エネルギーに基礎を置く判断基準
「DWJ」2004年3月号に掲載された、Dr.Beat Kneubuehによる連載の4回目の内容です。
シリーズ:効力と危険性の間 その4
エネルギーに基礎を置く判断基準
ある弾丸のエネルギー(仕事をする能力)量は、単独ではその弾丸の効力や危険性を計る基準として明らかにふさわしくない。それゆえエネルギーに基礎を置く効力の判断基準は、さらに指標(しばしば主観的な)を加えて作られることになる。
アメリカの弾道学者Hatcherについては、弾丸の運動量に基礎を置く判断基準「Relative
Stopping Power」(「RSP」)に関連してこのシリーズですでに1回言及した(2004年1月号)。彼は「RSP」を、1935年に出版された「Pistols
and Revolvers and Their Use」という彼の本の再販で発表した。興味ある事実だが、Hatcherは1927年に出版されたより早い版で、すでに弾丸のエネルギーに基づく判断基準を発表していた。すなわち、今なおしばしば引き合いに出される「Stopping
Power」(略称「StP」)である。「StP」はエネルギーに基礎を置く効力の判断基準として最初に広く知られたものである。
Hatcherは何故より妥当性が高いエネルギーに基礎を置く判断基準を、後に物理学的により根拠が薄い運動量に基礎を置く判断基準に変えたのか。その原因は、その間に行われた、しかし間違っていた、La
Gardeによる一連の実験に求められる。この実験は効力を解明しようと意図されたものだった。しかしこの実験では弾丸の運動量の計測しか行われていなかった。つまり、射撃の対象物を吊るし、それがそれぞれの弾丸の着弾によってどれだけ振れるかを計測するという手法である。
最も大きな運動量を持つ弾丸が、「最も効果的」であるという結果が出るのはまったく当然のことであり、外観上この実験は妥当であるかに見えた。そして当時すでに人々は弾丸の効力に関して熱烈に知りたがっていた。Hatcherはこれにせかされて、たった一つの実験に基づいて無批判に自分の意見を変えてしまったのである。
Hatcherの「Stopping Power」
Hatcherが弾丸の効力の判断基準を作るために行い、そして実際に正しく根拠とした最初の実験は、エネルギーのみでは不十分であることを示していた。大口径の、そして先端が平らな弾丸は、(エネルギーが等しい場合)より小口径のそして先端が丸い弾丸より実際上大きな効力を達成する可能性が高いように思われる。そういうわけでHatcherは次のような効力算定のための数式を作った。
(1) StP=0.5885 × E × A × f
Eは弾丸の命中時のエネルギー(単位ジュール)、Aは弾丸の横断面積(単位cu)、fは弾丸の「形の要因」をそれぞれ示す。「形の要因」はいろいろな弾丸の構造を考慮に入れることを意図している。
弾丸の種類 | 「形の要因」f |
フルメタルジャケットラウンドノーズ | 0.9 |
鉛ラウンドノーズ | 1.0 |
セミワッドカッター | 1.1 |
ワッドカッター | 1.25 |
セミジャケット | (変形の度合次第で) 1.25〜1.35 |
最初の数字「0.5885」は単位をメートル法に変換するためのものだ(元々「StP」ではフィート、ポンド、インチを使って計算しなければならない)。
Hatcherは、後の「Relative Stopping Power」でもこの「形の要因」をそのまま維持した。この結果「Relative
Stopping Power」も「Stopping Power」も「形の要因」に関しては同じ数値で計算される。
だが、今日の知識からすると、例えば何故フルメタルジャケットラウンドノーズ弾が、他の条件が等しい鉛ラウンドノーズ弾より正確に10%少なく「効果的」と見積もられるのかは根拠に欠ける。
Power Index Rating(「PIR」)
50年以上経って、Hatcherと同じアメリカの専門家、著述家のEdward
A.Matunasが、エネルギーに基礎を置くより大規模な効力算出のための数式を開発した。彼はHatcherとは異なり、単一の実験結果では満足せず、より大規模な実験と、コンピュータを使ったモデル実験に基づいて、数式を作った。これらは多数の口径と弾薬に関して行われた。ただ、これらの研究の結果生まれた「Relative
Incapacitation Index」(「RII」)は、アメリカで好まれるいくつかの弾薬しか対象としておらず、不完全なものだった。その上、「RII」算出のためには並外れて大きな出費が必要だった。
Matunasは同じ1984年のうちに、この問題を改善した計算式、「Power
Index Rating」(「PIR」)を発表した。この公式はオリジナルでは以下の内容だった。
V2 × ET × B
(2)PIR=――――――――×D
12111
Vは弾丸の命中時の速度(単位フィート/s)、ETはエネルギー伝動値(「energy transfer value」)と名付けられたもの、Bは弾丸の質量(単位グレイン)、Dは口径値(「diameter value」)をそれぞれ示す。分母の12111はMatunasが自分の考えにより必要十分と考えた弾薬(.38スペシャル鉛ホローポイント弾)を、基準となる数値100とするためのものだ。
