2.8.3 長距離後退するバレルを伴うロックされた閉鎖機構

 セルフローディングピストルの早い時代において、何人かの設計者によって長距離後退するバレルを持つ銃が設計された。例えばシュワルツローゼによってである(1895年)。しかしこれにあたるピストルは頻繁には作られなかった。我々はここで初期のポケットピストルであるRoth-Sauer(頑住吉注:ネット上には画像が見つかりませんでしたがロス ステアーに似たシルエットでハンマーは外装式になっています)、そして巨大なる(頑住吉注:ウェブリー)Marsを思い出したい(頑住吉注: http://www.horstheld.com/0-Mars.htm )。後者はイギリス人Gabbet Fairfaxによって設計された銃で、いろいろなパワフルな弾薬用に少数が生産された。この銃は1906年にマーケットに現れ、その9mm型は銃口初速度約530m/sをもたらした! 長距離後退するバレルを持ち、多数が作られた唯一のセルフローディングピストルは、Rudolf Frommerによって設計され、ブタペストの銃器および機械工場で作られた。

 だが我々がこの興味深い銃に詳細に取り組む前に、ロックされた閉鎖機構および長距離後退するバレルを持つ銃の場合の一般的運動経過について論評されるべきである。図2.8.8ではRはバレル、Vは閉鎖機構を意味している。(1)では銃は発射準備状態で、VとRはロックされている。リコイルショックによりバレルと閉鎖機構は一緒にいっぱいに後方に走る。重量閉鎖機構を持つピストルの場合に閉鎖機構が単独で後退するようにである(2)。後方のストッパー位置でロックは解除され、閉鎖機構は固定される。その後バレルはバレルリターンスプリングによって加速され、その出発ポジションに逆戻りする(3)。バレルがこの位置に達するとすぐ、閉鎖機構のストッパーが解除され、閉鎖機構は閉鎖スプリングによって前方へと圧される。その際普通どおり弾薬がチャンバーに押し込まれる(4)。サイクルの終わりに銃は再び発射準備状態となり、閉鎖機構はロックされる。



図2.8.8 長距離後退するバレルを伴うロックされた閉鎖機構の運動の図式

 図2.8.9は9mmクルツ弾薬仕様のフロンマーピストル、モデルベビーの横断面を示している。バレルの上には、長距離後退するバレルを持つ銃に特徴的な2つの復帰スプリングが位置している。そのうちの1つはバレルに、他は閉鎖機構に作用する。この銃はコックされており、閉鎖機構はロックされている。

 図2.8.10は発射後の運動経過の2つの局面を示している。a)ではバレル(2)、ボルト(4)、包底面(5)がロックされた状態で後退完了後の最も後部のポジションにある。ボルト保持部品(7)はボルトのノッチ内をグリップしており、ボルトをボルト復帰スプリング(6)の力に逆らってこの位置に保持している。バレル復帰スプリング(3)はこの時バレルを前方に動かす(バレルにはボルトの受け入れのための筒状部分が加工されている)。(b)ではまずロックされた包底面が短距離(約4mm)連れて行かれる。この前方への動きにより、傾斜の急なネジを用いてボルト内にセットされた包底面が回転し、そしてこれによりロック解除される。バレルがその最終位置に達する直前、バレルカム(8)がボルト保持部品(7)を下方に押し、これにより閉鎖機構は解放される。この結果閉鎖機構復帰スプリング(6)がボルトを包底面ごと前方へと駆動することができる。この運動の際、弾薬がマガジンから引き抜かれ、バレルに導かれる。包底面がバレル後端に当たるとすぐ、バレルと包底面を再びロックするあやつられた回転運動が始まる。次弾の発射後、たった今描写された経過が同じ順序で改めて推移する。

 このピストルの製造時の製造技術的な費用はかなりのもので、この非常に良い加工がなされ、信頼性の高いモデルがすでに1920年代のうちにより単純な重量閉鎖機構ピストルによって交代されたことは不思議とは受け取られない。今日、人は長距離後退するバレルを伴う閉鎖機構に、実際上セミオートショットガンにおいてのみ出会う。この、おそらく最も有名な例はFNによって製造されているセミオートショットガンで、John M. Browningによって設計されたものである(U.S.パテント ナンバー659507 1900年)。



