航空機矢

 「Waffen Revue」2号に、本格的な航空爆弾が登場する以前に航空機から投下された矢状の兵器に関する記事が掲載されていました。


航空機矢

 各国の軍部は最初の有用な航空機の開発時にはすでにこの新しい技術的成果に興味を抱いていた(頑住吉注:ライトフライヤーによる初飛行は1903年)。彼らは従来使われていた飛行船に対する航空機の優位性を理解していたし、可能な軍事利用について考察していた。まず最初航空機は地上の偵察用、および対飛行船戦闘用と考えられた。1910年にはすでに航空機からの投擲体を使って飛行船と戦う試みが行われていた。そして1911年、フランスの大企業Michelinが新しく設計された爆弾投下器具を使った試みを開始した。

 航空機を危険な戦争の手段へと発展開発する、また航空機に兵器を装備する全ての試みはゆっくりとしか当初の段階から脱しなかったので、1914年における第一次世界大戦勃発の際、機上兵器としてはリボルバー、カービン、そしていわゆる航空機矢だけが使用できる状況にあった。1918年になって初めて全ての実用航空機にマシンガンが装備された。

 だがフランスによって初めて実戦使用された航空機矢は意外にも非常に短時間で、行進する、そして機械化された縦列に対する戦闘のために非常に効果的な手段であると判明した。異例なことにフランスが初めて使用した航空機矢は矢に刻印された文字が示すように、戦争前にドイツで製造され、フランスに供給されたものだった。

 こうした航空機矢は外形上クロスボウの矢に似ていた。航空機矢はさまざまな形状、寸法、重量を持っていた。以下に最も多用されたタイプ群を示す。



 図1はまず初めにフランスによって投下された矢を示している。この矢は「Fabr.Allem.Inv.Franc」、つまり「ドイツで生産され、フランスに輸入された」との刻印を持つ。この矢は頑丈な鉄製で、重量は19gである。直径7.5mmの重い先端部はシャープになっており、 ここにリップの厚さ0.5mmの、十字型の横断面を持つより軽い部分が隣接している。全長は120mmである。リップは後に開発された航空爆弾と同じ形状を持ち、先端を下に向けて垂直に命中することを可能にする意図だった。

 図2は全く異なる形式を示している。この場合重い先端部にスプーン状のシャフトが溶接され、これが同様に垂直な命中を可能にした。頭部の直径は8.2mm、シャフトの直径は3.1mm 、全長は132mm、重量は21gである。

 図3のタイプは重い先端部が薄い金属板製パイプに15mmはめこまれている。この薄板ジャケットは先端部上の誘導部内に緩く位置しているだけなので、空気の流れの中で軸をめぐって回転できる。直径は7mm、全長は136mm、重量は18.5gである。
 次の矢の場合落下時の安定は薄い鉄のリップで行われるよう意図されている。図4のタイプはリップの厚さが1.4mmであり、左にひねりが加えられている。全長は135mm、頭部の直径は9.6mm、重量は23gである。

 図5のタイプは右にひねりが加えられたリップを持ち、矢全体はいくらか細い。全長は140mm、頭部の8mm、重量は21.5gである。
 図6のタイプのリップは中央にスリットを持っている。これが落下中の振り子のような振れをもたらす。全長は132mm、頭部の直径は10mm、リップの厚さは1.8mm、重量は27gである。

 こうした、そして似た形状で、航空機矢は全ての第一次世界大戦の交戦国によって投下された。こうした矢が、特に高い高度から投下されたときいかに危険だったかは、その命中速度がしばしば200m/s 以上になったことを考慮に入れれば正当に評価されうる。こうした矢は葉巻のような状態で、それより大きなコンテナに入れて、あるいは航空機の胴体の下に収納され、操縦者あるいは観測者によってレバーの引きを通じて投下可能だった。操縦席から単純に手によって束状に投下されることもしばしばだった。この兵器は危険であり、攻撃を受ける側はこの投下をたやすく見ることはできず、たいていはこのこの矢が一直線に打ち込まれた時になって初めて気付いた。

