CZの近況と「スコーピオン」

 「DWJ」2003年9月号に、チェコ共和国のメーカーであるCZと、有名なミニサブマシンガン「スコーピオン」に関する記事が掲載されていました。なお、「今年」「来年」というのはもちろん2003年を基準にした記述です。


ワルシャワパクトの崩壊はチェコの銃器メーカーCZの方針も変えた。CZはスポーツ、ハンティングに加え、利益の大きい公用マーケットに力を入れようとしている。また、従来いかがわしいイメージのあった「スコーピオン」の生産も再開した。

 現在のチェスカ・ゾブロジョブカ(CZ)の経営は、名前以外に旧東側時代との共通点はあまりない。「鉄のカーテン」が落ちて以後、新しい方針を打ち出すことを迫られたのだ。国内や他の東ヨーロッパ諸国だけでなく、EU、NATO諸国の需要に合わせるようになった。面白いのは、かつてチェコから海外に流出して反西側の活動を行ったテロリストたちに愛用されたSMG「スコーピオン」が、今では西側公用マーケット進出の牽引役となっていることだ。
 CZは目下1800人の従業員を抱え、新しい経営者Vaclav Novakが就任し、多方面への進出を図っているところだ。CZは警察、軍用兵器に用いられる精密航空機部品やエンジンの生産も行っている。同時にハンティング、スポーツ領域の生産も行っている。現在、まだ売り上げの80%は旧来の銃器生産が占めている。CZは、1年間に全てのジャンルを含めて20万挺の銃を生産し、去年の売り上げは約3千900万米ドルだった。輸出品の大部分はドイツ、フランス、アメリカへのものだ。
 チェコの安い人件費のおかげで、CZの製品は高品質、低価格なので、予算に余裕のない顧客にもよい選択である。また、新しい経営陣は公用(ローエンフォースメント)に大きな力を入れようとしている。CZはスポーツ、ハンティング、ミリタリー用銃器に関する長年の経験があり、この分野への進出に大きな問題はなかった。現在ではプラスチック成型技術も得意としており、来年プラスチックを多用した銃器の新シリーズが加わるという情報もある。このような挑戦と共に、「古典的」なCz75、「スコーピオン」の生産も行われている。CZの生産拠点はブルーノから約100km東にあるスドマーレンのウェルスキー・ブロドにある。一般にCZといえば「ブルーノの」と言われるが、現在ではそれは必ずしも正しくないことになる。
 

マシンピストル「スコーピオン」
 ソ連のスチェッキン、ポーランドのWz63と比較されるマシンピストル「スコーピオン」は、「VZ61」の名でチェコスロバキア軍に採用された。この銃は1975年まで生産され、ユーゴスラビアでもライセンス生産された。設計はチェコ人のMiroslav Rybarが行い、元々は戦車乗員が片手でも、肩付けでも撃てる銃として構想された。この銃は本体が全長たった28cmしかなく、スチールのワイヤーでできたストックを伸ばしても52cmしかない。構造としては、固定バレルと、レートリデューサー付きのストレートブローバックのボルトが鉄板プレス製アッパーレシーバーに収められている。使用弾薬としては投入目的にふさわしい、比較的低威力の7.62mmブローニング(.32ACP)を採用している。この基本形の他に、異なる輸出モデル(対象はアンゴラ、モザンビーク、ウガンダなど)が作られた。VZ64は.380ACP、VZ65は9mmマカロフを使用し、最後には軍用として普及している弾薬の9mmパラベラムを使用し、いくらか重量を増加して木製ストックを装備したVZ68が登場した。
 コッキングノブはアッパーレシーバーの両サイドにあり、フル・セミオートが選択できる。マガジンが空になるとボルトはホールドオープンする。閉鎖はボルトの重量とスプリングのテンションによって行われる。レートリデューサーはスプリングの付属したフックでボルトをひっかけることで機能する。理論上毎分800〜1000発の発射速度が得られる。
 この銃は構造上UZIやマック10と比較すべきものではないが、非常にハンディで持ち運びやすい。
 
