日本のハンドグレネード

 「Waffen Revue」36号に、日本製ハンドグレネードに関する詳細な記事が掲載されていました。


日本のハンドグレネード

モデル91、97、99

前文
 1929年、日本陸軍に5cmグレネードランチャーモデル89(頑住吉注:八九式重擲弾筒)が採用された。このランチャーは本来投射グレネード89を発射したが、我々はこれについては別にレポートする。これは今回のテーマと関係がないからである。しかし我々は同じ理由からこのランチャーについては後で記述する(頑住吉注:今回は日本の手榴弾がテーマなので、手榴弾として使用されない擲弾筒専用の榴弾については後日とするが、手榴弾も発射できる擲弾筒については今回記述する、ということです)。

 たった2年後、つまり1931年、日本はあるハンドグレネードを採用した。これはその独特の使用範囲において真にまたとないものだった。つまりこのハンドグレネードモデル91は、

1.ノーマルなハンドグレネード
2.ライフルグレネード
3.グレネードランチャー89用投射グレネード
4.地雷(踏む地雷)
5.つまずきワイヤー地雷


として使うことができた。

 我々は他のハンドグレネードによって達成されないこの汎用性ゆえ、これおよび後継機種である97そして99にいくらか詳細に取り組みたい。

A.ハンドグレネード91

 当時このハンドグレネードを多くの可能性向けに使用できるようにするため、賢い(頑住吉注:「clever」。たぶん英語のクレバーと近いニュアンスでしょう)な日本人はある種全く特別なことを考え出した。

1.合理化および製造の単純化という理由で、グレネード本体は5つ全ての使用方法向けに同じままでなければならなかった。

2.信管はハンドグレネード用信管、遅延信管(頑住吉注:発射後一定時間経過後に爆発させるための信管)、着発信管、そして最後に負荷信管(頑住吉注:踏まれるなどの負荷で爆発させるための信管)としても効果を表わすように作らねばならなかった。

3.このグレネードをライフルグレネードとして使用する際によりよい飛行特性を与えるため、グレネード本体の後端に安定シャフトを取り付けることができた。

4.このグレネードをライフルから駆動弾薬を使って、そしてグレネードランチャーからファイアリングピンを使って発射できるようにするため、グレネード本体後端に追加の発射薬ケースがねじ込まれた。

5.前述の信管の性質から、必然的に地雷およびつまずきワイヤー地雷としての使用法も生じた。

 人がひたすらこのための意思を持ち、そして全くバラ色でない経済状態が合理化を強いた時、いかに簡単に問題が解決されるかが分かるだろう。

説明
 前述のようにグレネード本体は5つ全ての使用向けに同じだった。これは円筒形の鋳鉄体からなり、前後はすぼめられていた。特定の空気力学的フォームを得るためである。破片の形成は50の部分において設けられた凸(予定破壊箇所)によって達成された(頑住吉注:チョコレートの凹凸のように、縦に1列5つ、円筒の周囲にぐるっと10列の凸部があることを指しています。ただ日本軍だけでなく米軍もこの凹凸はあまり意味がないとして後に省略しています)。

 本体の前部(頑住吉注:手榴弾としては上部と言いたいところですが、砲弾として飛ぶ際に先になるので前部とされています)にはネジ止めのフタがあり、グレネード本体を炸薬で満たした後にねじ込まれた。これは2つのキーホール(頑住吉注:説明がありませんが、ねじ込みのとき工具とかみ合うためのものだと思います)が備えられた鉄板であり、銅製パイプの受けにもなっていた。この銅製パイプは信管と結合された炸裂カプセルの受け入れ部として役立ち、全グレネード体に達し(頑住吉注:内部を上下に貫通しているということです)、厚い一枚の紙製円盤で内壁と垂直に保持されていた。

 このネジ止めのフタはさらにネジを備えており、ここに信管がねじ込まれた。

 グレネード本体後方は頑丈に閉鎖されていたが、底部にネジが備えられ、ここに発射薬ケースをねじ込むことができた。

信管
 全く簡単でありながら非常に知恵を絞って設計された、非常に汎用的な信管の秘密は、5つの可能性用に何の変更もなしに使えるというものだった。

 信管は信管ケースからなり、この中にはノーマルなファイアリングピン装置と異ならないファイアリングピン、ファイアリングピンスプリング、保護キャップ、安全ピン、プライマー、遅延装置つき炸裂カプセルが収められていた。「この部品がいかに作用するか」は個々の使用可能性の説明の際により正確に説明する。

