ケルテックP3AT

 「Visier」2004年10月号の「スイス銃器マガジン」ページに、プラスチックフレームを持ち、.380ACPを使用するアメリカ製ポケットピストル、ケルテックP3ATに関する記事が掲載されていました。この記事で最も興味深いのは実は本題以外の話なので、「そんな銃に興味ないや」と思って読まないと損するかもです。


Kel-Tec P3AT

アメリカのメーカーKel-Tec CNC Industriesの、典型的なプラスチックフレームつきのこの小型ポケットピストルにはいくつかの弾薬仕様がある。もしテストの間に多くの弾薬種類とのかなりの程度の協調性のなさが現れなかったならば、9mmクルツ弾薬とのコンビネーションが理想的であるように思われたのだが。ただし他の弱点は現れなかった。

Kel-Tec社の最初の9mmパラベラム口径のコンパクトピストル(モデル P-11)に関しては、我々は当時IWM(頑住吉注:以前も出てきましたが、SWM=スイス銃器マガジンは以前IWMという名前だったようです。これ以上詳しいことは分かりません)1996年4月号でレポートした。筆者のThomas Hartlはこの銃を、この弾薬仕様の中で最小最軽量であると誉めた(頑住吉注:公式サイトによればたった400gしかなく、P2000、P99のサブコンパクトバージョンがいずれも600g代ですから確かに抜群に軽いです)。その属性は今日でも相変わらず有効だろう。だが10発の弾薬を短いマガジンに収めることを可能にするため、設計者はダブルカアラムを採用せざるを得なかった。これはとにかく左右に張り出した巾28.5mmにはっきり現れている。フルサイズのピストルならともかく、これは小型ピストルとしては不釣り合いな巾である。比較的小さな手を持つ射手(特に女性射手)にはこれは問題である。ことにDAO機能方式のせいでトリガーがさらにかなり遠く前方に位置していることもあるからなおさらである。

 1999年10月号では次のバージョンとしてのP-32のレポートを行った。この銃はグリップの問題を解消するかのように口径.32ACP、別名7.65mmブローニング仕様だった。この弾薬は9mmパラベラムよりかなり成績が低い。より弱い弾薬にもかかわらず、メーカーはロック機構つきのスライドをそのままにした。ライバルメーカーはたいてい固定バレルシステムで間に合わせているにもかかわらずである(頑住吉注:「たいてい」も何も、私は.32ACPを使用するショートリコイル方式の銃が存在するのは初めて知りました)。P-32ではシングルローのマガジンに7発の弾薬が装填され、これがピストルの巾を19mmに縮小させた。側面に固定された組み込みのホルスターセットとして役立つクリップにより、巾はその部分で23.5mmに増大したが、これはグリップサイズには反映しなかった。

 .32ACPは専門家の満場一致の意見により「効果目盛」の下端に定住しているが、これはこの弾薬が危険のないものであると言おうとするものではない。実はかつて1度、ある人が装填していないピストルで殺されるというケースがあったそうだ。すなわち、ハンマーが落ちることにより、ファイアリングピンの小さなかけらがちぎれ、バレルを通って銃を(ふざけて)向けられた人の目にまっすぐ飛んだ。その金属片は目を貫通し、脳に刺さって止まり、その人は結局死んだ。この例は再度、銃は射手に発射する意図がない限り、装填していようがいまいが決して人、動物、物体に向けてはいけないということを示した(頑住吉注:驚きました。こんなケースがあるんですね。ちなみに私は最初に読んだとき誤解しましたが、これは「弾丸の効力の判断は一筋縄ではいかない」、「低威力の.32ACPでも馬鹿にはできない。何故なら極端な例としてこんなこともあるからだ」という話であって、別にケルテックP-32でこれが起きたということではないようです)。

 そのような金属片の重量は「グラム領域のどこか」に位置し、またその「初速」はおおよそ100m/sである。このためその運動エネルギーはごくわずかである(0.2gBB弾が100m/sで約1Jですから、仮に1gとすれば約5Jですね)。それにもかかわらずその「命中弾」は不運な条件下で致死的に作用することが可能だった。それに対し、同じ「射撃」は丈夫な体のゾーンに対しては実際上効果なくはかなく消える。この効果幅のスパンはエネルギー(密度 頑住吉注:単位面積あたりのエネルギー。当然ながら同じ1Jをもって人体に命中しても針とピンポン玉では危険度が全く違うわけです)が上昇すれば増大方向にずれる。その際非常に重い、そして速い発射体でさえ効果は命中点の位置に依存する。このことは、極端な例として.50BMGを挙げれば理解できる。その弾(重量50g、速度800m/s)は、ファイアリングピンの破片のたっぷり3000倍大きい運動エネルギーを持つ。体の中央へのそのような命中弾は究極的に致死的であるが、その反面かすっても効果はない(超音速音によって引き起こされる耳の外傷は度外視する)。

