4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬
「DWJ」2004年8月号に掲載されたH&K MP7A1に関するレポートの内容はすでにお伝えしましたが、今回紹介するのは同じ号に掲載されたMP7A1の使用弾薬、4.6mmx30,DM11ハードコアに関する記事の内容です。
新しいPDW銃器システム用にコンセプトされた4.6mmx30,DM11ハードコア
強い「小口径」
現在、そして未来の戦争における個人防御兵器への要求は変化した。4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬はそのためにコンセプトされた。我々はその弾道学的成績を紹介する。
1990年にNATOはCRISAT−Projekt(Collaborative Research Into Small Arms Technology)を開始し、そして歩兵用銃器(Small Arms)を3つのカテゴリーに分類した。
●個人用アサルトライフル(Individual Combat Weapon)
●軽支援銃器LMG(Light Support Weapon)
●個人用防御銃器(Personal Defence Weapon PDW)
1992〜1996年までの間にNATO−Ad−Hoc−PDW研究グループ(AHWG)はPDWに対する基本要求について研究し、そして定義を行った。
●装填済み20連マガジンつきで重量1kg未満のピストル(hand-held
weapon)。
●装填済み20連マガジンつきで重量3kg未満の近距離用ショルダーウェポン(Shoulder−supported close protection weapon)。
PDW研究グループはさらに、この銃器システムは50mまでの実戦使用において兵士にとって最適な個人防御が保証されねばならないとした。攻撃状況下ではこの距離は最大150mまで引き上げられた。その上、両ウェポンは兵士が行動時において空で、陸で、海の上で、その本来の機能を妨げられないように、片手で操作されるものでなければならなかった。
このNATOの研究グループはソビエト陸軍に防護ベストコンセプトが導入されたことに基いて、同様にハードターゲットを定義した。この結果いわゆる「CRISAT−ターゲット」が生まれた。すなわち、1.6mm厚チタンプレートと、その後ろに20層のケブラーを持つものである。新しいPDW弾薬は、最低150mからこうした「サンドイッチ−ターゲット」を貫通しなければならなかった。
NATOが40年前にスタンダード化したフルメタルジャケット弾装備の9mmパラベラム弾薬にこれらの要求が満たせないことは明らかだった。つまり、研究グループの目標は、口径9mmパラベラム仕様の銃を、特別な部隊部分用に、より大きな実戦距離、よりよい命中精度、明らかに高めたターゲット内効果を持つ弾薬を伴う新しい両PDW銃器システムによって取り替えることだった。
70%以上の軍人は戦争(頑住吉注:イントロダクションとも、直訳では「戦争的紛争」となるような言葉が使われており、戦争まで至らない紛争を指すのかも知れません)時、直接の戦闘行為には組み込まれず、そしてそれゆえ個人用アサルトライフルを必要としない。過去10年の紛争の分析はそれを証明している。この事実は特に空軍パイロット、ドライバー、補給部隊、衛生兵、そして部隊のいろいろな論理担当部分の兵にあてはまる。新しいPDWシステムは実際上こうした人員のためにあつらえられた。
この新しい銃器システムのための特別なターゲットグループとしては当然、例えばドイツ連邦国防軍の「コマンド特殊兵力」(KSK)のような、レギュラーな軍の投入に適さない特殊任務を持つ軍特殊部隊もあった。
ドイツ連邦国防軍への採用
H&K社の4.6mmx30弾薬仕様MP7近距離領域兵器は2001年以来ドイツ連邦国防軍のKSKによって実戦使用下にある。