図4 発射薬ケースをねじ込んだハンドグレネードモデル91の断面図 1=ファイアリングピンヘッド 2=ファイアリングピン先端 3=ファイアリングピンスプリング 4=安全ピン 5=プライマー 6=ガス噴出口 7=遅延装置 8=点火薬 9=炸薬 10=グレネード本体 11=発射薬 12=鉄円盤 13=ねじ込みのフタ 14=ファイアリングピンケース (頑住吉注:何故か名称が示されていないので追加しましたが、「a」が「信管ケース」です。「b」が「銅製パイプ」で、「炸裂カプセル」は8の別名だと思います。銅製パイプは厚い紙の円盤で垂直に保持されているというんですが、これは図示されていないようです)

A1.ハンドグレネードとしての使用
 前述のように、ハンドグレネードとしての使用のためにはグレネード本体と信管だけが必要とされた。

 ファイアリングピンスプリングは一方の端が信管ケースの底部にあてがわれ、他の端でファイアリングピンケースを上に押していた(つまりプライマーから遠ざけていた)。信管ケースから8mm突き出ているこのファイアリングピンケースの上には、保護キャップがかぶせられていた。この保護キャップは一方ではファイアリングピンケースを信管ケース内に固定し、他方では安全ピンを脱落から防いでいた。ちょうどファイアリングピンスプリングの圧力下にあるからである。つまり同様に圧力下にある安全ピンは保護キャップと信管ケースを貫通し、保護キャップの反対側から再び突き出ていた。つまり安全ピンは保護キャップの脱落と、ファイアリングピンケースの運動も防いでいた。

 投擲のためには圧力下にある保護キャップをわずかに押し込み、セーフティとして作用している安全ピンを引き抜いた。しかしここで保護キャップは依然として信管ケースのカバーとしてその屈曲部(頑住吉注:上の図の「c」)で信管ケースに保持され、ファイアリングピンケースの落下を防いでいた。

 このとき使用者はハンドグレネードを信管を下にして堅い物体(例えばヘルメット、ライフルストック、あるいは石)に打ち付けた。これによりファイアリングピンを伴うファイアリングピンケースは押し込まれた。ファイアリングピンの先端がプライマーに当たり、これにより6秒の遅延装置に、そして最終的に点火薬によって炸薬に点火された。この6秒は正確に算定され、この結果使用者には投擲のための充分な時間があった。

 これにより遅延を伴う着発信管(頑住吉注:この場合は「打撃信管」の方が適切かも知れません)の機能が生じたのである。

特徴とデータ
 グレネード本体は内部および外部が黒く塗装されていた。ネジ止めのフタは赤、信管は全真鍮製で無塗装だった。「Waffen Revue」のコレクションから出た2つのサンプルは底部の縁に16.3という数字と楕円形の中にドイツ語の小文字「r」に似た記号が白色で入れられている。1つのハンドグレネードにはそれ以外のマーキングがない一方、他方にはさらに2つの小さな刻印された記号がある。信管には日本記号の数字が与えられている。

 グレネード本体の長さ=66.3mm 信管を装着した状態=99.2mm 発射薬ケースねじ込み時(さらなる使用可能性については後で記述する)=124.6mm 直径=50mm 重量=526.4g 充填剤=65gのTNT

A2.ライフルグレネードとしての使用
 このためにはまず前述のハンドグレネードに発射薬ケースをねじ込んだ。これによりこのグレネードは写真4および5に見られる外観になった。

 この発射薬ケースはマッシブな、上部が閉じられた鉄製ケースであり、その中に発射薬とプライマーが収納されていた。このケースは6つのガス噴射口(ガス漏出穴)を備えていた。

 その後、翼シャフトをかぶせた。これは同様に発射薬ケースのアウター両側に備えられた穴とかみ合い、写真7の外観を得た。

機能
 準備のためにはまず、アタッチメント(写真8)をライフルのバレルにかぶせた。器具の刻み目がライフルのフロントサイトの後方に位置し、アタッチメントがもはや落ちることができないようにである。

