2.11.6 グリップコッカー(頑住吉注:いわゆるスクイーズコッキング式の銃のことです)
ダブルアクションシステムとならんで、セルフローディングピストルの実戦使用準備性を高める他の可能性がまだ存在する。このうちグリップコッカーは興味深いグループを形成する。おそらく他のセルフローダーと比べてのより大きい設計上および製造上の負担が原因の1つとなっているのだろうが、1979年になって初めて、最初からグリップコッカーとして設計されたピストルがマーケットに登場した(H&K
P7)。当然グリップコッカーの場合も始まりはずっと昔にさかのぼる。例えばサベージのために働いていたElbert
H. Searleは1921年、グリップコッカー構造に関するあるパテントを手にした。コッキングレバーはグリップ前面に位置し、このレバーは銃を握った際、指によって閉鎖機構と平行に後方に押しこまれた。この運動によりスライドは後方に押し動かされ、ファイアリングピン発火機構がコックされた。最終位置に到達したとき、閉鎖機構は解放された。復帰スプリングはこの時スライドを前方に押し動かし、この結果弾薬がマガジンからチャンバーへ押しこまれ、ピストルは発射準備状態となった(「ガンズ アンド アンモ」誌、1977年2月号66、67、88、89ページ。筆者はB.
Miller。タイトルは「The Savage That Was Never
Made」)。(頑住吉注:「SuhlのFranz Burkardtによるワンハンドピストル」の項目でこれと大筋同じと思われる銃が登場しましたが、こちらは1922年にドイツでパテントが取得されています。いずれも後のP7とは異なり、チャンバーを空にして安全に携帯し、素早く射撃することを狙った、リグノーゼなどのアイデアに近いものです。ダブルアクションやオートマチックファイアリングピンブロックを備えたオートが一般化していなかった当時ならではのアイデアであり、P7のコンセプトとはだいぶ違います。いずれも少なくとも量産はされなかったはずです)
さらなるグリップコッカーの例がC. A. Ravilleによるコルトガバメントおよびコンバットコマンダーピストル用のCaraville
Double Ace装置である(頑住吉注: http://www.m1911.org/seecamp.htm )。このグリップコッカーは改造なしにピストル内に組み込むことができる。使用者はグリップセーフティ、コンプリートなメインスプリングハウジング、その固定ピン、ハンマーストラットを交換する。ピストルを握った際、グリップ背面に位置するコッキングレバーが押しこまれ、ハンマーがコックされる。
抜群に進歩的なグリップコッカー付きセルフローディングピストルがH&KのP7
である(頑住吉注: http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/H_K_P7.jpg )。部分断面図(図2.11.25)はコッキンググリップ(4)とコッキングレバー(5)を前方のレスト位置へ押すキックバネ(6)を示している。コッキンググリップおよびコッキングレバーは下部でフレームと関節結合されている。使用者がコッキンググリップを銃内部に押し込むと、コッキングレバーはその左上のノーズがレバー(7)によって保持されるまでいっぱいに右に回転させられる。この位置ではコッキンググリップを射撃位置に保持するのは小さな保持力で足りる。レバーがコッキングレバーに作用するスプリングの力の大部分を受け入れるからである。使用者がコッキンググリップを放すと、コッキンググリップはスプリング(6)によって左へと回転させられ、そしてその際レバー(7)を少し持ち上げる。これによりコッキングレバーは解放され、同様に出発位置へと復帰する。
図2.11.26は閉鎖機構なしのこの銃のファイアリングピンメカニズムを含むトリガーシステムを示している。コッキングレバー(5)は後部位置にある(コッキンググリップは押しこまれている)。コック部品(2)はコッキングレバーの上端に回転可能に収納されている。トリガーバー(1)はトリガーに関節結合されている。ディスコネクター(3)は1本の回転軸によってフレームに固定されている。閉鎖機構が閉鎖されている際、ディスコネクターの上の突出はスライドの削り加工部内をグリップし、トリガーバーがトリガーの運動をコック部品に伝達することを可能にする。
コッキンググリップを押し込んだ際、打撃部品のスプリングがコック部品によって圧縮され(接するのはファイアリングピン右サイドにあるファイアリングピンレスト)打撃部品はコックされる(図2.11.27)。トリガーを引くことによりコック部品のコックレストは下方に動き、ファイアリングピンを解放し、弾薬に点火される(図2.11.28を見よ)。使用者がコックされた銃を放すと、同時に発火機構がデコックされる(頑住吉注:「図2.11.27」、「図2.11.28」は全体の断面図ですが、複雑すぎるのでこっちで勘弁してください http://www.hkpro.com/p7m8.htm )。
