計測された効力

「DWJ」2004年5月号に掲載された、Dr.Beat Kneubuehlによる連載の6回目の内容です。


シリーズ:効力と危険性の間 その6

計測された効力

前回の寄稿において、弾丸の効力と危険性を調査するための弾丸の「ふるまい」のシミュレーションには、ゼラチンとグリセリン石鹸だけが適している、ということが示された。どちらも効力を量的に訴えかける。

 生体組織に関するシミュレーション素材としての適性は、特に2つの判断基準に基づいて評価される。すなわち、天然の媒体と似た変形を起こすか否か、そして天然の媒体と等しい侵入深度になるか否かである。ゼラチン、グリセリン石鹸双方においてこれは満たされている。両方の媒体の中には量的に評価することができる弾丸の軌跡が残る。

効果と効力
 効力の数値化という問題に関して批判的に検討する前に、2つの点を明らかにしておく必要がある。まず、再度「効力」の定義を記憶から呼び覚ますことだ(DWJ2003年12月号)。そして次はさらにその上で弾丸の効果が一般にどのように達成されるかということを詳しく検討することだ。
 効力を測定する関係においては、常に弾丸の効果と効力を区別して把握することが重要である。ある射撃の効果という概念は、射撃およびその付随状況が人間の肉体に引き起こす反応であると理解されるべきである。それゆえに、効果は弾丸が命中してしまってからでしか現れることができないのである。したがって効果の個々の結果は制約されたものであり、またその瞬間の付随状況にも依存している。付随状況には命中点と侵入孔のコースも特に重要なものとして属しているが、弾丸を受ける人の肉体および精神的コンディションもまた含まれているのである。
 これに対しある弾丸の効力は効果ポテンシャル(潜在能力)、すなわち効果に寄与し得る最大の貢献を意味する。効力と効果は互いに確率の関係にある。より高い効力を持つ弾丸は射撃によってより大きな効果を達成する可能性が高い(適した命中点の位置を必要条件とする)。より小さな効力しか持たない弾丸は微々たる効果しかもたらさないと推測されるが、それでも特定の部位への命中によって、重い、命にかかわる傷を生じさせる可能性がある。
 それゆえに効力は侵入孔のコースおよびその他の効果を現わす付随状況からは独立した、弾丸の特徴的な固有の機能である。さらに言えば効力はより適したシミュレーション素材の助けを得てのみ計測することができる。これを行った後になって初めて、さまざまな弾丸の効力を比較したり、危険性を評価したりといった企てが可能になるのである。
 まず最初に考慮すべきなのは、弾丸が主要に追求すべき目的である。銃とそれに使用する弾丸は、本質的に攻撃と防御、および食料調達に使われる。双方のケースは本質的に区別される。前者では敵のそれ以上の行動を阻止することが意図される。後者では狩られる獣の即時の死が得ようと努められる。
 生物の肉体的損傷は、いろいろな方法で加えられる可能性がある。弾丸の場合、弾丸には機械的エネルギー(仕事をする能力)だけが存在するので、機械的損傷が中心である。他の可能性は、例えば催涙ガス、ペッパースプレー、毒物のような化学的手段の使用である。だが、銃や弾丸の効力との関係においてはより小さな価値しかない。
 というわけで、弾丸は組織の機械的な破壊を通じて作用する。これは組織構造内で機械的仕事が行われたときのみ結果として生じる可能性がある。そしてその機械的仕事がなされる可能性があるのは、機械的エネルギー(エネルギー=仕事をする能力)が存在する時のみである。射撃における唯一の機械的エネルギーの源泉は、弾丸とその運動エネルギーである。
 弾丸の持つ運動エネルギーそれ自体が破壊を引き起こすわけではなく、弾丸が失った、すなわち組織内に伝達されたエネルギー量だけが破壊を引き起こすのである、ということは明白である。エネルギー伝達のメカニズムは比較的複雑であり、参考文献(Beat Kneubuehl:「弾丸 2巻 弾道学 効力 計測技術」)で記述している。この認識は新しいものではないが、それでも常に疑問の提示がくりかえされてきた(DWJ2004年2月号の引用文参照)。

