H&K M4カービン

「Visier」2004年5月号に、H&Kの新製品、M4カービンに関する記事が掲載されていました。


約40歳になるコルトAR-15/M16システムだが、なお第2のチャンスが訪れた。H&Kもあらかじめこれに備えていた。

 目下、見通しは非常に明るい。H&K XM8(「Visier」2004年2月号を見よ)が米軍の次世代歩兵用ライフル発注に向けての勝負に成功する可能性は高いということだ。少なくとも、最近あるプレス向けショーで、1挺のXM8が未来のアメリカ兵が手にするメインウェポンとして発表されたという事実がある。
 
 もちろん、まだ最終結論が出たわけではない。テストは2004年の秋まで続き、現在のプランでは新しい制式ライフルの最初の生産シリーズが2005年後半には部隊にすでに届いている予定だ。しかしまだ全ての決定の前にアメリカ大統領の職務による判定があるし、発注が行われるまでには議会も口を挟むことになる。ひょっとするとありうる、コストの安い一時的な他の解決策は、AR-15/M16システムを、単に改良近代化しただけでさらに5〜10年部隊で使用し続ける、というものである。これなら米軍は大部分の補充部品を持ち続けることができるし、訓練、修理用ハンドブックも新たに作る必要がない。そのようなコストの安い解決策がとられた場合、オベルンドルフの会社と同名のアメリカの子会社、バージニア州StelingのHeckler&Koch Inc.もこのレースに参加させる1頭の馬を持っている。というのは、XM8が開発されるずっと前から、H&Kのエージェントはアメリカの官庁、なによりもまずProject Manager Soldier Weaponsに対し、彼らの改良近代化AR-15システムのデザインを提案していたのである。その形状はM4カービン(現在特殊部隊や第101空挺師団のような「危機対応戦力」が使用している)に似ており、研究プロジェクトには「HK M4 Enhanced Carbine」の名が与えられている。

  2年以上の厳密な秘密保持の後、H&Kは彼らの改良M4カービンのアイデアをラスベガスのSHOT Showで発表した。HK M4の発案者であり、設計者となったのはSpecial Forces Detachment Deltaを退職したLarry Vickersである。彼は、すでに知られている欠点によって時代が終わりに近いストーナーシステムのガスルート全般を改良再設計した。本来M4カービンは、全てのAR-15同様、分岐させたパイプからのガスをダイレクトにボルトキャリアに吹きつける。そこではススがカサブタ状になり、これによって送弾不良が起こる可能性がある。一方改良されたH&Kの銃には、G36およびXM8と同じショートストロークピストンが備わっている。その上、2002年の早い時期以来続けてきた、開発経験と改良アイデアを注ぎ込んでいる。これはH&KがすでにイギリスのブルパップライフルSA80の改良近代化を成功に導いたもののことだ(頑住吉注:せ、成功したんすか?)。

ガスシステム
 HK M4 Enhanced Carbineでは、バレルからガスが別方向に導かれ、ハードクロームメッキされた短い部品であるピストンを後退させ(英語ではshort stroke)、ガスピストンロッドを動かし、ボルトキャリアのソリッドなパーツを押す。今や英語で「Carrier Key」と呼ばれる、古いAR-15のガスチューブからのガスを受けるボルトキャリアの部品はこれに交換されている。ガスピストンは付属のスプリングの力で復帰する。しかし衝突によって動いたボルトキャリアはXM8やG36同様さらに後方へ動く。ガスはボルトまわりには一切達することがない。ボルトのまわりの旧式なガスピストンリングや、ボルトキャリアのガス排出穴は存在しない。パッキンリングがないため、ボルトやフィーダーはレシーバー内部で自由に動ける。

 1970年代、すでにAR-15のガスシステムの欠点を解決するための実験が行われていた。しかしこの「Rhino-System」は問題を内包していた。ガスピストンロッドの、ボルトキャリアにある改良された「Carrier Key」への後方へ向けての衝突が傾斜を引き起こし、傷を生じてしまったのである。これは「Carrier Key」に革とスチールでできた円盤を取り付け、これをボルトキャリアのためのバッファーとして機能させることで埋めあわせされた。

 HK M4では、ボルトキャリアの後部に広げられた部分があり、この下部で上にあるボルトキャリアを支えている。これがボルトキャリアをガスピストンロッドとの衝突の間保持し、バレル軸線との水平を保つ。この広げられた部分はボルトキャリアの後端に向けて細くなっており、これによって摩擦のないリコイルスプリングチューブへの進入を可能にしている。シンプルな解決である。エジェクションポートの開口部からの異物の侵入を防ぐため、H&Kの設計者はボルトキャリアの前部を、それが入って動くパイプ状スペースと同じ太さまで広げた。これをもって、HK M4はエジェクションポートのカバーなしで済ませている。