図2,8.9 9mmクルツ弾薬仕様のフロンマーピストル モデルベビーの断面。ハンマーはコックされ、閉鎖機構はロックされている。



図2.8.10 a) フロンマーピストルの閉鎖機構の作動。バレル、ボルト、ボルトヘッドはいっぱいに後退している。



b) バレルは再び出発位置にあり、ボルトとスライドは前進中。


 最初の部分にシュワルツローゼがロングリコイルのピストルを作ったとありますが、パテント図面のみでサンプル1挺すら知られていない機種まで網羅している「Waffen Revue」のシュワルツローゼピストルに関する記事にも全く登場しておらず、この筆者の勘違いではないかと思います。

 何故か明記されていませんが、他の資料によればフロンマー ストップピストルの登場は1912年とされています。当時はすでにブローニング設計によるストレートブローバックのポケットピストルが普及しており、何故あえてロングリコイル、回転閉鎖式ボルトといった複雑な構造を選んだのか不可解です。ただ、私は比較的低威力のピストル弾薬でロングリコイルさせ、非常に複雑な構造なので信頼性が低かったのではないかと想像していましたが、ここの記述によれば信頼性が高かったとされています。

 この銃ではバレルの上にボルト、バレルの両リターンスプリングが配置され、強力な弾薬を使用する現代のサブコンパクトピストルの一部のように太いスプリング内に細いスプリングが通され、両者の巻き方向は逆になっています。

 作動方式についてはこの説明で充分だと思いますが、補足するなら8のバレルカムはその名の通りバレルと連動しており、またボルトヘッドを回転させる突起はボルト内にあります。

 作動自体についてはいいんですが、今回の記述にはやや不満があります。「2.8 ロックされた閉鎖機構」の項目内に「ロックされた閉鎖機構および短距離後退するバレルを持つ銃のリコイルショックは、重量閉鎖機構あるいは長距離後退するバレルを持つ銃の場合よりも感じられる程度に小さい。この理由は、この場合リコイルショックが2つの段階でグリップフレームに伝達されることにある。つまりバレルの衝突の際と閉鎖機構の衝突の際にである」という記述がありました。要するに他の条件が同じ場合、ショートリコイルの銃のリコイルショックは、ストレートブローバック、ロングリコイルの銃のそれよりも小さく感じられる、ということです。ストレートブローバックよりショートリコイルの方がリコイルが小さく感じられるというのはガンマニアの間では常識になっていますからいいとして、ロングリコイルよりショートリコイルの方がリコイルショックが小さく感じられるというのには「ん?」と思いました。

 作用反作用の法則、運動量保存の法則に従い、発射される弾丸の運動量と等しい運動量が射手の手に伝達されることは原則として避けられません(ここではマズルブレーキの効果はないものとします)。トータルで手に伝達される運動量全体は同じでも、ショートリコイルの場合この伝達が2段階に分けて時間差で伝達されるから小さく感じられ、ロングリコイルの場合バレル、ボルトがロックされたまま後部のストッパー位置に衝突する際に一気に伝達されるから大きく感じられる、というのは理屈に合っているようにも思えますが、どうも変です。対戦車ライフル、アンチマテリアルライフルの中には、ソ連のPTRD1941、イギリスのボーイズなどバレルを長距離後退させることで強烈なリコイルショックを緩和しているものが多く見られます。もちろんそれらにおいてバレルの後退時ボルトはロックされたままであり、ロングリコイルと同じ条件のはずです。以前のこの記述を読んだとき、ロングリコイルに関する項目にこうした点に関する言及があることを期待したのですが、残念ながら全くありませんでした。しかたがないので少し考えてみましょう。

 ボーイズの場合、単なるボルトアクションライフルの機関部をレールに乗せ、スプリングで前方に圧しただけのような構造のようです。一番単純で分かりやすいのでこうした構造の銃で考えてみます。もし後退の距離を何mも取り、機関部が強力なスプリングを圧縮しながら延々と後退し、自然に停止してからスプリングで復帰するようにしたら、機関部は後方に衝突しないので運動量の伝達は行われない、すなわち無反動銃になるんでしょうか。もちろんそんなことはありません。この場合運動量は前方から圧縮され、結果的に後方の受け部を押すスプリングを介して伝達されます。理屈からして機関部が停止したときは、運動量の全てが伝達され終わったということのはずです(ちなみにこれは理屈であり、本当に対戦車ライフル程度の弾薬で後退距離を何mも取ったら「事実上無反動」にはなるでしょう)。

