ASPディフェンダー

 「Visier」2004年1月号に小型催涙スプレー「ディフェンダー」に関する記事が掲載されていました。これは「スイス銃器マガジンチーム」によるレポートです。
 「テイザー」の項目で書いたように、私は極端にリーチが短い武器であるスタンガンというものの護身用具としての効果に疑問を持っています。日本で合法的に所持できる護身用具としては、武器を持った相手に離れて反撃でき、しかも傷を負わせる可能性がない催涙スプレーが最も優れているのではないかと思います。で、小型軽量だし、何となくかっこいいなあと思って、ここで紹介されている「キーディフェンダー」を数年前に購入しました。まあたぶん使う機会はないでしょうし、普段携帯もしていませんけど。自分が実際に持っているもののレポートというのは珍しいですし、どう評価されているかに興味を持って読んでみました。


ASP-ディフェンダー
ダブルの安全
アメリカから、比較的小型軽量なペッパースプレー器具がやってきた。「ディフェンダー」は3種類のサイズが揃っており、正当防衛用として人体の神経ポイントを攻撃する「クボタン」としても使用できる。

 特殊警棒などさまざまなセキュリティグッズを作っているアメリカAppletonのメーカーASP(Armament Systems and Procedures)の製品「ディフェンダー」は、目立たず、携帯しやすいデザインが特徴だ。

刺激物質スプレー器具
 刺激物質スプレー器具はすでに何十年もの歴史を持ち、さまざまなデザイン、形式で女性も含め多くの人々が携帯、使用している。主なものは缶型だが、特別なケース入りのもの、懐中電灯、警棒と組み合わせたもの、ピストル型のものなどもある。
 大部分のものは、CN(Chloracetophenon)、CS(Chlorbenzylidenmalodinitril)、OC(ペッパースプレー)を窒素ガスによって噴流状、または霧状に噴射する。最近では花火仕掛けのものもいくつか現れている。
 使い捨てのものもあるし、カートリッジの交換ができるものもある。いずれにせよ、こうした器具には催涙ガスが140m/s(約500km/h)もの高速で拡散し、離れて攻撃者に反撃を加えて逃れることができるというという長所があり、また一方で風に敏感すぎるという欠点もある。

「ディフェンダー」の型式
 現在「ディフェンダー」には花火仕掛けのモデルはなく、従来型のガス圧式のみだ。アルミニウム製の本体は円筒形で、直径は16mmだ。上部には作動ピンが配置され、約12mm突出している。すぐ下にはプラスチック製の安全リングがあり、パイプ状の本体を約2/3包んでいる。下端には直径約1.2mmのペッパースプレー噴出口がある。「ディフェンダー」の上下のキャップはねじこみになっている。
 3つの型はそれぞれ「パームディフェンダー」「キーディフェンダー」「ストリートディフェンダー」と名付けられている。英語の「パーム」は翻訳すれば「ハントフラッヒェ」であり、全長113mmである。「キー」は「スチルッセルアンハンゲル」のことで全長146mm、最後の「ストリート」は「ストラッセ」の意味で、主に安全に関する仕事に携わる人向けになっている。残念ながらスイスでは警棒の所持が禁止されているため、警棒型の「ストリート」はテストできなかった。
 大きさの異なる「パーム」「キー」だが、使用するカートリッジの直径は12.1mmと変わらず、長さのみ異なる。メーカーによれば「パーム」のカートリッジは3g、「キー」のカートリッジは4gである。
 付属のキーリングには大小があり、本体の色、表面の滑り止めも(細い溝、チェッカー、プラスチックでコートしたもののいずれかから)選択できる。

