マッチロックピストル

 「Faustfeuerwaffen」におけるハンドガンの歴史に関する記述の中に、「ヨーロッパ領域由来のマッチロックピストルは得られないままである。それが存在したとしても少数だったに違いない。」という記述がありました。これを読んで、「ん? じゃああれは一体何だったんだろう」と違和感を感じました。確か「DWJ」にマッチロックピストルのレプリカのレポートが掲載されていたのを記憶していたからです。そのデザインは明らかに日本の火縄短筒のそれとは違っていたはずです。探してみると、2004年7月号の記事でした。


Artax製の新しい前装ピストルはマッチロックを持つ

火縄が匂う

少し前にはまだ横揺れしていたブラックパウダーシューティングは、ますます流行になってきている(頑住吉注:「横揺れしていた」=「dumpelnde」・「u」はウムラウト・というのはたぶん問題に巻き込まれていた、といったニュアンスで、ドイツにおける個人による黒色火薬所持の規制問題がらみだと思うんですが正確には不明です)。このため、特異なブラックパウダー銃も再びシューティングレンジで見かけられる。イタリアメーカー製の新しい火縄ピストルは、このたび初めて選手権仕合で射撃された。

縄が燃えている。人差し指は分かりにくいほどに曲がり、ハンマーが後方に向けて火皿上に下降する。時が経つ‥‥そして発射が起こる。ブラックパウダーシューターは緊張して静止し続ける。戻ってきたターゲット上には、立派なグルーピングが示されている。このときまだ彼は火縄の匂いを嗅いでいる。‥‥火縄ピストルはデコレーションのみに向いているわけではない。

この銃はシンプルに設計されている
 メーカーの申し立てによれば、この火縄ピストルはポルトガルの海賊によって携帯されていたオリジナルの模造品である。全長は46cm、重量は900gである。29cmの長さのバレルは口径12.7mm(.50)である。この銃は手になじむ。V字型リアサイトおよび真鍮製フロントサイトは悪い光の状況下でも良好に合わせられる。

 トリガーは960gで作動する。真鍮製の火皿はカバーを持ち、このカバーは長いレバーによって動かすことができる。ハンマーには火縄がはさんで固定される。このため、ハンマーを構成する2つのパーツは回転運動で広げることができる。ハンマーは開いた状態で停止し、この状態で火縄がセットされる。使用者が前進した火縄固定パーツを軽く後方に押すと再びロックされ、火縄も固定される。

 この銃は頑丈な印象を与える。だが、よく見ればいくつかの改良が望まれる点がある。ハンマー上の火縄固定金具は弱すぎ、長時間使用すると折れる可能性がある。ただし輸入業者はすでに解決策を研究している。

 さらに、トリガーガードに少しガタがある。発火機構部品の内部には加工跡が分かるままになっている。だが、これは射撃フィーリングには影響しない。

 この火縄ピストルは北イタリアにあるVal Trompiaに所在するArtaxによって製造されている。Artaxはいろいろなパーカッション銃とならんで、すでに1機種の火縄ライフルを計画している。この銃(頑住吉注:計画中のライフルではなく今回取り上げられているピストル)は「Jurgens Schutzenladchen」(頑住吉注:2つの「u」および「a」はウムラウト。前装銃の専門店らしいです)において598ユーロの価格である。その上この価格には「Schwarzpulverinitiative(SPI)」(頑住吉注:ブラックパウダー射撃団体)の年会費が含まれている。

火縄ピストルはSPIの種目
 このArtax火縄ピストルは、(頑住吉注:2004年)5月にSersheimにおけるSPIの南ドイツ選手権試合においてすでに射撃された。この団体の競技規則は、ナンバー1.1の下に「火縄ピストル」1種目を含んでいる。この種目は他の種目と混じって射撃されることは許されない。火縄に点火されると、射手たちの中に追加監視者が1人居なくてはならない。火縄による点火が失敗すると、アンロードのために火皿上およびバレル内の火薬を注射器からの水によって使用不能にしなくてはならないのである。シューティングレンジがこれを許していない場合には、電気的点火も使用される可能性がある。

 この銃は他の前装銃同様に装填され、その後火皿は方向転換カバーで閉鎖される。火縄が射撃直前にセットされた後、カバーは再び開かれ、これでこの銃は射撃準備状態である。

 ハンマーの作動と発射の間のタイムラグは約1秒である。その間に火皿上の燃える火薬は煙を発生させる。これは狙いを困難にする。25mにおいてターゲットの黒部分には命中させられる。条件がよければもっといいグルーピングさえ出る可能性がある。

