グリズリーとピットブル変換システム

 少し前の記事ですが、「Visier」2004年10月号、「スイス銃器マガジン」ページに掲載されていたマグナムオートグリズリーと.45ACP用変換システムに関する記事の内容を紹介します。


ダブルパックのL.A.R.グリズリー

そのグリップ寸法は巨大であり、シルエットは取り違えようがない。その理由はグリズリーピストルが拡大されたガバメントだからである。そしてガバメントの使用弾薬は伝統的なビッグボア弾薬である.45ACPだが、それに対しL.A.R.グリズリーは.45ウィンチェスターマグナム(WM)弾薬と分かちがたく結びついている。この寄稿では.45WM仕様のグリズリーと、それに合わせられた.45ACP仕様の変換システムの両方が紹介される。

10mmAUTOと.45WM両弾薬を考察した場合、少なくともその発生史は似ている。というのは、スウェーデンの弾薬会社ノルマが彼らの10mmAUTO弾薬をダブルアクションピストルブレンテンの促進のためマーケットに導入した一方、アメリカの弾薬メーカーウィンチェスターは1979年以後、登場が予告されていたガス圧ローダーピストルウィルディに先んじて.45WMを登場させた。当時ブレンテンは失敗となり、ノルマは何年か後、アメリカの連邦警察FBIが成績の強化されたオート用弾薬を探しており、積み重なった弾薬の在庫を減らす助けになることを喜んだかもしれない。同様にウィンチェスターはこの弾薬を生産し、そしてウィルディの遅延した「大量生産に適するほど熟成されること」を待たねばならなかった。

 両弾薬の結末は知られている。10mmAUTOは結局望まれた範囲の普及ができず、「周辺弾薬」に留まった。それに対し、.45WMは、ウィルディの多かれ少なかれ不名誉な登場の後、結果としてシングルショットのコンテンダーピストルに回り道し、そしてその一時の故郷(囲み記事参照)を初めてアメリカ、ユタ州Jordan所在のL.A.R.Manufacturing Inc.に見つけた。さもなければこの「ピストルマグナム」用の銃(頑住吉注:ウィルディ)はレアだった。前述のコンテンダーとならんで、AMTオートマグWも同様にこの弾薬を射撃した。世界的に知られたSAリボルバーメーカーであるフリーダムアームスのベース弾薬.454カスール用の交換シリンダーも加わった。そうこうするうちにウィルディのビジネスが再開され、今年になって初めて「古い」.45WM仕様のガス圧ローダーピストルが新たに生産された(頑住吉注:今年というのは2004年です http://www.wildeyguns.com/)。さらに.45WM仕様のアメリカ製.30M1カービン改造モデルも登場した。このライフルの提供者はアメリカの会社LeMagである。

 弾道学者は.45WM弾薬のために、.45ACPのボクサー薬莢を7.60mm延長し、30.30mmにした。最大の信頼できるガス圧が2800バールと倍になるため、「Zundkanal」(頑住吉注:「u」はウムラウト。直訳すれば「点火導管」あたりで、プライマーから発射薬スペースまでのフラッシュが通る部分のことだと思います)周辺が強化された薬莢底部が要求された。主に230グレインの重さがある.45ACPのスタンダード弾丸がロードされた。ウィンチェスターもこれを本来フルメタルジャケット型でロードした。一方今日では260グレインの(スイスでは禁止されている)ホローポイント弾も提供品に含まれている。会社の申し立てによれば、5インチ長バレルから発射した場合、約1100ジュールのマズルエネルギーになる。私が使用した両弾薬はそれぞれ重量230グレインのCBC製VMSWCおよびH&N製TMJKS弾を装備していた。他に.45WM用に推奨される重量185グレインに始まって300グレインに至るまでの一連の弾丸が存在する。

 ある(ハンドガン)弾薬の性能がある新しい口径の価値を上昇させる(あるいは下降させる)ことはよくある実例である。だから.45ACPは世界的に受け入れられた「トレンド弾薬」に属し、同様に成績が上昇させられた「末端弾薬」がこれに属する。例えば、+P弾薬として(頑住吉注:ノーマルよりも)210バールまで高められたガス圧を持つものがある。しかしこれでも多くの人が要望する弾道学的マグナムフィーリングには達しない。問題打開のための方向性の極端な例は間違いなく、非常に大きな手を持つシューター向けの巨人ピストル用.45WMである。