正攻法による改良
 マガジン挿入を容易にするため、HK M4のマグウェルは広げられている。H&Kはスチール製の頑丈なマガジンをデザインした。これにはカラシニコフやガリルに似た強化リブが設けられている。

 ボルトヘッドのロッキングラグの形、より強いスプリングが付属したエキストラクター、ストック内のバッファーにも改良が加えられている。バレルにはコールドハンマー製法のものを使い、命中精度の損失なしに少なくとも2万発の命数が保証される。
 HK M4のコルトM4に対する差異はこれだけにとどまっており、本質的には同一である。アッパーレシーバーグループは、コルトおよび大部分の類似モデルと問題なく交換可能である。さらに、H&KはAGC40x46mmグレネード発射機とのコンビネーションも示している。これはXM8およびG36にも適合するものだ。

デビュー
 ラスベガスでH&Kは4種のM4バリエーションを発表した。10、14.5、16.5、20インチの各バレルを装備したタイプである(1インチは25.4mm)。バレルの長い2種はセミオートバージョンのみが示された。これはH&Kがこの銃をもってアメリカの民間マーケットをも目指している兆候であるかもしれない。バレルの短い2種がM4サイズであり、10インチバレルのタイプには「Stubby」と呼ばれる短いストックが付属している。これは1960年代の、初期のアーマライト、コルト時代のAR-15マシンピストルデザインですでに知られているものだ(頑住吉注:要するに東京マルイも電動ガンにしている「CAR−15」みたいなストックです)。一方14.5インチバレルのバージョンは伸縮式の「VLTORストック」を装備している。これはH&Kが自社製品にも採用することが考えられる。

 全てのH&Kのバリエーションには短いフォアグリップと「ガスブロックカバー」(頑住吉注:フロントサイトハウジングにあたる、ガスの導入部をなす部品)が装備されている。後者の上部と左右側面にはM1913ピカティニーレールがある。Diemacoによるカナダ製ライフル、C7の「Triad-System」でも知られているタイプだ。射撃実演のために、オプティカルサイトつきのいろいろなM4が用意された。Schmidt&Benderのスコープ、Aimpoint Comp ML 2 Red Dot サイト、EotechのMilitary/Police Red Reticle Reflex サイト、Trijiconの4倍ACOGおよびTrijicon Tri-Powerを装備したタイプである。16.5インチバレルの1丁のカービンは、素早く取り外せるオープンサイトを装備していた。リアサイトとしてはH&Kのスタンダードな距離に応じて調節できるドラム型がレシーバー上部のM1913レールに装着されていた。 
 短い紹介の後、HKM4システムのカービンから上のハンドガードが取り除かれ、素早く4個の30連マガジンがフルオートで射撃された。その後、その上に手を置くことができることで、見学者それぞれはガスピストンロッドがボルトまわりに一切熱を伝導しないことを納得した。バレルは極端な熱を発散しているにもかかわらずである。

 コルトによる本来のAR-15/M16システムと、改良バージョンであるH&K製品の間に操作上の差異はない。M4 Enhanced Carbineのテスト射撃では、いかなる機能障害も発生しなかった。メーカーによれば、この銃はクリーニング、注油なしに2万発にわたって信頼できる、精度ある射撃が行えるという。

 米陸軍の要求に基づき、レシーバー上部には「A.R.M.S.Selective Integrated Rail(S.I.R.)」システムも装着できる。これはレールを自由にスイングできるものである。さらに、Knight社の「Rail Adapter System(R.A.S.)」またはSureFire M1913を前部のレールに取りつけることができる。伸縮式VLTORストック装備のM4には、ライト用の予備バッテリーが装備できることも示された。付言すれば、H&Kの銃には、同様に他のアクセサリー類、例えば一部の特殊部隊で愛用されている「Magpul-Modストック」やFalconの「Ergo-グリップ」が装備できる。


キャプションには
「内部の新パーツは16個」
「(写真の銃にはないが)キャリングハンドルを装備することもできる」
「ボルトにはコルトの特徴的な中空のCarrier Keyがなく、かわりにガスピストンロッドによって突かれるマッシブな『衝突部品』がある」
「ハンドガードを外すと、数秒でピストン、ロッド(スプリングごと)が取り除け、また素早く組み込める」
「H&Kはラスベガスで米軍向けにM16、M4用の新しい演習弾薬を提案した」
「Visierの問い合わせに対するH&Kの回答によれば、M4バリエーションはXM8と全く同様に非常にたやすく新しい6.8mmx43SPC仕様になる」
といったことが書かれています。