 火縄シューターにとってのより大きな問題は、シューティングレンジにおけるオープンな火の禁止である。しかしこれは歴史的原型に習えば克服できる。すなわち、当時の射手は燃える火縄をいわゆる「火縄入れ」の中で常に携帯したのである。これは(おそらく銅製の)閉じた容器であり、ここから火縄を射撃直前に取り出し、ハンマーにはさんだのである。今日そのような火縄入れは困難なく小さな金属薄板製容器メーカーで作ることができる。その蓋には1つ穴を開け、これが火縄を持たせる。これにより火縄をシューティングレンジの建物に入る前に点火しておき、これを使って安全にレンジに運搬できるのである。

DWJの結論
 このArtax火縄ピストルはまず第一にレジャーシューター用に考えられている。しかし競技でもこれを使って射撃できる。例えばSPIのルールにしたがってである。他の火縄ピストル模造品群と比較して、Artaxは比較的安価である。この銃は頑丈に作られているが、ハンマーの火縄固定金具は手直しが必要である。

 現在まだオリジナルに忠実な、そして同時にお買い得な「火縄入れ」だけが欠けている。


 マッチロックピストルは「Luntenschlosspistole」ですが、ここでは「Luntenpistole」という語が使われているので「火縄ピストル」と訳しました。46cmと、現在の基準で言うとピストルに含めるのに抵抗があるほどの大きさでありながら重量が900gしかないのは、大部分が木製だからでしょう。「メーカーの申し立てによれば、この火縄ピストルはポルトガルの海賊によって携帯されていたオリジナルの模造品である」という記述には、「我々はそれが本当だと保証しないよ」といったニュアンスが含まれているのかもしれません。ただ、射撃準備に時間がかかるマッチロックピストルも、目標の船に乗り込む前に準備を整えることができる海賊には確かに有用だったかも知れません。その場合火縄の臭いなどもあまり問題にならなかったでしょうし。

 ハンマーが落ちてから発射まで約1秒のタイムラグがあるとか、その間に煙が立ち昇ることがエイミングを困難にするといった、実際に使用した人ならではの具体的記述はなかなか興味深かったです。

http://www.schwarzpulverinitiative.de/baseportal/Seiten/Textausgabe&kenn=78

 何故かコピーして貼り付けると表示されなかったんで直接リンクですが、ここには全体像のほか機関部のアップ写真もあって、文章では分かりにくい「方向転換カバー」とか「火縄固定金具」などの様子がよく分かります。ただ全体像は不鮮明ですね。

http://www.shootoff.de/index.html?target=p_201.html&lang=de

 こちらの画像をクリックすると拡大した鮮明な側面の画像が見られます。


 ちなみに、検索していてこんなサイトも見つけました。

http://mypage.bluewin.ch/vsv-schuetzen/Historisches/Luntenpist/luntenpistolen.htm

 ドイツ語の日本製火縄ピストルに関するサイトです。内容は、


火縄ピストル by Ulrich Bretscher
親愛なるシューティング仲間へ

我が日本製前装銃愛好者たちの希望により、国際前装銃団体MLAICは2002年に新しい種目として火縄ピストル(オリジナルまたはレプリカ)による射撃を導入した。これらは「Tanzutsu」(逐語的には「ハンドパイプ」 頑住吉注:違うだろ)の名を得ている。

貴方にこうした、従来ヨーロッパではわずかしか使われてこなかった銃器種類を詳細に紹介するため、以下いくつかの例を挙げる。

火縄ピストル1

内蔵されたスパイラルスプリング(頑住吉注:コイルスプリングのことかと思いましたが、どうもゼンマイ状スプリングのことのようです)と鍛鉄製ハンマーを持つピストル。ストックはウォールナット製(これははなはだしい例外。通常日本製火縄銃のストックはホワイトオーク製である)

銃身長 165mm
口径 15mm
スパイラルスプリングを持つハンマー(発火機構タイプ4)

このピストルは私の友人たちのうちの1人、ニューヨーク州Eden出身の歯科医のものである。彼の父はこの銃を第二次大戦直後、1945あるいは46年にニューヨークで購入していた。おそらくこの銃は日本からの略奪品だろう。

