「バー」ピストル
「Waffen Revue」96号に、リボルバーであるようなないような、非常に変わったピストルである「バー」に関する記事が掲載されていました。
「バー」ピストル (頑住吉注:「Bar」の「a」にウムラウトがついた綴りで、「バー」と「ベア」の中間くらいの発音です。通常熊を意味しますが、この場合は人名です。なおいちいち断りませんが以下綴りは全て同じです)
この独自形式のハンドガンのバレル上には「Bar-Pistol」という名称の刻印があり、このためこの銃は(頑住吉注:ドイツでは)一般に「Bar-Pistole」とも呼ばれている。1897年11月2日におけるこの銃のパテント書類の中ではこの銃は「2つのサイドがフラットにされたシリンダーを持つリボルバー」と記述されており、これは1898年3月5日および1898年11月23日の追加パテントの中でも繰り返されている。1898年8月6日における(申請は1898年5月26日)イギリスパテント書類の中ではこの銃は「通常のピストルとリボルバーの中間に位置するリピーターピストル」と呼ばれている。その後、この銃の場合リボルバーの通常のシリンダーの代わりに弾薬入りのフラットなボックスが使われており、これは上半分の弾薬が発射された後、他の半分を発射可能にするために手で180度回転させる必要がある、と申し立てられている。このイギリスパテント書類の図は1898年3月5日におけるドイツパテント書類の図と同一である。
我々は今日のハンドガンの分類法に従って次のような区別をしている。
a)リボルバーの場合(英語で「revolve」とは回転すること)弾薬は円筒形のシリンダーに収納され、これが各発射後にメカニズムによって回転させられることによってシリンダーのチャンバーにある次の弾薬がバレル後方に来て発射可能になる。
b)セルフローディングピストルは弾薬のマガジンを備え、発射および空薬莢の引き出し後にここから弾薬が取り出され、閉鎖機構によってバレルのチャンバーに導入される。
c)ピストルは1本または複数のバレルを持つハンドガンであり、各射撃のため手で装填される必要がある。
だが「バー ピストーレ」はこれら3つの主要グループに属さず、むしろ次のようなものに属す。
d)裏返しピストルであり、この場合4つの弾薬チャンバーを持つブロックに装填され、最初の2発の発射後にこれがその軸をめぐって、かつて下の2つのチャンバーだったものが今度は2本のバレルの後方に位置して発射可能になるまで手で回転させられる。
バー ピストーレの発明者
に関してはいくつかつじつまの合わない点がある。より詳しくは次のような内容である。
1)前述のようにこのピストルのバレル上には「Bar-Pistol」の名が刻印されている。これは古典的な概念「das
Pistol」からも、英語の「pistol」からも導かれ得る(頑住吉注:いまいち意味が不明確ですが、「普通にドイツ語なら「Pistole」となるはずだし、英語なら普通名詞の頭文字は小文字で良い。この表記はどっちつかずで不審である。」というような指摘ではないかと思います)。
2)1898年5月26日におけるイギリスでのパテント出願(1898年8月6日にナンバー11998の下に与えられた)は文書1から分かるように「Burkard
Behr」(つまり「a」の代わりに「eh」)によって行われている。彼はロシア国民であり、スイスのBendlikon在住と申し立てられている。
3)アメリカでは同様に1898年7月4日のパテント出願が「Burkard
Behr」の名で行われている(頑住吉注:英語にはウムラウトがないので別の綴りになるのは止むを得ないことですが、この場合「Baer」、つまりウムラウトの代わりとしてeを入れるのが普通なのに、それとも違う綴りになっているのは何故なのか、ということですね)。
4)ドイツではこの「2つのサイドがフラットにされたシリンダーを持つリボルバー」のパテント申請がチューリッヒ在住のフロイライン(頑住吉注:英語のミス)Valerie
Schlapalによって行われている。
これに関し、
a)1897年11月2日にナンバー98382の下に(頑住吉注:主要パテントとして)与えられた。
b)1898年3月5日にナンバー102624の下に、パテント98382の追加として与えられた。
c)1897年11月23日にナンバー104616の下に、パテント98382の第2の追加として与えられた。