効力の計測
 効力は別のやり方でも言い表すことができる。すなわち、「効力とは組織内にエネルギーを伝達する弾丸の能力のことである」と。エネルギー伝達が行われるか、そして肉体がどのようにそれに反応するかは、いろいろなそれぞれ異なるファクターに依存している。この中で例えば侵入孔のコースは特に重要である。それゆえ、ある弾丸の効力の決定は、適したシミュレーション素材の中での弾丸のエネルギー伝達の計測と同じ意味である。
 だが、この際考慮に入れるべきなのは、弾丸がそのエネルギーを侵入ルートに沿ってコンスタントに伝達するわけではないという点だ。というのは、伝達はまず第一に2つの法則性に依存している。すなわち、「1、エネルギー伝達はその瞬間にまだ存在している弾丸のエネルギーに比例する」「2、エネルギー伝達は運動方向の中で影響を受ける弾丸の面積に反比例する」。(頑住吉注:1)
 弾丸のエネルギーは侵入孔にそって減っていく。そしてその面積は回転、変形、分解を通して変わる可能性がある。だからエネルギー伝達機能としての効力は、侵入ルートに沿って解釈されなければならない。この伝達機能はある特定の弾丸に特徴的であり、各弾丸にそれぞれの空気抵抗機能が存在するという事実に似ている。それゆえ、ある弾丸の効力は単純な数字では表現されない。
 このエネルギー伝達機能の決定のためには、「Martelの理論」の名で知られる物理学的法則を利用することができる。
 変形可能な媒体への弾丸の侵入の際にはマテリアルの「おしのけ」が行われる。この際に形づくられた侵入孔のボリュームは、消費されたエネルギーと比例する。この法則性は、変形できるマテリアル(粘土、石鹸)によって簡単に、そして非常に正確に実験的検証ができる。当然これはその形づくられた侵入孔のボリュームが弾丸の通過以後再び収縮してしまう種類の変形可能な媒体でも有効である。
 これらのことから、弾丸の通過によって変形したグリセリン石鹸の侵入孔は、エネルギー伝達機能を正確に写しとったものであると言える。だから、石鹸の侵入孔の侵入深度に沿ってのボリュームを計測することをもってエネルギー伝達機能の計測とするのに充分である。ボリュームを使って、伝達されたエネルギーを推論することができるし、その上侵入孔のボリュームの比率からエネルギーを算出(測定)することすらできるに違いないのである。すでにそれの持つエネルギーが知られている弾丸を石鹸ブロックに撃ち込み、そして形づくられた侵入孔のボリュームを調べることにより、比例ファクターが明らかになるという結果になるのである。
 ゼラチンの場合、侵入孔のボリュームの計測はいくらか困難度が高い。ゼラチンは弾丸の通過後、侵入孔が収縮するからである。ゼラチン見本には特徴的な放射状の割れ目が残る(DWJ2004年4月号写真2参照)。ダイナマイトノーベル株式会社(現在Ruag Ammotech)の研究室は、各横断面における割れ目の長さの合計が伝達されたエネルギーを表す(本来は侵入孔のボリュームが表す)ということを立証した。そこで射撃試験後にゼラチンブロックをスライスし、スライスされた各切片の割れ目の長さの合計を計測し、これにより同様にエネルギー伝達機能、そしてそれをもって使用された弾丸の効力が計測されるという結果がもたらされた。ゼラチンによる測定でも、その弾丸のエネルギーがすでに知られていることが必要不可欠である。これらの方法で手に入れたエネルギー伝達のコースは、侵入ルート上において視覚的に記録されたものなのである。これにより、グリセリン石鹸に生じた穴と似た形の、特徴的な線グラフができる。(図4および5)
 「侵入ルートごとに伝達されたエネルギー」という定義に直接的にのっとって、効力機能のための計測単位はジュール/cmということになる。侵入孔の特定位置におけるルート単位ごとの高いエネルギー伝達は、その弾丸がその位置において大きな破壊ポテンシャルを持つ、ということを意味する。
 石鹸でも、ゼラチンでも、その中の侵入孔は完全に再試験可能である。これにより、各弾丸の効力機能が分類される。不都合なのは、これらの機能の検証には非常に費用がかかるということであり、それゆえに実際上弾道学実験室のみに委ねられたままになっている。