 その後翼シャフトつき準備済みのライフルグレネードをアタッチメントにかぶせた(写真9)。さらに駆動弾薬をライフルに装填した後、銃は発射準備状態になった。しかしグレネードはまだセーフティ状態である。

 発射のためにはまず、それまでファイアリングピンを拘束していた安全ピンを除去した。しかし依然としてファイアリングピンはファイアリングピンスプリングの圧力によって保護キャップに向け上方に押されている。

 駆動弾薬の発射の際、木製弾丸が発射薬ケース内のプライマーに激突し、、ここで発射薬に点火された。この際膨張したガスはガス噴射口を通って翼シャフト内壁とアタッチメント器具の間の狭いスペース内に出、さらなる拡張の際に投射した。ライフルグレネードはアタッチメント器具からターゲットに向かって飛び去った。

 発射時の突然の急速な動きの際、5.9gの重さを持つファイアリングピンケースに固定して取り付けられたファイアリングピン先端がその慣性によって「後を急いで追う」信管のプライマーに衝突し、このとき遅延剤にも点火し、遅延剤はライフルグレネードの飛行の間に燃焼し、約6秒後、つまりターゲットへの命中の際、グレネードを爆発に導いた。

 これは典型的な遅延信管の機能である。
 
(頑住吉注:左がアタッチメントで、バレル先端にかぶせてぐるっと回すと固定されるようです)

A3.ランチャーグレネードとしての使用
 冒頭で言及したように、このグレネードは1929年に採用されたグレネードランチャー89からも発射できるように作られていた。写真11に見るように、このグレネードランチャーには2つの異なる型が存在した。これに関しては主に高さ調節装置が変更されていた。

(頑住吉注:写真11というのはこれで、右はあまり見ないタイプです。須川薫雄氏著「日本の軍用銃と装具」・国書刊行会・には、「アッツ島で、筒身に45度が分かる水平儀が入れられているものが発見された。明らかに、後から筒にベルト状の鉄で水平儀を装着された八九式がたまに見られる」とあり、このことではないかと思います。この書き方だと現地改修ということなんでしょうか。)

 1921年にはすでにグレネードランチャーモデル10が採用されていたが、これも同様に投射グレネード91の発射に使われた。

(頑住吉注:これが十年式擲弾筒で、右は運搬状態です。他の資料によれば湾曲した底板も砲身内に収納されてこんなにコンパクトになるのだそうです。)

グレネードランチャーモデル89の説明
 写真に加えて、このランチャーの構造に関する概要を伝えるため、さらに以下の説明を加える。

 これは簡単に運搬でき、1〜2人の兵で操作できる兵器だった。口径は5cm、重量は4.5kgであり、兵はこれを使って方向および高さ調節次第で120mから670mまで射撃できた。湾曲した「地面プレート」は例えばいわゆる膝ランチャーとして作られたものではなく(そのためには発射の際のリコイルショックがあまりにも強すぎた)、あらゆる土地での使用のためだった。これはでこぼこした、あるいは柔らかい地面に合わせ、または大きな枝、切り株などの上に置くこともでるように形成されていた。

ランチャーモデル89の機能
 射撃のためには、安全ピンを抜いた後にグレネードを前からランチャーの砲身内に入れた。図12に見られるように、その際ランチャーのファイアリングピンはレスト状態にあった。

 次にトリガーを下に動かした。その際トリガーは歯車装置によってファイアリングピンシャフトを後ろに引いた。ファイアリングピンシャフトがセーフティ内にはまるまでである(ファイアリングピン設備はグレネードを翼シャフトなしでも(写真16)、シャフトつきでも(写真14)使えるように形成されていた)。

 使用者がトリガーをさらに下に引いた際、セーフティレバーが閉鎖ピンを解放し、圧縮された打撃スプリングがファイアリングピンロッドを急速に前進させた。この結果ファイアリングピンはその先端で発射薬ケース内のプライマーに点火することができた。ここからはライフルグレネードとしての使用と同じ経過が起こった。

 これに加え、翼シャフトつきでのグレネードの使用には2つの決定的なメリットがあったことを述べておかなければならない。第1にこのシャフトによってよりよい飛行安定が達成されたということ、第2に発射薬のガスがよりよく利用されたということである。内部でガスが拡張するシャフトが密接にランチャーのファイアリングピンケースに接したからである。グレネードを翼シャフトなしで使用する際(おそらくそれがないときの使用の際のみ)はガス拡張空間の閉鎖はグレネード本体の太くされた底部によって達成されたが、ガス拡張空間のボリュームは決定的に大きくなった。