 だがここでさらに充分一般学問的な説明をしよう。弾丸の効果に関する異る、そしてより正確な比較値が存在する。例えば、効果を純統計学的に現実の銃創に基づいて調査したEvan P.MarshallとEdwin J. Sanowの共著、「Handgun Stopping Power」および「Stopping Power」である。それによれば彼らの認識は、彼らが「Street Results」と呼ぶものに基づいており、単純なパーセント値で明らかにされる。この値は1発の射撃が行われた(腹部領域に命中した)全てのケースの数を、命中弾を受けた人がもはや攻撃を続けられなくなったケースの数と比較することによって計算される。この値は全ての弾薬種類および弾丸タイプごとに分けて明らかにされる。そのような調査はスイスでは思いもよらない。無数の可能性があって問題ないアメリカとは違ってあまりにも少なすぎるケースの数しか存在しないからである(アメリカでも全ての統計学上の疑いを越えないにしても)。

 例えば、(頑住吉注:.32ACPの)60グレイン弾を持つウィンチェスターシルバーチップに言及されている。この場合1発のみ発射され、腹部領域に命中した61のケースが分析されている。36のケースで命中弾を受けた人は戦闘の外に置かれた(「One-Shot stops」)。これは結果として59.01%になる(頑住吉注:うーん、私の想像より大分高かったですが、皆さんはどうでしょう)。同じ会社製の重量71グレインのジャケット弾では、トータル96ケースの射撃の中で48ケースの「One-Shot stops」が記録されている。これはちょうど50%になる(頑住吉注:シルバーチップとFMJの差が思ったより小さいのも意外でした)。これによればこの弾はより少ない効果を記録されたということになる。今主張の核心に達した。すなわち.380ACPにおいては、効果は51〜63%の間で振れており、これはつまり.32ブローニングの場合よりも統計上有意に高く(頑住吉注:でもたいして変わりませんな)、しかしこれも明らかなことに60〜89%の値を生み出している9mmパラベラムより下に位置しているということである。この調査方法によれば、フェデラル製125グレインジャケッテドホローポイント弾を持つ.357マグナムが96.05%の値をもってトップに位置し、210グレインシルバーチップ弾を持つウィンチェスター製.44マグナムとさえ隔たりがある。ただしこの統計にはいくらか偶然が役割を演じている。というのは.357マグナムでは406ケースが調査されているが(このうち390件がストップ)、これに対し.44マグナムは33ケースしか調査されていないからである(29件がストップ 頑住吉注:警察用にも多用されている.357マグナムで人が撃たれることは多いが、アメリカと言えども.44マグナムで人が撃たれることはそれよりはるかに少ないということですね。ちなみに腹部に命中弾を与えれば96%以上の確率で敵をストップでき、警察官に絶対の信頼をかちえている.357マグナムホローポイント弾でも、レアケースでは4発命中弾を与えても敵が反撃してくることもあるから効果の問題は難しいわけです)。

