9mmパラベラム VS .40S&W VS .357SIG

 「VISIER」2002年6月号に、9mmパラベラム、.40S&W、.357SIGを比較して論じたレポートが掲載されていました。以前コラムのコーナーでここに掲載されていたアメリカ各州警察の制式拳銃のリストを紹介したことがありましたが、記事内容も非常に興味深かったので紹介したいと思います。


 幸いにして、ドイツではハンドガンの合法的所持、携帯者にとって、ペーパーターゲット以上に危険な敵はわずかしかいない。それでも毎年多くの警察官がハンドガンの威嚇使用を迫られる事件が起きている。そして、スポーツシューター、ハンターはその銃を正当防衛、現行犯逮捕に使用することを禁止されていない。そのためには、正当防衛、緊急避難に精通していることを示す銃器所有カードを入手することが必要である。
 公用ハンドガンのトレンドは、世界的にリボルバーからコンパクトなオートピストルへと移っている。こうしたオートは、フルロードして約1kg程度の重さであり、マガジンには最低10発はロードできる。問題は、どの口径がベストかということだ。アメリカでは13年の歴史しか持っていない若いカートリッジである.40S&Wが警察拳銃用弾薬の主役の座を勝ち取ったが、他方で80年以上の歴史を持つ9mmパラベラムも完全に駆逐されたわけではない。一方、双方の長所を合わせたような性格を持つ.357SIGが登場し、アメリカのシークレットサービスの制式となった。
 ドイツ国内では伝統的な9mmパラベラムが、パトロールを行う警察官によって使用され続けている。しかし、カイザーの時代以来の、強力な貫通力を持つフルメタルジャケット弾ではなく、部外者の通行人に危害を加える可能性が小さい、変形しやすい特殊弾薬が使われている。
 セルフディフェンス目的に最も適した弾薬は何か。個人的銃所有者、ハンター、スポーツシューターも完全に自由に弾薬が選べるわけではないが、少なくともまったく選択の自由がない兵士、警察官よりは選択の幅がある。有力なニューカマーはプルーフされた9mmパラベラムと交換するに値するのだろうか。この問題について考えていこう。

アメリカ 世代闘争
 ある弾薬を使用するハンドガンが開発されるための最大の刺激は、その弾薬の公用への採用である。1980年代の終わりまでに、アメリカの警察署は.38スペシャルまたは.357マグナムを使用するリボルバーを、14発もしくはそれ以上のキャパシティを持つ9mmパラベラムのオートに次々換えていった。この時代、SIGザウエルP226、ベレッタM92、S&W M5906といったDA/SA、DAオンリーのモデル、そしてポリマーフレームとセーフアクションのグロック17などのハンドガンが激しい競争をくりひろげ、「ワンダーナインウォーズ」と呼ばれた。しかし、9mmパラベラムはことストッピングパワーに関する限り、常に満足を与えるものではなかった。撃ち合いになった場合、ケースによっては敵をストップさせるのに20発、もしくはそれ以上を要することもあった。

マイアミ銃撃戦事件
 FBIによる、逮捕行動における1件の破局的失敗が、アメリカの警察用拳銃についての議論を巻き起こした。1986年4月11日、FBIの捜査官たちは、重罪犯人であるウィリアム・マティックスとミカエル・プラットの潜伏する家の前に車を止めた。逮捕は失敗し、5分の間に130発の弾丸が飛び交った後、2人の犯人は死亡し、FBI捜査官もジェラルド・ドープ、ベンジャミン・グローガンという同じく2人の死者を出した。この他にFBI側は5人の負傷者を出した。一体何が起きたのか?
 犯人のプラットとマティックスは、USレンジャーで射撃訓練を受けていた。彼らはそれぞれ.357マグナムリボルバーを持ち、それに加えてセミオートの12ゲージショットガン、ミニ14セミオートライフルを持っていた。プラットは最終的に少なくとも42発を発射し、6人のFBI捜査官に命中弾を与え、うち2人を死亡させた。
 この銃撃戦で、FBI側は最初.38スペシャル+Pの装填されたリボルバーのみを使用した。後に3人が9mmパラベラム15連発のS&W M459を使用し、1人はダブルオーバック5連発のレミントンM870を使用した。
 アメリカの弾道学者、銃器エキスパートの間では、発射された42ないし43発の9mmパラベラム弾に関する激しい議論が行われた。1発の115グレイン軽量シルバーチップホローポイント弾は、プラットのもっと近い右腕を貫通し、動脈を傷つけ、マッシュルーム状になって肺の中に残っていたが、心臓には到達していなかった。9mmパラベラム弾は概して2,3インチ、もしくはもっと深く貫通していた。この件に関して研究が行われたが、同じ銃から発射する場合、テスト用ゼラチンを20〜30cm貫通する軽量、高速でマッシュルーミングしやすいホローポイント弾は、果たしてテスト用ゼラチンを30〜40cm貫通する、重く、低速で変形しにくい弾より信用に値するのか、現在まで結論は出ていない。