 約20年前、すでにワシントン州シアトルのデトニクス マニュファクチュアリング社がスコアマスターという名前の自社のガバメントクローンでそれを試みていた。この銃は.451デトニクス弾薬用に調整され、これは.45WMの薬莢を23.90mmに縮めたようなものだった。.45ACPと区別する特徴としては、薬莢が1.10mm延長されていた。だが、ガバメントのスタンダードマガジンで足りるということが意図されたため、より軽い(そしてそれにより主に短い)上限200グレインまでの弾丸が必要となった。さもないと、つまりより重い弾丸を使うためには、薬莢の内部領域の底部を追加的に削らねばならなかった。リコイルが小さいことは別にしても、その他に軽い弾丸は得ようとつとめられた1000ジュールのマズルエネルギー、そして約400m/sの初速により問題少なく達することを可能にした。これは主としてハンティングに使用されるホローポイント弾のより確実な変形を約束した。しかし.451デトニクスは普及することができなかった。

 同様に.45スーパーも5インチ長バレルで約1000ジュールをもたらす(頑住吉注: http://www.realguns.com/loads/45Super.htm )。このより新しい弾薬の薬莢の寸法は.45ACPのままであるが、強化された底部と結びついている。許されたガス圧2500バール(.45ACP弾薬は1400バール)が想定されている。興味深いことに、銃器に適合させるためには基本的に他のリコイルスプリングとバッファーの付属するリコイルスプリングガイドのみが必要となる。.45スーパーも同様にジュール上の先端成績は軽量な弾丸によって達成される。少なくとも、アメリカのマーケットでは.45スーパーは確立されたものと見られている。アメリカでは特にテキサス アムニッション カンパニーが弾薬補給を行っており、テキサスのエースカスタムのような銃器チューナーがグロックモデル21や他の量産モデルをベースとしたコンプリートなピストル改造を行っている。.45スーパー用の提供品には、他にスプリングフィールド、パラ-オーディナンス、S&W、そして他のハンドガンメーカー用のいくつかのコンバージョンキットもある。

 さらに多いマズルにおける(そしてターゲット内における)ジュール数をもたらす弾薬の紹介でこの短い概観を終わる。それは.460Rowlandで、約1.6mm延長された.45ACP薬莢、他方では強化された底部をもって実用品として登場した(頑住吉注: http://www.realguns.com/loads/460Rowland.htm )。この場合交換バレルと強化されたリコイルスプリングを前提とする。他方では、この弾薬は.45スーパーに似て全長が.45ACPと等しく、だからマガジンは流用できる。発射薬の種類、量、弾丸重量、銃身長に依存するが、エネルギー成績は平均1200〜1300ジュールに達する。

熊印
 グリズリーピストルは堂々とした外観であり、ロングスライド型では10インチバレルと(ほとんど)同様に長いスライドにより、全長350mm、約1800gの空虚重量をもたらすことができる。最終的にいくつかの弾薬選択肢(.50AE、.44Magnum、.45ACP、10mmAUTO、.357Magnum)を示したように、この銃は全く多才なピストルであり、同じく.45WMをベースとして.357にネックダウンしたワイルドキャットボトルネック弾薬である.357GWMも使用できる。

 その視覚的なガバメントとの類似性とならんで、さらに交換可能な部品がその血統を強調している。というのは、49の部品がこれに該当し、たった10の部品が交換できないのである。これには当然バレル、フレーム、スライド、マガジンが含まれる。ちなみに2つの突起とリンクを持つ、ブローニングにならった閉鎖技術も同じである。つまり、ウィルディあるいはデザートイーグルといったライバルのようなガス圧ローダーではない。むしろユタ州の人(頑住吉注:メーカー)は重いスライドと強力なダブルリコイルスプリング、および充分計算して決められたプラスチックバッファーを使用した。

ピットブル変換システム
 グリズリー用に(少なくともドイツでは)依然としていくつかの変換システムまたは交換セットが入手できる。つまり、例えばピットブルのようなスライドを含むコンプリートセット、あるいはバレル、リコイルスプリング、エキストラクター、エジェクター、(一部は)スライドストップ、マガジンからなるキットである。その上チューニングショップでマッチの野心を伴うオーバーサイズの交換バレルも入手できる。しかし少なくともガンスミスによる専門家的なフィッティングが要求される。

 ピットブルシステムは(私の感じとしては)残念ながらその単純化されたデザインによって、グリズリーのオリジナルマークTスライドデザインとは明らかに異なる。固定サイトが加わり、まさに最高のものでないことを明らかにしている。3.7インチバレルが付属し、コンパクトモデルであることを示している。変換システムにはさらに特別なエジェクターが属している。より短い弾薬用の距離インサートつきACPマガジンは同様に7発装填できる。

実射
 全てのマガジンは問題なくロードできた。喜ばしいことに、これに属するマガジンは指にやさしく、シャープなエッジなしで済ませていた。同様に問題なくシステム変換でき、操作は充分知られているガバメントの分解組み立てから本質的に逸脱していない。唯一の(使用弾薬による)差はそれぞれのエジェクターである。これは射手が差し替えなくてはならない。ピン止めされていないエジェクターは1回落下したので注意すべきである。

