FN303レスリーサルランチャー

「Visier」2003年12月号にFNの新しい非致死ライアットガン、FN303に関する記事がありました。たぶん多くの人は形が思い浮かばないと思いますが、「FN303」で検索するといろいろな角度からの画像を見ることができます。


 ハノーバーにおける混沌の日、経済サミットをめぐる騒乱事件が起きた。暴力を辞さないデモ参加者たちに対し、もはや催涙ガスのみで対応することはできなかった。今、いくつかの警察署はFN303によって武装を強化している。
 
アメリカの接近戦専門家であり、警察、軍のライアットコントロールに関する顧問としても働いていたレックス・アップルゲイト大佐は「暴動は、それに適した武装によって、流血の惨事とすることなくコントロールし、解散させるべきである。」と語った。これは1968年からの学生騒乱時の発言であるが、1980年代に入って新しい意味を持つようになった。というのは、西ドイツで、最初平和的であったデモが次第に暴力的になり、原発に向かいこれを不法占拠するまでにエスカレートするという事件が起きたからである。連邦政府はこの結果大至急で新しい、距離を置いて使用できる、非致死兵器開発のための予算を立てた。この結果MBBによってある種の「ラケッテンベルファー」が開発された。
 他の国々ではもっと早く、似た問題をすでに克服していた。例えば英国の北アイルランド紛争、アメリカのベトナム反戦運動、人種暴動、刑務所暴動などに対応する必要があったからである。ゴム製の警棒や催涙ガスだけではそのような暴力犯の集団に対処することはできない。これらの国々では長年、このための新兵器が考えられてきた。着弾のショックで相手を失神させる「スタンガン」、口径37mmのゴム製の重い弾、鉛粉入りの袋、CSガスを発生する弾、散弾銃に使用するゴムの散弾などである。しかし1970年以後、こうした兵器によっても犠牲者が生じている。カリフォルニアでは1人の女性が鉛粉入りの袋で撃たれ、心臓の機能に後遺症を生じた。他のケースでは非致死弾ととりちがえてショットガンから実弾を発射してしまった。チューリッヒではある女性の不法占拠者がゴム製の散弾で失明した。1984年には北アイルランドで、警官を背後から鉄棒で殴ろうとした暴徒の1人がわずか2mの距離から37mmゴム弾によって撃たれ、死亡した。

新兵器への待望
 1994年、ベルギーのファブリックナショナル(FN)は、コソボやソマリアに展開する国連平和維持軍から、距離を置いて使用できる非致死兵器を要求された。5年後、このプロジェクトは略称XM303の名の下に最初のタイプが承認された。2002年ごろ、新しい「レスリーサルランチャー」FN303が発表された。こんなとき、あるサッカースタジアムで暴動が起きた。暴徒は凶暴ではあったが、こん棒、ナイフのみによる武装だった。このとき新ウェポンは新しい可能性を開いた。匿名の群集の中から首謀者のみを狙い、染料によってマーキングして逃走できなくすることだ。

ノーリスクではない 
 FN303は催涙ガスと通常火器のギャップを埋める存在だ。目下、2、3のヨーロッパおよびアメリカの警察署が装備しており、すでに成功例が報告されている。しかし、2003年3月、スイスにおいて女性デモ参加者の顔面に弾が命中し、後に残る傷を負わせるというケースが発生している。ジュネーブ警察がわずか5〜6mの距離で発射した結果で、弾は女性の頬の骨を折った。しかし、180〜220ジュールのエネルギーを持つ従来の鉛粉入りの袋、プラスチック弾などがこの距離で使われていたら、何倍もひどい結果になったはずである。FNは「決して顔、首、喉を撃ってはいけない」と強く警告している。

