米英軍の小火器類 イラクでの戦訓

 「Visier」2003年12月号に、アメリカ、イギリス軍の小火器類その他のイラクにおける評価等に関する記事がありました。


何が機能し、何が機能しないか?ソマリアとアフガニスタンでの苦い経験がまた繰り返された。
 フルサイズのM16は車載兵には大きすぎ、彼らには伸縮ストックのM4カービンがよい。M16シリーズの最新バリエーションであるM16A2およびM4はすでにまったく陳腐化しており、100パーセント信頼できるものではなくなっている。この戦場における銃は単に砂塵に耐えればよいわけではなく、それより厄介な、軍が支給するガンオイルと砂塵が結合した汚れに耐えなければならない。絶え間ないクリーニングが要求され、それはしばしば1日に複数回に及ぶ。
 イギリスのSA80は9千2百万ポンド(頑住吉注:現在1ポンドは190円くらいなので170億円以上)も投じた兵器であり、2006年までの予定で改良近代化モデルのA2への転換が行われているが、それでも送弾不良をはじめとする各種の不具合が続いている。イギリス兵たちは湾岸において特注のキャンバス製カバーやコンドームなどいろいろなものを使って彼らのデリケートなブルパップアサルトライフルのメカニズムを車両の走行などに伴う砂塵から保護している。まったく悲劇的なことに、SA80の軽量な分隊支援火器LSWバージョンには失格の判定が下された。この銃はフルオート時コントロール困難でしかも命中精度が低い。これは内部メカがもっぱらセミオートを想定したものだからである。イギリスは湾岸に展開する部隊のため、急ぎ大量のFNミニミパラトルーパータイプを購入した。ミニミは米軍も使用しているが、アメリカ、イギリス兵からの評判は良好だ。不満はベルトリンクの錆びやひどい汚れによって送弾不良が起きることと、酷使した銃からテイクダウンピンが脱落することがあるくらいである。
 5.56x45mmのマンストッピングパワーは依然不充分であり、遮蔽されたターゲットにはほとんど常に無効である。7.62mm口径のM14で武装したスペシャリストやマシンガンナーはうらやましがられている。多くの兵は補助目的でAK47を使用した経験をもっている。アフガニスタン戦以後、米軍は口径6.5mm周辺の新弾薬の研究プログラムの推進に力を注いでいる。
 
コンバットショットガン
 唯一の問題は部隊に数が少なすぎることである。1分隊に少なくとも1挺と、もっと多くのスラッグ弾が求められている。スラッグ弾は家屋内部の捜索時、ドアを強制的に開けるのに使用するためである。

ピストル
 ピストルは戦術的にはあまり意味がない。しかし個々の兵士にとって「psychische Krucke」(頑住吉注:「u」はウムラウト。直訳すれば「精神的杖」。たぶん「心の支え」「これがあると心理的に安心感がある」といった意味だろう。)としての高い価値が依然としてある。ベレッタM9のマガジンスプリングはへたるのが早い。陸軍および海兵隊の古参兵たちはいまだに.45ピストルへの回帰を要求し続けている。

キャリングシステム
 マガジンポーチと併用するUS−LBEベストは全てのユーザーに非常に嫌われている。呼吸が苦しくなるからである。特にボディーアーマーまたはリュックサック使用時にひどい。これのかわりとなるMOLLEシステム(ボディーアーマーにマガジンポーチを直接つけたもの)の配備が急がれている。

M203
 M203グレネードランチャーは、陣地、家屋に対する攻撃でその価値を証明した。60および81mm迫撃砲もいまだ代替物がない有効な兵器であるように思われる。

以後写真キャプションの内容
高い機動性:湾岸に投入されたイギリス軍の歩兵大隊内の偵察隊は、少なくとも6台のランドローバー110(ミラン対戦車ミサイルおよび最低3挺の機関銃を装備)を使用できる状態にある。アメリカ軍もこのコンセプトを長年うけついできている。ドイツ連邦国防軍内のKSKは2003年秋、手始めに21台のダイムラーヴォルフ270CDIをLIVSO(ライト インファントリー ビークル フォー スペシャルオペレーションズ)として受領した。