この銃および弾薬コンセプトは、ドイツ連邦国防軍のプロジェクト「未来の歩兵」の枠内に組み込まれている。ドイツ連邦国防軍のこうしたプロジェクトにおける活動は、1991年以来NATOランドグループ3で審査されている「NATO Soldier Modernisation Programme」プロジェクトに基いている。「未来の歩兵」(IdZ)プロジェクトは、ドイツ連邦国防軍の「21世紀における軍事力、能力、技術力/SFT21」研究の一部である。IdZシステムは、モダンな歩兵のための防御、偵察、Identifizierung(頑住吉注:英語のアイデンティフィケーション。敵味方識別のことでしょうか)、Orientierung(頑住吉注:英語のオリエンテーリング。GPSなどを使った方向確認などのことでしょうか)、武装に関する基本的テクノロジーを含んでいる。
「ドイツ歩兵のTags」(頑住吉注:英語のデイズ。Tagの複数ですがTagという単語には「日」「昼」「時代」などの意味があり、どれがふさわしいのか分かりません。ただまあだいたいのニュアンスは分かりますわな)の枠内で、部隊に新しい近距離領域兵器MP7A1が公式に引き渡された。これと同時にRUAG Ammotecが開発した、2.0gハードコア弾丸を装備した4.6mmx30,DM11弾薬もドイツ連邦国防軍に採用された。この新しい、有害物質の少ない、完全鉛フリーの弾薬は、最大200mまでの射撃距離でハードターゲットおよび防護ベストに対してよりよい貫通成績を持つ新しい弾丸テクニックに基いている。
防護ベストに対する効果は8.0gフルメタルジャケット弾つきの9mmパラベラム弾薬と比べてはるかに改善されており、防護されていないターゲットに対する効果が明らかに高められているのと同様である。
4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬
NATOがテストしたものに対して改善された弾薬4.6mmx30に向けての要求は、Meppenに所在するドイツ連邦国防軍の国防技術を管轄する役所(WTD91)と共同でまとめられた(頑住吉注:分かりにくいですが、この後の話の展開を読むと、NATOが過去に旧4.6mmx30弾薬をテストしたが、まだ改良が必要だという結論が出て、改良された弾薬としてドイツ連邦国防軍に新採用された4.6mmx30,DM11弾薬が生まれた、ということのようです。で、ここで述べられているのは新弾薬誕生に向けての要求に関してです)。
要求は、いろいろな射撃距離からの、いろいろなハードターゲットおよび防護ベストに対する良好な貫通成績に関して決定された。
この要求を満たすためには、弾丸は高い「比エネルギー」(横断面積muあたりのエネルギー)を持ち、そしてターゲット内で形状および質量の安定を保たなければならない。つまりハードターゲット内で平たくなったり砕けたりしてはならない。
NATOの比較テストが示したところによれば、防護されていないターゲット、すなわちターゲット媒体であるゼラチンに対する効果(ただし防護ベスト貫通後でも)は改善される必要があった。国際法上の協定の遵守はドイツ連邦国防軍にとって基本前提だった(頑住吉注:ソフトターゲットに対するより強い効力が必要だからといっていわゆるダムダム弾にすることは当然許されない、ということです)。
弾丸の構造
ハードターゲットと防護されていないターゲットに対する互いに対立する要求の、両サイドにとって受け入れ可能な解決を見つけることは困難なことだった(頑住吉注:一般にソフトターゲットに対する大きな効力を得るためには変形しやすい弾丸が望ましく、一方変形しやすい弾丸ではハードターゲットに対する高い貫通力が得にくい、ということです)。NATOがテストした4.6mm弾と比較してのDM-11弾の基本的な特徴の差は以下の通りである。
●弾丸重量が1.7gから2.0gになった。
●距離100mにおけるターゲットエネルギーが240Jから270Jになった。
●先端形状がラウンドノーズから尖った形に拡大された。
●弾丸構造が電気銅メッキされたスチール弾から誘導用一部ジャケットを持つスチールコア弾になった(頑住吉注:これらについては後述します)。
外部弾道的特徴
弾丸重量が1.7gから2.0gに増加したこと、そしてそのために横断面負荷が増加したこと、よりスリムな尖った先端形状になったことにより、外部弾道的「ふるまい」が明らかに改善された。
防護されていないターゲットに対する効果
弾丸先端形状の変更により、ターゲット媒体内部での弾丸のいわゆる「振り子ふるまい」(頑住吉注:英語では「タンブリング」と表現されているらしい着弾後に転倒する動きのことです)が変化した。単純化して表現すれば、媒体突入時の弾丸重心からターゲットに最初に接触する先端部までの距離(およびそれによるモーメント)が大きくなった。これにより弾丸は媒体内部でより早く不安定となり、そしてより早く横位置になり始める。このことが弾丸ルートごとのより高いエネルギー伝達をもたらす。
