懐中時計ピストル

 「Waffen Revue」101号に変わったピストルのパテントに関する記事が掲載されていました。懐中時計の形をしたピストルで、アイデアや使用法はやや「ザ・プロテクター」に似ています。


ある懐中時計ピストル

 それを予想もしていない歩行者、自転車に乗った人などに対する襲撃は(ハンドバッグ強盗もそうであるように)決して今日の発明ではない。人気のない通りで、いや大都市の雑踏でも、こうした人々は常に強盗の危険にさらされている。たいていは無防備である通行人への襲撃は彼らの「生活の糧」なのである。これはすでに世紀の変わり目頃にもそうだった。それゆえ当時多くの「隠された、または偽装された銃器」が開発され、これらはその後危険にさらされた人々に自衛のために提供された。

 いかに着想に富んだこうした銃器の発明者がいたかに関しては、「銃器史」(シュヴァーベン ホールのジャーナル出版社 9.50ドイツマルク)シリーズW122号に見ることができる。そこにはいろいろな、ステッキ、サーベル、ブラスナックルなどに偽装された銃器が描かれている。

 こうした物の他に日用品に偽装された射撃メカニズムを与えることも試みられた。例えば懐中時計にもそうだったようにである。これはセントルイス(アメリカ)のLeonard Woodsなる人物が1912年11月4日にアメリカで、そして1913年10月23日にドイツでパテントを申請したものである。

 1914年7月4日ナンバー276105の下に彼に与えられたドイツパテントは次のような文面だった。

この発明はピストルに関するもので、その本質は懐中時計のような方法でベストポケットに入れて携帯でき、簡単に取り出せ、取り出す際に懐中時計であるかのような印象を与えることにある。これはその際特に時計や金を奪うことを狙う強盗の襲撃に際して攻撃からの防御を非常に目的にかなった方法で簡単にする。

 この発明の対象物は丸くフラットな外装ケース、つまみ、そのそばに配置された出入りする部品からなる。この3つの部品がピストルのグリップ、バレル、トリガーである。この発明はさらにトリガーが怪しい指の動きなしで動かせ、バレルのライナーが弾薬の保持と取り出しに役立つという特徴にも関係している。

 図1は発明にかなった形で作られたピストルの外観と、これを使用時に保持する方法を示している。図2はマズル方向から見た外観、図3は外装ケースの内面およびライナー込みのバレルの縦断面、図4は図3のA−Aでの横断面、図5はバレルのライナー個体の外観を示している。

 B、Cは外装ケースの前、後面を表し、その大きさと形状は普通の時計の外装ケースに似ており、端の接合部にはリップDを備えている。これら両部品(
頑住吉注:前後2枚に分かれた外装ケース)の結合はネジEによってなされる。このネジは前後面の対応する延長部Fを貫通している。外装ケースの前面はガラスおよび時計の文字盤を備え、これは図1から分かるように特にカバーを持たない(頑住吉注:西部劇などで見られるように多くの懐中時計には前面にカバーがあってガラスや文字盤を保護していますが、この銃の場合は一見して懐中時計に見えるようにあえてカバーを設けていないということです)。つまみの首部は前面にリング金具Gが取り付けられ、ここに時計用鎖をつなげることができる。このリング金具Gは鎖が時計のつまみのような形に作られたマズルの前をさえぎらないような形で前面に配置されている(図1および2)。外装ケースの一方(主に後ろ)は中央に円筒形のバレルHを備え、これはつまみの首部外側に対応する端部にネジを備えている。このネジはバレルのライナーのネジとかみ合っている。このライナーはパイプIからなっており、その外側の端部にはローレットでギザギザをつけた頭部を持ち、これは時計のつまみのようである。このバレルライナーは内部の端に普通の方式で弾薬Jが入るチャンバーを持ち、やや広げられている。ローレットつきの頭部はこのピストルのマズルであり、パイプIはバレルの内面と密着している。そしてその長さは弾薬の底部がバレル後壁に固く押し付けられる長さになっている。バレル後壁は円錐形の貫通穴Kを持っている。この穴にハンマーMの円錐形のファイアリングピンLが入る。ハンマーは外装ケースの後ろ部分の延長部にネジNを使って栓をするように固定されている。スプリングOは前述のハンマーの切り欠きにテンションをかけている。より詳しく言えばファイアリングピンLの反対側にある切り欠きにかかり、他の端は後ろの外装ケース部品のスリットPに固定されている。このスプリングは一直線に伸びようとしているが、図3で分かるようにピンQがいくらか上へと曲げた状態で保持している。このためハンマーの後方への動きは図3で分かるようにスプリングの上への湾曲を結果としてもたらす。この方式のスプリングは、スプリングが点線で示した位置からノーマル位置(ここでは軽く曲げられているだけ)に進む際に強化された力でハンマーに作用するという長所を持っている(頑住吉注:アイバージョンソンの時にも触れましたが、板バネの端部に単に横方向の力をかける普通の使い方ではなく、奥へ押し込むような力をかけてたわませるとより大きな反発力が生じるということです)。ハンマーの操作部品は丸い押し棒Rからなり、これはバレルと平行のノッチ内にある。より詳しく言えばこのノッチは外装ケースの前後に半分ずつ配置された突起部SおよびT(図3、4)が互いにフィットすることによって形成される。前部外装ケースの突起部Tはバレルの端からつまみまで伸びており、ここを滑る押し棒Rの誘導を行う。押し棒が滑るのは丸められ、上方向に曲げられた端部Uを人差し指が圧するとすぐのことであり、端部Uはマズル上に配置されている。押し棒Rの内側の端部は四角形の、下に伸びた突起Vを持ち、この突起はハンマーMの上端に図3から明らかな方法でかみあっている。この突起はハンマーの上端の上に、押し棒の後方への動きがかみ合いを減らすように配置されている。そしてついにはハンマーの頭部は押し棒の端部Vから滑って逸れる。図3の点線で示されたようにである。この後前述の動きの際上に曲げられたスプリングOはハンマーのファイアリングピンLを弾薬底部に向けて押す。