 航空機火矢は全く異なる方式だった。我々は図7にオーストリアの「1kg火矢(B.P.1)」 を見る。これは点火しやすい物体を燃やすために使用された。藁またはこけら板製の屋根を備えた建物、また弾薬およびガソリンの保管場所は特別適していた。この矢は安全バンドを注意深く外し、摩擦点火装置を力強くもぎ取った後、低空飛行する航空機から手で投下された。この矢は2つの照明星を焼夷剤の核として持ち、この周りに焼夷剤が収納された。燃焼は10秒後に起こり、約3分続いた。つまり湿った藁屋根に点火するにも充分長かった。航空機に搭載される梱包木箱内にはこの矢が25発収納された。



図7

(頑住吉注:「照明星」と言うのはたぶん通常地上から打ち上げる照明弾のことで、これを点火装置として流用したということだと思います。本体は布袋で包まれており、安全バンドを外して上の縛られていた部分がフリーになって筒状に伸び、空中姿勢を安定させるようになった後、紐のもぎ取りによる摩擦で点火し、10秒の遅延を経て照明弾に点火され、焼夷剤に燃え移って約3分間「焼夷穴」から炎を吹き出し続ける、ということでほぼ間違いないでしょう。先端にスパイク状のものがあるのは藁や板で葺いた屋根に突き刺し、この状態で横方向に炎を吹き出すことによって確実に着火しようという意図だと思われます。低空飛行機から落としたのでは屋根を貫通するのは難しいと思われますし、バウンドして地面に落ちてしまったのでは確実な着火は得られませんから)

 急行する消防隊を追い払うため、そして消火を妨げるためには別の器具が着想され得た。例えばオーストリア人はハンドグレネードのような効果を持つ「1kgカーボネイトボム」(C.B.1)を持っていた。図8は我々にこの、まだ矢に似た爆弾を示している。この矢も手で航空機から投げられた。より正確に言えば投下直前に安全ピンを抜く必要があった。約200mの落下道程後に安全装置の解除が行われ、衝突時に爆発が起こった。「風見」がこの爆弾がファイアリングピンを下にして命中するために役立ち、これにより炸裂カプセルが作動することができた。炸薬は120gのTNTおよび硝酸アンモニウムからなっていた。



図8

(頑住吉注:うーん、これは説明不足ですが、こういうことではないでしょうか。「風見」は吹流し状のもので、となればそもそもこの図は落下する際とは上下が逆のはずです。恐らく安全ピンはプロペラを固定しており、さらにプロペラにはネジ状の部品が付属していてファイアリングピンを固定しています。安全ピンを抜いて落とすとこの爆弾はプロペラを下にして落ちます。落ちる際空気抵抗によってプロペラが回り、約200m落下するとプロペラが脱落してファイアリングピンをフリーにします。この状態でファイアリングピンを下にしてターゲットに命中するとプライマーを突いて発火させ、炸薬が爆発します)

 ここで締めくくりとしてさらにイタリアの航空機焼夷矢に解説を加える。これには2つの型(旧型および新型と呼ばれる)がある。図9は我々に旧型の3つの外観を示している。主要な差異は取るに足りない構造上の変更にではなく、旧型は真鍮製の頭部を持ち、一方新型では(恐らく素材不足とこのために真鍮が必須ではなかったため)頭部が鉄製だという点にある。



図9

 真鍮製の先端部を持つ旧型の場合、直径26mm、長さ76mm、重量約145gの矢尻部だけでなく焼夷剤容器を受け入れるシャフトパイプも真鍮で作られている。このシャフトパイプは肉厚0.5mmである。そのジャケット表面には幅4mm、長さ78mmのスリットが3本フライス加工されている。このシャフトの後部、すなわち図で右端にはプライマー受け入れ用のチャンバーボーリングが備えられている。この銅製のプライマーは直径約6mmで、内部に薄い真鍮板から引き延ばして作られた「金床」が入れられている(頑住吉注:「ニードルガン用およびセルフパッキング一体弾薬」参照)。つまりこのため散弾射撃用に普通に使われているセンターファイア紙製弾薬と全く等しい点火装置が備えられていることになる。この「金床」はその最低部位置に長さ3mm、最大幅1mmの楕円形の点火穴が2つ打ち抜かれている。このプライマー内には、ライフル用プライマーの場合普通であるような、適合して強化された点火薬量が入れられている。このイタリア製航空機矢の旧型の場合、壁面の弱い真鍮シャフトパイプ(同時に点火装置としてのファイアリングピン設備を受け入れる)の結合ネジに直接「あやつる尾」がねじ込まれている。この「あやつる尾」は中心に配置された真鍮パイプ(ファイアリングピン誘導筒)からなっており、ここに約0.3mm厚のブリキで作られた高さ30mmの「あやつるじょうご」が直径約45mmで開かれ、溶接されている。ファイアリングピン誘導筒の後端には閉鎖プレートが溶接され、その中央穴を通ってファイアリングピンシャフトが出ている。「あやつるじょうご」の内部と、この内部に位置するファイアリングピン誘導筒の後端は赤く塗装されている。一方この部品の外面は黒く塗装されている。ファイアリングピン誘導筒の穴には縦方向に動く、重量約15g のファイアリングピンが収められている。ファイアリングピンは旧型では太さ6.5mm、全長55mm(先端が丸められた円錐形の点火先端含む)のスチールシャフトでできており、高さ7mm、外径約10mmの真鍮製誘導ヘッドが前部にある。この真鍮製誘導ヘッドはそのジャケット面の片方に空気抜き穴を持つ。これはターゲットへの命中時にファイアリングピンにブレーキがかからないためである。