マンストップ効果
 FBIはマイアミでの悲劇の直後、この問題の解決策を考え、S&Wに性能強化型10mmオートを要求した。しかし、この銃は800ジュールという強力な弾薬を使用するため、銃への負担が大きく、そして耐え難いほど強いリコイルを生じた。これを解決するには重く、順応性を欠く銃が必要となり、すぐにこの案は退けられた。そこで、これを弱くして約500ジュール、9mmパラベラム、.45ACPよりやや強い程度にした弾薬が研究された。そして、これに適した銃がS&Wで開発された。こうして.40S&W弾薬が生まれた。そして、銃器メーカーのSIGザウエルと弾薬メーカーのフェデラルが、これを基礎として、.357マグナムに固執してきた人用に、それと同じ威力を持ち、ハイキャパシティオートで使用できる.357SIGを開発した。
 .40S&Wおよび.357SIGの弾道特性とターゲットに対する効果は、9mmパラベラムより明らかに優れている。しかし、現実にはさまざまな変数が影響してくる。着弾の角度、着衣による妨害、ドラッグその他による興奮状態にあるかないかなどだ。専門家の間でもどの銃とどの弾薬の組み合わせがベストか見解は一致しない。
 大出血は脳への酸素供給を妨げる。しかし、たとえ心臓に命中したとしても、意識を失うまでには約20秒かかる。野生動物は、いわゆる「究極的致命部位」である心臓、両肺葉に命中弾を受けても、ときとして数十mも逃げてから死ぬことがある。しかも、このとき使用されるソフトポイントライフル弾は、9mmパラベラムや.40S&Wの8倍ものエネルギーを持っているにもかかわらずである。
 脊髄、小脳といった中枢神経系に重大な損傷を与えれば、即時に行動をストップできる。しかしそれらは極めて小さなターゲットで、現実にそこを狙って撃つということは難しい。また、仮にそれに成功したとしても、その瞬間に敵が反射的にトリガーにかけた指を曲げないという保障はどこにもないのだ。
 アメリカの専門家の中には、「マンストッピングパワーなどというものは幻想に過ぎない」と言い切る人もいる。USシューティングスクールのチーフ、フリント・スミスは、「命中弾はただあたったということを意味するにすぎず、いい命中弾であるとか、敵に勝つことを意味しはしない。」と言っている。1つの例を挙げる。
 1992年、サウスカロライナ州のハイウェイパトロールマン、マーク・コアテスは敵に向け、近距離で.357マグナムリボルバー(145グレインシルバーチップ弾)を4発発射した。弾は全て130kgという巨漢の敵の腹部に命中した。それにもかかわらず、敵が.22口径ノースアメリカンアームズ製ミニリボルバーを取り出し、発射することを阻止できなかった。ごく小さな5.6mmの弾丸は、コアテスの左の二の腕を貫通し、ボディーアーマーの腕を出すための開口部から侵入し、重要な動脈を傷つけた。これによってコアテスは即死した。

アメリカ各州警察の銃器選択                              
 他ページの表を見れば、トレンドがわかる。
●リボルバーは完全に消えている。高い信頼を得ていた.357マグナムシックスシューターより、最低8連発のオートが配備されている。
●ハイキャパシティが増えている。4つの州はシングルローのマガジンで満足している。その中の3州は投票によって選ばれた.45ACPを使用している。それどころかケンタッキー州は強力な10mmオートを使っている。しかし、それ以外の州は全てダブルカアラムを使っている。
●.40S&Wが大いに増えている。27州が.40S&Wを使用し、14州が使用している9mmパラベラムより多い。
●4つのメーカーでほぼマーケットを分け合っている。S&Wが15、SIGが12、ベレッタとグロックが11、H&Kとルガーはアウトサイダーだ。
●プラフレームとアルミ、スチールフレーム、フルサイズとセミコンパクト、DA/SAとDAOおよびセーフアクションなどが混在し、これらには明確なトレンドは見られない。


