中国、インドの戦闘機用エンジン国産化断念を論評する
コラムでもちょっと触れましたが、インドが最近戦闘機エンジンの国産化を断念したそうです。同じ分野で苦しんでいる最中の中国はこれをどう評価しているでしょうか。
http://military.china.com/news2/03/11078240/20120709/17304468.html
評論、インドに長期計画が欠けていたことが国産戦闘機のエンジン断念をもたらす、とする
(頑住吉注:原ページのここにある画像のキャプションです。「LCA「光輝」戦闘機」 「光輝」は「テジャス」だそうです)
ニュースの提示
ある1986年に誕生した夢想が、26年の苦しい頑張りの後、ついにインドによって自ら放棄された。6月17日、インド国防省はLCA「光輝」MK-2戦闘機のために研究開発されていた国産の「カフリ」ターボファンエンジンの生産を放棄し、アメリカから輸入したGE-F-414エンジン(頑住吉注:スーパーホーネット、グリペンなどに使用されるエンジン)の使用に方向転換すると宣言した。これがインドの軍事工業にとって人をがっかりさせる情報であることは疑問の余地が全くない。
最初夢想は美しく良好に定められた
「カフリ」ターボファンエンジンのインドにおける正式名称はGTX-35VSである。1986年には早くもインドの国防研究・発展組織が国産航空エンジンを開発して「光輝」戦闘機の使用に供する準備を行っていた。当時「光輝」の原型機が使用していたのはアメリカのF-404(頑住吉注:F-414の原型になったもの)エンジンで、インドはもし国産エンジンが成功したらすぐにアメリカ式エンジンと入れ替えられると構想した。
1977年には早くも、インドはGTX37-14Uターボジェットエンジンをすでに開発していた。これはインド初の国産航空エンジンで、その後さらにこれを元にターボファン型のGTX37-14UBが開発された。後にインドは再びターボジェットエンジンの路線に回帰し、GTX-35エンジンを開発した。
GTX-35を開発したインドのガスタービン研究院はこのタイプに対し満足しなかったが、国防研究・発展組織の牽引の下、それでもGTX-35を元にして「光輝」戦闘機の使用に供するターボファンエンジンを開発することが決定された。こすなわちGTX-35VS、コードネーム「カフリ」であり、名前はインド国内のある有名な「聖なる河」から取られている。
1989年4月、「カフリ」開発プロジェクトは正式に始動した。インド政府は当時8年前後の時間、7,600万アメリカドルの資金を用いて国産エンジンの研究開発を完了させる計画だった。
現在見てみると、当時のインドは航空エンジン研究開発の複雑さと困難さを全く認識していなかった。しかも8年の時間がインドの技術的基礎にとって充分だったか否かは言わないにしても、プロジェクトの資金だけでもう余りにも不足だった。当時国際的に1機種の新型エンジンを開発するには、およそ20億アメリカドル前後の資金の消耗が必要だった。
すぐにインドのこの意気込みにあふれているように見えるエンジンプロジェクトは急速にインドの全力を尽くし急ぎ行う軍備更新の大潮の中に消失した。
1996年、計画に照らせば「カフリ」は研究開発成功に近づいているべきだったが、実際にはそれは原型機の試験がやっと開始されたばかりだった。2002年、ある情報が伝えられ始めた。「カフリ」は試験中何度もタービンブレードの致命的事故を発生させ、このためインドは止むを得ずフランスのSnecma社からエンジンのタービンブレードとデジタルコントロール装置を購入する、というものだった。
研究開発の現実は紆余曲折
インドの「光輝」戦闘機の生産は元々の時間コントロール節点を何度も突破したが(頑住吉注:何だかよく分かりませんがエンジンと違い機体の開発は順調だった、ということでしょう)、悲しむべきことに「カフリ」は2004年になっても依然「光輝」の生産型に装備される状態にならなかった。インドは止むを得ず40台のエンジンに関する契約をアメリカ人に与えた。
2006年、インドは特別に巨費を投じてフランスのSnecma社に「カフリ」の技術的問題解決の援助を依頼した。1年後、「カフリ」プロジェクトはK-9、K-10の両部分に分けられ、このうち後者がフランスのSnecma社と協力しての「カフリ」開発だった。インドのメディアはかつて、新たな「カフリ」はフランスのM88ターボファンエンジンの技術に基づく、とした。もし開発が成功すれば、インドにとっても利益あるよい情報だった。問題は、インドにおいては多くの事情が「もし」でしかあり得ないことだった。
国産戦闘機研究開発の進度は遅々として進まず、「カフリ」は何度も外部の議論を巻き起こしながら不断にその性能を高めていくしかなかった。
インドサイドが初期に明らかにした情報によれば、「カフリ」エンジンは低バイパス比の、アフターバーナーを持つターボファンエンジンで、6段階の高圧圧縮機と3段階の低圧圧縮機を含み、基本的な技術レベルは当時のアメリカのF-404に相当した。
