狩猟用特殊弾「インパラ」

 「アクション4」の記事が載っていたのと同じ「DWJ」2003年10月号に、新しい狩猟用弾「インパラ」の記事が載っていました。私は狩猟には興味がないですが、この弾は特殊(というか極端というか)な性格を持ち、弾丸というものの性質や効果を考える上での参考になります。


 南アフリカ共和国で開発され、供給されている新しい弾丸「インパラ」は、キツネ、発情期の牡鹿、雄イノシシに対しても非常に効果的であり、かつ獲物の肉に与える損傷が最小である。我々はこの弾丸のさまざまな口径の製品を入手し、弾道テストを実施した。
 コーブス・ドゥ・プレシスは、南アフリカ共和国に来た友人と狩をしている間に、新しい弾丸を開発するアイデアを得た。その友人は口径.45−70、350グレインソフトポイント弾で1頭のインパラを仕留めた。しかし低速で破壊力の大きいその弾は、獲物の肉を大きく損傷した。コーブスは、獲物の肉に過度の血腫を作って高価な肉を無価値にすることなく、素早く獲物を殺す弾薬を望んだ。彼は1982年から体内弾道の研究を行い、1992年には南アフリカ共和国警察の法医学研究室の一部を割り当てられ、1994年からはプライベートに研究を続行してきた。

構造と特徴
 「インパラ」は真鍮製の堅固な弾丸である。その材質は57%が銅、40%が亜鉛、3%が鉛である。表面硬度は179ビッカース、コアの硬度は164ビッカースである。真鍮は鉛よりずっと軽量であるため、同じ重量のコンベンショナルなジャケット弾よりずっと長くなる。例えば、口径6.5mm(.264)、90グレイン「インパラ」弾と同じ長さのホーナディ製ソフトポイントラウンドノーズ弾は160グレインもある。また、.30口径130グレインの「インパラ」弾は、スピアー製180グレインソフトポイント尖頭弾と同じ長さである。このためバレル内に接する長さが伸び、結果として命中精度が突出したものとなる。また、高初速によって飛距離が伸びる。そして他方では弾丸の重量が小さくなることでリコイルも小さくなる。
 全ての堅固な構造の弾丸にはある1つの問題がある。弾丸がライフリング部に到達したとき、高い圧縮圧が生じてしまうことだ。メーカーのコーブスは、これを前提にして製造を行い、この問題に2つの打開策を用意している。1つは、その弾丸を、名称の表示よりも1/1000〜2/1000小さな径で作ることだ。例えば「口径6.5mm」と表示した弾丸は、通常の.264ではなく.262であり、「.30口径」は通常の.308ではなく.307になっている。このことは銃身の磨耗を減らし、命数を伸ばす効果も持っている。後述のように、このことは決して命中精度にマイナスにはなっていない。
 2つめは、各口径によって異なるが、3本から4本のミゾを弾丸に設けていることだ。これによって固い材質がライフリング部で過度の圧縮圧を生じることが妨げられる。この方法は新しいものではない。ヒルテンベルガーのABC、RS尖頭弾、バーネスのトリプルショックなどで他メーカーもすでに使っている。また、最も古い例としては砲兵の使う榴弾に昔から使われてきている。
 
「インパラ」は常に射出口を作る
 「インパラ」のターゲット内部における効果は、他の狩猟用弾薬と根本的に異なる。弾丸が砕けたり、破片効果を生じたり、マッシュルーミングしたりということはない。「インパラ」はフルメタルジャケットがそうであるように、常に射出口を生じる。エネルギーの発散は減り、弾丸の速さや運動エネルギーと効果はあまり関係がなくなる。それは3枚の刃を持つ狩猟用の矢の効果に似ている。弾丸はきれいに貫通し、卓越した致死効果をもたらす。獲物が素早く死ぬのは先端が尖っているからである。こうした尖った弾丸は、丸い穴を開ける効果の他に、射出口に充分な繊維組織の切断を残し、また組織に侵入した際に衝撃波を生む。他の弾丸と比べ、ここに働く原理は組織への侵入であり、破壊ではない。典型的な射撃結果では、大型の偶蹄動物でも長く逃げ延びることがない。射出口は弾丸の径とさほど変わらないコイン大の大きさとなる。肋骨の貫通時には3〜5cmの穴を開け、肺葉に大きな損壊をもたらす。解剖してみると、筋組織のダメージは小さく、目の粗い肺組織は大きく破壊している。筋肉に血腫を生じないのはよい特徴である。近距離からの傷を見ても、口径と大差ない大きさで、1000m/sの猟銃弾で撃ったようには見えず、まるで矢で射たようである。