 同じように注意すべきことに該当するのは、テンション下にある.45WMのリコイルスプリングである。スライドは慎重に抜かなくてはならない。

 グリズリー、そしてこれによりピットブルも、小さな手のためのピストルではないことは無視し得ない。mmで表現すれば、トリガーのコンタクト面からグリップセーフティの操作面まで、堂々たる76mmの距離が意識され続ける。確実な「吸い付くような」グリッピングは、少なくとも前面も包んだPachmayr Neopreneが保証する。スライドストップとレバーセーフティの操作面は延長され、そしてこれにより良好に届く。

 グリズリー/ピットブルはこの構成から期待通り.45ACP仕様のマッチガンにはならない。しかし、適した弾薬を前提として、最終結果は受け入れ可能なものにできる。当然比較上.45WM使用時には明らかにより強く握ること、「力の出費」が要求される。ただしこれらは障害フリーで射撃された。それにひきかえ、特にマグテックの.45ACPセミワッドカッター弾薬では供給障害が起こった。その上サムソンマッチでは(ほぼ)単発ローダー機能だけになった。.45ACPの全てのテスト弾薬において、スライドは最後の弾薬の供給前に後方でストップした(頑住吉注:関係ないですけどグンゼのグリズリーも仕様で1発残してホールドオープンしましたね)。

 グリズリーがブチのように集まった射撃結果になった一方、ACPバージョンのピットブルの固定サイトでは最大200mmまでも狙点より下に着弾した。きわめて印象的だったのは.45WM射撃時のマズル前方の長い「火の槍」だった。グリズリーのスライドを引いての装填とホールドオープンは両弾薬において骨が折れる。これに比べればプルが2100gで停滞のあるトリガーは何でもないように思われる。射手はどっちみち装填の際指がオイルで汚れていることは避けるべきである。

要約
 過去は何度も示した。例えばかつてのオートマグのような、非常に大口径または技術的にいくらかとっぴなピストルが流れ星のままだったことを。そうした銃は短時間輝いて、続いて急速に落ちていく。L.A.R.のグリズリーは長時間持ったように見える。この場合没落に導いたのはマーケットの枠組みの条件であって、しばしば他メーカーに見られるような構造上の不足ではない。つまり、必要な小金を持ち、このハンドガンカテゴリーに興味を持つ人は、この銃を手にするべきである。というのは、この銃と付属品はときどきまだ入手可能だからである。

(無題の囲み記事)
 L.A.R.マニュファクチュアリングはまだ.50BMGライフルを製造しているが、もはやピストルは製造していない。この理由は、アメリカにおける容赦ない生産物責任規定である。というのは、アメリカでは傷害が発生したケースにおいてその人はすぐに百万、あるいは十億ドルさえクレームによって手にする。このことは取扱説明書における何ページにもわたる警告指示にもかかわらず、すでに召喚請求がその企業をただちに破滅へと導く可能性がある。だから少なくとも一時、L.A.R.のハンドガンの生産は取りやめになっている。個々のピストルはまだスイスにおいて専門店で見かけられる。

テクニカルデータ
モデル:グリズリーマークT/ピットブル変換システムENGELS
メーカー:L.A.R.マニュファクチュアリング社(アメリカ)
変換システムのメーカー:ENGELS,D
口径:.45WM/.45ACP
銃身長:134mm/93.20mm
セーフティ:レバー、グリップセーフティ
マガジンキャパシティ:それぞれ7発
寸法:241x39x139mm/196x34x137mm
サイト:LPAミクロメーターサイト/固定
重量:1436g/1140g(アンロード)
素材:スチール
装備:延長された操作エレメント、ビーバーテイル
価格:グリズリー.45WM 2000スイスフラン
変換システム 729スイスフラン

L.A.R.グリズリーピストルとシステムEngelsのピットブル変換システムによる射撃成績

.45ACP

弾薬 弾丸重量(grs/g) 弾丸タイプ 初速(m/s) 初活力(J) 反動(J) 15mグルーピング(mm) 25mグルーピング(mm)
Magtech 200/12.96 VMSWC 221.8 319 4.0 54 74
Magtech 200/12.96 BSWC 248.5 400 5.0 37 60
Magtech 230/14.90 VMRK 220.4 362 5.2 76 92
PMC 230/14.90 VMRK 206.2 317 4.5 62 87
PMC 200/12.96 VMSWC 240.5 375 4.7 52 81
SAMSON Match 185/11.99 VMSWC 192.9 223 2.6 61 85
CBC 230/14.90 VMRK 192.7 277 3.9 60 104
UMC 230/14.90 VMRK 220.0 361 5.1 67 100
VETTER+P 200/12.96 TMJKS 278.8 504 6.3 46 77

