ナチ・ドイツが試作した謀略弾薬

 「Waffen Revue」123号に、ナチ・ドイツが対ソ連用に試作した、きわめて特殊な兵器に関する記事が掲載されていました。


サボタージュ弾薬

金属パイプR762

 今日の視点から物事を見ると、これを使って当時第二次大戦の結果に影響を与えようとした、あるいはまさに決定づけようとした、実にうさんくさい方法や器具にしばしば気付いて驚かざるを得ない。

 例えば人は「サボタージュ弾薬」にもぶつかる。これを使い、いろいろなトリックによって銃を破壊し、あるいは兵による銃の使用を妨害する、あるいはその際重傷を負わせることさえ意図したものである。Waffen Revueの56号では、9031および9032ページの銃器百科事典No.2602-100-1 fの中で、射手にとってネガティブな性質を持つ7.92mmx57弾薬について記述されている(頑住吉注:この号を持っていないので内容は不明です)。

 7.62mmライフル口径仕様のロシア製銃器用のある弾薬を使っては、全く異なる効果が達成されることが意図された。これは1944年、ReinsdorfのWASAG社において厳しい秘密保持の下に開発され、「金属パイプR762」の秘匿名称を得た。これに関し「R」の文字は「ロシア」、そして762という数字は7.62mm口径を表した。

 1944年10月3日におけるWASAGによる図から分かるように、この弾薬は外観上全くこの口径のノーマルな弾薬と等しかった。つまりこの弾薬の薬莢内部にどんなものすごい構造が隠されているのか、外部から知ることはできなかった。つまりこれには図で分かるように発射薬の代わりに炸裂カプセルと爆薬が異なる形態でいっぱいに詰め込まれていた。

 周知のように通常の弾薬は、プライマーへのファイアリングピンの衝突後の発射の際、プライマーによってゆっくり燃焼する発射薬に点火され、その後これによって発生したガスが薬莢内部で膨張する。薬莢はサイド方向および後方は頑丈な銃のチャンバー、およびボルトの包底面によって抵抗力が与えられているため、ガスはそのルートを前方に求め、薬莢にかなりルーズにセットされた弾丸に当たり、その圧力によって弾丸を薬莢からはがし、銃のバレルから投射する。

 これに対し「金属パイプR762」では全く異なる様子が見られる。

 プライマーへのファイアリングピンの打撃後、プライマーにより炸裂カプセルに、そして炸裂カプセルにより即座に燃焼する爆薬に点火される。そしてこのため弾薬は爆発に導かれる。その威力は強力なので薬莢を引き裂くだけでなく、掲載された写真で見ることができるようにそれを取り巻く銃のチャンバーも破壊する。つまり発射の際、銃(ライフル、マシンガン)は完全に破壊され、周囲に飛ぶ部品によって射手も程度の差はあれひどく損傷を負う。

 この弾薬がその破壊効果によって非常に有効であったにせよ、その効果がたいていの場合1挺の銃と1人の射手に及ぶだけだということを見逃すべきではない。この射手がこの際殺されるはずであったとしても、その結果は何百万という戦死者に直面してはまさに笑ってしまうようなものである。人はすでにとっくに全てのものが不足していた当時においてこの弾薬の開発のための費用がそもそも引き合ったのかを問わねばならない。結局のところ全ての構成要素がこの弾薬のために特別に製造されなければならなかったのである。

 このことはおそらく、SSの帝国安全保証主要官庁(周知のようにSSのスパイ活動や対スパイ活動を管轄し、テストの実施にも責任を負っていた。またこの開発品の提案者でもあったらしい)が1944年10月9日における我々がここに掲載したそのレポートの中で、ここに同様に掲載した写真で分かるようなベストの効果にもかかわらず、この弾薬の複雑な構造によって完全には満足せず、この単純化を希望したことの理由でもあるだろう。しかしこの研究のさらなる経過に関してはこれ以上の情報はない。

 最後にまだ疑問が浮かんでくる。どのようにして、そしてどこで、この弾薬が射手の手に到達できるようにソビエトの在庫内に気付かれずにこっそりもぐりこませるつもりだったのだろうか。



(頑住吉注:スペースの関係で書ききれなかったので追加します。「ニポリット小パイプ 10x7x35mm」の次には「縦方向のスリットあり (重量約2.5g)とあります。「Alカプセル」は何なのか不明ですが、プライマーによって点火され、ニポリットを起爆させるための信管であるのは間違いないと思われます。「短縮された」と言う以上既存のものを改造して流用したものであるはずです)



(頑住吉注:7枚掲載されている破壊された銃の写真の1つです。頑丈なレシーバーまで完全に断裂し、木製ストックもめちゃめちゃに壊れているのが分かります)


 敵地で放火を行う「サボタージュ焼夷手段」の時にも違和感を感じたんですが、少なくともドイツ語のの「Sabotage」という語はいわゆる怠業のことだけではなく、こんな積極的な破壊工作のことも指すんですね。

 「WASAG社」というのは、サイト「Lexikon der Wehrmacht」のハンドグレネードに関する項目で登場したメーカーで、基本的に信管以外全てプラスチックのように自由に成型できる爆薬、ニポリットでできている特殊なハンドグレネードを作っていたメーカーです。今回登場したサボタージュ弾薬の爆薬にもこのニポリットが使われています。

 写真から非常に効果が大きいのはよく分かるんですが、分からないのは何故全ての構成要素が専用というこんな凝った構造にしたのかです。ドイツ軍の潜射アタッチメントにそれを固定するための機能がわざわざ設けてあったように、ドイツ軍は7.62mmライフル弾薬を使うロシア製自動小銃を多数鹵獲して組織的に使用していました。ということは、実際していたのか鹵獲弾薬のみ使っていたのかは知りませんが、仮に通常弾薬を生産しても無駄にはならないわけで、この謀略弾薬はその発射薬を強力な爆薬に交換しただけというような単純なものでは何故いけなかったんでしょうか。

 この筆者はたとえこの謀略弾薬で敵兵が死んでも数的に微々たるものだからコストに見合わなかったはずだ、といった論調ですが、私は必ずしもそうは思いません。普通の弾薬は平均すると膨大な数を使ってやっと敵を1人倒せますが、この弾薬はそれよりもかなり高い確率で敵を倒せるはずです。また、自分の銃を発射したら、いつそれが爆発して死ぬか分からない、という状況は敵兵にかなりの心理的プレッシャーを与えると思われます。少なくともリバレーターや「サボタージュ焼夷手段」といった実際に使われた謀略兵器より心理的効果が大きく劣るとは思いません。敵の弾薬にまぎれこませる方法は確かに難しく、そんなことができるくらいなら弾薬庫にもっと強力な爆薬でも仕掛けた方がよかったのでは、という気もしますが、当時ソ連領内には社会主義政権に反対し、ナチ・ドイツ軍に参加して戦う少数民族もいたくらいですから、適当な方法はあったのではないでしょうか。










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