 ファイアリングピン後端には2mmのスチールワイヤーをリング状に丸めて作った取り扱いリングが位置している。このリングはその意図しない転倒を防ぐため取り付け穴の中に溶接されている。ファイアリングピンシャフトには太さ約0.9mmの黒染めされていないスチールワイヤーを巻いた(伸ばした状態で45mm、10巻)コイルスプリングがかぶせられている。ご注意ありたい。この場合これはファイアリングピンスプリングのような役割を持っているのではない。このファイアリングピン誘導筒の後ろの閉鎖プレートとファイアリングピンの誘導ヘッドの間で圧縮されるスプリングは反対にむしろ、ファイアリングピンシャフトによってグリップされている安全装置の意図しない脱落を防ぐ任務のみを持っている。1mm厚鉄板から打ち抜かれたこの安全装置の形状と配置は図10で分かる。この矢は前述の安全装置の他にもさらにファイアリングピンのための安全機構を持っている。つまり直径約1mmの柔らかい鉄線でできた「刈り取りピン」であり、ファイアリングピンヘッドの前に位置する。



図10

 点火方式は次のようである。航空機は発進前、もしくは意図しての投下前、ファイアリングピンをそのリング状操作グリップを持っていくらか引き出す。安全装置を解除し、そしてその後、前述の押しバネの影響下で再び前進させる。この際、安全装置の歯のためファイアリングピンシャフトに備えられている穴はファイアリングピン誘導筒内に完全に入る。この結果事後の、意図しない安全ピンの侵入は排除される。この際ファイアリングピンヘッドは刈り取りピンに直接あてがわれ、この位置においてプライマーとファイアリングピン先端の間の距離はなお約7mmある。矢がターゲットに命中するとすぐファイアリングピンは刈り取りピンを切断し、そしてプライマーを打撃する。前述のようにこの航空機焼夷矢の新型は旧型に比して素材上、そして構造上の細目においていろいろな注目すべき差異を示している。第1に、長さ75mm、直径約25mmという旧型の矢の先端の寸法は維持されているが、もはや真鍮から鋳造されておらず、鉄から鍛造されている。真鍮から鉄への素材の移行により、先端の重量は約145gから約118gに低下した。旧型の寸法がそれに応じて拡大されなかったためである(頑住吉注:ちなみに真鍮の比重は約8.4、鉄は約7.9だそうです)。焼夷剤筒受け入れのためのシャフトパイプは以前と同様にシームレスの真鍮パイプから作られているが、壁の厚さは1mmに増やされ、3本の縦方向のスリットの幅は3mmから1mmに縮小されている。シャフトパイプ後端にある金床付きプライマーの配置は原理的にはそのままだが、その収納部はもはや本来のシャフトパイプ自体の中にはなく、あやつる尾を搭載する結合パイプのためのネジ切り部内にある。これは壁の厚い真鍮パイプから作られた特別な結合部品であり、上の縦断面図から分かるようにシャフトパイプの後端が開放され、中央を貫通する真鍮製リベットで固定されている(頑住吉注:書き込み忘れちゃいましたが「Niet」というのがリベットです)。この結合部品にねじ込まれた、あやつるじょうごを搭載したファイアリングピン誘導筒は同様に真鍮パイプから作られている。しかしその後ろを閉じているのは今やアルミニウムから鋳造されたねじ込みキャップである。このキャップは中央にファイアリングピンシャフト通り抜けのため穴が開けられている。あやつるじょうごは旧型同様薄いブリキで作られ、寸法も元のままである。あやつるじょうごはファイアリングピン誘導筒のジャケットに溶接されている。この結合を強化するため、ファイアリングピン誘導筒のジャケットには後方からさらにリングがじょうご脚部にむかって押し込まれ、そこで同様に溶接されている。旧型の際に言及したあやつる尾部の塗装はなくなっている。平均重量15gのファイアリングピンは今や一体の鉄から作られている。打撃時に空気がクッションとなるのを避けるため、誘導ヘッドの表面両側には2本の排気ノッチがフライス加工されている。ファイアリングピンシャフトにかぶせられた押しバネはワイヤーの太さが1mmに増やされ、ただし伸びた状態でもはや約25mmの長さしか持たない(9巻き)。新型では刈り取りピンは1mmの真鍮ワイヤーから作られている。