 まず、XM8の件ですが、秋までの予定でテストが続けられており、テスト自体としては非常に順調で見通しはきわめて明るいということです。実際の現場ではM16シリーズが完全に限界に来ていると感じられており、アメリカにとって戦死者の増加がきわめて深刻な問題になりつつあるわけですから、兵士たちが少しでも有利に戦える次世代ライフルをなるべく早急に採用したいという希望は強いでしょう。ただし、最終決定までには大統領の決断が必要で、また議会が反対する可能性もある、ということです。ここにはそういう視点は書かれていませんが、大統領選の行方も関係してくるんではないでしょうか。ブッシュ大統領が再選されればXM8採用の可能性は比較的大きくなり、民主党政権に替われば比較的低くなるように思われます。現時点では、XM8は当面採用せず、M16改良型でしのぐという可能性も依然高いということですね。
 そこでクローズアップされるのが今回の主役、H&KのM4カービンです。
 現行のM16シリーズの問題点は信頼性、特に送弾不良が多いという点です。この原因は主に「発射ガスによる汚れ」「砂塵など異物の侵入」「マガジンリップの変形」であるということです。
 まず「発射ガスによる汚れ」に関しては、M16シリーズの最大の特徴のひとつだったリュングマンシステムを放棄し、G36系と同じショートストロークピストンシステムに変えることで対策としています。バレルに穴を開け、ガスを誘導してボルトキャリアを動かす点は同じですが、ガスを直接ボルトキャリアに吹きつけるのではなく、「ハンドガード内の小さなシリンダーに誘導してピストンを短距離後退させ、連動するピストンロッドでボルトキャリアを突き、ボルトキャリアが慣性でフルストローク後退する」という、G36系と同じ、そしてさかのぼればM1カービンに似たシステムを採用しています。これによりオートマチックでの作動にとって最も重要なボルトキャリアまわりに作動用のガスが全く入らず、汚れが極端に少なくなっています。でも不思議ですよね。M16のリュングマンシステムを止めて通常のガスオペレーション(ショートストロークピストンかどうかはともかく)にする試みはずっと昔にあり、没になっています。それが何故失敗し、H&Kは何故成功したのか。これに関する記述もありました。

ボルトキャリア1

 M16のボルトキャリアまわりを単純化するとこんな感じです。赤い矢印で指している部分が本来ガスが吹きつける「Carrier Key」と呼ばれる部分です。過去のシステムでは、ここをガスによって動くピストンロッドで突きました。ところが、この部分は軸線から上にずれているので、突かれたボルトキャリアが青い矢印で示したような回転運動を起こそうとしてしまい、問題を起こしたということです。バッファーを組み込むことで対策を取ったものの、完全ではなかった、少なくとも総合的に本来のM16に勝るものにはなり得なかったということでしょう。
 H&Kも、ここを突く点は同じです。本来ここがパイプ状の比較的やわなパーツであるのに対し、中まで身の詰まった頑丈なパーツになっているという違いはあっても、力のアンバランスが生じることは同じです。そこで、

ボルトキャリア2

 ボルトキャリアの後下部に、誇張するとこんな感じの突起部を設け、ここでボルトキャリアを支えるようにした、というんです。うーん、正直わかるようなわかんないような。たぶん黄色い部分のようなものがレシーバー内にあり、起こそうとする回転運動と直角になった接点が支えてこれを防ぐということなんじゃないでしょうか。で、この突起は後方にすぼめられているんでリコイルスプリングが入っているストック内のパイプにスムーズに入るということです。

 「砂塵など異物の侵入」に関しては、ボルトキャリアをエジェクションポートがあるレシーバー内のパイプ状スペースいっぱいまで太くして、ボルト前進状態では隙間がなく、異物が侵入できないようにした、というんですが、これもちょっと納得いかない感じがします。ボルトキャリアが動くためにはいくらかでもクリアランスが必要ですし、隙間が全くないということはありえません。ほんのわずかな隙間に細かい砂などが侵入したら、それゆえに余計大きな抵抗になってスタックしやすくならないでしょうか。現にこの太くなった部分にはレシーバー内部とこすれて銀色の地が出た線が複数入っており、これで大丈夫なのかなあ、と疑問に思います。

 「マガジンリップの変形」に関しては、基本的にはマガジンをアルミからスチールに変えただけのようです。

 とまあ疑問点もありますし、XM8のラジカルさに比べれば正直物足りない内容ではありますけど、デモンストレーションを見るかぎり信頼性は高いようですし、種々の情勢からこれが次期米軍制式となる可能性も大いにある、というわけです。さて、いかがあいなりましょうやら。








戻るボタン