使用
 「パーム」は47g、「キー」は52gでありどちらも非常に軽いが、、より軽い「パーム」の方が携帯しやすいし、長さから言っても「パーム」の方がカギ束をつけた状態で狭いズボンのポケットなどに収まりやすく、快適に携帯できる。
 プラスチック製の安全リングは考え得る限り最も簡単な方法がとられている。「ディフェンダー」を使用する際は、それを取り出し、目の高さに構えて目標を狙い、これと同時に親指で安全リングを押し出し、続いて作動ピンを押して噴射する。
 安全リングにはスプリングは付属しておらず、プラスチックの弾性のみで「ディフェンダー」本体に保持されている。操作は素早く行える。安全リングは単一のパーツで構成され、作動ピンを内部で直接ブロックしている。2日間−18℃の場所に置いても、プラスチック製の安全リングの弾性は損なわれなかった。
 しかし、テストではキーホルダーとして使う場合のカギが安全リングにまとわりついて離れず、使用が遅れたり、最悪の場合使用不能になる例があった。また、カギが作動ピンを押す邪魔になることもありうる。
 メーカーは有効距離は約1.5mと主張している。だが、いわゆる心地よいそよ風であっても横風がある場合「キー」「ディフェンダー」とも目標に催涙ガスは届かない。「パーム」を持って歩み出、距離を1mに短縮しても、マンターゲットの中心にはかからず、約半分がターゲットの端部にかかる、という結果だった。さらに距離を短縮し、80cmまで接近して初めて正確な「命中」が記録された。この距離でガスは直径約200mmに広がっていた。1つのカートリッジで5回、全く同価値のスプレー攻撃が行える。メーカーの推奨通り、各スプレーに1.5秒のインターバルを置いての結果である。
 「パーム」に比べ、「キー」のスプレーのパワーはやや強く、1mから「全弾命中」が得られた。パワーは強いが、「パーム」同様最大5回のスプレー攻撃が行える。
 使用後、噴射口から残りの液が漏れ出てくるのは不快である。当然、使用後にポケットに入れれば中を汚すことになる。
 当然だが、より短い「パーム」の方が「キー」よりも携帯しやすく、特に小さなポケットに収まりやすい。だから「パーム」こそ携帯用に最適であるかのように思える。だが注意! 多数のテスターによるドライトレーニングが示すところによれば、短い「パーム」は、手が小さい人にとっても小さすぎ、手の平の中にすっぽり収まってしまう傾向が見られた。すなわち、急いで使用しようと取り出した際、指が噴射口にかかり、致命的な結果を生むこともありうるということだ。
 この問題を除けば両モデルとも機能は良好で作動不良などはなかった。メーカーによれば、セット価格に水を満たしたトレーニングカートリッジは含まれていないという。別に買えば取るに足らない金額というわけにはいかない。だが、実際の有効距離を把握しておくためにもトレーニングセットの購入が望ましい。
 自己防衛器具としての第二の使い方、「Kubotan no jitsu」に関しても簡単に触れておく。本来この技術は「Okinawa Karate」のセルフディフェンスシステムとして生じたもので、長さ20cmの棒を使用する。当然この棒は短いもので代用することができ、安定性の高い鉛棒、ボールペンなどが使われることもある。そしてこの「ディフェンダー」も「クボタン」として使用できる。例えば後ろから抱きつかれた場合に「ディフェンダー」によって手の甲の神経を圧迫し、脱出するといった使用法だ。これらのテクニックは比較的簡単に習得でき、きわめて効果が高いとしていくつかの警察部隊がトレーニングプログラムに取り入れているという。

要点
 ペッパースプレーもまた緊急事態において常に決定的な解決策になるわけではない。せいぜい時間稼ぎになるという程度だ。ASPの「ディフェンダー」は軽量で便利な器具だが、私見ではやや長く、スプレーが強力な「キー」の方が「パーム」より優れている。使用後、残りの液があふれ出る点には注意が必要である。

価格:69CHF(キー)
実用、トレーニングカートリッジとも23CHF

ペッパースプレーについて(頑住吉注:別扱いの囲み記事)
 いろいろなチリペッパーから抽出されたペッパースプレーの成分はCS、CNガスより強力であり、人間の皮膚、粘膜、目に作用を及ぼす。作用物質は主にカプサイシンと「Dihydro(頑住吉注:2つの水素と結びついた、という意味ですかね。小さな英和辞典には載っておらず、化学知識も乏しいんで分かりません)カプサイシン」が結合したもので、主にトウガラシのさやに含まれている。その強さの度合いは「SHU」(Scoville Heat Units 頑住吉注:「Scoville」という単語は英語でしょうが、辞書に載ってません。人名か何か固有名詞だと思います。)で表わされる。最も強力なトウガラシのさやは577000〜855000CHUに達する。これに比べ、イタリアのペペロンチーノは5000CHUしかない。ペッパースプレーは普通天然スパイスの3000倍の刺激効果があるとされる。ASPの場合は2000000SHUとされている。
 トウガラシの成分は、セルフディフェンスと食品以外にも、リューマチの痛みを和らげる軟膏、膏薬として多くの人が使用している。
 スイスではペッパースプレーは武器購入証明書なしで購入できる。警棒は所持が禁止されているが、「クボタン」はこれに含まれない。


