キンバーMARSOC

 「Visier」2004年4月号に、新しいアメリカ海兵隊の特殊部隊のために作られたカスタムガバメントMARSOCに関する記事が掲載されていました。筆者は「Gary Paul JohnstonとHamza Malalla」となっていて、前者は同じ号にすでに紹介した6.8mmx43SPCの記事を書いていたのと同じ人物です。


暫定的解決
SHOT SHOWにおける新製品:これはキンバーがアメリカ海兵隊の新しい特殊部隊「Detachment 1」用に作った新しい.45口径ピストルだ。

 注文の規模は小さい。だが名声を得るという意味と結びついて、この注文はアメリカのメーカーであるキンバーにとって小さくない。新設されたアメリカ海兵隊(United States Marine Corps・USMC)の特殊部隊は、その隊員用として合計約200挺のキンバー製新型.45口径ピストルを装備した。海兵隊も他の米軍組織同様1985年以後9mmパラベラムを使用するベレッタを採用しなければならなかった。しかし一部の海兵隊員は古い.45口径ガバメントを信頼し、使用を続けた。すなわち、Marine Force Reconaissance Companies内の偵察兵、Marine Expeditionary Units(MEU)内のエリート部隊である1980年代の遅い時期に追加命名されたSpecial Operations Capable(SOC)などだ。これら各上陸旅団内の2、3ダースの「スーパー海兵隊員」たちは、古い在庫の中のM1911系を装備し続けた。これらのピストルにはQuanticoにおいて、海兵隊内の腕のいいガンスミスの手でBarStoのバレル、Kingsのバレルブッシング、Springfieldのスライド、Videckiのトリガーが組み込まれた。

古い鉄の銃
 Quanticoにある銃器関係の作業場が責任を持って銃器を供給するというこの方法(海兵隊用のスナイパーライフルでも同じ方法がとられた)では、M1911A1という製造中止モデルに関しては補給が難しく、継続困難であることが示された。また、残っているフレームも海兵隊内の偵察隊における過度の訓練によって状態が良くなかった。そして海兵はローテーションを組んで海外に投入されるが、MEUの上陸艦上で問題が起きた時はたいてい交換用のパーツがなく、そのたびにQuanticoに送り返さなければならなかった。
 このキンバーの銃が最初にミリタリーマーケットに参入したとき、いろいろな名称で呼ばれた。社内での名称は単にMCP-1(Marine Corps Pistol No.1)だった。一方海兵隊内では最初Marine Special Operations Commandを略して「MARSOC」と呼ばれた。さらにこの銃は「ICQB-ピストル」(Interim Close Quarter Battle 暫定的接近戦用ピストル)としても扱われた。新しい特殊部隊(DetachmentまたはDet-1)の側からの他の大規模な発注とは方法が異なり、このようなサイドアームのために時間のかかるテスト手順を伴う競争入札は行われなかった。小規模な特殊部隊は、彼らの判断基準に照らして何が何でもベストなピストルを必要としたわけではなく、シンプルでただ実用的なピストルが、しかしすぐに欲しかったのだ。これは「暫定的措置」とされたものではあるが、海兵隊が古くからの恋人である.45ACPガバメントデザインのもとに大規模に復帰することが可能になったということだ。つまり、200挺のDet-1キンバーピストルは、全海兵隊員向けに新しい1911系ピストルが装備される前触れである可能性もある。ただしその場合スプリングフィールド、コルトなど他のメーカーも含めた選抜テストが行われるだろう。
 Force Reconaissance Companiesから選抜されて編成された新しい特殊部隊Det-1の方向性は明白である。このピストルはMEU-SOC用.45ピストルのように、偵察要員のためのものだ。そのための要綱は1986年に、現在はすでに海兵隊を引退してアリゾナ州のGunsite Academyの副校長を務めているRobert Young(当時大佐)が作ったものである。