Matunasはこの数式で、速度の二乗と質量を掛けている。この結果、明示的にエネルギー計算式が内包されてはいないが、彼の効力判断基準となる数値の基礎はエネルギーであるということになる。エネルギーという概念(単位はジュール)を使用すれば、(2)の数式は次のように書き換えられる。
(3)PIR=0.02473 × E ×ET ×D
Matunasは「エネルギー伝動値」を次のように定めた。
ET | 弾丸の性質 |
0.01 | 命中によって横断面積が拡大する弾丸 |
0.0085 | 変形しない弾丸のうち、先端部の面積が少なくとも弾丸の横断面積の60%あるもの |
0.0075 | その他全ての変形しない通常の弾丸 |
「エネルギー伝動値」では、弾丸は3つのクラスに分類されている。すなわち、人体に命中することによって変形が予想される弾丸、先端が平らだが変形しない弾丸、その他全ての通常弾の3つである。
ある弾丸が人体への命中によって変形するか否かという問題に関しては、Matunasは濡れた電話帳への試射を行って決定した。これは、同じ目的で行われる水への試射より不正確であるが、この場合実用上同等である。
口径を考慮するにあたり、Hatcherが弾丸の横断面積を採用したのに対し、Matunasは口径の数値を口径値として採用した。
D(口径値) | 口径の範囲(mm) | 口径の範囲(インチ) |
0.80 | 5.05〜6.33 | .200〜249 |
0.85 | 6.34〜7.60 | .250〜299 |
0.90 | 7.61〜8.87 | .300〜349 |
1.00 | 8.88〜10.14 | .350〜399 |
1.10 | 10.15〜11.41 | .400〜449 |
1.15 | 11.42〜12.69 | .450〜499 |
Matunasは、この数式により算出した「PIR」を判定する次のようなリストを作成した。
PIR | 効力 |
24以下 | 不適格 |
25〜54 | 命中箇所によっては役に立つ |
55〜94 | 充分な場合もある。ただし実用上しばしば不充分 |
95〜150 | 理想的 |
151〜200 | 非常に効果的 |
201以上 | 強すぎる |
エネルギー伝動値、口径値、そして判定リストは言うまでもなく多分に主観的なものである。注目すべきなのは、Matunasが判定の中に「強すぎる」というものをも入れていることだ。ハンドガン領域の効力においてこれは無条件で当たり前として済まされることではない。
変形弾を単に「形の要因」としてのみ考慮に入れたHatcherとは異なり、Matunasはシミュレーション(水で濡らした電話帳への試射)を行って弾丸の変形を実験的に決定した。ただ、いずれの効力判断基準にも、ある重大な不足部分がある。彼らはもっぱら弾丸のデータ、およそのび弾道学上のデータのみによってその価値を決定した。HatcherもMatunasも、その目的はまさに結果的に得られる効果であるにもかかわらず、それを決定するのに少なくとも弾丸自体と同じくらい大きな役割を演じる要因を考慮に入れていない。
これまでに論評した全ての効力判断基準には、ある重大な欠点がつきまとっている。媒体(人体の組織)および侵入した弾丸による影響という2点が実際上考慮されていないのである。このことは、弾丸の効力および危険性をよりリアルに調査できる代替素材を探すきっかけになった。
Weigelによる木材を使ったモデル実験
弾丸の効力を、ある媒体への侵入深度と結びつけた最初の判断基準は、有名なドイツの弾道学者にして著述家のWolfgang
Weigelが「Handbuch der Faustfeuerwaffen」(ハンドガンハンドブック)で発表したものだ。エネルギーおよび運動量という物理学上の裏付けに加え、彼はハンドガン用の弾丸の侵入深度を乾燥した節のないモミ材に撃ちこむことによって見積もり、実験データと比較するという試みを行った。これにより、正しい、そして複雑な侵入深度見積もりのための数式が作られた。ついで代用となるより単純な数式が作られ、実際上大きな誤差がなく、使用に耐えることが確認された。彼はこうしてハンドガン用弾丸のモミ材への侵入深度X(単位mm)を次の公式で示した。
m × V(1.5乗)
(4)X=0.298 ×―――――――――
d2
(頑住吉注:「2」は検索して行き着いたサイトからコピーしてきたものですが、Vの1.5乗というのは表現できませんのでごめんなさい。意味は分かりますよね。)
mは弾丸の質量(単位g)、Vは命中時の弾丸の速度(単位m/s)、dは口径(単位mm)をそれぞれ示す。0.298は導かれる数字を最適化するためだ。侵入深度を考慮に入れて初めて、これと弾丸の横断面積を掛けることにより弾丸の侵入で生じた穴の理論上の容積が決定されることになる(この際、弾丸が侵入によって砕けたり、変形したりといったことはないと仮定する)。円柱の体積の計算式により、穴の容積Y(頑住吉注:原文では「穴の容積」をボリュームにあたる単語の頭文字を取って「V」としていますが、速度のVと紛らわしいのでYに変えます。)は
Y=X × π × d2/4
となる。これに(4)の数式を加えて整理すると、
(5)Y=0.234 × m × V(1.5乗)
という数式が導かれる。