いろいろな射撃距離におけるゼラチンを使ったターゲット内弾道学的研究の結果は、全ての射撃距離においてエネルギーが30cmゼラチンブロック内部で完全に伝達されるということを示している。50mまでの射撃距離では、侵入深度15〜17.5cmの弾丸ルートにおける最大のエネルギー伝達は約30J/cmである。この30J/cmという数値は、「警察実戦使用弾薬の技術的指針」の定義による、充分な行動不能を達成するための下限値である。比較のため、8.0gフルメタルジャケット弾を装備した9mmパラベラムと、変形弾を装備した新しいアクション4警察弾薬のエネルギー伝達データを掲載した。
現在のミリタリー弾薬である9mmパラベラムフルメタルジャケット弾に対する4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬のよりすぐれた効力が明らかに分かる。マンターゲットに対する最大の実戦使用距離は100〜150mの間である。
防護されたターゲットに対する弾丸効果
4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬の弾丸は前述の「CRISAT−ターゲット」を150mの射撃距離で確実に貫通する。
有害物質の少ない弾薬
完全に重金属フリーの弾丸コンポーネントと、ほぼ25年来プルーフされてきた有害物質の少ないSINTOXプライマーの使用により、この新しい弾薬はドイツ連邦国防軍の環境フレンドリーな弾薬に関する要求を満たす。
総合評価
4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬は、従来の経験と分析に基いて21世紀の紛争に合わせた、広範な軍の実戦使用バリエーションに向けた近距離領域兵器システムのためのよい解決である。
ドイツ連邦国防軍の、モダンな近距離領域用銃器システムのための弾薬に関するターゲット内弾道学的要求は満たされている。
NATOによるPDW銃器システムに対する弾道学的要求は、原則的にドイツ連邦国防軍による要求でカバーされている。
有害物質の少ない弾薬に関するドイツ連邦国防軍による要求は、完全鉛フリーハードコア弾と有害物質の少ないSINTOXプライマーによって満たされている。
4.6mmx30弾薬のさらなる開発
紹介した4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬は、軍特殊部隊の多様な実戦使用のため、そして非戦闘部隊の防御用にコンセプトされたものである。
より広い軍の実戦使用、およびトレーニング、あるいは特殊部隊と警察の実戦使用のため、さらに多くの弾薬タイプが開発されている。
2.0gソフトコア弾を使用した4.6mm弾薬は、4.6mmx30,DM11ハードコア弾薬と同じ弾丸テクニックを使用したもので、ただ弾丸のコアが硬度の低いマテリアルで製造されているだけである。この弾丸は同様に重量2.0gであり、このため両弾丸は要求された射撃距離における命中点の位置同様、弾道が最も大幅に等しい(頑住吉注:明記されてませんが話の流れから言ってこれは訓練用ということのはずです)。
2.6g鉛コアフルメタルジャケット弾を使用した弾薬は、2.0gソフトコア弾のより重い代替物としての価値があり、特に警察から要求されたものである。ただしこれは防護ベストやハードターゲットを貫通するためにコンセプトされてはいない。
St37スチールプレートに対する貫通能力
弾薬 | 25m | 50m | 75m | 100m |
4.6mmx30,DM11ハードコア | 10mm | 9mm | 7mm | 5mm |
9x19フルメタルジャケットソフトコア(DM51) | 2mm | 0 | 0 | 0 |
ハードターゲットに対する貫通成績。ハードターゲットに対する貫通において4.6mmx30弾薬が9mmパラベラムを上回っているのは明白である。
4.6mmx30,DM11と9mmx19,DM51の距離ごとの残速の比較
弾薬 | 0m | 25m | 50m | 75m | 100m |