グリップコッカーはダブルアクション銃と比較して、同じ初弾の射撃準備性がありながら常に等しいトリガーキャラクターを提供するという利点を持っている。
私はスクイーズコッキングシステムに関してはドイツ人らしい理屈先行のシステムで、少なくともエキスパートばかりではない警官や兵士一般にこうした銃を持たせるのには無理があると考えていますが、ここでは「DAと同じ即応性と常に等しいトリガープルを合わせ持つ」というメリットしか挙げられていません。これに対しては、「メリットばかりならどうして普及していないんですか?」としか言えないです。まあこれはP7が登場して数年、まだ評価が定まらなかった(P7が今後の銃の主流になるという予想も可能だった)時代に書かれた内容ですが、果たしてドイツ人は現時点においてP7をどう評価しているんでしょうか。ドイツ語版「Wikipedia」の内容を見てみることにしましょう( http://de.wikipedia.org/wiki/HK_P7 )。
H&K P7
ヘッケラー&コックP7はオールスチール構造方式のモダンなセルフローディングピストルである。この銃は口径9mmパラベラム弾薬を射撃する。
全般的情報 | |
民間での名称 | HK P7 |
軍での名称 | P7 |
実戦使用国 | ドイツ |
開発者 | ヘッケラー&コック |
開発年 | 1976年 |
生産国 | ドイツ |
生産時期 | 1979〜2005年 |
銃器カテゴリー | ピストル |
寸法 | |
全長 | 171mm |
重量(空マガジン付き) | 0.78kg |
重量(フル装填) | 0.95kg |
銃身長 | 105mm |
テクニカルデータ | |
口径 | 9mmパラベラム |
可能なマガジン充填 | 8発 |
弾薬供給 | 棒状マガジン |
効果的射程 | 50m |
発射速度 | セミオートマチック |
銃口初速度 | 350m/s |
ライフリングの数 | 6条 |
ライフリングの方向 | 右 |
サイト | フロントおよびリアサイト |
閉鎖機構 | ガスでブレーキがかけられた重量閉鎖機構 |
装填原理 | リコイルローダー |
作動方式
その作動原理からすればP7はロックされない、だがガスでブレーキをかけられる重量閉鎖機構を持つリコイルローダーである。この閉鎖機構タイプは、この銃が固定して組み込まれたバレルを持つという事実を伴う。このバレルは発射の際(他の場合普通な、ロックされるリコイルローダー、例えばブローニング閉鎖機構を持つHK
USP、コルト1911、FN-HP、スイングかんぬき閉鎖機構を持つワルサーP38、P1、P4、P5そしてベレッタ92Fとは異なり)、動かない。特にこの理由からP7は非常に高い命中精度によって際立っている。
発射の際チャンバー直前の穴を通って熱した火薬ガスの一部がバレルから分岐され、その下のガスシリンダーに導かれる。一方スライドはピストンを搭載しており、これがガスシリンダー内に突き出している。つまり弾丸がバレル内に存在する限り、ピストンには非常に高いガス圧がかかる。これが閉鎖機構をその最前部位置に固定する。弾丸がバレルを去ってしまった時になって初めて、バレル内のガス圧(そしてこれによりその下に並行に配置されたシリンダー内のガス圧も)は、リコイルショックのインパルスがスライドをその重量慣性に逆らって後方に動かせる程度まで下がる。つまり弾薬の圧力は圧縮ガス圧による銃の「ロッキング」をもたらす(実際にはむしろ遅延である)。HKの銃に特徴的なチャンバー内のガス負担軽減ミゾ(頑住吉注:フルート)はこの場合、発射の瞬間ガス気密状態に「結合された」薬莢を簡単に、そして信頼性を持って引き抜けることを保証する。‥‥エキストラクターのツメがいつか折れてしまったその後でさえなお。
後方へのそのルート上で閉鎖機構は空薬莢を銃から運び出し、引き続いての前方へのそのルート上でそのつど最も上の弾薬をマガジンから引き抜き、これをフィーディングランプを経てバレルのチャンバーに押し込む。トリガーのあらためての引きによってこの経過は繰り返される。マガジンが空になるとすぐ、閉鎖機構は最後部位置にキャッチされて留まる。
セーフティ
P7はそのグリップコッカーにより、唯一種のハンドコックシステムを持っている。これは銃が発射直前までデコックされていることを保証する。この理由からP7はどんな機械的セーフティも必要とせず、装填完了(すなわち1発の弾薬がチャンバー内にある)状態で危険なく携帯できる。グリップフレーム前面にはフィンガーチャンネルを持つ枠があり、射手が銃を手につかむとすぐこの枠は握られる。射手が手を握り締めると彼はコック用枠をグリップ内に押し込むことになる。‥‥そしてこの結果ピストルのファイアリングピンはコックされる。このことは明瞭にパチッという音によって聞き取れ、またファイアリングピン後端がスライド後端から突き出すことによって見て、また触って知ることができる。この時発射が可能であり、この銃の場合(DA/SAピストルの場合と違って)最初の射撃から最後の射撃までコンスタントなトリガーの重さを克服する必要があるだけである。このためすでに最初の射撃によって確実な命中を達成する見込みは他のモデルの場合よりも明らかに高い。