 予想とだいぶ違う内容でした。大筋これまでのまとめに近い内容ですが、効力というものに関し、これまでの私の理解とDr.Beat Kneubuehlの考えが全く異なることが新たに明らかになりました。
 ちなみに「注1」の部分はいくら読んでも意味が分かりませんでした。文脈上「その瞬間におけるエネルギーの伝達は弾丸の横断面積に比例する」といった内容が入りそうなものですが、どうやってもそうは読めません(ちなみに横断面積は先端が鋭く尖っていても平らでも直径が同じなら同じですが、エネルギー伝達は異なるはずなので必ずしもそうはなりませんけど)。「弾丸の面積」というのもよく分かりませんが、「表面積」ならば弾丸が回転しても変わりませんから、やはり横断面積を指しているんでしょう。まあここは結局よく分からなかったわけですが、ここはエネルギー伝達のメカニズムに関する記述であり、理屈はどうあれ結果的にグリセリン石鹸に開いた穴のボリュームがエネルギー伝達を正確に写し取ったものなのだ、という主張ですから全体の論旨に影響はない、ということでパスしましょう。
 Dr.Beat Kneubuehlによれば、効力とはエネルギー伝達能力のことであり、エネルギー伝達が大きいほど実際の効果を表わす可能性が高くなる、ということです。そしてこのエネルギー伝達能力は、弾丸の持つエネルギー量「〜ジュール」のように単純な数値では表わせません。実際にグリセリン石鹸を試射し、これを計測することによって、