Det-1のためのベストのパーツ
 この新しいDetachments(支隊)用ピストルMARSOCは、基本的には全く普通のキンバーカスタムをベースにしている。ベースとなったこのキンバーカスタムは、クラシカルな5インチスライドの「ガバメント」だ。ただし、海兵隊は明確に旧型のシリーズ1に準ずる構造のものを望んだ。これは新型のシリーズ2にある、グリップセーフティと連動するファイアリングピンブロックがないモデルということだ。それゆえ、すでにキンバーのMARSOCの民間バージョンにはオリジナルへの忠実度という点で瑕疵があることになる。なぜならこのニューヨーク州所在の会社が民間向けに販売しているピストルは現在全てファイアリングピンブロック付きでしか買えないからである。
 トリガーメカニズムなど、大多数のパーツはキンバーのノーマルな量産品に由来している。かなり多数のチューニングスペシャリストはコストの安いMIM(Metal Injection Moulding)製法で作られた小パーツに対して不満を表している。しかし、MIMパーツを使用したこの銃は、これまでにDet-1の下で申し分なく初陣を乗り越えてきているように見える。ただし、海兵隊はこのシリーズに使用されているキンバーのHigh Gripグリップセーフティーに不満を持った。これはEd Brownの職場でチューニングを意図して作られたものだ。これはメインスプリングハウジングより後方に突き出しているが、その突出はキンバーのスタンダードなパーツより大きい。
 最終的にBrownのパーツは、似たSTIのパーツに交換されることになった。このパーツはBrownのそれ同様そのままキンバーのフレームに適応する。リアサイトはノバック製で、自己発光するトリチウムがインサートされており、アリミゾ結合されて左右に調節できる。キンバーもカスタムターゲットモデルにノバックと似た形式のリアサイトを備えているが、海兵隊はノバックオリジナルを選択した。キンバーのマガジンも不人気だった。Det-1はオリジナルマガジンの代わりに、Recon Marinesがすでに使っているのと同じ、ウィルソンコンバットのナンバー47 7連マガジンをセットした。
 滑りにくいザラザラのグリップパネルは「Gunner」と名付けられた。これはナイフのスペシャリストRobert Simonichが開発したものだ。これは酸およびオイルに対して極めて高い抵抗力のある素材G-10製で、海兵隊の特別の希望によって「Cojote Brown」色のコーティングが施されている。今後「Gunner」グリップパネルがどうなるかは現在すでに明らかになっている。Robert Simonichは11月に交通事故で死去した。しかし彼の妻Christineはすでに生産シリーズの少なくとも一部を製造し続ける旨の広告を行っている。彼女はこのグリップパネルのライセンスをStrider Knivesに与えた。さらにDet-1はGemtech社に、グリップと同じ色調のランヤードループをオーダーした。このランヤードループは電話のケーブルに似ており、45kgの抵抗に耐える。銃が敵に奪われるのを防ぐためだ。このケーブルを何らかの方法で銃に固定しなくてはならない。このため、キンバーのメインスプリングハウジングはSmith&Alexander製に交換されている。このMARSOCピストルはメインとなるM4カービンの純粋な予備銃であるにもかかわらず、海兵隊はアクセサリーとしてのホワイトライトを放棄しなかった。選ばれたのは6ボルトのSureFireだった。これはグリップ前方、トリガーガード下に位置するスイッチによって点灯する。SureFireはDawson Precision製のマウントレールをフレームに取り付けることによって装着できる。
 キンバーは現在M1913ピカティニーレールを組み込んだ強化フレーム付きのピストルも提供している。しかし、これはMARSOCの注文が行われた後で登場したものだ。それに海兵隊はピカティニーレール組み込みモデルよりも、より狭いDawsonレールの方が(ライトを装着していない場合)より多くの量産品ホルスターにマッチする点で望ましいと経験によって知ってきた。ただし実際にはDet-1は砂漠迷彩色のSafarilandホルスター モデル6004にSureFire装着の完全装備で入れて携行している。Det-1は新ピストルの命中精度に関する要求を「25ヤードから7発撃った場合4インチ(102mm)以内に入ること。ただしこれは普通のフルメタルジャケットラウンドノーズ弾で達成されなければならない」という比較的低いものに制限した。もしバレル、バレルブッシング、スライド、フレームのはめ合いを現行のスタンダードクラスのガバメントのようによりタイトにすれば、この1911改良型も著しくタイトなグルーピングを達成することができる。しかし、Det-1はモダンな公用ピストルとして、汚れた場合でも作動の信頼性が高く、簡単に分解できるように命中精度の基準値をむしろ中程度に留めたのだ。MARSOCは問題なくこれをクリアしている。キンバーはUSMC(アメリカ海兵隊)の刻印を借用して打ち、シリーズナンバー「DET-1 113」を刻印している。この新ピストルはDet-1同様進撃を続ける。何故ならこの銃はすでにコレクターの間で、コルトにも他社にもできなかった組織への供給を実現したということでカルト的なステータスを手にしているからだ。