リロードと射撃テスト
 「インパラ」は普通に流通している.224〜.510までの全ての種類が揃っている。各口径には1種類の重さしかない。これ以外は必要ない。唯一の例外は口径5.6mm(.224)だ。この口径には当初、50グレインの比較的重く、長い弾丸があった。だが、これでは5.6x50Rと、.223レミントンを使う古いライフルの、16インチで1回転のライフリングから撃つと重すぎて充分な安定が得られない。そこで40グレインの短い弾丸がマーケットに追加された。
 コーブスは2004年には弾丸のみでなくカートリッジの生産も予定し、ハンドガン用弾丸の生産はすでに開始されている。
 メーカーが少数の弾丸しか供給しなかったため、詳しいテストはできなかったが、この弾丸が狙った効果は確認できた。実射テストは実際的なヨーロッパ製装薬を使用して行った(南アフリカ共和国では現地生産の装薬しか使用できない)。装薬の種類の選択、薬莢へのセットの深さを調節することで、きわめて高い命中精度が引き出せることが分かった。唯一詳しいテストができた9.3x62の結果を示す。
 ブルナーZKK600リピーターを使用しての100mから3発のグルーピングは、最初のうち約40mmだったが、後には10mm(!)にまで縮小した。リロードの際には2つの点に注意する必要がある。1つ目は、「インパラ」を(他の堅固な弾丸も同じだが)ライフリングから1mm以内の位置にセットしてはいけない。2つ目は「インパラ」は非常に長く、ケース内の大きな容積を占めるため、それを考慮に入れて装薬量を選択しなくてはならない。使用者は、「インパラ」を使用する際、通常の弾丸を使用する場合より1ランク重い弾丸に使用する量を入れるべきである。
 軽量な「インパラ」は一般的に初速が非常に高くなる。弾道係数は全て.300〜.350の間となる。通常、狩猟における射撃距離は250mまでであるが、「インパラ」ならば高速を持ってこれを300mまで大きく伸ばすことができる。使用者は5.6x57の50グレイン弾、あるいは7mmSTWの110グレイン弾を、1200m/sという超高速にすることができる。これで極端な遠距離射撃ができると思いがちだが、極端な遠距離射撃では、より重い弾丸の方が有利である。

実用テスト
 南アフリカに到着して、当地で「インパラ」が人気を得ており、そこの野生動物相手に大きな効果を挙げていることが分かった。「インパラ」でエランドを撃った新たな報告が次々入ってきた。その中に、珍しいケースとして射出口が生じなかった例があった。800kgの重さのエランドを、.308ウィンチェスター(870m/s)で倒した。弾丸は肩から肩へと貫通し、毛皮の下に射出口が見つかった。回収された弾丸は全くの無傷であり、リロードして正常に発射することができた。
 筆者はこの記事を書くにあたり、ヨーロッパでも狩を行い、野生動物を倒した。.30Rブレーザーで3頭のノロシカと1頭のアナグマを仕留めた。最初のノロシカは体重9kgしかない小型のもので、40mの距離から両前足の骨と肺を貫通した。獲物は約1000m/sの着弾速度によって銃声と同時に電撃的に、血腫を生じることなく、またわずかな肉しか失われることなく死んだ。
 1頭はやせた雌鹿(48kg)で、55cm銃身のクリエグホフ3本バレルライフルで、10mから肺に命中させて倒した。肉の無価値になった分はほとんどゼロだった。
 6.5x55弾薬(初速1045m/s)では30mから18kgの若い雄鹿の心臓を撃って倒した。獲物は30秒で約15m逃げてから死んだ。肉の損傷はなかった。

DWJの結論
 コーブス・ドゥ・プレシスは「インパラ」によって大きな成功を収めたと言ってよい。その弾は中央ヨーロッパでも大きな商業的成功のチャンスを持っている。
 その長所は数多いが、特別興味深いのは獲物の肉を損傷しないという点だ。ただし、1つ欠点もある。貫通力があまりにも大きいことだ。通常の射撃場の弾止めは、このような弾を想定していない。森でハンティングに使用する際も流れ弾による危険が大きいのは自明のことである。


 以前「EMB−A」というソフトターゲット着弾後、できるだけ早く、大きく拡張することを目指した極端な弾薬を紹介しました。また、「アクション4」というソフトターゲットに対してある程度の拡張と貫通のバランスをとった弾薬も紹介しました。この「インパラ」は、対人用ではありませんが、フルメタルジャケットより堅固で軽量高速な弾丸が「全く変形せずに貫通する」という極端な弾です、その主な目的は獲物の肉を損傷しないということです。「破壊力の大きな弾丸は高価な獲物の肉の命中した部分周辺に血腫を作って無価値(食用に適さない)にしてしまう」という問題から、尖った硬い弾丸が全く変形せず、超高速で貫通する、という新しいコンセプトの弾丸を考えた、というわけです。外観はこんな感じです。