思いがけない解決
 アフガニスタンにおける戦訓から、.50BMGが復活の時を迎えた。新開発のSLAP弾薬(1発8ユーロの.30口径タングステンペネトレーターを使用)のおかげで、M2重機関銃は今やコンクリートの壁も装甲車両もハチの巣にする力を得た。

北イラクにおけるアメリカ第82空挺師団のパラシュート部隊に属する兵。M4カービン装備。
 リュックサックにはキャメルバッグ ウオーターコンテナが装備され、そばにはM136AT−4対戦車ロケットランチャーが見える。これは66mmLAWの後継機で、トーチカや陣地攻撃にも多用される。有効射程は300m、全長103mm、重量6.7kgである。発射される84mmロケットは成型炸薬弾で、重量は1.8kgである。兵は新型ヘルメットと接近戦に必須なインターセプターボディーアーマーを装備している。これはセラミックプレートを内蔵したケブラー製ベストで、AK47の弾をストップできる。すでにアフガニスタンでは何ダースものアメリカ兵の命を救っている。問題は部隊の25%がこのベストを装備していないことだ。

クルド人居住地域における第82空挺師団
 イギリスおよびアメリカ兵からはFN−MAGに関しほとんどいい評判しか聞かれない。この銃はガス圧作動式でアメリカ軍のM60と交換されたものである。

ACOGオプティカルサイト装備のM14
 この銃はスナイパーライフルと完全同価値のものとしてではなく、小隊の火力強化のための支援火器として使われている。


 内容と直接関係ない話ですが、この記事ではアメリカ兵が「GI」と呼ばれているのはいいとして、イギリス兵が「トミーズ」と呼ばれている点がちょっと気になりました。イギリス兵を「トミー」、ロシア兵を「イワン」、ドイツ兵を「フリッツ」と呼ぶのにはやや軽蔑的なニュアンスがあるのかと思っていましたが、そうではないんでしょうか。それともあえて使っているんでしょうか。 
 SA80(L85)は第一次の湾岸戦争でもかなり不具合があったとされています。A2になって問題は解決したかと思いきや、相変わらず問題ありのようです。コンドームはたぶんマズルにかぶせて砂塵の侵入を防ぐんでしょう。これを分隊支援火器にしたバージョンは以前MMCがガスガンで販売していましたね。持続射撃能力が低いといった批判なら分かりますが、元々5.56x45mmを使用するには過剰な重さでコントロールは楽とされるL85をさらに大きく重くしたLSW(ライトサポートウェポン)がコントロール困難というのはやや釈然としません。これはアサルトライフルとマシンガンでは要求されるフルオート時の命中精度のレベルに大きな差があるからということなんでしょうか。理由はともかくイギリス軍もアメリカ、日本の自衛隊に続いてミニミを使用し始めたということです。
 ジョン・ブローニングによって設計され、米軍に長年愛用されてきたM2重機関銃はとうとう現役を退くかと思われていましたが、ここにきて新弾薬によって復活したということです。サボにくるんだ.30口径のタングステンペネトレーターはダイヤモンドに次ぐ硬さを持ち、銃口を出るとサボから離脱して超高速で飛び、ハードターゲットを貫通するというわけです。この種の弾は一般に命中精度が低く、また軽いため遠距離射撃には向かないと思いますが、比較的軽装甲の車両なら穴だらけにできるということです。当然バレット等.50アンチマテリアルライフルにも使用できるでしょうし、今後多用されていくことになるかもしれません。ただ1発8ユーロといえば1500円くらいで、マシンガンでバリバリやったらあっという間に何万円分も撃ってしまうことになります。まあミサイルとかに比べたら安いもんですが。ちなみに、第一次世界大戦後、ポーランドが採用した対戦車ライフルにwz35があります。この銃はドイツが第一次世界大戦中に世界初の対戦車ライフル、Tゲベールに使用した13mm弾薬(アメリカの12.7mm弾はこれを参考にしたとも言われてます)をネックダウンしてタングステンのコアを持つ7.92mm弾頭をつけた特殊な弾薬を使用するものでした。1.2mもあるバレルで加速された弾丸は初速1280m/sという超高速になり、300mからの装甲貫徹力は資料によって20mmとも33mmとも言われています。新開発の「SLAP弾薬」は結果的にこれに近い性能ではあるまいかなあと思います。
 米軍では大部分の兵がボディーアーマーを着用し、これによって7.62x39mm弾をストップして多くの兵の命が救われた、ということです。これを書いているのは2003年12月14日、日本の外交官が現地で殺害されたショックが続き、来年の早い時期には自衛隊派遣が予想されています。殉職した外交官もヘルメットとこのボディーアーマーを着用した上で軽防弾車に乗っていたならあるいは助かっていたかもしれません。首などに弾を受ける可能性はありますし、ボディーアーマーは一般に側面からの攻撃に弱い傾向があるので結果は同じだった可能性もありますが。米軍ですら全員にはゆきわたっていないそうですが、派遣される自衛隊員全員にボディーアーマーは支給されるんでしょうか。そして自衛隊の装備しているボディーアーマーは近距離からの7.62x39mm弾に耐えられる性能なんでしょうか。気になります。
 