(頑住吉注:89式重擲弾筒の断面図です。パーツ名称は、1=ファイアリングピン 2=高さ調節装置 3=トリガー 4=セーフティレバー 5、6=打撃スプリング 7=閉鎖ピン 8=砲身台 9=調節装置 10=砲身、となっています。ちなみに4が何故セーフティレバーという名称になっているのかよく分かりません。これはダブルアクションシアであって旧軍でも逆鉤という名称になっていたはずです。このシアは4のトリガーとセクターギア状にかみ合っていて、トリガーを下げるとシアの左にある突起が下降してファイアリングピンを押し下げ、一定以上下がるとかみ合いが外れてファイアリングピンがレットオフされるわけです。7が閉鎖ピンとなっているのもよく分からず、丸いピン状の部分ではなくパーツの段差がシアとかみ合っています。それと、他の資料には見つからなかったんですが、八九式重擲弾筒で九一式手榴弾を発射する際に「翼シャフト」が装着できたという記述は本当なんでしょうか。この説明によれば、ファイアリングピン先端部が通っているパイプ状部分の直径が上で記述されたライフルグレネード用アタッチメントと等しく、発射ガスを狭い空間内に閉じ込めることで飛距離が向上したということのようですが。ちなみに、

この写真の左が「翼シャフト」つきで使用している様子だと説明されているんですが、不鮮明で全然判別できません。

A4.地雷としての使用
 信管の独自性はこのハンドグレネードのTretmine(頑住吉注:直訳すれば「踏む地雷」で、辞書には「圧力式地雷」とあります)としての使用も可能にした。このためにはグレネードを信管を下にして堅い物体(木片、石など)の上に立てた。安全ピンを抜いた後で垂直に立ったまま留まるようにグレネードを偽装した。

 グレネードに負荷がかかった際(その上を歩く、乗物で走行するなど)、ファイアリングピンの先端が信管ケース内のプライマーを圧迫し、遅延装置の燃焼後にグレネードを爆発させた。グレネードを突いた際、遅延なしで爆発させるZug(頑住吉注:「u」はウムラウト。「引くこと」、「列車」、「小隊」、「ライフリング」など非常にさまざまな意味があり、この場合の意味は不明です)信管も使用されたという。写真18はハンドグレネードモデル97を示しているが、これは閉じられた底部がモデル91と違うだけであり、この方法で敷設されている。

(頑住吉注:写真18というのはこんなのです。)

A5.「つまづき地雷」としての使用
 我々が図19に見るようなグレネード91の「つまづき地雷」としての使用はかなり危険な設備だった。

 このためには杭が地面に打ち込まれ、これに壁の薄いパイプ、あるいは竹の棒(内径5cm以上を持たねばならない)が固定された。このパイプの下には堅い下敷き(鉄板、木の板、石など)が置かれた。その後パイプには適切な穴が開けられなければならなかった。これによって使用者はグレネード保持用のワイヤーを底部から約25cm上の位置に取り付けることができた。使用者は発射薬ケースのガス噴出口に固定した追加の保持ハンガーの中にこのワイヤーを通してグレネードを宙吊り状態で保持するか(図19上)、あるいは安全ピンを抜いた後に2本のワイヤーを信管の下に通した。これらのワイヤーは1本のつまづきワイヤーと結びつけられていた。この状態で人がワイヤーに突き当たると、グレネードはパイプ内を信管を堅い物体に向けて落下した。これにより点火と爆発が起こった。

(頑住吉注:図19というのはこんなのです。部分名称は、1=保持ワイヤー 2=安全ワイヤー 3=支えワイヤー 4=パイプ、長さ約30cm 5=堅い下敷き 6=カバープレート 7=ハンドグレネード 8=木の杭、となっています。ハンドグレネードを支えるワイヤーが3本示されていますが、たぶんこのいずれの形式でもいいということでしょう。人が通りそうなところにワイヤーを張っておき、それを引くとハンドグレネードが落ちて数秒後に爆発するという単純な仕掛けです。)

