中国朋友からのメール再び

 以前ここを見てくださっている中国人の方から間違いの指摘、不明な語の解説等を含むメールをいただき、内容を紹介しました(ココ)。その後2通メールをいただいたんですが、そこまでで連絡が途絶え、こちらがちょっと政治的な話をしすぎたか、あるいは中国のネット世論の批判を浴びたり当局の妨害を受けたりして通信ができない状況にあるのかと心配していたんですが、最近になって再びメールをいただきました。なお、私はこのサイトを作った時、凝ったデザイン等ができない中で白地に黒の字ではあまりにも素人っぽい印象になって恥ずかしかったのと、ちょっとアングラっぽいイメージを出したかったため、黒字に白抜きの文字を基本にしましたが、この中国朋友からはちょっと読みにくいとご指摘をいただきました。いまさらデザインを全面的に変更するつもりはないのですが、このページは白地にします。


頑住吉ニーハオ!

お久しぶりです。去年あなたが私にくれたメールにさえまだ返信せず、本当にごめんなさい。これは私がここ半年余りの間、会社が海外に業務拡張し、国外の部門に派遣され、最近になってやっと中国に帰ってきたためです。当時はあまりに忙しく動いており、あなたのサイトのアドレスを忘れ、その上仕事の忙しさのためにずっとあなたのサイトの更新も見ず、返信もせずにいました。

政治、軍事の話題に関する討論の前に、まず3月に発生した重大地震と津波災害の中で不幸にも難に遭われた日本の人々に哀悼の意を表させてください。実は私は国外でこのニュースを知った時、すぐにあなたの安否に関しとても心配しました。中国に帰った後、あなたのサイトの更新がまだ続いているのを見て、とてもほっとしました(頑住吉注:原文では「心の中の石がやっと地に落ちました」という慣用句が使われています)。

去年のあなたのメールの中で、一般の中国人が去年の9月に発生した釣魚島(尖閣諸島)船舶衝突事件と、中日間で長期にわたる釣魚島の帰属問題に対する見方を問うていました。私の見方は、中国の庶民はこの問題に関し、やはり中国政府と同じ立場に立っており、政府が発表している官方の言論を支持している、というものです。普通の中国人から見ると、これは簡単な国家利益の問題ではなく、資源争奪問題でもなく、民族感情の問題だからです。中国は1840年(頑住吉注:アヘン戦争の年)から始まる100年余りの時間の中で、敗戦、領地分割、賠償、強制開放等各種の屈辱的な事件が次々と起きて止まず、中国人の民族感情はきわめて大きな傷を負ったということができます(実際の話、その中では日本が小さくない責任を負わねばなりません)。これは今に至るもまだ完全に収まっていません。別の言い方をすれば、釣魚島がたとえ沖ノ鳥島のような単なる岩礁であっても、たとえその周囲の地下にいかなる採掘可能な資源がなくても、結果として中国政府が釣魚島の帰属権を他国にゆずった形になるのは中国人にとって喪権国辱的に見え、これを受け入れることは決してあり得ないのです。しかも中国国内では近年、貧富の差が拡大し、再分配政策が不公平である等の原因からくる社会矛盾も大きくなり続けており、たとえ自分たちの政局の安定を保証するためであっても、政府が領土問題において民衆のこうした心理をあえてさかなですることはありえないと私も思っています。

問題の具体的部分に関して言うと、中日双方いずれもそれぞれの言い分を主張し、いずれも証拠に支持される自己の視点を持ち出すことができ、この問題に関してはまだ長い時間を要します。これは遺憾な事態ですが、この問題は我々の父の世代でも解決できなかったのであり、我々の世代の手では恐らく解決は難しいでしょうが、それでも我々の次の世代が前の数世代の人々の経験、教訓を吸収することができ、彼らの聡明才知を発揮して平和を実現し、この争いを完全に解決することを望むのみです。以上がすなわち私の今回の事件に関する考え方です。