4.6mmx30,DM11ハードコア | 690m/s | 650m/s | 600m/s | 550m/s | 510m/s |
9x19フルメタルジャケットソフトコア(DM51) | 400m/s | 370m/s | 350m/s | 325m/s | 310m/s |
4.6mmx30 2.6gフルメタルジャケット | 600m/s | 560m/s | 530m/s | 490m/s | 470m/s |
4.6mmx30,DM11と9mmx19,DM51の距離ごとの残存エネルギーの比較
弾薬 | 0m | 25m | 50m | 75m | 100m |
4.6mmx30,DM11ハードコア | 480J | 410J | 350J | 300J | 260J |
9x19フルメタルジャケットソフトコア(DM51) | 640J | 550J | 475J | 420J | 380J |
4.6mmx30 2.6gフルメタルジャケット | 470J | 410J | 370J | 320J | 285J |
30cm厚ゼラチンブロック内各深度でのエネルギー伝達
弾薬 | 5cm | 10cm | 15cm | 20cm | 25cm | 30cm |
4.6mmx30,DM11ハードコア(射撃距離10m) | 9J | 13J | 28J | 30J | 11J | 3J |
4.6mmx30,DM11ハードコア(射撃距離100m) | 8J | 15J | 22J | 8J | 2J | 侵入せず |
9x19フルメタルジャケットソフトコア(DM51) | 15J | 16J | 15J | 11J | 24J | 22J |
アクション4 | 40J | 26J | 8J | 3J | 3J | 侵入せず |
頑住吉注:残速、残存エネルギー、エネルギー伝達は折れ線グラフを表に直したもので数値は厳密ではありません。エネルギー伝達のグラフは誌面では4.6mmx30,DM11の10、25、50、100mにおけるそれと9mmパラベラム2種類のそれが別になっており、後者は射撃距離が明記されていませんが、たぶん無視してかまわないくらいの近距離と思われます。4.6mmx30,DM11の射撃距離10mのグラフの頂点は深度17.5cmにおける33J、100mのグラフの頂点は深度12.5cmにおける24J、DM51のそれはゆるやかに波打つグラフのため山が複数ありますが、頂点は深度27.5cmにおける26Jです。アクション4の頂点は表にある深度5cmです。
非常に興味深い記事ではあるんですが、内容に明らかに不備があると思われます。
この記事は基本的にNATOが過去にテストした旧4.6mmx30弾薬から改良され、現在ドイツ軍に採用されているDM11新弾薬の紹介記事です。旧弾薬はGUN誌2004年2月号で床井雅美氏がレポートされたものであると思われ、床井氏はこれも改良を経た「バージョン3」であると記述されています。そのデータを引用させていただきますと、
口径 4.6mm(公称) 4.65mm(実測)
弾丸重量 1.7g
弾丸構成 ソリッド・ソフト・スチール
薬莢長 30mm(公称) 30.5mm(実測)
薬莢最大径 8mm
弾薬全長 38.5mm
初速 750m/s
初活力 447J
有効射程 200m
最大射程 1720m
となっており、今回の記事にある旧弾薬の弾丸重量および弾丸構成(スチールに銅メッキ)は一致しています。
新弾薬の紹介であるからには当然新弾薬のデータを示す必要があるはずですが、この記事には弾頭重量以外のデータが明記されていません。グラフがあるので初速は700m/s弱、初活力は480Jくらいだと分かりますが、正確ではありません。例えば記事中では100mにおける残存エネルギーが270Jとされていますが、グラフでは260J程度と読み取れ、270Jにすると2.6gフルメタルジャケット弾との対比がおかしくなるので表ではあえて260Jにしてあります。グラフの読み取りではこのように少々の誤差が生じます。
また、弾頭の構造に関しても明確に分かるような説明がなされていません。しかたがないので推測を交えることになります。