ダブルの効果
 FN303には2つの効果がある。まず、重い弾の命中そのものによる効果である。そしてさらに、カラーマーキング(洗い落とせるもの、落とせないものの選択可)およびOCガスによって効果を強めることができる。15mからの命中時29ジュールのエネルギーは犯人を確実にストップできる。頭、喉、首に命中した場合を除き、後遺症が残ることはない。近距離ならば、こうした部位を避けて撃つことは可能と思われる。
 弾は.68口径(約17.3mm)である。重量は8.5gで、着弾時に破裂するよう作られている。これはオーバーペネトレーションを避けるためである。弾の前部には鉛の顆粒が入っており、後部にはグリコールベースが充填されている。有効射程は散弾銃に使用するプラ弾が35m、鉛粉入りの袋が20mであるのに対し、50mと優れている。
 FN303にはさらに長所がある。非致死弾のみを使用することだ。散弾銃や40mmランチャーの場合、通常弾ととりちがえるおそれがあるが、FN303にはそうしたリスクがない。
 大胆な警官が軽ボディーアーマーを着用して撃たせるというデモンストレーションを行っている。着弾によって轟音がするが、ボディーアーマーにダメージは残らない。
 マガジンとボンベの操作が単純なのも長所だし、トリガープルも1800gと実用的だ。タンクは200気圧で充填され、これにより110発が発射できる。これは15連マガジン7個分と少々ということになる。オープンサイトを使っても命中精度は驚くほど高い。ピカティニーレールがついているのでレーザー、ダットサイトも装備できる。付属品にはタクティカルスリング、6個のマガジン、15発の予備弾を収めたパイプ10本、予備ボンベが固定できるベストがある。通常のダイバー用ボンベと同じ施設、機材で充填できるのも経済的なメリットである。
 もちろんFNは軍での使用も視野に入れている。FN303のバリエーションにはM203 40mmグレネードランチャーと同じようにM16アサルトライフルに固定して使うものもある。

モデル:FN303レスリーサルランチャー
システム:圧縮空気使用によるセミオートマチック
口径:.68(約17.3mm) 弾の重量8.46g
装弾数:1マガジンに15発
圧縮空気ボンベ:200気圧 110発発射可能
初速:85〜90m/s
初活力:32.4ジュール
全長:740mm
バレル:250mmスムーズボア
重量:2700g(マガジン、圧縮空気ボンベは含み、弾は含まない)
その他:起倒式アジャスタブルサイト。ピカティニーレール。トリガーをロックするセーフティ。圧縮空気ボンベ、マガジン2個、スピードローダー2個、クリーニングキットつき。

(従来型ライアットコントロール弾薬に関するキャプション)
 レミントン「Modei−Pac」は警察用に開発されたプラスチック散弾の1つである。320個のポリエチレンの弾は非常に軽いので、バレルを出ると急激に減速する。マンストッピングパワーは3mでは絶大であり、3〜15mでも感心するに値する効果を示す。「フラッシュボール」は40mmランチャー用ゴム弾である。有効射程は7〜25mの範囲である。180ジュールのパワーはケガを負わせる危険がきわめて大きい。


 最初の方に登場している「ラケッテンベルファー」というのは普通ロケットランチャーのことですが、ここではドイツで開発されたライアットコントロール兵器のはずです。検索してみましたがどういうものか不明です。「スタンガン」というと高圧電流を流す護身用具を思い浮かべますが、ここで言っているのは非致死ライアットガンのことで、たぶんスティーブ・マックイーンの「ハンター」に登場したものではないかと思います。はっきり記憶していませんが、普通の銃の形はしておらず、粘土のような材質の弾を撃つものとして描写されていたと思います。最後のキャプションに登場している レミントン「Modei−Pac」は、単に普通の散弾をプラスチックのペレット(写真で見るかぎり弾は真球ではなくややいびつで、直径は4mmくらいのようです)に変えたものです。そういえば散弾銃に岩塩を入れて庭でいたずらをする高校生を撃つ婆さんが登場する映画もありました。「フラッシュボール」というのはこんな感じのものです。

 外部から見た写真しかないので一部想像をまじえています。プラスチック製で普通より長い40mm弾薬の形をしたものの後部に12ゲージ散弾の空砲を入れます。前部には球状のゴム弾が入っています。ゴム弾には何のつもりなのかわかりませんがバレーボールにそっくりなモールドがあります。この弾はM203ランチャーでも撃てるはずです。有効射程が「7〜25m」というのは7m以内ではあまりに危険すぎるので使用禁止という意味でしょう。
 こうした弾は近距離では非常に危険で、失明など重大な障害を負わせたり、殺してしまうこともありうるわけです。こうなると当局は世論に攻撃されることになりますし、場合によっては反政府運動を力づけたり凶暴化させてしまうおそれもあります。かといって催涙ガス等だけでは鎮圧できない場合もあります。そこでその間を埋める兵器としてFN303が開発されたわけです。また、通常火器に非致死弾を使用する場合は実弾ととりちがえる事故が考えられ、実際にこれが起きているという点も指摘されています。「そんなことはまずないはずだし、もしあってもそれはやった奴が悪い」と思う人も多いでしょう。確かに単純に両者を取り違える可能性はごく低いはずです。しかし例えば「緊迫した現場で実弾を装填する→事態の流動によって非致死弾でも対応できると判断、まずチューブラーマガジン内の実弾を抜いて非致死弾と入れ替える→チャンバー内の弾を抜こうとしたとき突発的に何かが起こり、それに対応する→それが終わり非致死弾による射撃を行おうとしたときには交換が終わっている気になって発射してしまう」、これは全くの例ですが、人間というものはときに(特に極度の緊張状態の下では)こういう間違いをするものです。FN303ならこういうリスクはなしで済むということになります。