アメリカ各州警察の制式拳銃

アラバマ:グロック23(.40S&W)

アラスカ:S&W M4006(.40S&W)

アリゾナ:SIGザウエル P229(9mmパラベラム)

アーカンサス:SIGザウエル P229(.40S&W)

カリフォルニア:S&W M4006(.40S&W)

コロラド:S&W M4006(.40S&W)

コネチカット:SIGザウエル P226(.40S&W)

デラウェア:SIGザウエル P229(.357SIG)

コロンビア:グロック17(9mmパラベラム)

フロリダ:ベレッタM96D(.40S&W)

ジョージア:グロック22(.40S&W)

ハワイ:S&W M5906(9mmパラベラム)

アイダホ:S&W M4586(.45ACP)

イリノイ:グロック22(.40S&W)

インディアナ:ベレッタM92F(9mmパラベラム)

アイオワ:S&W M4046(.40S&W)

カンサス:グロック21(.45ACP)

ケンタッキー:S&W M1076(10mmx25)

ルイジアナ:SIGザウエル P229(.40S&W)

メイン:H&K USP(.45ACP)

メリーランド:ベレッタM96F(.40S&W)

マサチューセッツ:SIGザウエルP226(.40S&W)

ミシガン:SIGザウエルP226(9mmパラベラム)

ミネソタ:ベレッタM96D(.40S&W)

ミシシッピー:S&W M4046(.40S&W)

ミズーリ:グロック22(.40S&W)

モンタナ:S&W M5903(9mmパラベラム)

ネブラスカ:グロック22(.40S&W)

ニューハンプシャー:S&W M4566(.45ACP)

ネバダ:S&W M4006(.40S&W)

ニュージャージー:S&W SW99(9mmパラベラム)

ニューメキシコ:グロック31(.357SIG)

ニューヨーク:グロック17(9mmパラベラム)

ノースカロライナ:ベレッタM96F(.40S&W)

ノースダコタ:S&W M4506(.45ACP)

オハイオ:SIGザウエル M229(.40S&W)

オクラホマ:SIGザウエル M229(.40S&W)

オレゴン:グロック22(.40S&W)

ペンシルバニア:ベレッタM92D(9mmパラベラム)

ロードアイランド:ベレッタM96D(.40S&W)

サウスカロライナ:グロック22(.40S&W)

サウスダコタ:ベレッタM92F(9mmパラベラム)

テネシー:S&W SW40(.40S&W)

テキサス:SIGザウエル P229(.357SIG)

ユタ:ベレッタクーガー(.40S&W)

バーモント:SIGザウエル P229(9mmパラベラム)

バージニア:SIGザウエル P229(.357SIG)

ワシントン:ベレッタM92F(9mmパラベラム)

ウェストバージニア:S&W M4006(.40S&W)

ウィスコンシン:スタームルガーP89(9mmパラベラム)

ワイオミング:ベレッタM92F(9mmパラベラム)

※.40S&Wが27州、9mmパラベラムが14州、.45ACPが5州、.357SIGが4州、10mmx25が1州。
※S&Wが15州、SIGザウエルが12州、グロックおよびベレッタが11州、H&Kおよびスタームルガーが1州。