インパラ

 色は当然真鍮の色で、本体には溝が彫ってあり、その先に円錐形の部分があり、先端は少しだけ平らになっています。矢なら獲物の肉を無価値にするということはほとんどないはずですが、「インパラ」はそれに似た効果があるということです。弾丸の速度と威力があまり関係なくなるというのもなんとなくわかりますよね。矢の場合、

矢の効果

 比較的高速で下のように刺さっても、比較的低速で上のように刺さっても、獲物が受けるダメージにはさほどの差がないと思われます。普通変形せずに貫通し、肉に大きな損傷を与えないならば、すぐに獲物が死なず、逃げられてしまうのではないかと思いますが、実際には獲物はすぐに死ぬということです。これは体内を超高速で通り抜けるために衝撃波が生じること、これにより筋肉は損傷しないが肺のような粗い組織は大きく破壊することによる、というんですが、分かるような分からんような感じです。また、衝撃波によるダメージならやはり弾丸の速度と大きく関係するような気がしますが、どうなんでしょう。
 柔らかい鉛の弾と違い、芯まで硬いためにバレル内を通過する際の抵抗が大きくなるというのは当然ですね。そのためごくわずかに径を小さくするというのもまったくノーマルなやりかたでしょう。加減を間違えなければ命中精度が低下することもないし、たぶん柔らかい弾よりむしろ高くできるのではないかと思われます。溝をいくつも彫るという方法もバレルとの接触面積を減らし、逃げを作るということで納得できます。そう言われてみれば砲弾にはやや小さめの本体にベルトを巻いたような形のものが多いですが、あれはこれと同じ意味があったわけですね。後の方に、「ライフリングから1mm以内にセットしてはいけない」という内容が出てきますが、これはたぶん「SW9M」の項目で出てきた「フリーボア」を比較的大きく取り、弾丸をある程度加速させてから抵抗のあるライフリング部に突っ込ませなければいけない、という意味ではないかと思います。
 これまで何度か触れた「フュフルングスフラッヒェ」がまた出てきました。ここでは「フュフルングスラング」(ラングは長さの意)という用語が使われていますが、同じ意味のはずです。「インパラ」はバレル内に接する部分が長いため、バレル内で安定し、このため命中精度も高くなるということです。軽量なので高速になり、300m程度までは有効に使えるが、超遠距離では不利というのも、これまで何度か触れたように軽い弾は空気抵抗によって減速しやすいからでしょう。ちょっと気になるんですが、イラストは単純化して描いているわけではなく、尾部は本当にこのように最大径の部分でぶっつり断ち切ったような形をしています。これにより「フュフルングスフラッヒェ」が長くなるのはいいとして、空気抵抗が大きくなるんではないでしょうか。これだと弾丸の後ろの乱流が大きくなり、わゆる「ボートテイル」と言われるような尾部がすぼまった弾より射程距離が短くなるのではないかと思うんですが。また、尖端が尖っているのは空気抵抗を減らす条件だと思いますが、全長が長く、溝が彫ってあるので空気との摩擦抵抗は大きくなるでしょう。
 弾丸が軽いのでリコイルが小さくなる、というのはたぶん正しくは軽い体感になる、ということでしょう。一般に同じエネルギーの弾を発射した場合、軽い弾の方がリコイルが軽く感じられる傾向があるようです。
 私は知識がなくてどのくらい凄いか分かりませんが、ライフルにとっては決して遠距離とはいえない100mでの結果とはいえ、10mmのグルーピングというのはほとんどワンホールということで、かなりいいんではないでしょうか。初速1200m/sが可能というのも特殊な対戦車用徹甲弾並みの超高速です。弾道が表にしてあるんですが、9.3x62弾薬の場合、50mでゼロインした場合、500mでも118mm下に着弾するだけということです。
 「常に射出口を作る」といっても、極端な話、M16にこの弾を装填して大型のアフリカゾウを撃っても当然射出口はできないわけで、貫通寸前で止まった珍しい例も紹介されています。基本的に軍用(対人用)である・308に800kgのエランドは荷が重かったようです。ただ、貫通寸前の1発のみで逃げられなかったわけですから、この弾の致死効果はやはり高いようです。肩から肩へ貫通したということは、その間に骨に当たっていないとは考えにくく、全く変形せず再使用まで可能というのはすごい気がします。
 これほど貫通力が強いのでは流れ弾の危険が大きいというのも当然で、特に狭い日本ではあんまり使って欲しくない弾です。ハンドガン用もあるということですが、深い森の中でのピストルハンティングくらいにしか危険すぎて使えないんじゃないでしょうか。




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