何故「Bar」および「Behr」という名前の2つの表記法が見つかるのか、そして何故このパテントをドイツでは彼の名前でなくフロイラインSchlapalの名で申請したのかは、残念ながら知られていない。
ドイツパテントは個々には次のような内容である。
A)パテント書類ナンバー98383は次のような文面を持っていた。
「提出された発明の対象は、そのシリンダーの両サイドがフラットにされたリボルバーである。
そのように作られた銃は簡単に収納でき、この理由から特に威嚇射撃のために銃を携帯する自転車に乗る人に適している。
図1では縦断面、図2では側面が表現されているこの銃は、バレル(a)の付属したフレーム(A)および銃床(a1)からなっている。
通常のシリンダーの位置にはこの場合図3で図解されたフラットにされたシリンダー(B)が備えられている。このシリンダーは穴ぐり(b)およびこれと平行に走る複数の穴ぐり(b1)を持つ。このシリンダーは使用者が穴ぐり(b1)に弾薬を押しこんだ後でフレーム(A)にセットされ、ここでボルトCによって固定される。シリンダーの射撃のために必要な位置へのロックはスプリングのテンションがかけられたサイト(D)によってなされる。これがシリンダーの刻み目(b2)内にパチンとかかる。
上の弾薬の発射後、使用者はサイトDを押す。これによりシリンダーはロック解除され、手で180度回され、その後このサイトは一瞬で第2の刻み目b2内にパチンとかかる(この位置では第2の穴ぐりb1がバレルの後ろに来る)。この銃の設備は、シリンダーへの装填が水平位置の間にできるものになっている。
ボルトCはスプリングのテンションをかけて配置することもできる。こうすればこのボルトはシリンダーBを入れた後自動的にシリンダーにパチンとはまるようにできる。
ハンマー(E)の作動のための発火機構構造はいろいろで有り得る。図4および5で表現された型は前述の型とシリンダー(B)の設備が異なる。このシリンダーは2つの代わりに4つのチャンバーb1を持ち、このチャンバーはシリンダーの回転軸に対して対称に位置している(図6)。
それに応じてフレームAには上下2本のバレル(a)も位置し、このバレルはそれぞれ1つのハンマー(E)によって担当される。
この方式ではシリンダーが同じ位置にある状態で2発発射することを可能にする。
銃床(a1)は図4で分かるように一定数の弾薬Fの収納に使える。
パテント請求
1.2つのサイドがフラットにされ、フレーム(A)と全体が同じ厚さのシリンダー(B)に弾薬が収納され、各発射後に次の弾薬がバレルの後ろに来るよう回転させられることによって特徴付けられるリボルバー。
2.請求1のようなリボルバーであり、この場合シリンダー(B)がシリンダー回転軸に対し対称に、一直線上に配置された4発の弾薬を収納し、このうち2発が常に、2本の上下に配置され、2つのハンマー(E)によって担当されるバレル(a)の後方に位置する。
3.請求1および2のようなリボルバーであり、この場合シリンダー(B)の固定が、シリンダーの刻み目(b2)内にパチンとはまる、スプリングのテンションがかけられたサイト(D)によって自動的になされる。」
文章や図から分かるように、1つのバージョンは1本バレルの銃で回転可能な2発用のチャンバーを持ち、第2のバージョンは2本のバレルを持ち、スイング可能な4発用のチャンバーを備えていた。ただし両方の型はまだファイアリングピン先端が付属した外装ハンマーを持っていた。第2のバージョンではこのハンマーが2つあり、うち1つは上のバレル、そしてより低く配置されたハンマーは下のバレルに点火した。このため当然トリガーもダブルの型が必要となった。
両方のバージョンがランヤードループ用リング金具を装備していたことは注目に値する。これは軍での使用を可能にする意図だったのだろう。このため開発者はグリップ内への予備弾薬収納も考えた。この珍品はセーフティを持たなかったので、トリガーは折りたたみ可能に配置された。これはトリガーを前方に折りたたんでいる際銃の操作を不可能にする意図だった。
1挺の銃がロシアの双頭の鷲で装飾されていたことも興味深い。これはBar氏のロシアの血筋を示す意図だったのだろう。
B.このパテントの追加として、1898年3月5日に申請がなされ、ナンバー102624の下にパテントが与えられた。これには次のような文面があった。