 「Visier」に掲載されている「スイス銃器マガジンチーム」によるレポートは、ドイツ人、スイス人双方に読まれることを想定したものだというのは間違いないと思いますが、主にどちらを想定しているのかは不明です。が、ドイツの銃器雑誌ですし、ドイツ語で書かれていますし、主にドイツ人を想定しているという仮定でお話を進めます。
 私が大学でドイツ語を習ったとき、先生が「ドイツ語と英語は大筋文法が似ている。親とまではいかないが、ドイツ語は英語の伯父さんぐらいにあたる言語だと思っていい。」旨話したのを覚えています。例えば「in」など綴りも同じ、意味もほぼ同じ、という単語もありますし、ここで頻出する「pfeffer」のように、英語の「pepper」のことだな、とすぐ見当がつく単語もあります。軍事マニアなら英語のパンサーはドイツ語では「パンテル」、タイガーは「ティーゲル」という似た単語になると知っているはずです。こうしたことから、ドイツ人(ドイツ語の専門誌が読めるスイス人であっても)は大体英語が分かりそうに思うんですが、どうもそうではないようですね。「sp-21」の項目で、「コッキンググリップ」という単語をわざわざ訳しているのに違和感を感じました。こんなの日本の専門誌の読者なら日本語訳は全く不要ですよね。今回の記事でも「パーム」「キー」「ストリート」という単語がわざわざ訳されています。まあ「パーム」は高齢者を中心に分からない人が比較的多いかもしれませんが、「キー」「ストリート」なんてのは銃器マニアに限らず日本人なら常識です。ちなみに「キー」は「スチルッセルアンハンゲル」のこと、と書かれていますが、実際には「スチルッセル」がキーのことで、「スチルッセルアンハンゲル」だとキーホルダーになるはずです。まあこれは意訳ということでわざとかもしれませんが。
 そんな風にどうも英語があまり得意でないらしいドイツ人ですが、「オキナワ カラテ」「クボタン ノ ジツ」で通じてしまうというのは凄いですね(もちろん「ノ ジツ」の訳語は示されていますけど)。「オキナワ」にしても、日本の軍事マニアでも「ドレスデン」「ハンブルグ」といえば「激しい空襲があった大都市かなあ」くらいの認識がある人が多いはずですし、ドイツのマニアも「米軍との激戦があった島かなあ」くらいは分かるのかもしれません。ただ、「沖縄空手」のなんたるか(つまり本土の空手とどう違うのか)はほとんど分からないでしょう。私も分かりませんし(笑)。
 花火仕掛けの「刺激物質スプレー器具」が登場しているというのは知りませんでした。たぶん普通の催涙スプレーより射程が長く、火花自体にも目潰し効果がある、というものだと思います。日本では法的に所持可能なんですかね。
 さて、私も持っている「キーディフェンダー」です。日本には少なくとも数年くらい前から輸入されているはずですが、新製品としての紹介ですからスイスには最近入ってきた、ということのようです。それにしてもハンドガンのマガジン容量規制がなく、どうやらピストル用ストック、バーチカルフォアグリップつきのステアーSPP(セミオート版TMP)の一般市販も可能らしいなど、アメリカより一部ゆるい武器規制法を持つスイスで警棒が禁止というのは意外です。ありあわせの単なる棒と危険度は変わらないはずなのに何故でしょうね。

キーディフェンダー

 本体はアルミ合金、トリガーにあたる「作動ピン」は真鍮、「セーフティリング」はプラスチック製です。小型軽量で、しかもクボタンとして使うことを想定しているだけあって、非常にしっかりした作りです。

セーフティリング

 「セーフティリング」は「作動ピン」と直接かみあって前進をブロックしており、親指で素早く解除できます。ただ、握った時の回転位置が悪いと少し手間取る可能性もあります。より小型の「パーム」の場合噴射口を指でふさいでしまう可能性が指摘されていますが、それだけでなく「安全リング」や「作動ピン」が手の平の内部に握り込まれてしまうと操作が難しくなり、やはりここで指摘されているように携帯がやや不便でもやや長い「キーディフェンダー」の方がいいと思われます。

カートリッジ

 内蔵されているカートリッジです。超小型のスプレー容器みたいなもので、ノズルは本体内部によって止められ、「作動ピン」を押すとカートリッジが直接後方から押されて噴射する、というごく簡単な構造になっています。
 ここではトレーニングキットは別売とされていますが、私が買ったものには付属されており、やはり有効距離は短いなあと思いました。相手の顔から1mということは、凶器がこちらに届く寸前を見切って使わなければならず、ないよりまし、といった効果しかなさそうです。まあこんなものに頼らず、危険な目に会わないよう注意するのがいちばんですね。
 ちなみに検索してみると現在の国内での価格は1万円弱くらいのようです。一方スイスフランを換算すると、スイスでは6千円以下で買えることになります。これはまあいいとして、アメリカだと21ドル、つまり2200円くらいで買えるようです。本国ということもあるんでしょうが、ちょっと損したような感じです。ちなみにアメリカの価格を調べようと思って検索していたら、新製品として指輪型のペッパースプレーなんてのを見つけました。
http://www.selfdefenseproducts.com/personal_safety/stunningring.php
 有効距離は短いに決まってますが、面白いことを考えるもんですね。







戻るボタン