私はあなたがサイト上で更新した、中国の新型12.7mm口径スナイパーライフルに関する文章の翻訳、紹介を見ました。この文章は官方を背景に持つ中国の軍事雑誌「兵器知識」2011年第5期A刊行(「兵器知識」は半月に1回刊行)で最初に発表されたもので、私が以前中国警察用9mmリボルバーに関する文章に対する評価と同じです。このQBU09を紹介した文章も宣伝用に属し、一定レベルにある軍事マニアたちは皆この種の文章をふざけて「八股文」あるいは「軍八股」と呼んでいます(八股文というのは本来、中国の明、清両朝が科挙試験に用いた一種の特殊な文体です。その内容、各式がいずれもあまりに厳しく制限されているため、受験生たちはテーマとなった文字の意味に照らして文章を作っていくだけで、このため作者の創意が殺されました。結果的に八股文は内容が空虚で、形式的な話ばかりになり、文字遊びとなって、人の才能を選抜する作用を失いました)。宣伝、勢い付け目的に用いられる「軍八股」(頑住吉注:「軍事版八股文」ということですね)にも八股文に類似した、形式が単一、実際の内容が乏しい、資料が不正確という問題があります。レベルがやや高い「軍八股」にはさらにもう一つの特徴があります。それは故意にデータ、資料をでっちあげることはないものの、紹介する対象に不利な一部の内容を故意に隠し、あるいは文字遊びを使って読者の理解に偏差を生じさせ、装備の性能が良いと誤解させるというものです。

第1段落目における、あなたの数種の弾薬類型に対する理解はいずれも正確です。穿、燃、爆、曳というこの4文字はそれぞれ穿甲、燃焼、爆破、曳光という4つの言葉を略したもので、英文の、Armor-Piercing,Incendiary,Explosive,Tracerという4つの言葉に相当します。QBU09がサボ付き徹甲弾を発射できるかどうかの問題に関し、私の見方もあなたと同じです。「槍砲世界」のJS 12.7mmスナイパーライフルに関する紹介の中に(http://www.gun-world.net/china/sr/js127/js127.htm)、「〜しかしそれではサボ付き徹甲弾が発射できないため、再び改修が進められ、銃口制退器の出口の直径は元々の13mmから22mmに拡大され、サボ付き徹甲弾発射の問題が解決された〜」という内容が見られます。QBU09の銃口制退器の出口はあんなにも細く小さく見え、私もこの銃がサボ付き徹甲弾を発射できないと考えます。

全銃寿命が短いという問題に関してはちょっと解説の必要があります。多くの中国の官方が発表したデータからすると、中国の銃器の射撃寿命は皆短いように見えます。特に拳銃の一部ではそうです。実はこれは中国と西側の国が使用する基準が異なることから起こることです。この中国の寿命に関する基準は軍方が提出した「基準に達するまでの寿命」であり、つまりある種類の銃が、指定数量内の弾薬を射撃した時、その威力と精度等の指標の変化幅がいずれも受け入れ可能な範囲内であることを軍方は要求し、この後になってさらにどのくらい多くの弾薬を発射でき、かつさらに威力と精度が保証されるか、これらのことは軍方の関心外のことなのです。一方欧米の国の銃器の寿命というのは「終寿寿命」を指すことが多く、つまりある銃がどれだけ多くの弾薬を発射した後、その威力と精度等の指標の変化幅が受け入れ可能な範囲を超え、銃を廃棄処分にする必要が生じるか、という意味です。もし「終寿寿命」を比較したら、実際のところ中国の銃器は決して西側の銃器にいくらも劣りません。