「提出された発明の対象は、パテントナンバー98382、請求2によって保護されている4つのチャンバーを持つリボルバーの、パテント書類ナンバー17097によって知られるようになった配置を使用しての改良である。
今回の銃は主要パテントの銃と次のように異なる。この銃は今や1つのハンマーを持ち、これによりこの銃はより扱いやすいだけではなく、その生産がより安価となる。この銃は4つのチャンバーb1(これがバレルの穴ぐりaをカバーする)を持つ、2つのサイドがフラットにされ、軸Cをめぐって回転可能なシリンダーBが付属したフレームAからなる。
両方のバレルのために備えられたハンマーEは次のような方式で作られている。
このハンマーはヘッドeを持ち、この中には後端にスパイラルコース(図4、5、7)を備えたボルトF(ストライカーf1を搭載している)が回転可能に収納されている。発火機構ケースGの背面gには、スプリングのテンションがかけられたピンHが、ハンマーコックの際ボルトFのスパイラルコースf内に入るように配置されている。このピンHはサイド方向には動けないため、ボルトFはハンマーコックの際、すなわちハンマーが図4で表現されている位置から図5の位置に到達する時、180度回転させられる。この結果以前は上のファイアリングピンJの後ろにあったストライカーf1が、今や下のファイアリングピンKの後ろに来て、こういうわけでハンマーダウンの際に下のファイアリングピンKが打撃され、これにより下の弾薬が発射される。
次のハンマーコッキングの際ボルトFは再び180度回転させられ、この結果ストライカーf1は上のファイアリングピンJに対置される。
ハンマーダウンの際ボルトFがピンHによって逆回転させられる可能性がないように、ボルトFは後端に歯車f2を備え、この谷の中にボルトの各回転後、スプリングレバーL(図7)がパチンとかかる。
発火機構の残りの部品は他のリボルバーの場合のように作られている。
操作者は装填のためにシリンダーBをボルトCの除去後にフレームから取り出すか、図2に表現されている水平位置へ回転させる(この位置では弾薬は簡単に後方からシリンダー内に挿入できる)。
内側の、すなわちシリンダーBの回転軸Cの次に位置する弾薬の挿入もしくは突き出しは、このケースの場合フレームAにある削り加工部A1(図1、2)によって可能となる。
この銃にはグリップa1内にねじ込まれたスクリュードライバーが付け加えられている。
パテント請求
パテントナンバー98382にならったリボルバーの形式であり、そのつど上に位置するシリンダー半分に存在する弾薬の相前後しての発射が単一のハンマー(E)によってなされ、このハンマーのヘッド(e)内にスパイラルコースを備えたボルト(F)(前部にストライカー(f1)を搭載している)が回転可能に収納され、ハンマーのコック時このスパイラルコース内にピン(H)が入ってボルトを180度回転させ、この結果ボルトがそのストライカー(f1)を使って交互に両ファイアリングピン(JおよびK)の1つあるいは他を打撃することによって特徴付けられる。
フロイラインSchlapalによるこのパテント申請のための図は、1898年5月26日におけるBehr氏によるイギリスでのパテント申請の図と同一である。
ここではもはや1機種の4発用チャンバーブロックを持つ2本バレルの銃のみが話題になっている。ランヤードループ用のリングの代わりに開発者は薬莢突き出し具を下からグリップ内に収納した。
しかし特色はBarが外装ハンマーから脱却し、この代わりに丸いヘッドを持つボルト(メカニズムによってその軸をめぐって回転させられ、この結果まず上のバレルを、そしてその後下のバレルに点火する)を使用したことである。
この構造は最初の外装ハンマーを持つ構造を改良したものの、製造上複雑すぎた(頑住吉注:「スパイラルコース」の削り出しが面倒だということでしょう)。そこで、
C)1898年11月23日における申請が続いた。これは次のような文面を持っていた。
「提出された発明の対象は、パテントナンバー98382および追加パテントナンバー102624によって保護されている2つのサイドがフラットにされたシリンダーを持つリボルバーの打撃設備の改良もしくは単純化である。