 FN303は大部分がプラスチック製で、ストックはプラスチックのスケルトンですが折りたたむことはできません。マガジンは15連のドラムです。このマガジンの後部は透明で残弾が確認でき、パイプ状のスピードローダーで素早くリロードできます。上部には流行のピカティニーレールが装備され、アクセサリー類が装着できます。発射は圧縮空気で行います。200気圧の充填といい、ボンベの大きさや形といい、通常のダイバー用ボンベのための設備で充填できる点といい、昔アサヒファイアーアームズが販売していた「スーパータンク」によく似ています。セミオートですが、残念ながら発射システムについては説明も写真もなく、不明です。弾はこんな感じです。

 全体は透明なプラスチック製で、前部の半球状の部分に鉛の顆粒(直径1mmくらいのものが無数に)が入っており、後部には透明な液状のグリコールベースが入っています。私は車の運転はせず詳しくないので知りませんが、検索によるとブレーキに使ったりするようですね。ある程度重くして、オーバーペネトレーションを避けるため液体が入っているんでしょうが、何故グリコールベースなのかは書いてありません。この部分に染料や催涙ガスを充填した弾もあるということです。命中すると半球状の部分は砕け、深く貫通しないよう配慮されています。とは言っても30mの距離から厚さ1cmのパーティクルボード(木のチップを樹脂で固めた板)を貫通する力があり、15mの距離からなら犯人を確実にストップできるというのもうなずけます。イラストのように後部にはややツイストの入ったリブがあり、ショットガンのスラッグ弾のように空気抵抗で自転するようです。口径は17.3mmといいますから12ゲージ散弾よりやや小さいくらいです。初速は85〜90m/sですから電動ガンくらいですが、弾が約8.5gとはるかに重いのでエネルギーは30ジュールもあります。ミネアポリスファイアーアームズ社製「ザ・プロテクター」に使用された.32Protector弾薬が約32.4ジュールだったので、これとほぼ同等、通常使用される弾薬の中で最もパワーが弱い.25ACP、.22ショートあたりの約半分、鉛弾が撃てるハンドクロスボー「スティンガーマグナム」の約4倍、ハイパワーなエアソフトガンの約30倍のエネルギー量ということになります。有効射程50mというのは、弾の比重が比較的軽く、直径が大きいので空気抵抗で減速しやすく、これ以上の距離ではあまり高い威力が期待できないということでしょう。
 M16に装着するタイプというのは最初なんじゃそらと思いましたが、よく考えると非致死兵器のみで撃ってくる場合と、いつでも実弾を撃てる状態で非致死弾を撃ってくる場合とでは暴徒が受ける心理的圧力は全く違うはずです。特に国連平和維持軍が終戦後混乱が続いている地域で使用する場合などでは、本当に実弾を撃たなくては鎮圧できない事態に発展するおそれがある場合もあるはずですから、確かに用途はあるでしょう。
 日本の警察もピストル使用の条件が緩和されたとは言ってもまだまだ厳しいですし、個人的にはこれをどんどん緩めていけばいいというものではないと思っています。FN303を各パトカー、交番に1挺づつと各警察署に数挺くらい装備し、緊急時には躊躇なく使用できるようにしたらあるいは有効かもしれません。
 ただ、FN303は全体的に機能や用途に比してあまりにデラックスすぎるような気もします。一般に販売されるものではないので価格は書いてありませんが、たぶんかなり高価だろうと思います。これならペイントボールゲーム用の銃を改造してもっと簡単なつくりで安価なものができそうな気もしますが、どうなんでしょう。


  


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