007兄弟も中国の軍事フォーラム内における有名人で、彼の特に長けているのは官方が刊行した雑誌やテレビニュースの中から、普通の人は見落としてしまいがちな情報を捕捉することです。ブログ上のこの文章(頑住吉注:私が訳したQBU09に関する文)は、彼が自分で元々の雑誌をスキャンした後、さらに漢字識別ソフトを使って作成したものに違いなく、一部にソフトが識別ミスをした文字があります。例えば「3発の弾丸の距離200mおよび1500mにおける最小散布円直径はそれぞれ約18cmおよび巧0cm」という中の、この「巧0」は実は150が識別ミスされた結果なのです(頑住吉注:なるほど形は似てますね。私はタイプミスだと思ったので、「巧」と近い発音の数字が見当たらないことで行き詰まってしまっていました)。ただ、あなたも長さの単位で間違いを犯しています。原文の「厘米」は中国大陸地区ではcentimetreに対応する呼称であり、cmのことです。ただし中国の香港、台湾地区では普通にmillimetreの前半部のmilliだけを「米厘」と音訳しています。これは大陸の「厘米」と混同しやすく、私はおそらくこれがあなたの間違いの原因だろうと思います(頑住吉注:違います。単にスナイパーライフルの200mのグルーピングとして10cmを大きく超える数値は大きすぎるから単位がmmだと思いこんでしまっただけです。よく考えれば13mmでは小さすぎますね。ソフトの識別ミスさえなければ、さすがに1500mで150mmはおかしいと気付いたと思いますが)。単位をcmにすれば、実際のところ「距離200mにおける3発の弾丸の最小散布円は直径約130mm、距離1000mにおける3発の弾丸の最小散布円は直径約700mm。国産の12.7mm多機能弾薬使用時は、同様の射撃条件下で、3発の弾丸の距離200mおよび1500mにおける最小散布円の直径がそれぞれ約180mmおよび1500mmである」となります。実際このような精度はまだとりたてて言うほどでもありません。私は「距離200mにおける3発の弾丸の最小散布円は直径約130mm」をちょっと換算してみましたが、およそ2.1MOAに相当します(ここでの散布円直径とは、以前あなたに説明したR100で、弾孔の外縁を包含しています。一方MOA精度の測量時は弾孔円の中心間の距離を測ります。このためMOAに換算する前に散布円直径から弾孔1つの直径を引く必要があります)。しかし英国のAS50および米国のM107はマッチクラス弾薬を発射した時、いずれも軽く1.5MOA以内の散布を出します。中国のQBU09は距離1000m以内の車輛、建築物等の大型の目標を撃つには充分ですが、もし人体大の目標を撃つならちょっと問題ありです。こうした「最小散布円」こそまさにさっき触れた「軍八股」の文字遊びに他なりません。あなたがこの文章に関し作者に疑問を呈したら、相手はきっと、私ははっきりと「最小散布」と書きましたよ、誤解が生じたのはあなたが真剣に文章を読んでいないせいで、私の責任じゃありませんよね?、と言うでしょう。

中国にはスナイパーライフルの散布精度専門に対応する評価基準はなく、以前は全て自動小銃の測定方式で測定されていました。すなわち100mの距離で、セミオートで20発の弾薬を発射し、その後R100値およびR50値を計測、計算するというものです。毎組の測定ではこんなにも多くの発射をしなければならず、偶然の要素が占める比率は高くなる可能性があり、測定された結果も好ましいものではありません。このため現在中国の軍事工場でも、欧米の同業者が学んだ先進的な「注水」技術が使用され始め、もはやそんなに多くの発射を行って測定することはなくなり、毎組3発に改められました。ただし本当の実力にはまだ開きがあり、たとえ欧米と同様の方法で測定しても、彼らのような良い成績は出ません。

「一体化構造形式」のスコープとは、実はAUGのようなスコープ、銃の一体化ではありません。後方からスコープが着脱可能であるのが確認できるからです。また昼間、赤外線機能を一体化したものでもありません。2つの画像から、2種類のスコープの大小、外形にはっきりと差があるのが確認できるからです。ここでのいわゆる「一体化」とは、実は後で述べられている「光学系統、レーザー距離測定、弾道計算、スコープ・銃連結機構と電池」というこれらのものを1つの全体として組成したものに他なりません。単に携帯や装着がまとめてできるにすぎず、決して何らかの先進技術ではありません。しかも、最近中国の小火器フォーラム上において、軍事工業界の人がこの一体化スコープの照準精度は決して高くなく、銃自体の精度レベルの発揮にも影響していると指摘しています。

この他、M99についてちょっと触れます。この銃の900mにおける散布円直径が32cmという成績は2006年にパキスタンにおける大口径スナイパーライフル国際テスト入札の時に出されたものです(頑住吉注:これだと新型のQBU09の散布円直径の方が倍くらい大きいことになってしまいますが)。これは主に、当時の中国のメーカーの技術人員と射手が正式テストの前に銃に対して行った調整がよかったおかげによるものです。この時のテストでは英国のレンジマスター社のRPAが900mにおける散布円直径6.4cmという結果を出し、すなわち0.244MOAという人を驚かせる成績でした(詳細な状況はこの文章で見ることができます http://www.qbq.com.cn/bencandy.php?fid=4&aid=652&page=1 )M99の実際のレベルは大体の所、次のようなものです。100mではM99のR50密集度は2.2cm未満(正常な状況下ではR100は一般にR50の3倍以上です)。風速毎秒4mの時、M99を使って1000mのところの目標を射撃した場合、半径0.5mの円に命中させることができ、1500mのところの目標では半径2.5mの円に、2500mのところの目標では半径5mの円に命中させることができます( http://mil.news.sina.com.cn/p/2007-10-19/0809468168.html )。