 1960年代の終わり頃から「スコーピオン」はテロリスト愛用の兵器として西側を脅かした。「スコーピオン」による最も有名な犠牲者はイタリアのアルド・モロ元首相で、1978年、テロリストグループ「赤い旅団」によって誘拐され、射殺された。
 CZはマーケットに治安維持用の新しい購入層を開拓するため、9mmパラベラムを使用するスコーピオンの新型を開発した。この銃は寸法はほとんど同じであり、幅がやや広げられている。この銃は軽量とマンストッピングパワーを兼ね備えている。新「スコーピオン」は全長は30.5cm、未装填重量は2.1kgとなった。マガジンは10、20、30発が供給される。CZは有効射程は150mと主張している。フルオートでも反動の制御は可能で、いくらかのトレーニングをすれば照準線を維持できる。この銃はチェコ軍落下傘部隊によってすでに使用されているという。元々の開発意図だった戦車乗員用という用途も復活したし、警察特殊部隊、個人防御火器(パーソナルディフェンスウェポン)にも向いている。こうした用途にも対応するようサイレンサー、追加グリップ、ライトシステムも供給される。

ピストル
 チェコ警察はCZに4万6千挺のハンドガンを注文した。これはCZのマーケット戦略にとって非常に重要な一歩だ。トルコ警察は全ての銃をCZ製品で装備しているし、東アジア方面とのワルシャワパクト時代からのつながりは現在も生きている。例えばベトナム軍は口径9mmマカロフのCz83を注文した。
 新製品の例としては、16連発のCz75Dコンパクトポリスバージョンが流通している。フレームはアルミニウム製で800gに軽量化されている。大部分は9mmパラベラム仕様で、セルフディフェンス用に意図されている。シングルアクション可のもの、ダブルアクションオンリーが選択できる。この銃はフレームが軽いためややトップヘビーのバランスだが、扱いやすくリコイルもマイルドである。コンバットシューティングのトレーニングにも適しているし、操作はノーマルで容易、サイトも狙いやすいものだ。
 キャリーしやすく、マガジンキャパシティを10発にしてコンパクト化した姉妹モデル、Cz2075ポリスバージョンとともにコンシール、バックアップ用として推薦できる。

DWJの結論
 CZの商品展開は広範囲であるが、いずれもマーケットで強い競争力を持っている。CZは新しい顧客を開発しつつある。「スコーピオン」はここにきて新たにローエンフォースメント分野に挑戦しており、有望である。CZの製品には駄作というものがない。読者も、Cz75、85、Cz527ライフルが登場したとき、それがその時点、そのカテゴリーにおいてベストのものであると認めたはずである。CZの新たな提案である製品群に対しても、DWJは高い評価を下す。