この、弾丸の侵入によって生じた穴の容積がその弾丸の効力を決定するというWeigelの考えは、未来の傷弾道学の重要なファクターを先取りするものだった。彼はまたこの数式を物理学的に根拠づけるための研究を行うとともに、エネルギーと運動量の両方とも効力決定に関与すると考えた。彼は幾何学的手段も用いて、ある弾丸が木材にどれだけの穴を開けるかを計算する一定の公式を作った。
Weigelはこれに際しエネルギーと運動量の積を取り入れたが、言うまでもなくこれは物理学的見地からすればナンセンスである。だがこのことはWeigelのアイデアの価値を決して減じるものではない。
弾丸の効力を表す妥当な数値を得るために、Weigelは弾丸の侵入によって生じた穴の体積(単位cu)を使った。すなわちWeigelによれば、効力Wは以下の数式で表されることになる。
(6)W=0.000234 × m × V(1.5乗)
mは弾丸の質量(単位g)、Vは命中時の弾丸の速度(単位m/s)を示す。一目で気づくことだが、Weigelの公式も、これまで論評した全ての公式同様、弾丸の弾道学的データのみに依存している。だが、Weigelのそれには他にはない大きな長所がある。すなわち、彼は弾丸の侵入深度を乾いた節のないモミ材への試射によって実験的に決定し、これを取り入れたという点である。
彼の論からは、必然的に次の数式で効力が計算できることになる。
(7)W=X × π × d2/4
侵入深度Xおよび口径dの単位にはcmを用いる。ターゲット内部でのエネルギーの発散は明示されていないが、自動的にこの中に含まれることになる。数式(6)は侵入深度の予想に使用できる。
Weigelによる効力の数値には、従来言及したものにはない長所がある。それは、素材と侵入した弾丸両方の影響を考慮に入れているという点である。しかし同時に使用した木材はその密度、粘り、弾力など多くの物理学的特質が人体の組織とは大きく異なるという問題も抱えていた。
ある素材を使うことによって、弾丸の効力や危険性を調べることができるというアイデアは、前世紀後半を通じて大きく発展した。そしてこれに使用するさまざまな素材の適性が調査研究された。
ごめんなさい。正直ちょっと私の理解の範囲を越えました。
「Power Index Rating」(「PIR」)に関し、(2)の公式に.38スペシャルのデータを入れて計算すると、100に近い数字が出て納得できます。ちなみにかなり特殊なハンドガン用弾薬として5.7mmx28(P90、ファイブセブンピストルの弾薬)のデータで計算すると(この弾薬は変形しませんが、転倒してエネルギーを発散するということで「横断面積が拡大する」としています)、118という数字が出て.38スペシャルより上で「理想的」という範囲に入ります。私は個人的にこの弾薬の効力に疑いを持っていますが、ここまではいいとしましょう。しかし、エネルギーの概念を使って書き換えたはずの(3)の公式にデータを入れてもはるかに小さい数字にしかなりません。私の計算だと「0.02473」にあたる部分には「27.43」ぐらいの数字を入れなくてはならないんですが。どこか間違っているんですね。また、私には
Weigelの(5)(6)(7)の数式の関係がよく分かりません。というわけで内容的に私の理解の範囲を越えている以上、かなりの部分に間違いがあると思います。ただ、全体の論旨はおおよそ理解できていると思います。
前回までの話では、弾丸の効力を決定するのはエネルギーの大きさと、それをいかに人体に伝達させるかである、という話になっていくと思われたんですが、今回の後半からちょっと違ってきました。エネルギーを基礎とする効力の判断基準、「Stopping
Power」と「Power Index Rating」が示されていますが、確かにこれではおおざっぱすぎますよね。弾丸の種類が前者では5種類、後者では3種類しかなく、いずれの基準でも極端に変形しやすい「EMB−A」も、比較的変形しにくい「アクション4」も、また非常に変形しやすい旧シルバーチップも、比較的変形しにくい現在のシルバーチップも、全て同じ条件で計算されることになってしまいます。これをどんなに細分化していっても必ず無理は出ますし、主観が入ります。
そこで対象物に開ける穴の大きさで効力を決めようという話に変わってきました。エネルギーはこれを行う原因に過ぎないというわけです。で、この種の効力判断基準の初めてのものとして
Weigelのそれが登場しているわけです。 Weigelは人体に開ける穴の容積で効力を決めようとしました。しかし、
Weigelのそれも弾丸の変形を計算に入れていないという点で明らかに不完全です。
Weigelは侵入深度を実際に調べなくても計算できる式を作りましたが、当然実際にやってみた方が正確です。また、実験素材としては木の板より人体に近い素材が望ましいというのは当然です。そこで次回は「Wasser,
Gelatine und Glyzerinseife sind Simulanzien」という内容です。「水、ゼラチン、グリセリン石鹸がシミュレーション素材である」という内容のはずです。人体に近い実験素材を使って、どれだけの容積の穴を開けるかを実際に実験すれば、全ての弾丸の効力が正確に判定できるんでしょうか。まあそう単純ではないでしょうね。次回はたぶん数式は少ないと思うんですが、理解しやすい内容であることを祈ります(笑)。