強化パーツ

 私はキットの主な素材として市販のプラキャストを使っています。この素材は比較的安く、扱いが簡単で、硬化時間も早いなどの利点がありますが、強度が低いという欠点もあります。最近は工業試作用の樹脂を使って私と似たような性格の製品を作るメーカーが増えてきました。バクレツパイナップルのイサカマイアミカスタムもこの素材を使っています。普通のプラキャストよりはるかに強度があり、また精度も高いのですが、問題は高価だという点です。工業試作用という性格ですから、当然大量には必要とされず、またある程度高価でも許容されるわけで、これはやむを得ないことでしょう。少量が基本である試作用樹脂を使って量産するというのは、例えば実銃でプレスで充分なパーツを一個一個削り出すようなもので、不合理なわけです。もちろん金型を起こすことができない比較的少数の量産(変な表現ですが)の場合これしか方法がない、そして高価でも非常にいいものができるというのは事実なわけで、私もああいう作り方をしてみたいなあと、うらやましくも思います。
 ただ、私個人は私の作るものの限界もわきまえているつもりですし、つけられる値段は現在のラインか、それをやや上回る程度が限度だろうと思っています。ああいった素材を使えば価格は現在の2倍かそれ以上になるでしょうし、強度、精度が高いのは魅力ですが、コストアップに見合うほどのメリットではないのではないかと思っています。また、ある程度は確実に売れるだろうと予想したG36Cが国内向けには全然売れなかったように、何が売れるのか、というのは事前に予測が困難です。非常に高価な素材を使って量産し、結果全然売れなかったら大損になるわけで、私にはちょっとそのリスクはきついです。今後コッキングガンを作る場合などで、どうしても強度が必要な場合に一部パーツをああした素材で作ることはあるかもしれませんが、基本は現在と同じプラキャストでいくと思います。

 と、いうわけで、強度の低い素材を使い、しかもなるべく可動部分の多い製品を作るにあたっては、いろいろの工夫が要求されます。私がいちばん多用しているのはネジを鋳込むという方法です。なぜネジかといえば、いろいろな太さ、長さのものが揃っているので切断などの加工をせずに使いやすい、安価であるといった理由が主ですが、それだけではありません。スチロール棒などを鋳込む場合にはよくくいついてくれますが、プラキャストに金属を鋳込んでもなかなかしっかりくいついてくれず、境目からパリパリはがれてしまいやすいわけです。その点、ネジならプラキャストと広い面積で接触するので強くくいついてくれるわけです。また、ネジというものの性質上表面に広い面積で露出することがなく、外観や強度の面で有利になります。

 強度だけでなく弾性が要求される場合にはピアノ線を鋳込むことがあります。この場合は単にピアノ線を切断して型に入れただけでは

 こんな風に表面に露出してしまい、曲げた場合などにパリパリはがれてしまいやすくなります。そこで、

 こんな感じでピアノ線を曲げてから鋳込む必要があります。けっこう手間がかかります。

 鋳込み3

 こんな風にパーツからピンが出ているものがあります。細いピンはプラキャストでは強度が低すぎる場合が多いですし、そもそも型に入っていかず、まるまる気泡になって欠けてしまいがちです。そんな場合は、

鋳込み4

 こんな感じで型にピンをセットしておいてプラキャストを流し込めば自然に鋳込まれ、当然ですがピンの部分が気泡となって抜けるということはありません。

2003年4月5日追加
 プラキャストの強化には、繊維を鋳込むという方法もあります。「ザ・プロテクター」のターレットハンド、HK4のハンマーストラットなどには、太目のタコ糸を鋳込みました。ピアノ線のように事前にラジオペンチで複雑に曲げるといった準備が要らず、適当な長さに切ったタコ糸をピンセットで型にセットしてから流し込めばいいわけです。これは「折れにくくする」ことを狙ってやったわけですが、「ザ・プロテクター」のときやや意外なことに気付きました。タコ糸を鋳込んだプラキャストパーツにドリルで穴を開けるとき、ドリルがタコ糸部分を避けようとするんです。これはタコ糸を鋳込んだ部分の硬度が高くなっているということです。それ自体は当然硬くもなんともないタコ糸を鋳込んだ結果硬くなるというのは面白いですね。ただ、太いタコ糸の場合、硬化後に切ってみると、芯までプラキャストが浸透していない部分があります。いろいろ糸を探したんですが、太くて、液体がしみ込みやすいもの、というのはなかなかないもんです。
 そこで、糸のかわりにグラスファイバーを使ってみようと思いました。グラスファイバーを混入することで樹脂の強度を増すというのはよく行われることで、別段新しいアイデアでもなんでもありません。そもそも東急ハンズで売っているグラスファイバーもFRPなどの強化用のものです。この用途のグラスファイバーには、きちんと織った布状のもの、不織布状のもの、繊維の束を十数ミリの長さに切ったチップ状のもの、そして細長いヒモ状のものがありました。本当は、短い繊維をプラキャストに混ぜて流し込み、隅々までゆきわたってくれたらいいんですが、そうはならないです。容器の中で混合しても、何といいますか、洗濯機の中みたいな状態になり、繊維と液が均等にもならなければ、スムーズに流れ込んでもくれません。プラキャストの強化には、やはり型にあらかじめセットして流し込むしかないようです。
 二式拳銃のマガジンキャッチは板バネ状になっていて、上部はトリガーバーを前、上に押す板バネを兼ねています(実銃は違いますが)。従来ならここにはピアノ線を鋳込むところです。しかしピアノ線を鋳込んでも当然ながらプラキャストと一体にはならず、強く曲げるとピアノ線とプラキャストがずれるきしみが生じ、さらに曲げるとプラキャスト部分のみ折れてしまいます。そこでここにグラスファイバーを鋳込んで折れにくくし、弾性は補助のコイルスプリングで確保しようと思ったわけです。できたパーツを型から取りだし、曲げてみて驚きました。折れにくいのはもちろんですが、それだけではなく、ピアノ線を鋳込むより強い弾性が出ているんです。まあ、グラスファイバーは棒高跳びの棒にも使うくらいですから驚くことはないのかもしれませんが、それ自体には強い弾性がないグラスファイバーを、強度の弱いプラキャストに鋳込んだだけでこれほど強い弾性が出るというのは予想外でした。
 従来、板バネは量産できず、多くの場合リアリティを犠牲にしてコイルスプリングにアレンジしていたわけですが、この方法を使えばよりリアルな再現ができそうです。

グラスファイバー
細いヒモ状のグラスファイバー。空中に飛散した細かい繊維片を吸いこんだりすると有害らしいです。扱うときはマスクをし、ためらわず一気にはさみで切って短い切片が出ないようにし、使用後はビニール袋などに入れるといった配慮をした方がよいようです。

 

 

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