 皆さんにとってすでに当たり前の内容も多いでしょうが、少なくとも私は知らなかった内容も多かったです。
 ところで.32ACPが「投入目的にふさわしい」というのはどういうことでしょうか。離れた敵を積極的に攻撃するなら車載機銃を使えばいいわけで、戦車に肉薄する至近距離の敵歩兵を撃退するためならこれで充分という意味でしょうか。しかし.32ACPよりかなり強力な9mmマカロフを使用するスチェッキンですら軍用としては威力不足とされ一部を除き使用されなくなったわけですし、実際.32ACPを使って軍用として成功したサブマシンガンというのはありません。ユーゴスラビアでは生産が続行したものの本家チェコスロバキアでは1975年に早々と生産が中止されたのは、やはりスチェッキン同様威力不足と判断されたからではないでしょうか。スチェッキンは低威力の方が都合がいい警察用や、サイレンサーつきの特殊目的などに用途が変わったわけですが、スコーピオンの方は海外に流出してテロリストに愛用されることになったわけです。無防備な民間人、文民を攻撃するなら.32ACPでも充分だった、ということでしょう。「モロ氏暗殺事件」「赤い旅団」というのは私が子供の頃マスコミで騒がれていたのを覚えていますが、スコーピオンが使われたというのは知りませんでした。ちなみに先日(2003年12月)、イタリア警察が「赤い旅団」のアジトを急襲し、壊滅的ダメージを与えたという国際ニュースがあって「赤い旅団ってまだあったのか」とびっくりしました。「M12機関銃などが押収された」とありましたが、これはベレッタのサブマシンガンでしょう。警察との戦いの中で武器もスコーピオンより強力なものにエスカレートしていった、ということでしょうか。ここには書かれていませんが、昔犯罪王ともいわれたメスリーヌ(「ゴルゴ13」でも題材になってましたね)が所持していたという話もあります。このようにテロリスト、犯罪者の銃というイメージだったスコーピオンが、最近になってリバイバルされ、国内の軍用に使用されるだけでなく西側に警察用として売り込まれて始めているということです。
 このためには当然.32ACPでは非力すぎますから、威力があり、普及している9mmパラベラムを使うバージョンが登場しているわけです。ストレートブローバックで9mmパラベラムを使うサブマシンガンというのはいまさらという感じもしますが、MP5Kよりコンパクトで肩付けもでき、はるかに安価のはずですからある程度の競争力はあるんでしょう。ただ、なるべく重くしたボルトが強力な弾薬の力でストレートに後退し、強力なスプリングで復帰するのでフルオート時の銃の動揺はMP5Kより大きくなるはずです。直接のライバルはマイクロUZIあたりになるんでしょうか。現在イスラエル軍で使用されているUZIシリーズは全てクローズドボルトになっているらしいですから、9mmパラベラム・ストレートブローバック・クローズドボルトと、性格的にかなり近いものがあり、サイズもおおよそ近いはずです。たぶんデザイン上スコーピオンの方が保持しやすく、無理矢理直動ハンマー(かなり重くストロークも長いらしいです)を組み込んだマイクロUZIよりスコーピオンの方がセミオート時の命中精度は高いのではないかと思います。また、レートリデューサーがあるので発射速度が過大なマイクロUZIよりフルオートでも制御しやすいはずです。たぶん価格もスコーピオンの方が安いでしょう。
 ちょっと疑問なのは、弱装の.32ACPのデザインをほとんど変えずに強力な9mmパラベラムをストレートブローバックで使用するのに問題はないのかという点です。ボルトを重くできるサブマシンガンならストレートブローバックのものは多いと言っても、スコーピオンのボルトはデザイン上たぶんマイクロUZIより小さく、H&K VP70のスライド以下の重さしかないんではないでしょうか。このためリコイルスプリングが強くて引きにくいということなのか、9mmバージョンのコッキングノブは見慣れた段々の円錐型ではなく、円筒形になっています。この他アッパーレシーバー左、コッキングノブの前とストック基部に円形のスイベルリング(キーホルダーに使うようなバネ性のあるワイヤーを2巻きしたようなリングに見えます)がつき、マズルにはサイレンサー装着用ネジを保護するためと思われるプロテクター(回しやすいようにチェッカリングが切ってあります)が付属しています。マガジンは少なくとも20連のものはストレートです。これら以外には外観に大きな変化はないようです。「追加グリップ」というのは写真もなく、どういうものか不明ですが、たぶんバーチカルフォアグリップではないでしょうか。
 Cz75Dコンパクトポリスバージョンというのは、スライドが極端に短くなっているのにグリップはフルサイズに近いという個人的にはあまり好きになれないスタイルです。オールスチールというのが大きな特徴だったCz75オリジナルと違いアルミフレームだったり、アンダーマウント、リングハンマー、フルチェッカーグリップがついたりして、かなりイメージが変わってしまってします。Cz75は肉が薄いためスチールフレームだからといって必ずしもタフではないとされていますが、これをこのままアルミにしたら強度が持たないはずで、フレームも肉厚になっているようです。すらりとスマートなスタイルがCz75の魅力でしたが、短いスライドとごついアンダーマウントのせいでずんぐりした外観になり、印象としては全然別ものです。いい銃ではあるようですが、日本のCz75ファンには受けないかもしれません。ちなみに床井雅美氏の「現代ピストル図鑑 最新版」P83に載っています。
 「CZに駄作なし」と言ってますが、CZ100シリーズは多くの人が低い評価を下しているようで、これに触れていないのは何ででしょうかね。ひょっとして不評ですでに絶版かと思ったんですが、アメリカの最新カタログにも残っているのでまだ現行製品のはずです。「来年加わるプラスチックを多用した新シリーズ」(もう今年ですね)というのも気になります。2、3のメーカーが発売しているCz75をそのままプラスチックフレームにしたようなものをとうとう本家が出すのか、床井雅美氏の「最新サブ・マシンガン図鑑」に試作状態のものが掲載されていた「ウルトラスコーピオン」がついにデビューするのか、あるいは新世代アサルトライフルなどまったく別のものか、注目したいと思います。