あなたの最後の感想の中に、中国は7.62mmクラスのスナイパーライフルを廃止するかもしれないとありましたが、私はそう思いません。実際のところ5.8mmスナイパーライフルと弾薬はいずれも400m以上の距離での高精度射撃という要求を満足させることが難しいのです。ある軍事工業内の人は、目下ある軍需企業は5.8mm手動スナイパーライフルと高精度弾薬を基礎に、7.62mm口径の新型スナイパーライフルと弾薬を研究開発中であるとリークしています。ただ不思議なことに弾薬は7.62mmx51であり、さらに5.8mm手動スナイパーライフルと同じ方法でもう一度、「輸出用を国内用に転じる」ことを考えているのかもしれません。

最後にあなたに2つの添付ファイルを送りました。QBQ電子版の圧縮ファイルは、中国での評判が比較的高い小火器専門誌「軽兵器」1978年から2003年までの部分的スキャン画像と電子版です。すでに読んだことのある文章もあるかもしれませんが面白いはずです。QBS09の圧縮ファイルは中国でもっとも最近に発表された軍用散弾銃に関する文章をスキャンしたものです。このQBS09散弾銃の構造と弾薬にはやはり独創的な部分が少なくなく、あなたも興味を持つと信じます。


 私は常に、自分の国の問題もなるべく客観視するように、またできるように心がけているつもりです。例えば中国国内には独立を求める少数民族があり、そうした人たちの声を聞くと心情的に応援したくなります。しかし振り返ってみると、日本にもアイヌ民族の土地を奪い、衰退に追いやった歴史があります。北海道をアイヌ民族に返還して退去することは現実的にできるでしょうか。もちろんできません。問題の性質の差、程度の差はあるでしょうが、少数民族の独立を認めることが現実的に困難である中国の立場にも一定の理解を持つべきでしょう。もちろんだからといって現在の中国政府の少数民族に対する政策を肯定するものではありませんが、例えば多くの少数民族は「一人っ子政策」から除外されているなど、国内ではあまり語られない部分にも目を向けて、冷静、公平な評価を下すべきだろうと思います。もしその結果が、やはりこの少数民族に関しては独立を認めるべきだ、であれば、単なる感情論よりも強い説得力を持つはずです。

 また日中間の問題の中には沖ノ鳥島の問題もあります。このメールだけ読むと、「中国人はさりげなく沖ノ鳥島は単なる岩礁だという主張を織り込んでいる、いやらしい」と誤解する人がいそうですが、実は前のメールで私の方からこの問題に触れた結果です。私は日本人であり、沖ノ鳥島の周囲に排他的経済水域が認められることを心情的に強く希望します。しかし、「海洋法に関する国際連合条約」第121条3項の「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」などの規定から考えて、排他的経済水域は認められない(念のため確認しておきますが自分たちの領土だというのではありません)とする中国の主張にも相当の説得力があると考えています。私はそうした、頑迷な愛国主義者ではないという前提の上で、尖閣諸島の問題に関してはどう考えても中国側の主張には理がないのではないか、中国人はどういう根拠で自分たちの領土であると主張しているのか、という質問をし、それに対する答えがこれだというわけです。「民族感情の問題である」というのは要するに理屈じゃないということで、言外に非常に多くの内容を含んでいるように感じました。みなさんはどう考えるでしょうか。

 銃の寿命に関する問題は、要するに軍はこれだけの耐久性を要求し、それをクリアしている、という意味だ、ということのようです。しかし「もし「終寿寿命」を比較したら、実際のところ中国の銃器は決して西側の銃器にいくらも劣りません」というのは実際にやってみないと分からないのではないかという気もしますが。

 この方の認識では、中国のスナイパーライフルの命中精度等はまだ世界先端レベルには追いついていない、ということです。ただ、私は少なくとも「ほぼ同等」程度まで達するのはそう遠いことではあるまいと予想します。

 M99の命中精度ですが、私は違和感を感じ、表にしてみました。横が距離、縦が散布円半径です。



 こういう散布の経過をたどることはちょっと考えられないと思います。1000mのグルーピングが実はもっと大きいか、2500mでは実はもっと大きく散るか、その両方か、いずれにせよこのデータはM99の実力を正確に示していないと考えます。

 いただいた中国の新型散弾銃の記事ですが、一見して「なんだ普通じゃん」と思ったんですが、よく読むと非常に面白い新機軸が盛り込まれており、特に新型弾薬は今後西側のコンバットショットガンにもあるいは一定の影響を与えるのではないかと感じられます。多忙のため紹介に時間がかかるかも知れませんがお楽しみに。まあ「現在この情報を国内で知っているのは自分くらいだ」というのもいいもんですが(笑)。











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