追加パテントナンバー102624により、ファイアリングピンの位置変更は次のようになされた。すなわち、ハンマーのヘッドにストライカーを搭載しスパイラルコースを備えたボルトが回転可能に収納され、このスパイラルコース内にハンマーコック時ピンが入り、ボルトを180度回転させる。一方今回提出された発明によってファイアリングピンの切り替えは次のようになった。すなわち、ハンマー上で回転可能な、阻止輪を搭載したカーブ円盤が、各発射後にトリガーと結合された阻止レバーによって各発射後に高い位置に、もしくは低い位置に回転させられ、この結果カーブ円盤上を滑るスライダーが回転によってファイアリングピンを切り替える。
図では弾薬4発用のこのように作られたリボルバーが図解されている。図1は銃床デッキ(頑住吉注:サイドプレート)を取り除いた際のこのリボルバーの側面からの外観を示している。図2は図1のX-X線での断面図を示している。一方図3から5は個別部品を表現している。
このリボルバーの全般的設備はファイアリングピンの切り替えを除き、主要パテントナンバー98382および追加パテントナンバー102624にしたがったリボルバーとほとんど同一である。
フレームA内には、チャンバーbを持つフラットにされたシリンダーBが軸Cをめぐって回転可能に収納されている。このチャンバーのうち常に2つは2本のバレルの後方に位置する。トリガーは主要パテントおよびより早い追加パテント同様ダブルアクションである。
ハンマーEにはファイアリングピンキャリアF(図4)がボルトeをめぐって回転可能に収納されている。このファイアリングピンキャリアF上には突起部fがあり、これが銃床壁面内で誘導されるスライダーo(図5)の刻みo内に突き出す。このスライダーにより、ファイアリングピンキャリア上に位置するファイアリングピンf1は、トリガーを引いた際交互に点火穴JおよびKを通って打撃を行うよう調整される。より詳しくはこれは次のような方法で行われる。
ハンマーEの回転軸ボルトe1上にはカーブ円盤Pがルーズに位置している。このカーブ円盤と阻止輪Qは固定して結合されている。規則的、交互に高くなっている部分pと低くなっている部分p1を持つカーブ円盤Pの縁には、スライダーOがスプリングO1(図1)によって押し付けられている。カーブ円盤の高くなっている部分と低くなっている部分の合計と等しい数の歯を持つ阻止輪Qには、トリガーと結合された阻止レバーq(図1)がかみ合っている。このリボルバーの各発射後、阻止輪Qおよびこれによりカーブ円盤Pもが高くなった部分pおよび低くなった部分p1をめぐってさらに回転させられ、この結果スライダーOは交互にその最高および最低位置を占める。これだけではなくこれにより、その突起fを使ってスライダーOの刻み目o内にかみ合っているファイアリングピンf1も次のように回転する。すなわち、ファイアリングピンf1は交互に点火穴JおよびK内を打撃し、そしてこれによりそのつど上に位置するシリンダー半分に存在する弾薬を相前後して発射する。
ファイアリングピンf1の正確な位置はファイアリングピンキャリアFの深くされた部分rおよびr1内にスプリングのテンションをかけて押し付けられているレバーRによってもたらされる(図1および4)。
パテント請求
パテントナンバー98382にしたがったリボルバーの形式であり、この場合追加パテントナンバー102624で特徴付けられたファイアリングピン(f1)の切り替えは次のようになされる。すなわち、ハンマー(E)上で回転可能な、阻止輪(Q)を搭載したカーブ円盤(P)が、トリガーと結合された阻止レバー(q)によって各発射後、高くなった部分(p)および低くなった部分(p1)をめぐってさらに回転させられ、この結果カーブ円盤(P)上を滑るスライダー(O)(これはその刻み目(o)でハンマー(E)に関節結合されているファイアリングピン(F)の突起(f)を包んでいる)が、ファイアリングピンを次のように回転させる。すなわち、ファイアリングピン(f1)が交互に点火穴(JおよびK)を通って打撃を行い、そしてこのためそのつど上に位置するシリンダー半分に位置する弾薬を相前後して発射する。」
この変更された提案によりBarはついに、SuhlのJ.P.ザウエル&ゾーン社が世紀の変わり目頃このピストルの大量生産を即時開始する、という結果を勝ち取ったのだった。