 長く話を続けてきたが、その意味は短く要約できる。この(頑住吉注:.380ACP)弾薬仕様のKel-Tec P3ATは、効果に関してP-11(9mmパラベラム)とP-32(7.65mmブローニング)の間に位置する。この銃が効果以外の点でいかにふるまい、機能するかについてはシューティングレンジにおける短いテストで示されるはずだった。この目的で私は使用目的で所持している全ての手持ちの.380ACPおよび9mmクルツ弾薬を持って行った。だが、幻滅はすでに最初の計測の前にやってきた。すなわち、マガジンに弾薬が最大級に装填しにくいのである。このため弾薬がくさびのように食い込み、装填されることは思いもよらなかった。つまり弾薬は1発1発直接チャンバーに入れることになった! さらなる問題としてスライドが閉鎖できず、弾薬がチャンバー外に留まった。弾薬を間違ったかと思ったが(私はかつてこのミスをやったことがある)、少なくとも95グレインのジャケット弾を持つレミントン製ハイベロシティは完璧に機能した。この銃は銃口前3mで232m/sをもたらし(頑住吉注:これはまた遅いですね)、控えめな166ジュールという結果になった。リコイルは245gしかない軽い銃でも4.6Jにしかならず、びっくりするようなものではない。ただし感じられる(頑住吉注:感じられるのは当たり前で、たぶん「ある程度強く」といったニュアンスなんでしょう)。
 私のもくろみはこのポケットピストルで25mから5発のグルーピングを作って計測し、蘊蓄を述べたいということだったが、少し練習すればこれは可能だった。全ての命中弾はIPSCターゲットの3点ゾーン以内に着弾し、30cm弱のグルーピングはいくらか狙点より上になった。これはトリガーのせいと思われる。トリガープルは2.7kgで、これは小型ピストルには上限である。小さな女性の手にも疑いの余地なく人間工学的にベターであるにしても、力を使わなくてはならない。ちなみにトリガーシステムは純DAOではなく、むしろグロック風セーフアクションである(Kel-Tecの場合トリガーにどんな種類の安全設備も持たない)。ロード運動により発火機構はコックされるが、ハンマーは前進するスライドとともに再びレストポジションに倒れる。断固としてトリガーを引くことによって初めてハンマーは再び目に見えて後方に動くが、指でつかむことはできない。不発の際はもはやトリガーを引くことはできず、スライドをフルに引かなくてはならない。

結論:この銃はちょうどまだ是認できる(頑住吉注:要するに実用上最低合格ラインの)弾薬仕様の非常にハンディで軽量なピストルであり、きちんとした加工がなされ、信頼性をもって機能する(弾薬との相性の悪さはたぶん銃自体のせいではないだろう)。どんなセーフティもないので、このピストルは単純さにおいてリボルバーに迫る。だが小さなスライドを引くためにはいくらか力(またはテクニック!)を必要とする。購入者は675スイスフランと引き換えに、苦労なく常時、そして安全に携帯できる、しかし発射準備操作時には苦労するバックアップ銃を手に入れる。

テクニカルデータ
モデル:Kel-Tec P3AT
銃器タイプ:改良ブローニングタイプのロック機構を持つセルフローディングピストル
メーカー:Kel-Tec CNC Industries,Inc.
アメリカ フロリダ州
口径:.380ACP
銃身長:69mm
サイト:スライド上面のマーキング
照準長:95mm
マガジンキャパシティ:6発
セーフティ:なし(安全錠 
頑住吉注:トリガー後ろに通して引けなくする単なる南京錠です
全長:132mm
全高:100mm
全幅:20m
重量:245g(アンロード)
素材:スチール、アルミニウム、プラスチック
価格:675スイスフラン(小型ケースとキー込み)


 ケルテック製品としては以前SU-16という折りたたみ式ライフルの記事(これも「スイス銃器マガジン」によるものでした)を紹介したことがあります。P3ATの公式紹介ページはここです。

http://www.kel-tec.com/p3at_pistol.htm

 それにしても公式ページなのにひどい画像使ってますねえ。それはともかく「P3AT Parts」をクリックするとパーツ展開図も見られます。これと記事の写真からいくつか気付いた点を挙げますと、

●パーツ数はたった37点しかない(ただしかなり簡略な構造にもかかわらず、グロックと比べて驚くほど少ないわけではない)。
●このシリーズはハンマースプリングに引きバネを使っている。
●SIGザウエルP250DCc、ステアーM-A1、MP446バイキング、ベレッタPX4ストーム同様、この銃も金属シャーシが通常のようにプラスチックフレームに鋳込まれて一体化しておらず、別パーツになっていて取り外せる。ただしこの銃の場合シャーシはアルミニウム合金製。
●リコイルスプリングは1本の軸に巻き方向を逆にした細いスプリング、太いスプリングを通したダブルの形式である。
●分解はピンをポンチとハンマーなどを使って叩き出すことによって行うので素手では無理。
●スライドストップはない。
●オートマチックファイアリングピンブロックはない。
●マガジンキャッチは左右入れ替え不可能。
●バレル先端とスライドのフィッティングはS&Wに近い。
●ロッキングは独立ロッキングラグ、リセスのないSIGロッキング。