 押し棒の頭部Vのフラットな上部はスプリングWを搭載し、このスプリングは下向きにテンションを持ち、後ろの外装ケース部品のスリットX内で保持されている。このスプリングは押し棒の頭部とハンマーの図3に見える方法でのかみ合わせを保持するよう努めている。だが押し棒Rの端部Uが1/4回転することを許す。その後押し棒は再び外側(頑住吉注:前方)へと引くことができ、頭部Vはハンマーの頭部を越える。押し棒Rおよび頭部Vの戻し回転により、頭部Vは再び図3の実線で示された位置に到着する。図2から分かるようにバレルのローレットつきマズルは部分2が切り取られている。これは前述の押し棒の1/4回転を許すためである。

 このピストルの再装填は、押し棒が点線で示された位置にある状態で行われる。その際ローレットつき頭部は回転できるようになる。この回転は押し棒に影響することなく両ネジ(
頑住吉注:バレルの雌ネジとライナーの雄ネジ)のかみ合いを解き、ライナーと弾薬を引き出すことを可能にすることである。再装填後すぐ押し棒は上述の方法で外側へと引かれる。

 押し棒の頭部Vがハンマーの頭部の後ろに存在する限り意図しない発射は起こらない。そういうわけでこの設備は危険なく日中ずっとポケットの中で携帯でき、使う権限のない人による簡単な取り扱いから守られている。さらに押し棒がその機能位置にあるときに偶然大きな圧が加わっても弾薬が発射されることはないと思われる(
頑住吉注:ダブルアクションだからということでしょうか)。

 このピストルは一回だけの発射を許す。これは一般に充分だろう。強盗の襲撃に際しては全く短い距離しかなく、そのため確実な狙いがたやすく可能だということを考えれば。ただしこれはこの構造を連射できるように変更することを妨げるものではない。

パテント請求
1.バレルおよび残り全ての構成要素が懐中時計の形状と外観を示す外装ケース内に配置されていることによって特徴付けられるピストル。この際バレルのマズルは時計のつまみを形成している。これは見た人にこれを本当の懐中時計と見せかける目的である。

2.請求1のようなピストルであり、既知の方法でバレルと平行にスライドする押し棒のフリーな端部が外装ケースからバレル以上に突き出さず、このためベストポケット内での快適な収納を許し、一方取り出す際はセーフティ解除と発射が1挙動によって行えることによって特徴付けられる。



 非常に面白い特徴を持った銃です。通常ダブルアクションはトリガーまたはハンマーに可動式のダブルアクションシアを持ち、トリガーを引いた際はハンマーを押し下げるもののトリガーを戻す際はスプリングを圧縮しながら動いてトリガーの戻しを可能にします。トリガーそのものによってハンマーをDA様に動かすことは可能ですが、それではトリガーが戻せなくなってしまうからです。ところがこのピストルでは手動でトリガーを1/4回転させることによってこの問題を解決しており、ダブルアクションシアにあたる部品は存在しません。またトリガーを1/4回転させて押し込んでおけば暴発の危険もないようになっています。うまいアイデアではありますが、小さなトリガーを押し込んだ状態から引き出して1/4ひねって再び押すという作業が強盗に襲われた高いストレス下でうまくできるかどうかちょっと不安です。発射が近距離だから1発で充分というのも疑問で、単純に2人組の強盗に襲われたらどうしようもないでしょう。

 スプリングWはトリガーとハンマーのかみ合わせを維持する目的であるように書かれていますがトリガーがよほど柔軟でない限りそんな必要はないはずで、むしろトリガーがあまり簡単に動いてしまわないように適度の抵抗をかけるのが主な目的ではないかと思われます。図では弾薬は.22程度にも見えますが、明らかにセンターファイアとして作図されているので.25ACPあたりを想定しているのでしょう。

 いずれにせよ全く言及がないことからこの銃は量産されていないものと思われます。










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