B.焼夷ハンドグレネード
 これは構造上前述のハンドグレネードに似ている。差は炸薬の代わりに燐が満たされ、グレネード本体にミゾがなく平滑で真鍮製であるだけである。信管も発射薬ケースもハンドグレネード91と同じである。その外観と部品は図20に見られる。

全長144mm、直径50mm。

(頑住吉注:図20のうち断面図のみ示します。パーツ名称は、1=保護キャップ 2=安全ピン 3=グレネード本体 4=内部ケース 5=信管ケース 6=炸裂カプセル 7=発射薬ケース 8=発射薬 9=ファイアリングピン 10=ファイアリングピンスプリング 11=プライマー 12=遅延装置 13=燐 14=紙製円盤 15=閉鎖 16=プライマー、となっています。二重構造になっているのは燐を空気に触れないように密封するためだと思いますが説明はありません。この形からこれもハンドグレネードとしての使用だけでなく擲弾筒からの発射が想定されているのが分かり、比較的遠い敵に焼き討ちをかけることができたわけですね。)

C.煙幕ハンドグレネード
 外観と構造は焼夷ハンドグレネードと同じで、差は燐の代わりに発煙剤が満たされていたことである。真鍮製外部ケースは無塗装だった。これはハンドグレネード同様投げることもグレネードランチャーから発射することもできた。

D.ハンドグレネード モデル97
 このハンドグレネードは底部が閉鎖され、そしてこのため発射薬ケースがねじ込めず、ハンドグレネードとしてしか使えないという違いを除きモデル91と同じだった。この理由から遅延装置の燃焼時間も4〜5秒に短くなっていた。

 全長は10cm、直径は5cm、重量は500gだった。充填剤はTNTだった。グレネード本体は黒色に塗装され、ねじ込みのフタは赤色、信管は真鍮製だった。

 このハンドグレネードは写真18に見られるように、同様に地雷として敷設することができ、1937年に採用された。

(頑住吉注:これも断面図のみ示します。パーツ名称は、1=ファイアリングピンケース 2=ファイアリングピンスプリング 3=プライマー 4=ガス噴射口 5=遅延装置 6=円盤 7=炸裂カプセル 8=充填材 9=ファイアリングピン 10=保護キャップ 11=信管ケース 12=グレネード本体 13=炸薬、となっています。)

E.ハンドグレネード モデル99
 この1939年に採用されたハンドグレネードの機能は同じく前述のものと似ていた。ただこれはグレネード本体が平滑で、つまりミゾがなく、ねじ込みのフタの上に保護リングが取り付けられただけだった。これはハンドグレネードの点火の際、つまり堅い物体に叩き付ける際の光を抑制し、そしてこれにより暗がりの際投擲者の位置が分からないように意図されたものだった。

 このハンドグレネードは同様に閉鎖された底部を持ったので、発射薬ケースをねじ込むことはできず、グレネードランチャー用には想定されていなかった。これに対しこのハンドグレネードは特別な射撃カップ、モデル100(1940)から発射することができた。

(頑住吉注:パーツ名称は、1=信管ケース 2=ファイアリングピンケース 3=安全ピン 4=保護キャップ 5=ファイアリングピンスプリング 6=プライマーネジ 7=プライマー 8=保護リング 9=噴気口 10=ねじ込みのフタ 11=遅延装置 12=グレネード本体 13=炸薬 14=点火薬、となっています。保護リングは信管と保護キャップの隙間から漏れるフラッシュを隠すものらしいです。)

射撃カップの機能
 我々が写真23で分かるように、この日本製射撃カップモデル100はドイツ製とは全く根本的に違っていた。

 これは本来のカップと結合された短い追加バレルからなり、ライフルのバレルに取り付けられ、鎖の外れ止めで結合されていた。

 射撃のためにはグレネードから安全ピンを抜く必要があり、これで爆発可能になったグレネードを前から射撃カップに入れた。ライフルの実弾の発射後、弾丸が追加バレルに達したところで弾丸を前方に推進するガスが(図23で分かるように)一瞬のうちに射撃カップのガスチャンバー内に向きを変えた。そこでガスはグレネードの底部に作用し、グレネードをパイプから投射した。射撃カップのスライド弁を閉じるか、必要に応じて開くか次第でガス圧を調整することができた。