 メーカーはDAOとしていますが、ハンマーブロックというパーツがシアの役割をしてハンマーをハーフコック状態で止め、ここからハンマーが完全に起きてからレットオフするセミダブルアクションであるのが分かります。トリガーバーはハーフコック状態からでしかハンマーを起こせないので、不発が起きてハンマーが倒れきってしまうとトリガーを引いてもハンマーは起きず、スライドをいったん引くしかないわけです。記事はグロック風セーフアクションとしていますが、連射時に2発目からトリガーストロークが短くなるようなことはないのでそれとは違い、セミダブルアクションオンリーといったところでしょう。価格は最も安いバージョンで305ドル(これはメーカーが発表している価格であり、たぶん実際はもっと安く買える場合が多いんでしょう)と非常に安く、メーカーによればこれまでに作られた最軽量.380オートであるということです。軽量でもショックを吸収するプラスチックフレームとショートリコイルメカのためにリコイルは不快なほど強くはないということのようです。ただしスライドが小さく、ダブルのリコイルスプリングがかなり強いのでスライドが引きにくいということです。安価で上等な作りとは言えませんが、S&Wに似たスライド、バレルのフィッティング方法のせいもあるのか、命中精度はディフェンスガンとしては充分なレベルです。作動不良に対するフォローはたぶん「この機種の銃すべてこうではなくこの製品がたまたま悪かったのだろう」といったニュアンスだと思います。雑誌に関わっていた頃私もこの手のフォローを入れた覚えがありますが、あんまり信用しない方がいいです(笑)。

 さて、この記事で最も興味深かったのは本題ではなく弾丸の効力に関する記述です。
 Dr.Beat Kneubuehlは、「弾丸の効果は肉体の損傷によって引き起こされる」→「肉体が損傷するということは物理学上の仕事が行われるということである」→「仕事をする能力がエネルギーである」→「弾丸の持っているエネルギーが問題なのではなく、肉体に伝達されたエネルギー量が問題である」→「だから弾丸の効力を測定するには肉体の各深度にどれだけのエネルギー量を伝達するかを計測すればよい」といった論理展開で「弾丸の効力とはエネルギー伝達である」という主張を行い、これはドイツでは主流の考え方になっています。これはいかにもドイツ人らしい理屈先行の考え方で、筋が通っているようで、個人的には「現実というものはそんなに理屈通りいかないんじゃないの?」という割り切れなさが残ります。また、Dr.Beat Kneubuehlの論では、効果を決定するのは「弾丸の効力」「命中点の位置と体内でたどるコース」「弾丸を受ける人の肉体的コンディション」「弾丸を受ける人の精神的コンディション」の4つであり、弾丸の効力は全体の一部に過ぎないとされています。これは全くもっともではあるんですが、一歩間違えると論と違う現実が示されても逃げ場が用意されている、検証不可能なトンデモ系の論になりかねない危険もはらんでいます。そして、エネルギー伝達の総量は等しいがどの深度でどれだけのエネルギーを伝達するかの性質が異なる2つの弾薬を比較して、どちらが効力が大きい弾薬なのかを評価することはできません。

 これに対し今回紹介されたEvan P.MarshallとEdwin J. Sanowの共著、「Handgun Stopping Power」および「Stopping Power」は、その弾薬の射撃によって実際にどれだけの確率で弾丸を受けた人が戦闘不能状態に陥ったかの統計を取ってパーセンテージで示すという手法を取っているということです。これはアメリカのように多くの人が撃たれているという条件がなければ不可能な手法ではありますが、それだけではなくやはり現実重視のアメリカ人らしい手法であるとも言えるでしょう。少数のケースでは理論と異なる効果が示されても弾丸の効力以外の要因のせいだと逃げることが確かに可能ですが、数十件、数百件の統計を取れば、「弾薬Aが使われた場合の方が弾薬Bが使われた場合より弾丸を受ける人の精神的コンディションがバッドだったんだろう」なんて言い訳は通らなくなります。また、似たような性質の弾薬でも、どちらがより敵を戦闘不能に陥らせることができる可能性が高いかを客観的に示すことが可能です。
 もちろん統計的手法にも充分なサンプル数があるか、評価する人に先入観があってバイアスがかかっていないか(例えばどこまでを腹部に命中したと評価するか、どんなケースをすぐ戦闘不能に陥ったと評価するかにはある程度主観が入らざるを得ず、例えば「.45ACPはストッピングパワーが大きい」という考えを持っている人が評価すると無意識のうちに.45ACPに有利な評価をしてしまうおそれがあります)といった部分は充分疑ってかかる必要があるでしょうが、個人的にはこの手法の方がドイツ流の考え方より信頼できそうな気がします。






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