 さて、この記事にはイラクでの戦争と直接関係ない次期米軍制式ライフル候補のXM8のイラストが載っていました。これのキャプションはこうなっています。「H&KはM16との交代の可能性を考えた米軍による部隊テストのため、一定数のXM8を供給するよう求められている。H&Kは現在すでにそのための工場をアメリカ国内に建設することを検討している。
 M16シリーズがもう陳腐化して限界であるかのような記述と関連してのものでしょう。検索してみると、XM8採用はかなり現実味がありそうで、アメリカの専門家もXM8がM16シリーズより明らかに優れていると評価しているようです。それにアメリカでの新工場建設はどうやら決定事項らしいです。XM8はM16シリーズより軽く、安く(この2つは大幅にプラスチックを取り入れたためです)、クリーニングの手間が少なくて済み、異物の侵入に強く、完全にシステム化されてサブマシンガンサイズから支援火器サイズまで部品の共通性が高く訓練も楽になるなど数多くの長所を持っています。
 5.56x45mmが「依然として」マンストッピングパワーが低いというのは、M16A2から重量の重い現NATO弾(SS109)に変わっても、という意味でしょう。ストッピングパワーが低く、ハードターゲットに対する貫通力も不足なので一般の兵はM14、FN−MAGの射手をうらやみ、鹵獲したAK47も必要に応じて使ったりしているわけです。この問題はアフガニスタン戦から明白で、米軍は6.5mm周辺の新弾薬を研究している、ということです。検索してみると、これは6.8x43mmレミントンという弾薬らしく、5.56x45mmより低速ですが、重い弾を使うためマンストッピングパワー、貫通力、遠距離での命中精度は優れている、というもののようです。こういうものを採用する可能性があるんなら5.56x45mmの新ライフルなんて採用してる場合じゃないだろうと思ったんですが、この新弾薬はバレルを交換し、その他を少々調整するだけでM16に使えるんだそうです。それならたぶんXM8も同じでしょう。薬莢が太いので30連マガジンに25発しか入らないものの、マガジンも流用できるといいます。「その他少々調整」の中にボルトヘッドの交換も含まれるのか、あるいは.50AEのように薬莢のボディー部よりリムが小さい形でボルトヘッドも流用できるのかは不明です。ただ、個人的には一時しのぎでM16にこの弾薬を使用するならいいですが、新弾薬とXM8を今後できれば何十年も使う可能性がある歩兵用主力兵器として採用するなら、新弾薬をH&Kに与えて充分時間をかけ、それに合ったベストのアサルトライフルを設計をしなおさせた方がいいのではという気がします。
 主力ライフルの弾薬はいわゆるフルサイズから、口径は変わらず薬莢を短くして火薬量も減らした短小弾、小口径高速弾と変わってきました。世界共通になるかと思えた小口径高速弾はここにきてややゆきすぎで、ストッピングパワー、貫通力、遠射能力を考えるともっと重い弾が必要、ということになってきたようです。こうしてみるとカラシニコフの息子が推した6x49mm新弾薬はあながち的外れではなかったのかも、という気もします。ひょっとしたら、今後の新弾薬から発射される弾の径、重さ、速さは旧軍が三八式に使用していた6.5mm弾に近いものになるかもしれませんね。



