幻惑手段
(頑住吉注:「Blendmittel」。「Blend」は「幻惑」、「盲目にすること」、「まぶしがらせること」などの意味で、要するに敵戦車搭乗員の視界を妨げる手段のことです)

 幻惑手段は走行する戦車を破壊的戦闘手段使用のためのより良い条件作りのために停止させるのに役立つ。1942年10月7日のH.Dv.469/4「対戦車防御全兵器、4号、対戦車近接戦闘のための方針」の中ではBlendkorper(頑住吉注:「o」はウムラウト。「幻惑弾体」)が走行する戦車に対する最も効果的な近接戦闘手段とされている。BK1Hの名を持つ、まず最初に採用された重量370gの弾体は直径60mmで、長さ150mmによりやや扱いにくかった。これは225,200発の供給後、改良された幻惑弾体BK2Hによって交換された。このモデルは長さ128mmの電球型ガラス体からなり(兵士たちの言葉では不敬にも「大勅書」の名がつけられた 頑住吉注:中世の教皇による大勅書は金属製のカプセル状のものに入れられたそうで、これに似ているという意味らしいです)、4塩化チタン、珪酸塩からなるミックス剤290g、さらに36gの塩化カルシウム入りの試験管が入っていた。この幻惑弾体はひっくるめて重量400gであり、紙製のパッキングケースに各4個入りで支給された。その使用法と効果は次のように記述された。「この幻惑弾体は敵戦車の前部に投擲され、衝突時に粉々に割れ、ただちにその戦車を煙で包む。走行する戦車は多数の幻惑弾体を使用した場合停止を強いられ、搭乗員は彼らの兵器の操作を妨害される。戦車の開口部、特に作動中のエンジンからの侵入により、戦闘室内の煙幕物質はその催涙効果によって搭乗員に降車を強いるほどになる。



眩惑弾体BK1H1個入りのパッキングケース(右)と眩惑弾体BK2H4個入りのパッキングケース

 この幻惑弾体は30mまでの距離に投擲され、煙幕は15秒から20秒持続した。1943年から1945年までに5,142,100発の幻惑弾体BK2が生産され、1945年3月、そのうち1,219,100発がまだ存在した。走行中の戦車の前部に取り付けることに成功したときはNebelkerzen(頑住吉注:「煙幕ロウソク」)、緊急の場合は多数を結束した煙幕ハンドグレネードによっても幻惑弾体の場合と同じ効果が達成可能だった。煙幕ロウソク39は本来、場所的、時間的に限定された小さな地域を煙幕で包むためのものであり、点火紐信管29または39および点火薬N4によって3から5秒の遅延後に点火した。煙幕の持続は3から5分とされる。煙幕物質としては亜鉛粉末等からなるミックス剤が役立った。煙幕ロウソク39Bの場合はミックス剤の変更により煙幕を出す時間の延長と暗灰色の煙幕が達成された。1943年11月24日における「対戦車近接戦闘手段」148号では、戦車搭乗員の幻惑用として煙幕ロウソクS39急速煙幕ロウソク)が挙げられている。これは本来自軍の戦車および装甲偵察車を煙幕によって見えにくくするためのものだった。この重量2kgの急速煙幕ロウソクは即時に煙幕を発し、煙幕の持続は1.5から3.5分だった。

 近距離から戦車砲の砲身上に投げつけることを可能にするには2つの煙幕ロウソク、もしくはこの用途に使いやすい2発の煙幕ハンドグレネード39または41を長さ約2mの結束紐または針金で結合する必要があった(「Uberwurfladung」 頑住吉注:「U」はウムラウト。「着せ」、「羽織らせ」+「爆薬」といったところでしょうか)。第2の煙幕ロウソクまたは煙幕ハンドグレネードの場所にはウェイトを使用することもできた。燃焼信管39および点火薬N4を持つ、重量720gの煙幕ハンドグレネード39は7秒の点火遅延の後に1〜2分煙幕を放出した。この使用法は多くの練習と熟練を要求した。走行する戦車に対する幻惑手段としての煙幕ハンドグレネードはたいていわずかな効果しか示さなかった。同様にライフル幻惑グレネード42も戦車搭乗員の幻惑用と決められていた。これは1942年8月15日に採用されたものだった。重量は483.4gでライフルグレネード器具で発射された。攻撃してくる戦車の前面装甲板に命中させることに成功した際は15から20秒間、幻惑弾体BK2Hに匹敵する効果を達成することができた。



 前述の1943年11月24日における「対戦車近接戦闘手段」148号では対戦車近接戦闘用のさらなる幻惑手段としてRauchrohre(頑住吉注:「o」はウムラウト 「煙パイプ」39が挙げられている。その内容は次のようである。「この煙パイプ39は工兵中隊によって主にトーチカのいぶし出しに使用される。これは煙幕ハンドグレネード39のように使用できるが、しかしそれだけでなく小さな開口に差し込むこともできる。この可能性によりこの煙パイプは戦車の前部に取り付けられる。その効果は煙幕ハンドグレネードよりもいくらか小さい。

 ドロドロのぬかるみ、塗料を入れたバケツおよび大きな桶、視察スリット覆い隠しのためのテント用布地、マントは緊急時に戦車搭乗員の幻惑に使用できる応急手段だった。この目標は常に、破壊的戦闘手段により持続的効果を達成できるよう戦車に低速走行もしくは停止を強いることに留まった。


http://members.lycos.nl/lexpev/studies.html

 このページには煙幕ハンドグレネード39(Nebelhandgranate 39)、眩惑弾体(Blendkorper)BK1Hおよび2H、煙幕ロウソク(Nebelkerze)39Bの画像があります。

 説明するまでもないでしょうが、ガラス製の眩惑弾体は戦車の前面装甲に当たると割れ、内容物が前面装甲に付着するとともに混合され、ここで煙を出し続けるので長時間にわたって戦車搭乗員の前方視界を奪い、また煙が車内に侵入しやすくもなるわけです。一方煙幕ハンドグレネードや煙幕ロウソクの場合は単に敵戦車に投げつけてもはねかえるだけで効果が期待できません。そこで前面装甲に何らかの方法で取り付けるなどの工夫が必要になるわけです。オーストラリア原住民は「ボウラ」などと呼ばれる2つの石を紐でつないだ狩猟用具を回転させながら獲物の脚に投げつけ、からめて逃げられなくする、という方法を使ったそうですが、2個の煙幕ハンドグレネード等を紐などでつないで砲身にからませる方法はこれにちょっと似ています。ただイラストを見ても相当の熟練を要することは容易に想像できます。

 ナチ・ドイツ軍には未来的な超兵器を駆使したというイメージがあり、確かにそういう側面もありましたが、一方では慢性的に戦車などの兵器不足に悩まされ、時にはろくな対戦車兵器を持たない歩兵が「ぬかるみの泥を桶でぶっかける」という何とも言いがたい原始的な方法で敵戦車に対抗せざるを得ない場面もあったわけですね。














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