「リトル デービッド」

 「Waffen Revue」31号に、あまり知られていないアメリカ製の巨大砲、「リトル デービッド」に関する記事が掲載されていました。


「リトル デービッド」

91.4cmにより世界最大口径

序文
 人は第二次世界大戦におけるドイツの兵器設計者たちに関し、彼らは巨大なるものに病的欲望を持ち、そうした兵器を作りもしたかもしれないが、それは寸法において物凄いが、その開発と出費は正当化されない、と繰り返し言う。人はそのとき残念ながら今日の視点から物を見、当時普通に使用されていた弾薬の貫通成績が限界に達し、より大きな口径でこれを救済することが意図されたのだということを忘れているのである。

 つまり、60cm「トール」および80cm「ドーラ」は不必要な開発品では決してないと見られた。その使用機会が制限されたものであってもである。例えばこの両器具がなかったら、ソビエトのセバストポール要塞が「かち割られる」ことはなかったはずである。

 アメリカもある巨大なるものを作っていたということはわずかしか知られていないと思われる。その口径は「80cmドーラ」をしのいでさえいた。

「リトル デービッド」
 アメリカ部隊は第二次大戦における戦いの間に、従来の兵器では攻略できない敵の防御施設が存在するということを確認せざるを得なかった。そしてこれらはたいてい特別に良好に空からの攻撃から防御されており、並外れて重い航空爆弾も使用できず、その上その命中正確性と貫通成績が評価の定まらないものだったからでもあった。アメリカ人が言うように、この際考えられたのは特に「ジークフリード線」(つまり「Westwall」と「Atlantikwall」のことで、そこには巨大な建造物があった)との戦いであり、ヒットラーのプロパガンダのおかげでアメリカにおいては最も恐ろしいメルヘンに数えられていた。アメリカではまだ、ドイツ軍自身がすでに最もヘビーな防御施設である「マジノ線」を、その施設の弱点あるいは死角を使って突破し、それを背後から攻略していたことは広まっていなかったらしい。

 そこで1944年の初め、Mesta Machine Company社長であるLorenz Iversonなる人物が、並外れて重いGranatwerfer(迫撃砲 頑住吉注:これは通常グレネードランチャーと訳しますが、ここでは榴弾を投射する道具としての迫撃砲を指しています)を「West Homestead Plant」に作るという着想に至った。これは要求される性質を備えた上、特別な困難なしに使用場所へ運搬できるものだった。

 そして口径36インチ、つまり91.4cmの迫撃砲が生まれ、「sinnigerweise」な名前「Little David」が与えられた(頑住吉注:どうもこれは「気を利かせたつもりの」といった皮肉な表現みたいです。超重戦車に「マウス」とか命名したお前らが言うなって感じですが)。それによりその弾薬の効果は実際よりもひどくひかえめに言われることとなった(当時の兵器のクラス分けによれば、我々はここでGranatwerferを扱っていることになる)。

 この開発はアメリカの状況からすれば最高度に異例なことに、最も厳格な秘密保持下で促進され、このランチャーは生産に値するほど熟成されるのにギリギリ4ヶ月しかかけられなかった。そして弾薬が採用のために供されたのは第二次大戦が終わった後で、この結果この迫撃砲は一度も日本に対して使用できなかった。最も厳格な秘密保持を保証するため(自陣営内でさえ)、この一点ものには開発とテストの際、意味をゆがめる名称、「Bomb Testing Device」が与えられた。これは「爆弾試験器具」というような意味である。

説明
 外観および構造において、「リトル デービッド」は例えば単にちょうどその寸法を単純に巨人的にした普通に使われているGranatwerferに似ている。この器具は2つの運搬荷からなっている。つまりひとまとめの砲架ブロックと、クレイドル付きの砲身と発射設備から構成される第2の荷である。砲身には38フィート=11.582mの長さがあった。

 この器具の据え付けのためには、まずパワーショベルで穴を掘る。次いでその中にひとまとめのコンプリートな砲架ブロックを入れる。その後クレイドルつきの砲身および閉鎖機構を特殊車両で近づけ、砲架にセットする。装填のためには砲身を水平にしなくてはならない。それにより、投射榴弾は特殊クレーンによって前から入れることができる。このクレーンは、これを使って榴弾をその縦軸に沿って回転させることができるようにケーブル付きで設計してある。これはこの榴弾にライフリングが備えられ、投入の際正確にライフリングを切った砲身内に適合させなければならないから必要なのである。榴弾はこのときこのクレーンにより、榴弾の重心が砲身内に位置するまで後方に押し込まれる。続いて砲身をゆっくりと射撃位置に立たせる際、榴弾は発射メカニズムの前に横たえられるまで後方いっぱいに滑る。