モデル:キンバーMARSOC
口径:.45ACP
装弾数:7+1発
全長:222mm
バレル:125mm(ステンレススチール)
重量:1140g(エンプティ)
トリガープル:2270g
型:シングルアクション、燐酸塩処理、ノバックトリチウムサイト、Simonichグリップパネル、延長されたアンビのサムセーフティ、STI製グリップセーフティ、Dawson Precision製マウントレール、シュアーファイアーホワイトライト

弾薬 初速(m/s) 最小グルーピング(mm) 最大グルーピング(mm) 平均グルーピング(mm)
Black Hills 230grs FMJ 258 87 93 89
Federal 230grs FMJ 257 90 95 93
Winchester 230grs FMJ 261 93 98 96

※グルーピングは25ヤードから依託射撃の結果。


 本題以上に注目すべきなのは、この銃の採用は海兵隊全体がガバメントに復帰する前触れの可能性がある、という指摘でしょう。そもそも海兵隊は最初から9mmパラベラムを使用するベレッタへの移行には反対だったようです。そして、「イラクでの戦訓」「アフガンでの戦訓」の項目でも触れられていたように、現在でも海兵隊内に.45の方が良かったという意見が根強く残り、議論が続いているのも事実です。海兵隊はショットガンも特にお気に入りのようですし、陸軍でM1A1戦車がメインになった後も改良強化したM60戦車を長く愛用し続けたなんて話を読んだ記憶もあります。古くてプルーフされた単純なものを好むのは海兵隊の気質なのかも知れません。しかし今にして思うと、海兵隊が時代遅れのものを特に好む石頭というわけでもなく、そもそもベレッタM9の採用自体正しかったのかと疑問になってきますね。今現在実用オートとしてベレッタがベストであるというプロはあまりいないようですし。
 海兵隊はいわばやむを得ず、大多数はベレッタを装備しているわけですが、海兵隊内でもプロ中のプロと言えるようなごく一部の兵にはガバメント系を装備し続けました。これは在庫のガバメントのフレームを使い、スプリングフィールドのスライドなどカスタムパーツを組んだものです。HK4の「実銃について」で触れたように、アメリカでは銃の本体はフレームだということになっています。つまりこの場合建前上在庫の古いピストルを有効利用するにあたって修理用パーツを買っただけのことで、制式外のピストルを買ったわけではない、と言い訳ができるわけですね。ところがガバメントが制式を外れて長い年月が経過してパーツは足りなくなり、残ったフレームの痛みも激しくなって、限界に来た、ということです。ここで新たな特殊部隊のために、「暫定的」であり、小規模とはいえ、200挺のガバメント系を新規に購入したということは、全海兵隊がガバメント系に復帰する予兆ではないか、とこの筆者は考えているわけです。どの程度現実味があるのか不明ですが、可能性はありそうな気がします。ただ、このキンバーカスタムが未装填で1140gもあるように、ガバメントは今の常識からすると重過ぎる気がします。「アフガンの戦訓」の項目にあったように、現在の兵士は電気機器とそれに使用するバッテリーを持ち運ぶ必要などからただでさえ負担が大きくなっており、また実際にピストルが役立つことはほとんどないのが現実です。個人的にはガバメントへの復帰というのは時代への逆行という感があまりに強く、.40S&W仕様のグロックあたりが無難なのではという気がしますが。
 さて、本題のMARSOCですが、これはまあ特に何ということもないガバメントカスタムです。
 バレルは5inです。スライド前後にセレーションがあり、セレーションは粗く、後部で凹部が9しかありません(前は6)。角度はゴールドカップなどのようにグリップと平行のタイプです。個人的にはこれはスライドを引くときの滑り止めなんですからいわゆるミリタリータイプのようなスライドを引く方向と垂直の角度がいちばん滑りにくく実用的ではないかと思うんですが、高度なプロたちは何か理由があってこちらがいいと判断したんでしょうか。トリガーはロングで3つの重量軽減穴が開いています。ハンマーは穴が大きいリングタイプです。セーフティはアンビでロングになっていますが、スライドストップとマガジンキャッチはノーマルな形です。リコイルスプリングガイドは貫通していない短いもので、写真を見ると何故かプラグがコマンダー用のような短いものになってます。最も印象的なのはグリップです。「コヨーテの茶色」というのは我々にはピンと来ませんが、要するに黄土色みたいな色です。
http://www.simonichknives.com/gunner.htm