.45WM

弾薬 弾丸重量(grs/g) 弾丸タイプ 初速(m/s) 初活力(J) 反動(J) 15mグルーピング(mm) 25mグルーピング(mm)
VETTER 230/14.90 VMSWC 378.4 1066 12.4 - 51
VETTER 230/14.90 TMJKS 397.1 1174 13.7 - 32

(頑住吉注:困ったことに「スイス銃器マガジン」はたいてい「弾丸タイプ」の略称の意味を書いてくれません。「VMSWC」はフルメタルジャケットセミワッドカッター、「BSWC」は鉛セミワッドカッター、「VMRK」はフルメタルジャケットラウンドノーズ、「TMJKS」はセミジャケットで円錐の先端が平らになった形状、だと思うんですがあるいは間違いがあるかもしれません)


 グリズリーはGUN誌1985年3月号でターク氏がレポートされています。この記事の締めは「グリズリー・ウィン・マグの出現で真っ青になったのはワイルディ、デザートイーグルであろう。コルト45のコピーとののしられようが、スタイル、スムーズな回転、このクラスとしては低価格と3拍子そろった“グリズリー・ウィン・マグ”。正真正銘、アメリカンによるオリジナル・デザイン。下手なメカに凝り、メカにおぼれるよりはるかにいい。L.A.R.マニュファクチュアリング社には大いに儲けてもらいたいものだ。」となっており、かなり高い評価が下されています。私もその通りだろうなあと思いましたし、この銃は結構好きです。しかし実際はデザートイーグルが少なくともイメージ的にはメジャーな銃になった一方でグリズリーはどうも生産中止になったようで、何故なのかずっと不思議に思っていました。

 この記事によると、銃自体に問題があったわけではなく、生産物責任がらみの訴訟を起こされることを恐れて生産中止にしたということらしいです。はっきり書いていませんが、トーンからして実際に事故があったわけではなく、規模の小さな会社であるL.A.R.の場合、もし訴えられたら会社が破滅するから事実上ハンドガンは作れないということのようです。.50ライフルならいいというのはよく分からん話ですけど。

 .45WMは.45ACPを強化したような弾薬ですが、コンセプトが類似した弾薬が3種紹介されています。まず.451デトニクスですが、GUN誌1983年7月号で紹介されています。「スイス銃器マガジン」の弾頭重量の制約に関する記述は(私の訳のせいかも知れませんけど)いまいち分かりにくいですが、GUN誌の記述によれば「ケースの肉厚もマウスのほうからヘッドのほうへ向かって自然と厚くなっているので、弾頭はあまり深くセットできない。つまり、200gr以上の弾頭は、全長が長くなりすぎるので使用できないということだ。」とのことです。ただ、「スイス銃器マガジン」の記述によれば、薬莢内部を削れば使えないこともなかったらしいですね。.451といっても弾丸の径は.45ACPと同一です。また、薬莢は.308ウィンチェスターのそれから自作できたそうです。けっこういい線を突いた弾薬だったような気もしますが、普及できずに終わったということです。
 次の.45スーパーという弾薬は.451デトニクスと似た弾薬で、少数のパーツの交換で.45ACPの銃に使用でき、マガジンもそのまま使える、200グレインを超える弾丸も使えるといったメリットもあります。ただ、薬莢の長さが同じなのでバレルまで流用できるという大きなメリットがある反面、誤って.45ACPの銃に装填して事故が発生する危険がありそうな気がします。
 この両者にも.45WMに迫る威力がありますが、3つ目に挙げられている.460Rowlandはデータ上.45WMよりややエネルギーが大きいようです。.460という名称は混同を避けるためでしょう、これも弾丸の径は.45ACPと同一です。元々.45ACPは薬莢の容量にかなりの余裕があり、威力を増すために.45WMほど延長する必要は元々なかったわけです。だとすればグリップが前後に非常に長くなって握りにくくなる.45WMの存在意義は怪しくなり、状況が変わっても少なくとも実用上はグリズリーにはもう出番はないかもしれません。.45WMを否定するだけのパワーがあると思われる.460Rowlandは果たして今後普及していくんでしょうか、それとも.451デトニクスの二の舞になるんでしょうか。

 さて、話しは変わってピットブル変換システムですが、これは検索しても画像が出てきません。グリズリーにサブコンパクトサイズのスライドを載せて.45ACP仕様にするというものですが、この銃はグリップが前後に非常に長いのでこんなことをしたところでどう考えてもキャリーに向かないのは明らかです。スライドを流用するなら.45WMより安くてパワーも反動も小さい.45ACPを使い、銃の外観の迫力を残しながら気軽に撃てるという意味がありそうですが、その意味も全くありません。一体何を意図して作られたものなのか全くわけわからんキットです。



 










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