 この新型において行われたシャフトパイプの強化(壁の厚さの増大、スリット幅の縮小)、特別にリベット留めされた結合部品を使った尾部品との結合の改良、リングを入れること、および溶接されたファイアリングピン誘導筒の閉鎖プレートのねじ込みアルミニウムキャップへの交換によるあやつるじょうごの確実な固定、これらの改良により、旧型において高い負荷がかかっていたこの部分の負荷が軽減された。このことから旧型では正確な点火を程度の差はあれ不確実にさせ、すぐさま不発弾を導く早すぎる折れや潰れが起きる可能性があったことが推定される。

 この両種類のイタリア製航空機焼夷矢は焼夷剤として直径11mm、長さ115mmの紙筒に入れたテルミット塊を使っている。この重量13.5gの焼夷剤筒を矢のシャフトパイプ内に入れるため、先端はねじ込みになっている。硝酸カリウム、硫黄等の追加剤を含む鉄テルミットからなるテルミット充填剤は重量12gで、これに重量0.65gの点火錠剤(過酸化バリウム?)が接続されていた。焼夷剤筒の誤った挿入(点火錠剤の端部がプライマーではなく矢の先端を向く)を妨げるため、この筒は正しい端部に赤い紙でできた特別なキャップを持っていた。

 こうした焼夷矢がその効果を完全に持っていたにも関わらず、これらは後により重い焼夷弾や炸裂爆弾に取って代わられた。


 一番最後に最も詳しく解説されているイタリア製の航空機火矢について補足説明します。ファイアリングピンはスプリングによって下降(図では左進)しようとしていますが、安全装置によって阻まれています。またこのテンションによって安全装置もこの位置に保持され、簡単にはファイアリングピンの穴から抜けないようになっています。使用前安全装置を解除してファイアリングピンをゆっくり前進させると「刈り取りピン」にあたって止まります。この状態で矢を投下し、「あやつるじょうご」と表現されている尾翼状の部品によって先端を下にして命中すると、本体は当然急激に停止します。一方ファイアリングピンは慣性によって前進しようとして「刈り取りピン」を「刈り取り」、つまりぶった切ってプライマーに当たり、発火させます。プライマーの下のパイプ内には紙筒に入れた焼夷剤が入っていて、プライマーから発せられたスパークによって発火、炎はパイプのスリットから外に吹き出すというわけです。

 最初に使われた、最も原始的な単なる矢状のものは、確かGUN誌の博物館めぐりのページかどこかにほんのちょっと触れられていたので存在は知っていましたが、それ以上のことはこれを読むまで不明のままでした。兵器というのがためらわれるほど原始的なものですが、命中速度が低速ピストル弾程度になり、材質が鉄、先端が鋭く尖っていて重量は銃弾よりはるかに上となれば非常に危険だったのもうなづけるところで、歩兵にはほとんど防御不可能だったはずですし、ソフトスキンの車輌内でも致命傷を負う可能性があったでしょう。。

 こうした矢の影響を受けた形状を持つ初期の航空爆弾、焼夷弾に関しては全く知らなかったので興味深かったです。










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