射手がグリップを緩めるとすぐ(あるいは銃を落とすと)、コック枠はスプリングの圧力下でその出発位置に跳び戻る。‥‥ピストルはこれによりすぐに再びデコックされ、完全に安全状態になる。この経過も明瞭なパチッという音およびファイアリングピンの閉鎖機構内への沈下によって気付くことができる。
シリーズ
そうこうするうちに多くのP7のシリーズもしくはバリエーションが存在している。
●HK PSP(いわば始祖) 口径9mmパラ、8連発、マガジンキャッチはグリップフレーム底部。
●HK P7(最初の公用型) 口径9mmパラ、8連発、マガジンキャッチはグリップフレーム底部、トリガーガード内にヒートシールド。
●P7M8 口径9mmパラ、8連発、マガジンキャッチはグリップフレームの親指の高さにアンビに配置、トリガーガード内にヒートシールド。
●HK P7 M13 口径9mmパラ、13連発、マガジンキャッチはグリップフレームの親指の高さにアンビに配置、トリガーガード内にヒートシールド。
●HK P7M10 口径.40S&W、10連発、マガジンキャッチはグリップフレームの親指の高さにアンビに配置、トリガーガード内にヒートシールド。
●HK P7 K3 口径.22lfb、7.65mmBr、9mmクルツ(交換バレル、交換マガジン、閉鎖機構スプリングがセット)、8〜10連発、マガジンキャッチはグリップフレームの親指の高さにアンビに配置(この銃の場合ガスブレーキなしのためヒートシールドはない)。
ここに挙げたバリエーションのうち、ヘッケラー&コック社は目下モデルP7M13のみまだ生産しており、残りのモデルは生産終了している。全てのタイプは中古マーケットで入手できる。
結論
P7モデルシリーズのヘッケラー&コックピストルはエクセレントな加工がなされ、非常に携帯しやすく、信頼性が高く、安全で命中精度が高い。そのグリッピングとコントラストのはっきりしたサイトは模範的なものに該当する。しかしこの銃はオールスチール銃として実に重い。だが第1には高い価格が生産を中止に導いた。そうこうするうちに多くの官庁がポリマーグリップフレーム付きのより軽く、そして特に安価なピストル諸モデルを手にしたからである。
公用銃
P7は長きにわたって連邦国境守備隊のGSG-9に採用されていたし、この銃は今日まだ多くの特殊部隊および国内外の警察組織の装備に含まれている。例えばバイエルン、ザクセン州警察のように。ニーダーザクセン州内の警察は最近になって初めてP7からHK
P2000に装備改変した。ドイツの野戦猟兵部隊の軍ボディガードはこれまで同様P7を運用している。ノルドライン・ヴェストファーレン州内の司法機関(刑務官)も同様である。
事故
保安警察における使用の中で何度かの事故があった(傷害そして死亡事故さえ伴った)が、これはグリップコッカーシステムの操作ミスが原因である。つまりコック枠を3本の指で押し込む間に(規則に違反して)指をトリガーにかけている者は、無意識に(反射的に)発射してしまう可能性がある。‥‥単純に人差し指が残りの指の押しを追ってしまうからである。トリガーを引いている際にコック枠を操作しても同じことが起こる。
しかしこの種の事件からP7が「安全でない」銃であるという結論を引き出すとすれば、それははなはだしい誤りである。その正反対が正しいのだ。
いつも自分たちの銃を使ってトレーニングしている特殊部隊の場合、訓練でも実戦でもP7を使った事故は知られていない。
依怙地と言うのか、この期に及んでまだりメリットばかりが強調され、多くのモデルが生産中止されたことや普及していない(ますます使用する公的機関が減っている)理由としては第1に高価であること、第2に重いこと、これしか挙げられていません。しかし私はこれは理由にならんと思います。もしこれが本当に優れたシステムで問題点がそれだけならば、プラスチックフレームを使用したより軽量で安価なモデルが開発されているはずでしょう。
わざわざ事故に関する項目を設けて使用者のミスが原因、これを理由に危険だと言う論は大間違い、とされていますが、やはり私は一瞬の差で生死が分かれる状況下で発射寸前までトリガーに指をかけるな、という安全規則を常に、そして全員に守れというのには無理があると思いますし、実際にこの銃を使って複数の事故が起きているのに「安全でない銃」の正反対、つまり究極的に安全な銃だというのは机上の空論だと思います。「非常に高いポテンシャルを持った銃であるがプロにしか使いこなせない」というのならまだ理解できるんですが。