2.6 単純な閉鎖機構

 発射の際、バレルは後方がふさがれている必要がある。これにより火薬ガスは漏れ出ることができない。この任務は薬莢によって引き受けられている。薬莢はバレル内のガス圧が低くなるまでチャンバーと閉鎖機構(包底面)との間を気密する。このために薬莢は閉鎖機構(包底面)によって支えられねばならない。小さなリコイルショックの運動量を発生させる弾薬の場合(例えば9mmクルツの場合運動量2〜3kg・m/s)、一般に重量閉鎖機構が用いられる。リコイルショックの運動量が大きくなると、閉鎖機構が遅延される、あるいはバレル内のガス圧が充分下がるまでバレルがロックされて閉鎖されたまま留まる閉鎖機構が用いられる。このためにはまず弾丸がバレルを去らなければならない。次いで音速をもってガスが流出し、圧は急速に下がる(頑住吉注:どうしてもこう読めるんですが、弾丸よりはるかに軽いガスはたいていの場合音速を大きく超える速度で流出するのではないかと思います)。

2.6.1 重量閉鎖機構
 図2.6-1には重量閉鎖機構の閉鎖運動の原理が表現されている。閉鎖機構は(1)では閉鎖スプリングによってバレルの後端に押し付けられ、弾薬底部は閉鎖機構の包底面にあてがわれている。弾薬が点火されると、閉鎖機構は銃に固定されたバレルに対して後方に動き始め、最終的にストッパー位置に達する(2)。ここで閉鎖機構の運動は逆戻りする。そして閉鎖機構はその復帰道程(3)上で弾薬をマガジンからチャンバーに導く。(4)ではサイクルが終わり、銃は再び発射準備状態である。



図2.6-1 重量閉鎖機構の運動図式

 ガス圧によって薬莢の壁は強くチャンバーに押し付けられる。この結果この場所で大きな摩擦力が克服されねばならない。これにより薬莢は強く熱せられる。軽くオイルを塗った薬莢の場合摩擦は大きく軽減され、閉鎖機構に伝達される運動量は増える。これが望ましいのは最も稀なケースである。薬莢とチャンバーの間の摩擦を大きくするため、時として浅い、リング状の溝がチャンバー内にプレスされるか切削加工される。

 この1例が.38口径のコルト ナショナルマッチ マークVである。図2.6-2はこのピストルの該当する部分を断面図で示している。この溝は浅いもののみ許される。これにより薬莢の素材は圧によって弾力の範囲を超えずに変形させられる。発射時、バレルはスライドよりいくらかゆっくり、短いストロークで同様に後退する。このことが薬莢の動きを追加的に遅らせる。その上後退の運動量は2つの突きで伝達される。つまりバレルおよびスライドの、対応するストッパー位置へのそれぞれの衝突の際にである。



図2.6-2 遅延溝を伴う重量閉鎖機構(コルト ナショナルマッチ マークV 口径.38スペシャル) (頑住吉注:どういうわけかパーツ名が書いてないんですが、1=バレル、2=チャンバー、3=スライド、4=フレーム、5=スライドストップ軸、6=リコイルスプリング、7=バレルリターンスプリング、8=ファイアリングピンであるのは見れば分かります。)


 重量閉鎖機構を持つポケットピストル(H&K モデルHK4)は図2.6-3において断面図で表現されている。閉鎖機構はバレル上部を包んでいる。発射時の閉鎖機構の運動はプラスチック製バッファーによって制限される。

 この種のストッパー位置のバッファーはリコイルショックの運動量の伝達時間をかなり長くする。我々はこれをいくつかのモダンな構造に見出す。


 ドイツ語を直訳した「重量閉鎖機構」(Masseverschluss)というのは、ストレートブローバック方式のことを指すと同時に、このシステムを持つ銃のボルトやスライドのことも指します。システム自体については説明不要でしょう。

 「運動量」は質量x速度であり、これに関しては「運動量保存の法則」が働くというのは弾丸の効力に関する諸項目で触れた通りです。薬莢とチャンバーの摩擦が小さいとスライド後退の運動量が大きくなるとありますが、スライドの重量は当然不変なので、要するにスライドがより高速で後退するということです。あまり高速で後退すると弾丸がマズルを出ないうちに薬莢がチャンバーから抜けて高圧ガスが後方に噴き出すおそれがありますし、銃へのストレスも大きくなり、たいていの場合望ましくありません。これを防ぐ対策にはリコイルスプリングを強めたり、スライドを重くするなどの方法がありますが、操作性や携帯性を損なうことになります。そこで時としてチャンバーに摩擦を強めるための溝が設けられることがあるというわけです。

 ここをずっと読んでいる方なら、マカロフの近代化モデルであるPMM、中国製ワンハンドピストルである77式がそうであり、HK4にもリング状ではないものの溝が設けられていることをご存知のはずですが、私はコルトのナショナルマッチにこういうタイプがあるというのは知りませんでした。しかしよく見るとこの銃は以前から資料として頻繁に使用している全米ライフル協会による「FIREARMS ASSEMBLY」ピストルおよびリボルバー編に図解してありました。それによるとこの銃の発売は1962年とされ、有名なS&W製.38ターゲットオートピストルM52の発売が前年ですからこれに対抗したものでしょう。何故S&Wのように実用銃と同一の作動方式としなかったのかは不明ですが、あるいはバレルがティルトせず、ストレートに後退する方が命中精度上有利で、後発の不利を補うメリットになり得ると考えられたからか、あるいはティルトバレルと長いリボルバー用薬莢の相性が悪かったからではないでしょうか。イラストによればチャンバー内には3本のリング状の溝があり、発射時に薬莢はガス圧でふくらんで溝にくいつき、抵抗を増加させます。バレルとスライドは通常のガバ系と違ってロックされていませんが、摩擦抵抗で薬莢がなかなか抜けないでいる間にバレルもリコイルによりスライドの後を追ってバレルのリターンスプリングを圧縮しながら後退します。この間に弾丸はバレルを去り、圧が低下して薬莢は抜けやすくなり、エキストラクターによって引き抜かれるわけです。バレルが後退するのには弾丸が去るまでの時間稼ぎの意味の他、リコイルを軽減する意味もあるとされています。何と申しますか、理解はできますけどあまり確実性のあるシステムではないように思われます。いつも書くように、本当にいいシステムなら真似され、普及しているはずでしょう。

 リコイルが軽減されるのは後退の運動量がバレルとスライドの後方への衝突の2つに分けて時間差で手に伝達されるからであるとされ(後退の運動量全体は作用反作用の法則にしたがって弾丸の運動量と同じであり、かつ運動量保存の法則にしたがって保存されているので)、スライドの後方への衝突部分にバッファーを設けるとリコイルが軽減されるというのも運動量が一気にガツンと伝達されるよりもブニュと相対的に長い時間をかけて伝達される方が軽く感じられると言うか耐えやすくなるという理屈です。

 この銃の展開図はここにあります。

http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/Colt_Goldcup.gif

 HK4に関してはこんなページがあります。

http://hkp7.com/hk4/index.htm

http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/hk_4_pic.JPG