外観は大体こんなです。旧弾丸についてはGUN誌のレポートを参照してください(弾頭だけの写真はありませんが)。薬莢にセットされたときは、黄色で表現した部分がほんのわずか露出する形になります。旧弾丸に比べ、先端が明らかに尖っています。「先端形状がラウンドノーズから尖った形に拡大された」というような記述、また見た目から、ラウンドノーズというより尖った弾丸の先を少し切り落としたような形だった旧弾丸から、切り落とすのを止めて尖らせたような形にしたものであると思われます。これも弾丸重量増加につながり、また重心から先端までの距離が伸びて早く転倒しやすくなるというのも分かります。しかし先端の延長は見た目でもせいぜい1.5mm程度と思われますし、またあまり伸ばしたらマガジンや銃の再設計が必要になってしまうはずです。これだけで1.7gから2.0gへの重量増加や明らかな転倒時期の変化は説明できないと思われます。
記事には「弾丸構造が電気銅メッキされたスチール弾から誘導用一部ジャケットを持つスチールコア弾になった」とあります。説明はこれだけで一体どこがジャケットなのか、ジャケットの材質は何なのか説明されていません。ただ、過去何回か出てきましたが、ドイツ語の「誘導」すなわち「fuhrung」(「u」はウムラウト)という語には、弾丸がバレル内に接して導かれるという意味があります。旧弾丸はスチールに厚く銅メッキしただけでしたが、これでは不充分であるとして(あるいはバレルの寿命が短くなりすぎたのかもしれません)、図で黄色の部分に通常の弾丸ジャケットとは意味が全く異なる「誘導用ジャケット」をかぶせたということではないでしょうか。実際の色は、黒で表現した部分は黒、黄色で表現した部分は真鍮色です。たぶんジャケットは真鍮、先端のスチール部分は何らかの方法による黒染めあるいは黒色のメッキだと思います。真鍮の比重はスチールより大きいので、後部に真鍮のジャケットをかぶせることによって全体重量が増大し、さらに後部が重くなることによって先端から重心までの距離が大きくなり、転倒しやすくなったということではないでしょうか。ちなみに最後に出てきた訓練用と思われる2.0g弾の写真も掲載されており、そのキャプションには「弾丸のコアは錫/亜鉛合金」であると書かれています。この弾丸では後部は真鍮色、先端部が銀色をしており、これもコアが先端の露出部で、ジャケットが後部であろうという推測の根拠になります。この推測が正しいとすれば、写真では判別できないものの、少なくともスチールコア弾ではジャケットの径は先端のコアの露出部より微妙に大きくなっているはずです。
さらに、先端が尖ったこと自体も転倒を早める要因になっているかも知れません。意外な気もしますが、先が尖った弾丸より、先が平らな弾丸の方が水中で直進しやすいとされています。Dr.Beat
Kneubuehlも言うように、水分を多く含むソフトターゲットと水そのものの内部での弾丸の反応は似ているので、ソフトターゲット内部でも先が平らな旧弾丸より、先が尖った新弾丸の方が早く安定を失いやすいのではないかと推測されます。
さて、この弾丸の効力はどうなんでしょう。私はDr.Beat
Kneubuehlが主張し、またドイツでは完全に主流の考え方であるらしい、「効力とはエネルギー伝達である」、すなわち各深度におけるエネルギー伝達が等しければ低速重量大口径の弾丸も高速軽量小口径の弾丸も効力は同一であるとする考え方に高い説得力を感じつつも納得しきれずにいます。しかしまあそれはここではひとまず置きましょう。
仮にその考え方が正しいとしても、この弾丸の効力には疑問があります。この記事を読むとまるでこの弾丸には9mmパラベラムをはるかに越える効力があるような印象を受けてしまいそうですが、かなりトリックに近い記述ですんで騙されちゃいけません。
現在はこの用途にフルメタルジャケットラウンドノーズを使用する9mmパラベラムの銃が使われています。確かに骨に当たらなければ大部分のエネルギーを残したまま人体を貫通してしまうこの弾丸に比べれば、4.6mmx30,DM11ハードコア弾の効力は大きいと言っていいでしょう。しかし明らかに効力不足とされる弾丸よりいくらか効力が大きいからといってそれが充分な効力を保証するものでないのは言うまでもないことです。また、エネルギー伝達の表を見れば、高性能変形弾であるアクション4より効力が大きいとは全く言えないことが分かります。
私がトリックに近いというのは「50mまでの射撃距離では、侵入深度15〜17.5cmの弾丸ルートにおける最大のエネルギー伝達は約30J/cmである。この30J/cmという数値は、『警察実戦使用弾薬の技術的指針』の定義による、充分な行動不能を達成するための下限値である。」という部分の記述です。
