし不可能とはいえませんが、全体に強度が低いプラキャスト製ガレージキットの安全対策としてはこれで充分以上だと思います。

イラスト7

 ペッパーボックスのバレルグループ軸先端には、バレルグループを止めるネジがねじ込まれます。細い軸にまっすぐ穴を開けてねじ切りをするのはけっこう大変なので、今回はあらかじめネジをねじ込んだ形で型取りし、型にネジをセットしてプラキャストを流し込むようにしてみました。複製品はこのようにネジが鋳込まれた形になり、これを抜けばすぐネジ穴として使えるわけです。ただし、ネジは短く切断する必要があります。同様にメインスプリングのテンション調節ネジの穴も型で作るようにしました。この2つのネジ穴はいわば「金型」で作っていることになりますね。ちなみにミスをして後者の穴は1mmくらい足りず、穴あけ、ネジ切りが必要になってしまいました。まあこれでも1から穴あけ、ネジ切りするよりずっと楽ですが、位置合わせは慎重にやろうというのが今後の反省点です。

 穴の話ではないですが、ペッパーボックスのこのフレームには、グラスファイバーを軸の先端からフレームの上を通り、グリップフレームをぐるっと回ってフレームの下を通り、また軸の先端に戻るという形で鋳込んだのでかなりしっかりしたものになり、軸が根元から折れるといった心配はほとんどなさそうです。ただまあ、あらかじめグラスファイバーをピンセットで型にセットする作業はかなり面倒です。メガネがかけられないガスマスクをした状態での作業ですし、ゴム手袋をした状態では無理なのではいちいち着脱しなくてはならないですし。

2003年8月16日追加
 キングコブラボックスピストルでの工夫を説明します。キングコブラでは、並列の発射レバーの軸が本体後部(フレーム)内を左右に貫通しています。パーツの肉厚、強度を得るため、この軸は1mmピアノ線という非常に細いものになりました。こんなに細く、しかもかなり長い穴はゴム型ではとても複製できません。かといって後加工では精度を出すのが難しく、左右の発射レバーの角度などがばらついてしまうのが目に見えていました。そこでこんな方法をとりました。

キングコブラの型1

 原型に1mmピアノ線を通した状態で型取りし、こうしてできた型にこのように1mmピアノ線をセットしてプラキャストを流し込むわけです。ピアノ線が貫通した状態でできたパーツからピアノ線をペンチで引き抜けば正確な軸穴ができるわけです。これもいわば「金型」で軸穴を作っているわけですね。ちなみにこのピアノ線は繰り返し使えます。

キングコブラの型2

 こちらは小パーツの型です。手前からストライカー2個、発射レバー2個、ブリーチ前面とコッキングノブ、バレルロックとコッキングノブです。発射レバーの軸穴は上で説明した本体後部と同じ方法で作っているので1mmピアノ線が型にセットしてあります。コッキングノブには3mmネジを鋳込むので、型にネジが差し込んであります。

コッキングノブ

 空色の部分が型、灰色の部分がネジ、黄緑の部分がプラキャストです。ネジの頭のドライバーで回す部分にまでプラキャストが回るのでネジが空回りすることはありません。今回はこれで充分でしたが、ネジが長かったりして強いトルクがかかる場合は頭が六角のネジを使った方がいいでしょうね。

ストライカー

 こちらはストライカーです。ペッパーボックスと同じ方法でもいいんですが、プラキャストは強度が低くてメネジがバカになりやすいのでナットを鋳込みました。頭を切断したネジの先に穴が行き止まりになっているいわゆる「袋ナット」をつけ、これを型にセットしてプラキャストを流し込むわけです。ネジが鋳込まれた状態のパーツからネジを抜けば(頭がないのでペンチでつかんで回します)、ナットが鋳込まれたネジ穴ができます。これならネジがバカになることはありません。

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