 この記事は非常に長いもので、意味がよく分からない部分も多いです。この後結論部分に入るんですが、要するに、おおよそこういうことです。
 .40S&W、.357SIGは1発の威力では明らかに9mmパラベラムに勝っている。特に.357SIGはハンドガンにストックをつけて100m以上の狙撃を行った際9mmパラベラムより明らかによい集弾が得られるし、自動車のボディーやボディーアーマーに対する貫通力も優れている。しかし、現実には着弾の条件によって.357SIGですら威力不足ということもままある。だから複数発ターゲットに撃ち込む必要があることが多い。この際薬莢が太くて装弾数が少なくなる.357SIG(同じ太さの薬莢を使う.40S&Wも同じ)は不利となる。また、.357SIGは反動が強烈なので素早い連射が困難である。テストでは、9mmパラベラムで1秒間に平均1.51発ターゲットに撃ちこめたのに対し、.357SIGでは1.27発しか撃ちこめなかった。また、.357SIGの大きな発射音、発射炎が障害となるケースもありうる。したがって、特に個人がコンパクトなディフェンスガンに使用する際、9mmパラベラムより.40S&W、.357SIGが優れているとはかならずしもいいきれない。

 私は9mmパラベラムの威力不足というのは軍用のフルメタルジャケットの問題であり、シルバーチップなど高性能なホローポイント弾では、薬物中毒者の一部など例外的な場合を除いて問題はないのではないかと思っていました。しかし、ときとして20発撃ちこんでも敵が倒れない場合もあるとなると問題ですね。すでにアメリカ州警察の制式拳銃用弾薬が半数以上.40S&Wとなっているのは意味のあることのようです。
 ハイウェイパトロールマンのエピソードはショッキングですね。皆さんは一気に読めますけど、私は話の筋から結末が大体想像できる中、ドイツ語を非常にゆっくり読んでいかなければならないわけで、読み進むのが怖かったです。こちらはボディーアーマーを着用し、相手はしていない。至近距離から強力な.357マグナムリボルバーのシルバーチップホローポイント弾を敵のボディーに先に4発命中させている。これはどう考えても圧倒的に有利な状況です。映画なら敵のボディーに2,3発くらわせればたいてい敵は倒れて動かなくなり、ストーリーから消えますが、これは時代劇で斬られた人がばったり倒れて動かなくなるのと同じ、フィクションの中のお約束に過ぎない、ということです。現実にはこの後、実用品というよりアクセサリーに近いともいわれるノースアメリカンミニリボルバー1発で射殺されてしまうこともありうるわけです。もちろんこれはレアケースでしょうが、例として挙げるからには無視してかまわないくらい珍しい例外ではないということでしょう。「.357マグナムは対人用には過剰威力で、むしろリコイルや発射炎が強すぎて実際には不利となる。対人用には.38スペシャル+Pの方が有利。」とも言われていましたが、そうともいいきれないようです。.357マグナムでこうなら、当然同等の威力である.357SIGでも同じことが起こりうるわけでしょう。
 敵を即時に行動不能にする高い威力を持ち、ボディーアーマーや車のボディーにも高い貫通力を持ち、遠距離までフラットに近い弾道で到達して命中精度が高く、無関係の第三者には危険が少なく、コンパクトで軽い銃にたくさん装填でき、リコイルが弱い、という銃が理想ですが、そんなものは少なくとも現在の技術では作りようがないわけです。ですから妥協点をどこにするか、という問題になります。現在最もオールマイティーに近いと思われるのが.40S&Wということなんでしょう。一時.45ACPが見直されているという話もありましたが、記事の中でも.45ACPのマンストッピングパワーは現在可能な選択の中でさほど強くはないという専門家の有力な意見も紹介されており、今後.45ACPが再浮上することはどうもなさそうです。5州が使用しているのは「投票で決められた」ことであり、これは「.45口径神話」のせいというか、現場の人間は往々にして保守的であるということではないでしょうか。実戦的シューティングを教える教官の中には、敵の頭部に複数発撃ち込むのを原則とする人もいて、私はこれまで、これは敵を制圧するより殺すことを大前提にしているようで方法として過剰なのではないかと思っていましたが、これは経験からこうしなければダメだという信念に至ったもので、否定はできないのかもしれません。そして、こうした戦法を取る際、比較的パワーが弱いが装弾数が多く、正確に速射しやすい9mmパラベラムを使う方が有利という考え方もあり、9mmパラベラムが時代遅れとは言えないようです。
 ただまあアメリカでの現実を見ると、治安が悪くなったといわれる日本もまだまだ平和ですね。日本では.32ACPでも威力不足がはっきり現れる事例はいまのところないようですから。警察拳銃がパワーアップを迫られるようなことがなく、おもちゃで気楽に遊んでいられる平和な日本を守っていきたいもんです。
 

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