ハンドグレネード モデル99はモデル91よりいくらか小さかった。全長=8.9cm、直径=4.8cm、重量=360g、充填剤=ピクリン酸、遅延=4〜5秒。

 グレネード本体は黒色に塗装され、白色のステッカーが備えられていた。ねじ込みのフタと信管保護キャップの後部は赤色に塗装され、信管は真鍮製だった。

(頑住吉注:パーツ名称は、1=信管(安全ピンはすでに除去) 2=射撃カップ 3=短い追加バレル 4=鎖の外れ止め 5=サイドプレート 6=スプリングクリップ 7=ライフルのフォアストック 8=グレネードモデル99 9=ガスチャンバー用のスライド弁 10=ガス方向転換 11=追加バレルからの駆動ガス流出、となっています。11はどう考えてもおかしいので無視しましょう。)


 この記事を読もうと思ったのは、日本人の間で言われているほど擲弾筒が後の兵器に大きな影響を与えたという評価が見られるかどうかに興味があったからですが、そうした記述は全くありませんでした。しかし意外にも初めて、ドイツ人に「クレバー」だとほめられている記述を目にしたわけです。ただ、「人間貧乏で困っていると簡単にいいアイデアが浮かぶもんだね」というような記述にはちょっと馬鹿にされているようなニュアンスを感じますけど。


 私は安全ピンを抜いて投げるだけでいい米英方式と違って堅いものに叩きつけなければならない旧軍の手榴弾の点火方法を、単に旧式で不便なだけと思っていましたが、こんなに多様に使えるメリットもあったわけですね。投射グレネードやライフルグレネードとしての使用の際、発射時の急速な動きによる慣性で遅延装置に点火されるというのは手間要らずでうまくできていると感心しました。さらに、ごく簡単に地雷としても使えるわけで、これらのメリットには、あるいはノーマルな手榴弾としての使用の際の多少の不便を相殺するに足るかもと思わせるものがあります。
 
 挙げられている、

1.ノーマルなハンドグレネード
2.ライフルグレネード
3.グレネードランチャー89用投射グレネード
4.地雷(踏む地雷)
5.つまずきワイヤー地雷


 という5つの使用法のうち、1.はハンドグレネードである以上当たり前であり、しかも前述のようにやや不便でさえあります。5.も、単にハンドグレネードを何かに固定して安全ピンとつながっているリングにワイヤーを結べばいい米英式の方が簡単でしょう。2.は米英式手榴弾でも行われた使用法ですが、ロケットのような形状のアダプターを取り付けるやり方だけで、「射撃カップ」からの発射はできなかったはずです。ライフルグレネードを発射する際は空砲か実弾を使うのが普通で、いずれの場合もライフル弾薬の発射ガスによって発射するわけですが、このようにグレネード自体に発射薬を内蔵し、木製弾丸をプライマーに命中させて点火するというのは非常に珍しい方法と思われます。もちろん木製弾丸を推進していたガスも発射の助けになるでしょう。そして3.および4.の使用法は全く独自のものです。M79に影響を与えたかどうかはともかく、擲弾筒は非常に有効な兵器だったようですし、その弾薬が通常の手榴弾と共用できるというのは合理的です。ちなみにやや似た使用として、米軍はバズーカを対戦車用ではなく対人用に使用する際の弾薬の弾頭に手榴弾を流用しました。仮に日本軍がこれを真似しようとしたら、比較的ゆっくり加速するロケットでは発射時に慣性による点火が行われず、困ったかもしれません。信管を下にして固いものの上に立てて置くだけで地雷にもなるというのは非常に便利に思えます。ただ、踏んでから数秒後の発火ではすでにかなり離れた時点での爆発になる可能性も高く、実際にどの程度有効だったかは分かりません。

 最後に挙げられている「射撃カップ」は、銃身の先にストレートにつなげるものと違って特別な空砲がなくても実弾で発射でき、しかも現在のブレットトラップ式ライフルグレネードほど技術的ハードルが高くないうまい方法です(これは少数派ではありますが、他にある程度例があるようです)。ただし、ライフル弾は重いハンドグレネードより先に追加バレルを出てしまい、発射ガスが漏れるので、どの程度かは分かりませんがパワーロスが生じるはずです。手榴弾自体がやや小型軽量化されているのはこれで充分な飛距離を得るためでしょうか。

 なお、日本軍の手榴弾に関してはこんなページがありました。

http://www13.ocn.ne.jp/~seiroku/shuryudan.html






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