 こんな線グラフができます。赤の線で表わしているのが効力で、単位は「ジュール/cm」です。青の線で表わしているのはエネルギーの累計で単位はジュールです。エネルギーの伝達と穴のボリュームは比例し、その弾のエネルギー量はあらかじめ計測できますから、その深度で何ジュールのエネルギーを伝達したかが分かるわけです。青の線は累計ですからいったん上昇したら上昇が止まることはあっても下降することはありえませんが、赤の線はその深度におけるエネルギー伝達ですからまあたいてい山形になるはずです。なお累計にどういう意味があるのかは書かれていません。この記事には、フルメタルジャケットとセミジャケットという2種類の7.62mmx51(旧NATO、.380ウィンチェスター)弾でグリセリン石鹸を撃ち、それを切開した写真と、それぞれを上のようなグラフで表わしたものが示されています。フルメタルジャケット弾は深度10cmを越えるまではごく小さなエネルギーしか伝達せず(要するに小さな穴しか開けず)、10cmを越えたところで砕けて大きなエネルギーを発散し、30数cm以後は複数に分かれて尻すぼみになっています。ちなみに明記されていませんが、たぶん分裂した場合は各弾片の伝達したエネルギーの和が問題になるんでしょう。一方セミジャケット弾は最初から大きなエネルギーを放出して8cmぐらいの深度がピークとなり、比較的ゆっくり尻すぼみになっています。赤のグラフは当然実際の穴(正確に言えば穴の上半分)に似た形になるわけです。この赤のグラフこそが効力である、ということで、ここには書かれていませんが、実際に50m、100mの距離からグリセリン石鹸を試射すれば、その距離における効力も表現できるわけです。
 そして、ゼラチンの場合はいったん開いた穴が収縮してしまいますが、後に放射状の割れ目が残り、この割れ目の長さを合計したものがエネルギー伝達と比例するので同様にグラフを作ることができる、ということです。私は前回人体と似た弾力のあるゼラチンに結果的に開いた穴が問題ではなく、最大時の穴が問題とされているのが意外であると書きましたが、その時点におけるエネルギー伝達が問題なわけですからこれは当然のことです。そして、弾力はむしろ邪魔なのに人体の抵抗と同じ反応を示すゼラチンが求められるのが何故か分からない、とも書きましたが、必要なのは人体と似た弾力ではなく侵入深度であり、これが異なると「この弾丸は人体の〜cmの深度で〜ジュールのエネルギーを伝達する」ということが言えなくなってしまうわけです。
 そして私は最初に大きなエネルギーを放出した後尻すぼみになる弾丸と、比較的長く一定に近いエネルギーを放出し続ける弾丸ではどちらが効力が大きいのか、という疑問を提示し、これを客観的数値としてランク付けすることは不可能であるはずだ、と指摘したわけですが、そもそもDr.Beat Kneubuehlはこういう考え方はしないわけです。効力は単純な数値で表わされるものではなく上のようなグラフで表わされるものです。したがって私の疑問に対しては、前者の弾丸は深度〜cmまでより効力が大きく、それ以後は後者の効力の方が大きくなる、という形できれいに(?)答えられるわけです。もちろんこれでは2つの弾丸の効力はどちらが大きいのか、という疑問には答えられないわけですが、そもそもその質問には正しい答えはない、ということでしょう。人体は非常に複雑であり、たまたまその弾が大きなエネルギーを伝達する深度に重要な臓器があった場合には大きな効果を表わす可能性が高くなるが、別の部位に命中した場合、また命中点は同じでも命中角度が異なるために異なるコースをたどった場合は大きな効果を表わす可能性は低くなってしまう、ということだと思います。何かごまかされたような気もしないではないですが、これはこれで合理的なひとつの考え方ですね。
 高度な専門家が結集して開発、テストされた「アクション4」の項目で、要求内容に「ゼラチンブロックに対する侵入深度は20〜30cmの範囲でなくてはならない。エネルギーの発散は最初の5cmでは1cmあたり30〜60ジュールの範囲でなくてはならない。」という内容がありました。また、「.17HMR」の項目ではゼラチンブロックを試射し、切開して割れ目の長さを測って比較し、「この結果は実際の狩りの経験とぴったり合っている。」という記述がありました。少なくともドイツでは効力というものを今回の記述のように捉えるのが一般的のようです。
 ただ、これはいかにもドイツ人的な考え方であるというか、「現実はそんなに理屈どおり割り切れんだろう」という気がします。この考え方からすれば、やはりグリセリン石鹸に同じ大きさ、同じ形の穴を開ける2つの弾丸の効力は等しいわけです。効力とはエネルギー伝達能力であり、その弾丸の持つエネルギー以上の伝達を行うことはありえませんから、.45ACPと同じエネルギーを持つ9mmパラベラム弾は伝達機能さえ工夫すれば効力も全く同じになるはずで、わざわざ装弾数が少なくなる.45ACPを好むアメリカ人は不合理だ、ということになります。本当にそうでしょうか。
 同じエネルギーを持つ弾丸でも、重い弾丸の方が撃ちにくい傾向があるのは何故なんでしょうか。撃ちにくい、つまり発射によってより強い苦痛を感じ、多くの射撃の続行が困難になる、というのはいわば射撃による(実際に現われた)「効果」、すなわちDr.Beat Kneubuehlの言うところの「射撃およびその付随状況が人間の肉体に引き起こす反応」です。例えばガバメント系の全く同じデザイン、重量の銃から9mmパラベラムと.45ACPを撃った場合、手に伝達されるエネルギーは同じであるはずです(初速の速い9mmパラベラムの方がピーク時に伝達されるエネルギーは大きいかもしれません)。それでも.45ACPの方が大きな「効果」を射手に表わすのは何故なんでしょうか。同じエネルギーを持つ弾丸の発射による反作用で、重い弾丸の方が大きな「効果」を射手に表わすならば、弾を受ける人にも大きな効果を表わす可能性が高くなる、ということはないんでしょうか。
 とまあ疑問は尽きないわけですが、Dr.Beat Kneubuehlの考えはこうなわけで、この先を読んでも答えはないでしょうね。まあ、簡単に答えが出るようなら世界の弾薬の種類はもっとずっと少なくなっているはずです。