 この器具はひっくるめて約200,000ポンド=90,600kgの重量がある。その際クレイドルおよび閉鎖機構付きの砲身は80,000ポンドになる(頑住吉注:36.280kg)。つまり個々の荷は例えばほぼ重戦車1台の重さに相当し、まだ完全に許容範囲内だった。

 この兵器全体は2つの主要部分のみからなり、簡単に運搬できるだけでなく、比較的急速に陣地にもたらすことができた。この器具は今日もまだアメリカのアバディーンに見ることができる。

榴弾は最高度に風変わりに見える。だが、形状とライフリングで安定するシステムにより、距離5マイル=約7kmにおけるポイント射撃を可能にすることが意図された。重量は3650ポンド=1653.45kgで、爆薬1600ポンド=724.80kgを持った。射程は12kmで、貫通成績は鉄筋コンクリート3mだった。自然の土壌への命中の際、写真11に見られるようなクレーターが生じた(頑住吉注:底に人が立っており、それと比較して深さ約6m、直径約10mといったところでしょう)。


 私もそうでしたが、この兵器を多少知っている人には意外な内容が含まれていたんではないでしょうか。例えば、

http://www.globalsecurity.org/military/systems/ground/little-david.htm

 ここもそうですけど、通常これは実戦用兵器ではなく、航空爆弾の弾道試験用の特殊器具であり、その後対日戦に転用が検討されたとされています。ところがこの記事は、それは秘匿名称であって、最初から実戦兵器として作られたものだとしています。

 これはアメリカ製の兵器であり、アメリカ製の兵器に関しては原則としてドイツ人よりアメリカ人の記述の方が信用できるはずです(まあ評価に関しては手前味噌ということがあり、他人の方が客観的で信用できるかもしれませんが、これは歴史的経緯に関する記述ですから)。また、冒頭部分に、「ドイツは第二次大戦中、対費用効果の低い不合理な巨大兵器を好んで作ったと批判されるけど、似たようなものはアメリカだって作ってたんだぜ」という自己弁護みたいなものが感じられ、記述や評価がゆがめられているのではないかという疑いもあります。

 しかしよく考えてみると、

1、直径1ヤードもある航空爆弾はごく例外的にしか存在せず、何故こんなものが必要なのか。
2、航空爆弾の弾道試験用なら何故砲弾がコマみたいな、航空爆弾とは似ても似つかない形状をしているのか。
3、航空爆弾の弾道試験用なら何故砲弾にライフリング回転を与えて安定させるのか。
4、航空爆弾の弾道試験用なら試験用地に設置したら移動する必要は基本的になく、何故2つのユニットに分けて簡単に、急速に移動できるよう配慮されているのか。

 といった疑問が生じ、あるいは航空爆弾の弾道試験用というのが実は秘匿名称から生じた誤解であり、最初から実戦用だったという記述の方が正しいのではという気もしてきます。真相はどちらなんでしょうか。

 この砲は超特大迫撃砲といったもので、構造も簡単なら装填も前から行われます。形状はかなり古臭く、日露戦争頃の砲を連想させます。通常の迫撃砲にはないライフリングがありますが、砲弾にあらかじめ備えられている凹凸とかみ合わせて半分強だけ入れ、砲身を立てると砲弾が回転しながら自重で落下するという大胆な方法を取っています。砲弾にあらかじめライフリングにかむ凹凸が設けられている点はドイツの擲弾器やカンプ・シュツルムピストルに似ていますね。

 世界最大口径であり、「ドーラ」より大きいとされますが、これはあくまで口径だけのことであり、「『リトル デービッド』は『ドーラ』より大きい」と言うのは、「12ゲージショットガンは.50BMGライフルより大きい」と言うようなものです。

http://ho-to-.hp.infoseek.co.jp/dora.html

http://merudasu.fc2web.com/dora.html

 これらによれば、「ドーラ」の重量は「リトル デービッド」の約91トンに対し1350トン、砲身長は約11.6mに対し32.5m、榴弾の重量は約1.7トンに対し4.8トン、射程12kmに対し47km(「ドーラ」の砲弾は榴弾で比較)と格段の差があります。

 「ドーラ」は航空機による爆撃に比べて汎用性や攻撃範囲が著しく低く、その割に生産や運用にあまりにも多くの資金や人員を必要とするものだったわけですが、構想されたのが1935年ではそれもやむを得ないでしょう。それに対し、「リトル デービッド」が構想されたのは1944年初めであり、もし本当に実戦兵器として開発されたのなら首を傾げたくなくなります。ただまあ「リトル デービッド」は「ドーラ」に比べればはるかに安価で人員も必要とせず、機動力のある兵器であり、こういうものもあってもいいとされたのかもしれません。まあやはり兵器としての面白みは「ドーラ」の方が圧倒的に上でしょうね。















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