しかし時間の流れと国外技術の介入につれ、「カフリ」の指標も徐々に高められ、何とヨーロッパのEJ-200、フランスのM88エンジンと同等に競えるものになった。後になってインドサイドは、「カフリ」はベクトルノズルを採用し、推力を増大してLCAに超機動性と「超音速巡航」能力を持たせるとさえ宣言した。インドの計画では、「カフリ」を装備した「光輝」戦闘機はすでにまるで意気天を衝く第4世代戦闘機になっている。
失敗の原因は1つでは足りない
2005年〜2012年、インドは不断に国産「光輝」戦闘機に「カフリ」を装備すると宣言してきたが、今日に至ってもこの目標は依然実現されていない。インド本国には高空試験プラットフォームなどのエンジン研究プラットフォームはないため、「カフリ」エンジンはIL-76機に搭載してロシアによってテストを行うしかない。
(頑住吉注:これより2ページ目)
国防研究・発展組織を安心させるためかもしれないが、インド国防省は「光輝」は「カフリ」エンジンを放棄するが、「カフリ」は将来いくつかの無人機に搭載して使用できる、としている。だがこの話を誰が信じるだろうか? 余りに苦しすぎる。インド当局は自分で認めているが、「カフリ」の失敗には次のいくつかの原因がある。タービン技術の蓄えの不足、技術、設計が複雑すぎ、インドには航空エンジンに関する先進的材料および生産設備が欠けている(西側も輸出制限をしている)、インドにはエンジンのテスト設備が欠けている、インドには関連する技術的人材と高級技術工員が欠けている。
これらの困難は、「カフリ」がもし完成品として出現しても指標が規範に符合しないか、さもなくば品質レベルが目茶苦茶でインド空軍が絶対にあえて安心して使用できないかだ、ということを決定する。現在に至り、数台の完成品となった「カフリ」エンジンは依然倉庫内に横たわり、見たところツルツルピカピカだが、1機のインド戦闘機もあえてこれを用いて天に飛び立つことはない。このことはさらにああした幻想的な指標を信じる人をなくす。
単純に技術的に言えば、発展途上国が航空エンジンを発展させる時は必ず類似の困難に遭遇する。だが、「カフリ」の失敗の重要なカギは、インド政府に長期計画、執行力、社会資源に対する掌握、コントロール能力が欠乏していたことにある。
航空エンジン開発プロジェクトの道はゆっくりとしていて長い
航空エンジンは、ずっと現代工業の「王冠」と見なされてきた。工業化の基礎なしに航空エンジンの研究開発を行うのは、疑いもなく現実離れしたことである。
具体的にインドに関して言えば、我々は依然客観的にその国情と発展環境を見守る必要がある。各方面の制約と影響を受けて、インドは工業化実現を国家発展の道とすることが全くない。「カフリ」の失敗と比べると、インドは顧客サービス、ソフトウェアなどのサービス性の産業が西側に逆流することがもたらす経済的影響をより気にかけている。経済が深手を追わない限り、もし輸入武器に頼ったとしてもインドはこれまで通りに過ごしていくことができる。
全体を通し、我々はインドがいくらかの金銭を費やして軍用航空エンジン研究開発のある種の試みを行ったとしか言えない。我々は「カフリ」が厳密な意味でインドの国産エンジンであると言うことはできないし、増してやインドがこれにより自分たちの航空エンジン研究開発体系を建立したと言うことはできない。
将来における何らかの時期、インドがまたその他の「国産航空エンジン」プロジェクトを発表する公算は高い。当然、その道は依然ゆっくりとして長いものになる。
この記述によればこのエンジンの開発を放棄したわけではなく、「テジャス」戦闘機への搭載、使用は断念したが無人機には依然使用するつもりがある、ということです。せっかく開発したんだし、無人機ならエンジンがトラブルを起こして落ちても人は死なないし有人戦闘機よりはずっと安いからいいか、ということでしょうか。あるいは官僚機構的に、断念すると誰かが責任を負わざるを得なくなるので断念していないことにしよう、ということでしょうか。たぶん中国の見方には「断念しちまえ」というバイアスがかかっていると思いますが、この点に関しては私も実質的断念と見て構わないんではないかと思います。
中国は何だか上から目線でインドの失敗やその理由を論評していますが、中国だってこのレベルの航空エンジンは国産化、実用化できていないわけです(ネックはやはりタービンブレードなんですね)。中国は身から出た錆として世界から危険視され、ロシアくらいからしか兵器関連の品を売ってもらえないし、ちょっとだけ買っては無断でパクることを繰り返して嫌がられ、いつもう売らんと言われるか分からない状況なので航空エンジンの国産化を断念することは絶対にできません。しかしインドはアメリカからもロシアからもヨーロッパ諸国からも兵器を買える立場なので航空エンジン国産化断念のハードルはごく低いわけです。したがって「ここまで大変なら輸入すりゃいいじゃん」となった段階での技術が中国より下だったとは言い切れないはずです。