「アクション4」の項目から引用します。
1、ソフトターゲット(ゼラチン)に対する効果
「5mの距離から、100mmの試験バレルにより、15cmx15cmx35cmというサイズの20%のゼラチンを、裸および服を着せた状態でそれぞれ10回射撃する。ゼラチンブロックに対する侵入深度は20〜30cmの範囲でなくてはならない。エネルギーの発散は最初の5cmでは1cmあたり30〜60ジュールの範囲でなくてはならない。」
この条件は最高の効果をもたらすために高度な専門家が設定した条件である。また、同時に1cmあたり60ジュール以下の制限というのは政治的判断でもあり、これ以上は内務大臣主催の会議が受け入れないであろうという判断による。
「アクション4」のゼラチン内における機能原理は3つの局面に区分される。
局面1 「アクション4」の弾丸が5mの距離からの射撃によって約420m/sの速度で着弾する。弾丸重量は6.1gなので、540ジュールのエネルギーをもってターゲットに突入することになる。
局面2 ターゲットに突入することによって弾丸内部でキャップが移動する。これによって弾丸本体の先端部は押し広げられる。こうして制御された拡張が開始される。続いてキャップ後部は弾丸本体内のボーリング底部に達し、移動は妨げられて停止する。
局面3 ゼラチン内に3〜5cm侵入すると、弾丸先端部は直径約11.5mmの最終的拡張に達する。この過程で1cmあたり最大55ジュールのエネルギーがターゲット内部に放出される。
拡張した弾丸は25〜29cmゼラチン内部に侵入する。これは充分な貫通力を保証している。
10mと5mの距離差が無視してかまわないものとした場合、グラフによれば4.6mmx30,DM11ハードコア弾のエネルギー伝達が30Jを越えるのは深度約16〜20cmのわずかな間に過ぎず、「技術的指針」を全く満たしていません。深度16〜20cmといえば、かなりのケースにおいて人体の重要な臓器等を貫通して飛び出した後、あるいは寸前になるはずです。また、この文でも「充分な効力とするためには本当は60J以上が望ましいが、それは政治的に認められそうもないのでやむを得ず」というニュアンスが感じられます。
そもそも、4.6mmx30,DM11ハードコア弾の持つエネルギーは一般的な9mmパラベラム以下なのであって(9mmパラベラムのエネルギーには大きなばらつきがありますが、表の640Jというのはかなり大きい部類のはずで、これほど差は大きくないにしろ)、持っている以上のエネルギーを伝達することはありえませんから、「効力とはエネルギー伝達である」という主張を認めても、4.6mmx30,DM11ハードコア弾の効力が高性能の9mmパラベラムホローポイント弾のそれを大きく上回ることは考えられません。そして、アメリカでは9mmパラベラムの高性能ホローポイント弾ですら効力不足とする警察機関が多いわけです。
もちろん4.6mmx30,DM11ハードコア弾は重量が極端に軽いためエネルギーは比較的大きくても「運動量」が小さく、この結果反動が小さいため、また銃のデザインや性質から、正確な速射によって複数の命中弾を与えやすく、それによって充分な効力が得やすくなるということはあるでしょうが。しかし少なくともボディーアーマーを貫通後の大きく減速した弾丸では、やがて死に至ることはあってもその場で敵を行動不能にするほどの効力はないと思われます。
そして現実に4.6mmx30,DM11ハードコア弾の2倍を大きく上回るエネルギーを持ち、口径も弾頭重量も大きい5.56mmx45弾薬すら効力不足であるとして威力向上が強く求められています。貫通力の大きい現用の5.56mmx45と違い、4.6mmx30,DM11ハードコア弾は転倒によってより効率的にエネルギーを発散するのだという反論もあるでしょう。しかし、「いいものは真似されるはずである」という私の基本的な考え方から、「もし転倒によってエネルギーを発散する弾丸がハードターゲットに対しては高い貫通力を持ち、ソフトターゲットにも強い効力を持つ理想的なものであるならば、5.7mmx28によってその種の弾丸が知られるようになって十数年、何故5.56mmx45の効力不足が問題になっているにもかかわらずその種の改良が行われていないのか」という強い疑問を持つわけです。