12月23日追加
「Visier」2003年9月号に、米軍の次期歩兵用小銃として検討されているXM8に関する短い記事がありました。やや古い情報ではありますが、内容をお知らせします。


米陸軍:XM8ライフルプロジェクト
暫定的解決

 米軍は現在置かれた状況からして、次世代の技術による歩兵用小銃OICW(XM29)の採用をこれ以上は待っていられないと考えている。そこで今、暫定的措置としてXM8をM16およびM4の後継とし、この間にXM29の改良を行っていく、という可能性が生じている。5.56x45mm口径のXM8ライフルはH&KのG36をベースにしている。だが、伸縮式プラスチックストックが装備されている点、M16のマガジンが使用できるようになっている点などが異なる。光学サイトは、ダットサイト、赤外線光源、ターゲットプロジェクター(可視および赤外線)を組み合わせたものが要求されている。簡単な組み替えによって、いろいろな投入領域に対応できる。いくつかの銃身長、構成(軽機関銃、スナイパー)が選択できるし、特殊部隊用に7.62x39mm仕様に組み替えることもできる。目下最大の問題点はグレネードランチャーだ。XM8用には着脱式40mmグレネードピストルが供給される。しかしアメリカ人はXM29用に口径20〜25mm領域の射程が強化され、エレクトロニクスでターゲットを捕捉する連発グレネード発射装置を望んでいる。また、アフガニスタンへの投入による戦訓から、口径少なくとも6〜6.5mmの新弾薬を検討している。


 私はXM8を次世代小銃としてできれば何十年も使うために検討しているのかと思いましたが、そうではなく、XM29が本命で、XM8はつなぎということのようです。しかし全く新しい技術によるXM29の投入にはまだ少し時間がかかり、対テロ戦争が今後も継続していく中で、これ以上不満足なM16シリーズで我慢することはできないので暫定的にXM8を求めている、ということでしょう。ただ、個人的にあまりに大きく、重く、また高価にならざるを得ないXM29を歩兵用火器の主力とすることが本当に可能なのか疑問です。XM29は支援火器的なものになり、大多数はXM8またはそのクラスのライフルを使用するというところにおちつく可能性もあるんではないかと思います。
 この記事で紹介されているXM8は現在テストしているXM8とはかなり形状が異なります。また、現在はマガジンはM16とは異なりG36と共通のプラスチック製になっているようです。これは「アフガンでの戦訓」で指摘されていたマガジンリップの変形による送弾不良が問題になったせいかもしれません。現在でもそうなのか不明ですが、光学サイトに赤外線を感知、映像化する機能だけでなく、「赤外線光源」が要求されていたというのは意外です。これは第一世代の暗視装置に使われたもので、相手が受光装置だけでも持っていたら「闇夜に提灯」状態で標的になってしまうためあまり使われなくなったはずのものです。ひょっとすると、アメリカは今後の主な敵は途上国のゲリラであり、高度な装備を持たない彼らに対しては赤外線照射による照準が充分可能と考えているのかも知れません。
 パーツ交換によって7.62x39mmが使えるというのは驚きました。これなら6mm代の新弾薬の使用は全く問題ないかもしれませんが、やはり新弾薬移行の可能性はXM8採用のネックになっているようです。
 アメリカのオートピストルは.45ACP主流から9mm主流になり、それは行き過ぎということで.40S&W主流になりましたが、軍用ライフルもこれに似た形で7.62mmから5.56mmになり、それは行き過ぎということで6.8mmあたりになるのかもしれません。ちなみに「アフガンの戦訓」では「6.5x45mm」弾薬が検討されていることになっていましたが、現在は「6.8x43mm」という弾薬が検討されているようです。私の推測では、「6.5x45mm」というのは現用の5.56x45mm弾薬の薬莢の絞りを少なくして、少し大きな弾頭をつけただけのものだったんではないかと思います。これならいちばん既存の銃の流用に都合がいいはずです。しかしこれでは薬量が足りないということで薬莢をやや太くした「6.8x43mm」弾薬が有力化しているんではないでしょうか。


 



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