このピストルの取り扱いは全く簡単だった。使用者は弾薬をチャンバーブロック内に差し込み、たたまれているトリガーを伸ばし、そしてピストルは発射準備状態となった。使用者が最初の2発を発射してしまった後、彼はチャンバーブロックをロックもしているサイトを、チャンバーブロックを180度回転するために押し、そして必要な場合は次の2発を発射できた。このピストルは扁平だったので快適にあらゆるジャケットの内ポケットに外から見えない状態で突っ込むことができた。例えばオイルをさしたピストルで衣服を汚さないためのレザーケースも当然あった。
最初のシリーズは7mmBar弾薬用に作られた。この弾薬は弾丸の直径6.65から6.80mm、薬莢の長さ15.4から15.6mm、弾薬全長22.75から23.30mm、弾丸重量3.44から3.50gだった。この弾薬はさまざまなヨーロッパのメーカーで生産された。
しかしこの銃の人気が6.35mmブローニング弾薬仕様でも高まった時、生産はこの弾薬仕様に切り替えられた。
機能はすでに言及したパテント書類からも、またそれだけでなく写真からも明瞭に分かるので、ここでこれに関しさらに取り組む必要はない。
だがこのピストルがさまざまなな刻印つきで、またグリップ内の薬莢突き出し具つきでも、なしでも、そしていろいろな仕上げで見つかることには言及すべきだろう。
テクニカルデータ
名称 | 「Bar」ピストーレ |
メーカー | SuhlのJ.P.ザウエル&ゾーン |
設計年 | 1897(パテントに関してはテキストを見よ) |
設計者 | Burkard Bar |
パテントの持ち主 | スイス、チューリッヒのフロイライン Valerie Schlapal |
口径 | 7mmBarおよび6.35mmブローニング |
空虚重量 | 345g |
全長 | 155mm |
銃身長 | 62mm |
全高 | 110mm |
最大幅 | 11mm |
ライフリングの数 | 4条 |
サイト | 固定 |
セーフティ | 折りたたみ可能なトリガー |
マガジン | 弾薬チャンバー(直線状ブロック) |
弾薬の数 | 4 |
発火機構 | ダブルアクション、ファイアリングピン |
仕上げ | ブルーイングおよび磨き仕上げ |
グリップパネル | ハードラバー(頑住吉注:木製も存在します) |
非常にユニークで面白い銃なんで、本当は作りたいんですよねー。でもどう考えても売れそうもないので実現する可能性は低そうです。
外観はまるで変形リボルバーのようですが、構造的に見れば上下2連デリンジャーの変形であることが分かります。ユニークと言っても全然他人が思いつかないようなものを唐突に作り出したわけではありません。少なくともパーカッション時代には、4本の銃身を持ち、まず水平2連銃のように使用し、次にバレルグループを180度ひねってもう一度水平2連銃のように使用できる4連銃が存在しましたが、これは明らかにその延長線上にあるものと考えられます。ファイアリングピンの上下切り替えシステムも第1の追加パテントのものはモーゼルリボルバーなどに使われたシステムの応用ですし、実際に生産された第2の追加パテントのものは見慣れた上下2連デリンジャーのそれにごく近いものです。ちなみに当初(たったの)2連型も含め大型の軍用拳銃を狙っていたらしいのはどう考えても無理で、総合的にリボルバーに勝てるはずがありません。実際生産されてヒットしたように、これは明らかに護身用小型ピストルに向いた構造です。
この銃は「薄くて携帯しやすく、2連デリンジャーより多数の発射が行える」銃がまだ普及していなかった時代にその要求を満たすものとして誕生し、一時はかなり人気を得たようですが、ブローニング系のポケットピストルが普及すると人気を失ってしまいました。しかしコスト的にはオートピストルより安そうですし、345gという重量、弾薬の強さに関係なく信頼性の高い射撃ができること、そして何より11mmというオートピストルではまず不可能な薄さなど、完全に絶滅してしまったのが惜しいメリットを持っている気がします。安全性に関しても、ハンマー内蔵なので落とした際にハンマーが叩かれて暴発する可能性はありませんし、ダブルアクショントリガーの折りたたみを加えれば少なくとも当時の水準では充分以上だったはずです。ただし緊急時折りたたんだハンマーを伸ばす作業はちょっとやりにくいでしょう。
この銃に関してはこんなページがありました。
http://www.littlegun.be/arme%20allemande/a%20sauer%20and%20sohn%20gb.htm