2.9.3.4 ハイスタンドードによる「押しボタン結合」

 スポーツ銃は設計者にポケットピストルまたはミリタリーピストルよりも大きな自由を与える。これらの銃の場合、より大きな重量が好都合と見なされ、そして使用弾薬がたいてい.22lfbB(頑住吉注:.22LR)を越えないからである。他方スポーツピストルは他よりも決定的に頻繁に使用される。軍制式銃には10,000〜20,000発の耐久性が求められるはずである一方、スポーツ銃は損傷を受けずにその10倍にたやすく耐えなければならない。ハードな使用にはより頻繁なクリーニングの必要性が伴う。そしてこのためスポーツピストルにおいては問題のない分解が特別に重要である。

 H.Sefriedはある製造技術的に単純で、精度がよく、ユーザーフレンドリーな解決法を生み出した(ハイスタンダード スーパーマチックおよびミリタリーピストル群)

 図2.9.12はこのバレルとフレームの結合の原理を示している。バレル下側には切除部のあるピン(4)がねじ込まれている。これは半球状の頭部で終わっている。バレル外面は円筒形であり、フレーム(1)内のバレルのための支持面(バレルベッド)も同様であるが、カーブの半径はより小さい。バレルベッド内には水平の穴があり、この穴は保持ピン(4)の直径よりわずかに大きい。バレルベッド下の穴はスプリングのテンションがかけられた円筒形のスライダー(5)を受け入れる。このスライダーは保持ピンの頭部がはまり込む垂直の穴、保持ピンの首部のためのスリット、その下にはピンの頭部のための受けとしての平面を持つ。スライダーの左への動きはその平らなサイドを下に動かす。右に動けば上に動く。

 b)ではこのメカニズムが下から見たフレームの部分断面図によって用表現されている。結合の解除のためにはスライダー(5)を右に向けいっぱいに圧する。穴が保持ピンの頭部上に位置するまでである。するとバレルは持ち上げて外すことができ、そしてその後閉鎖機構(2)はフレームから左に引き抜ける。

 組み立てられた銃ではバレルは一種のくさびとして作用するスライダー(5)によってフレームのバレルベッド上に固く引き付けられている。閉鎖時のショックが生じた際はピンに負担がかかる。





図2.9.12 ハイスタンダードの押しボタン保持 a)部分断面図 b)拡大したスライダーの領域の部分断面図(下から)


 これまでの分解に関する説明は全般的に既知の内容が多かったんですが、今回の内容は非常に興味深かったです。まず、スポーツピストルには軍用ピストルの10倍もの耐久性が要求される、という内容が意外でした。私はスポーツピストルにはあまり興味がないのでそれらに関する文章はあまり読まず、軍制式ピストルトライアルにおける過酷な耐久テストなどに関する文章ばかり読んでいて、軍用ピストルに最も高いハードルが課せられているような気になっていました。考えてみれば軍用ピストルというものは「万一の備え」といったものであって、いわば「使わないのが常態」であるのに対し、スポーツ銃は「使うのが常態」なわけですからこれは当然のことです。ただし使用弾薬が軍用ピストルよりも一般にずっと弱装なので銃に対する負担は軽く、しかも常時身につけて携帯するものではないので耐久性を高めるために肉厚にして重量が重くなっても問題なく、むしろ射撃時の安定性が高くなって好都合だ、というわけです。また私は戦場で一刻を争って修理する必要が生じる可能性のある軍用ピストルと違ってスポーツピストルは分解が面倒でも、工具を要しても問題ないと思っていましたが、軍用ピストルよりはるかに使用頻度が高く、クリーニングの必要頻度も高いので決してそうではないわけですね。

 今回紹介されたハイスタンダードの分解方法も私は知りませんでした。「バレル外面は円筒形であり、フレーム(1)内のバレルのための支持面(バレルベッド)も同様であるが、カーブの半径はより小さい」とありますが、小さいと言ってもほんのわずかのことです。



 これは本にはない前から見た略図ですが、バレルの曲面よりフレーム側の曲面の方がわずかにきつくなっているのでバレルを下に押し付けるとガタなく堅固に保持されるわけです。この場合バレル下に固定されている保持ピン(4)が下に引っ張られることによってバレルが保持されます。そのピンを下に引っ張るのがスライダー(5)です。説明文には何故か書いてありませんがスライダーの入る穴が前方に行くにしたがって下降するよう傾斜しているのが重要で、スライダーを後方に押し込みながらバレルをセットするとピンの頭の半球状部分が図b)におけるスライダーの穴の大きな部分にはまり、手を放すとスライダーは前進するとともに下降し、ピンを下に引っ張るわけです。あるいはスライダーの前後の移動ストロークが小さく、ピンの頭が半球状であることからスライダーを押し込まなくてもバレルを下に押してセットすればスライダーが後方に押しのけられてからパチンと前進するのかも知れません。非常にうまい方法だとは思いますが、やはりこれは比較的弱装の弾薬でないと問題が出そうです。

 ハイスタンダードスーパーマチックの展開図はここにあります。

http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/High_standard_supermatic.gif

 ところがこの図の銃はこの本の説明とは明らかに違う方法です。バレルが後方にスライドして挿入されると20のテイクダウンプランジャーがパチンとロックし、テイクダウンプランジャーの前下部を上に押し上げるとテイクダウンプランジャー全体が左から見て時計方向に回転し、ロックを解除するという方法のようです。この方が製造は容易そうですがフレームとバレルのガタがロック後も残存してしまい、この本で説明されているスプリングのテンションによってガタを殺すというメリットは得られません。たぶん簡略化によってこうなったんではないでしょうか。

http://www.littlegun.be/arme%20americaine/high%20standard/a%20high%20standard%20fr.htm

 これはいろいろなハイスタンダードピストルの紹介ページで、「Supermatic citation」、「citation 2」、「military mod 106」、「Olympique 1980」のうち付属品のゴテゴテついているタイプ、「Sharpsshooter 103」がこの本と同じ方法、「Sport King」、「Field King」、「Olympique 1980」のうちシンプルなタイプがネット上の展開図と同じ方法、「mod B "US Property"」、「mod HB」、「HD Military」が「後方に位置する取り去り可能なストッパーによる結合」で登場した、軸の一部を切り欠いたレバーを使った方法のようです。なお、どれにも属さない「Duramatic」はチャンバー下に見える円筒形のナットのロックを解除した上でねじって外すという簡単な方法です。

 さて、細かく見ていけばオートピストルの分解結合方法はまだまだ数え切れないほどありますが、この本の説明はここで終わり、次回からは各部分の機能上の特徴、まずはリコイルスプリングの配置に関する内容に移ります。











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