引き続き、鋳鉄製発火機構、内蔵スパイラルスプリングを持つバリエーションを3つ。

発火機構ナンバー4:鍛鉄製スパイラルスプリングを持つ「GEKI-発火機構」

トリガーバーの端部にある作動歯(トリガーバーは発火機構内部にある)はスパイラルスプリング上の真鍮製カバープレートによって、発火機構プレートを通り抜けて外へと圧されている。コッキング状態では作動歯はハンマーの足部を支えている。射手がトリガーを引く、すなわちトリガーバーが持ち上げられると、歯は発火機構プレート内に引っ込み、ハンマーの足は支えを失って前方、火皿方向に急速に進む(頑住吉注:火縄ピストル1の画像を見てください。これはハンマーコック状態です。ハンマーは時計方向に回転しようとしていますが、ハンマーの回転軸の後方に尾状の部分(足部)があり、上昇しようとするこの端部を銃内部から手前に突き出している突起が止めています。トリガーを引くとハンマーを支えている突起が内部に引っ込んでハンマーを解放、ハンマーは時計方向に回転します。これは分かるんですけどトリガーの上昇運動が突起の横方向の運動を起こす仕組みがよく分かりません。下の発火機構が並んでいる画像を見てください。これらはいずれもハンマーが落ちた状態で、左は銃の外側から、右は内側から見た状態です。一番上がナンバー4で、右の内側からの写真において、右方の黒くて長いパーツがトリガーバーと思われます。トリガーバーは垂直の軸を持つようで、たぶんトリガーの上昇によって右端が押しのけられるように外側へ動かされ、軸の反対側が内側へ動いてレットオフするんだろうと思いますが確信はありません。もしそうだとするとちょっと九四式に似てますね)。

全ての日本製(頑住吉注:火縄)ピストルの約50%はこのタイプのハンマーを持つ。

発火機構ナンバー5:ダブルのスパイラルスプリングを持つ発火機構

原理上はGeki-発火機構のように機能する。スパイラルスプリング上の、スプリングのテンションがかけられた真鍮製カバーの位置に小さな補助スプリングを持つ。このスプリングはトリガーバーを外側に押す。

スパイラルスプリングは、回転軸の小さな歯にあるハンマー軸上に取り付けられている。ちなみにスプリング核内のゼンマイのようにである(頑住吉注:画像はごく小さく、残念ながらこの説明だけではよく分かりません)。

全てのピストルのうち約20%がそのような発火機構を持つ。

発火機構ナンバー6:Nanban-発火機構(SatsumaおよびYonezawaで製造された):ハンマーおよび発火機構プレートは両方鋳鉄製。ハンマーの足部は発火機構ナンバー4および5の場合のように外側でなく、発火機構プレートの内側に位置している。

火縄ピストル2

Yonezawa-ピストル

全長 50cm
銃身長 30.5cm
口径 14mm
重量 1.5kg

ハンマーおよび装填棒はこのYonezawa-ピストルの場合両方とも鍛鉄製である。一方発火機構プレートは真鍮製である。バレルはラウンドで、上部はしばしば平らにされている。そして通常割りピンの位置はバレルバンドで保持されている。

Yonezawaではピストル射撃が存続していた。これに応じてこのタイプのピストルがまだ多数維持されている。

火縄ピストル3

ダブルのスパイラルスプリング発火機構を持つ非常に小さいピストル。

全長 35.7cm
銃身長 19.2cm
口径 13.5mm
重量 1.1kg

日本製火縄銃を使っての射撃に対する一般的論評

そしてここで最後に日本製火縄銃を使っての射撃全般に関するさらにいくつかのこと:

日本製ライフルおよびピストルは奇妙に小さいリアおよびフロントサイトを持っている。これらはたいていいくつかのノッチと穴を持つ。これは効果的な照準設備のためではなく、リアおよびフロントサイトの受けのためにすぎない。だからそこには横方向に押し動かせるリアサイトブレードが入れられ、1本の割りピンによってそのポジションに固定されている。ピラミッド型の尖ったフロントサイトは例外を形成し、これは固定式フロントサイトである。

火縄:日本の火縄銃射手は我々のようにm単位の長さの火縄を使わない。競技射撃では、射手はそうした長い火縄を約10〜30cmの長さに切る。これはハンマーにはさんで留められ、1本の針によって脱落防止がなされる。これはハンマーリップにあるたいてい楕円、ときには丸い穴を通して突き刺され、射撃時に火縄の脱落防止とする。この針はライフル、ピストル上に1本の紐で固定され、同時に火皿の「スペース針」(頑住吉注:「Raumnadel」・前の「a」はウムラウト・辞書に載っておらず意味不明です)としても機能する。

日本の火縄はオリジナルでは綿とサイザル麻の混合物から作られている(ヨーロッパ製は麻製)。この火縄も我々のもののように灰汁で煮て「verbleit」(頑住吉注:辞書に載っていませんが、語の成り立ちから「鉛加工」のような意味ではないかと思います)されているのかは、私は見つけだしていない。質問された日本人の答えはいつも意味のない笑いだけである(頑住吉注:秘伝なんでしょうかね)。


といった感じです。まあいずれにせよヨーロッパでは火縄ピストルはメジャーな存在ではなかったわけですが、珍しく火縄ピストルが発達した日本製のそれはアメリカ、ヨーロッパの比較的少数のマニアに愛されて競技も行われ、ヨーロッパ製火縄ピストルのレプリカとされるものも登場してきた、といったところでしょう。










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