ここに画像があります。この滑り止めパターンが普通のものよりどういう風にいいのかは実際に握ってみないと分かりません(実際に握っても素人には分からないかもしれませんが)。製造ライセンスをストライダーナイフが入手したということは、そのうち日本にも入ってくるんじゃないですか。でもたぶん高価になると思うんで手早くレプリカを作って売ると商売になるかもしれません。私はやりませんけどグレネードさんあたりがこんなの得意そうですね。
 グリップはキンバーオリジナルではないわけですし、これに加えて、「小パーツの製法上の問題をかなり多数のチューニングスペシャリストが指摘している」「現行の市販モデル全てに装備されているファイアリングピンブロックは明確に拒否」「グリップセーフティは不評でSTIのものに交換」「キンバーもノバック風サイトを作っているがそれではダメということでオリジナルを使用」「マガジンも不評でウィルソンのものを使用」「キンバーのメインスプリングハウジングにはランヤードループがないのでSmith&Alexander製に交換」「マウントレールがないのでDawson Precision製のマウントレールをフレームに取り付ける」と来ると、「あのー、それならそもそも一体何故キンバー製を選んだんですか?」と訊きたくなるんですが。
 低コストのIMI製法のパーツとやらを使って安かったからでしょうか。これの正体はよく分かりませんが、「メタルインジェクションモールディング」という名前で低コスト、そして多くのチューニングスペシャリストが反対、ということからたぶんダイキャストの一種ではないかと思います。
 ファイアリングピンブロックは、コルト製ではシリーズ80から導入されました。これはトリガーと連動するもので、トリガーに余計なパーツを動かすテンションや摩擦が加わるわけで、当然の結果としてトリガープルが悪くなり、高度なプロやマッチシューターには嫌われたようです。キンバーのものはグリップセーフティと連動するものだそうで、これはこれならトリガープルが悪くならないという意図ではないかと思います。しかし理由は分かりませんが海兵隊はこれすら絶対に嫌だと意思表示したということです。落とした場合などの理論上の安全性は多少低下しても、少しでもシンプルで誤作動や誤操作(握り方が悪くセーフティが解除されない)の可能性が低い方を選んだ、ということでしょうか。こうしたプロ中のプロが使う銃という性格は、前回紹介した過剰な安全システムを持つタウルスPT24/7の対極と言えるかもしれません。
 電話のケーブルに似たランヤードループというのは、つまりコイル状に巻いたものということです。通常のものより簡単に伸びますが、例えば落としたりしたときたぐり寄せて拾うのが遅くなりそうですし、高度なプロたちがどうしてこういうものを選んだのかは実際の戦術等に関する知識が乏しい私には分からないです。
 マウントレールは幅の狭いものをフレーム前下部にネジ止めしてあります。現在主流であるピカティニーレール用のさまざまなアクセサリーを装着できる便利さはなくなりますが、アクセサリーをつけなければ多くの普通のホルスターに入って都合がいいということです。
 命中精度に関してはギリギリのタイトさにすれば例えば「SIGのガバメント」GSRのように25mから50mmくらいのグルーピングつまりMARSOCの半分くらいにすることも可能ですが、そうすると砂などが混入した場合に作動不良が起きやすくなり、また分解に工具が必要になってしまう、ということです。現実的にはこの程度で充分のようですね。
 サブタイトルではSHOT SHOWでこの銃が公開されたようなことが書いてあり、内容には民間バージョンが手に入るようなことが書いてありますが、調べた範囲ではそういう情報には行き当たりません。
http://www.kimberamerica.com/
キンバーの公式サイトにもそのものずばりのタイプは見当たりません。ただ、今後これに準ずる民間バージョンが発売される可能性は高いでしょう。ただしその場合はファイアリングピングロックは訴訟対策上装備せざるを得ないということですね。
 ちなみにこの銃に関しては町田さんという方が2ヶ月以上前に詳しく紹介されていました。
http://members.jcom.home.ne.jp/chivalries/index.html
このサイトの「実銃資料室」、「米海兵隊DET-1のKimber Custom」の項目です。グリップは異なるものの実銃のディテールが紹介されているサイトへのリンクもありますのでぜひこちらも参照してください。


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