 例えばリボルバーやシングルショットピストルのように包底面が固定されている銃では運動量は一気に伝達され、リコイルショックはいちばん強く感じられます。この筆者はストレートブローバックの場合も運動量が一気に伝達される(閉鎖機構が後方に衝突した時点で)かのように記述していますが、実際には閉鎖機構後退の全ストロークにわたってリコイルスプリングが圧縮され、リコイルスプリング後端を介して運動量の一部(一般にどの程度のパーセンテージなのかは分かりませんが)がすでに手に伝達されてしまっています。包底面が固定された銃よりも運動量の伝達時間が長くなるわけで、実際ストレートブローバックの銃は包底面が固定された銃よりリコイルショックが小さく感じられるとされています。理論的にはスライドの後退ストロークを大きく取り、強力なリコイルスプリングを使用すれば閉鎖機構が後方に衝突する前に停止、復帰させることも可能なはずです。ショートリコイルの銃でもこの筆者が書いている2段階の他に、スライド後退途中にリコイルスプリングを介しても運動量が手に伝達されます。

 ただ、ショートリコイルの銃の場合、バレルが短距離後退してロック解除される前に弾丸がマズルを出ている必要があります。このため後退の初期に比較的大きな運動量が伝達されることになるはずです。一方ロングリコイルの場合、バレルが閉鎖機構とロックされたまま長距離後退して後方に衝突する寸前に弾丸がマズルを出ても(命中精度上はどうか分かりませんが作動上は)問題ないはずです。このためより余裕を持って長時間にわたって運動量の伝達を行うことができると考えられます。また、対戦車ライフル等の場合、非常に重いバレルを一緒に後退させることで後退部分の速度を低下させることにもつながったはずです。ただ、これが比較的低威力のピストルにおいて(上の図を見ても分かるようにフロンマー ストップの後退部分の重量は通常のストレートブローバックの銃のスライドより特別大きいとは思えません)はっきり感じられるほどのリコイルショック軽減というメリットとして現れたかは分かりません。

 というわけで、私はこの筆者の記述には閉鎖機構の後退中におけるスプリングを介した運動量の伝達という視点が抜け落ちており、ロングリコイルの銃はショートリコイルの銃より一般にリコイルショックが小さく感じられる傾向にあるのではないかと思うんですが、まあこれは単なる理屈です。検索してみましたがフロンマー ストップのリコイルが同クラスのポケットピストルと比べてどうだったかという記述は見つかりませんでした。

 フロンマー ストップの展開図はここにあります。

http://www.gunsworld.com/assembly/frommer_ass_us.htm

http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/frommer_stop_2.gif


2006年9月10日追加
 ここを見ている方からご指摘をいただきました。私は一般的にロングリコイルシステムにリコイルの軽減効果があるかのように思っていましたが、ショットガンにおいてはロングリコイル式の機種の反動はガス圧式よりも強いとされているそうです。これは閉鎖機構が重いバレルとともに後退して後方に衝突するからであるとされ、「二重反動」とも呼ばれたということです。そう言えばそんな記述があったような気がして「別冊GUN」を探すと、Part2の65ページに「反動式はガス圧式に比較して反動が強いと言われ、事実その通りに感じられる。これは発射で銃身とブリーチ・ボルトが一体になって後退し、レシーバー後端に激突するからと考えられる。また、その直後に銃身が強いリコイル・スプリングで復座する振動も反動にプラスして、射手に強い反動感を与えてしまう」とありました。

 基本的にある運動量を持った弾丸を発射すると、それと同じ運動量が後方にも伝達されます。同じ運動量を持った弾丸を同じ重さの銃から発射すれば同じ運動量が伝達されるはずです。運動量伝達のタイミングや時間の長さ、銃のデザインによって射手の手が直線的に後方に動かされるか跳ね上げられるかなどによって体感は大きく異なりますが、後退部分の重さが大きかろうと小さかろうと弾丸の運動量以上の運動量が後方に伝達されることはないはずで、「二重反動」というのは理屈上は適切でない表現のようにも思いますが、多くの人がそう言う以上そんな体感であるのは確かなんでしょう。構造が複雑化する上にリコイルが大きくなってしまうならば何故ロングリコイルというシステムを選択したのか(初の本格オートショットガンはブローニングによるロングリコイルのオート5ですが、ブローニングはそれ以前にガス圧作動式の機関銃等をすでに作っています)という疑問が生じましたが、それに関しても当時はまだガス圧作動式ではパワーの異なる多様な弾薬に対応するのが困難だったからとされる、とのお答えをいただきました。

 よく分からないのですが、システムの違いによるリコイルの体感は諸条件によって大きく異なり、ショットガンクラスではロングリコイルによって大きく感じられ、対戦車ライフルクラスになると小さく感じられるようになるのかも知れません。ピストルでどうなのかは依然不明ですが、この筆者の記述の通りショートリコイルより大きく感じられることはあり得ると考えられます。
















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