※2004年3月27日追加

 「DWJ」2004年2月号に、上の内容に関連する速報が掲載されていました。


チェコ警察は新しい公用銃の欠陥に関してクレームをつけた。
8000丁のCZピストルが使用不能だという。
 チェコの新聞「Mlada Fronta Dnes」の情報によると、8000人のチェコ警察官が欠陥品のピストルで武装されているという。これは「モデルCZ75Dコンパクト」ピストルのことである。「Dnes」によれば、長時間使用後にフレームが割れるという。警察トップのJiri Kolarは欠陥のあるピストルをメーカーに返品する。
 「このような事態があったが、私は今でもこのピストルシリーズ全体には満足している。しかしこれがより大きな問題につながることを懸念している。」というKolarの発言が引用されている。
 Uhersky Brod所在のメーカーCeska Zbrojovka(CZ)は、全部で46000挺の契約分のうち、20000挺をすでにチェコ警察に供給している。これは本来の契約より14000挺少ない。
 申し立てによれば、フレームの割れは1挺だけの問題ではないという。複数の特殊部隊員は、マウントレールの寸法が不正確なため、ライトシステムの固定に重大な問題がある旨指摘した。「ライトシステムを強く締めこんだのに、3発発射したら脱落した。」と特殊部隊員の1人は言った。
 「Dnes」の情報では、この問題はすでに供給済みの20000挺の大部分に当てはまった。CZはすでに3か月にわたって出荷を停止しているにもかかわらず、開発、調査を担当する副大臣Ladislav Skoupyに対し、全ての問題を否定した。
 CZピストルの採用決定に参加した警察のエキスパートは、決定時15人中14人がこの銃の購入に関し反対票を投じたことを想起する。「我々がテストしたピストルには欠点があった。また、我々は当時すでにそれらの銃が競争入札用に特別に作られたものであり、大量生産されたものではないことを知っていた。だから今回のメーカーに関する問題は私を全く驚かせなかった。」
 内務大臣Stanislav Grossはこうした懸念にもかかわらず2年前契約書に署名したのである。


 「CZのマーケット戦略にとって非常に重要な一歩」であったはずのチェコ警察に納品した公用ピストルに問題があったということです。前の記事ではこの銃を明らかに誉めていたのに、実は採用当時から異論が多かったという内容も記されています。
 アルミフレームの銃はスチールフレームの銃より耐久性が低いというのは当然のことで、それと引き換えに軽いという明確なメリットがあるわけです。また、スチールフレームの銃も撃っていればいつかは壊れます。モデルCZ75Dコンパクトが壊れるのは「長時間使用後」ということですし、「1挺だけの問題ではない」という書き方は逆に言えば10挺も20挺も壊れたわけではないようにとれます。携帯性を高めるためにできるだけ軽量化した結果、初期不良として2万挺のうち数挺が「長時間使用後」に壊れたというのが許容範囲を超える問題なのかは私には判断できません。また、トイガンの場合もそうですが、マウントレールの寸法は微妙に違ったりして、合うはずのものがぴったり合わないというのは時にあることです。この場合アクセサリー側に(も)問題がある可能性も否定できません。
 しかしながら以前誉めていた銃の欠陥を明らかにすれば評価を誤ったということで「DWJ」の見識が問われる可能性もあります。また前の記事にあったようにCZ製品の主な輸出先の一つはドイツであり、この号にも輸入業者によるCZ製品の大きな広告がありますから、この記事が大事な広告主の商売の妨害になるおそれもあります。「DWJ」としてはできればこういう記事は載せないでおきたかったはずですし、H&K P2000のときのように擁護するトーン、あるいは「まだ真偽は不明だが」といったニュアンスで伝えることもできたはずです。それでもこういう書き方になっているわけですから、この記事にはある程度の信憑性があるのではないかと推測されます。

 



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