2.8.4 ガス圧によるロック解除(ガス圧ローダー)

 いわゆるガス圧ローダーの場合、閉鎖機構のロック解除は火薬の燃焼ガスによってもたらされる。このガスはチャンバーの前方、バレル内面からバレルの穴を通って仕事実行のためにシリンダー内に導かれたものである。ピストルにおいてはこの構造は非常に稀に使用される。Husqvarnaは9mmパラベラム弾薬仕様のガス圧ローダーピストルを普及させる試みを行っている。これはミリタリーピストルとしてコンセプトされている。目下(1982年)唯一生産されているガス圧ローダーピストルは、Wildey J. Mooreによって設計された(U.S.パテント ナンバー3988964 1976年)。

 ガス圧ローダー銃の原理(ただしこの場合火薬ガスの圧力で装填されるのではなく、ロック解除されるのであるが)は図2.8.11を使って説明したい。a)はこの銃のこの場合に興味深い領域の部分断面図を示している。バレル(4)は閉鎖機構ケース(2)にねじ込まれており、閉鎖機構ケースはフレーム(1)上に固定されている。 閉鎖機構(3)は閉鎖機構ケース内に配置されている。スライド(9)はバレル方向にスライド可能にノッチを使ってフレームと結合され、閉鎖機構ケースを包んでいる。バレルはチャンバー前方に横穴を備え、これはバレル内面をリング状のシリンダー(8)と結合している。このシリンダーはバレル外面とリング状ピストンから形成されている。横穴(7)はバレルにかぶせる形でねじ込まれた調節ネジ(5)によって多く、あるいは少なく封鎖できる。このため火薬ガスの流れの抵抗は弾薬のガス圧次第でロック解除の必要に合わせることができる。

 発射の際弾丸が横穴を通過してしまうと、高圧ガスが仕事シリンダー(8)内に流入する。そしてピストンを押し動かし、これによりスライドを後方へと押し動かす。この際閉鎖機構(「あやつるカム」(10)上でスライドの「あやつるノッチ」と結合されて位置している)が左へと回転させられ(割線CC)、閉鎖機構ケースとの結合が解かれる。そのロック解除後((b)および割線DD)、閉鎖機構はスライドとともに(図示されていない)ストッパー位置まで後方に滑る。(同様に図示されていない)復帰スプリングはその後、閉鎖運動を結果として引き起こす。この場合も弾薬がマガジンからチャンバーに導かれ、改めてロックが行われる。







図2.8.11 ガス圧ローダーの部分断面図(システムWildy Moore)


 最初に出てきた9mmパラベラム弾薬を使う軍用ピストルというのは全く知らないもので、検索したらこんなページが見つかりました。

http://airbornecombatengineer.typepad.com/airborne_combat_engineer/2006/04/carl_gustafs_9m.html

 ここによれば1968年にスウェーデンのカールグスタフ工場で作られたとされています。ストライカー式でスライド内に別パーツのボルトを持ち、ウィルディに影響を与えたとも見られるそうです。写真が不鮮明ですが全長207mmと表示されているようですね。たぶんバレルを固定することで命中精度を向上させることができるなどのメリットを狙ったんでしょうが(ただしバレルに穴を開けるのも命中精度にマイナスのようです)、こんな昔から試みられていながらガス圧作動式の9mmパラベラム軍用ピストルが全く成功していないことから見て、このクラスのピストルに向かない作動システムであることは間違いないでしょう。ただ、どういう理由でダメだったのかはよく分かりません。設計次第ではショートリコイルと大差ないコストに抑えることもできそうに思えますし、バレルに穴が詰まってしまうので鉛弾が使えないという欠点は軍用の場合問題にならないでしょう。マグナムピストルやライフルでは成功しているわけですからガス圧が足りず、うまく作動させるのが難しかったということでしょうか。それにしてもナチ・ドイツ末期のフォルクスストゥルムピストル並みに粗末な印象を与える外観ですね。

 この筆者はウィルディが「目下(1982年)唯一生産されているガス圧ローダーピストル」であると記述していますが、この頃はすでにデザートイーグルの.357バージョンは生産されていたようです。まあ余り普及していなかったのは間違いないでしょうが、それならウィルディだって「普及していた」と言うにはほど遠かったはずです。

 作動システムはレイアウトが異なるだけでウィルディもデザートイーグルも、そして多くのガス圧作動式ライフルも同じです。バレルとボルトはロックされ、ボルト前面に圧力がかかってもボルトは後退できませんが、スライド(ライフルの場合ボルトキャリア)を引くとロックが解けてボルトが後退できるようになります。弾丸がバレルを一定距離進むとバレルの穴を通過し、ここから導かれたガスがピストンを動かし、これと結合されたスライドを後退させるわけです。デザートイーグルの場合ピストン、シリンダーがバレルの下に独立して存在しますが、ウィルディの場合はバレルがピストンを兼ね、シリンダーがバレルを包むような形で存在しています。文中では「ガスが〜ピストンを押し動かし」となっていますが実際に動くのはシリンダーの方で、これは別に珍しい特徴ではありません。ウィルディの場合シリンダーが短距離急速に後退してスライドを押し下げた後に停止し、スライドが慣性でフルストローク後退するようになっており、ショートストロークピストンならぬショートストロークシリンダーといったところでしょう。

 デザートイーグルの人気にははるかに及ばないようですが、ウィルディはいまだ健在です。

http://www.wildeyguns.com/index.html

 この公式サイトでは迫力ある動画も見られますし、銃の説明をしているのはWildey J. Moore自身です。

 さて、この本における作動システムに関する解説はここで終わり、次回からはさまざまな構造上の特徴に関する解説に移ります。最初はまずオートピストルの分解方法の分類からです。






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