ステアーM-A1

 「DWJ」2004年7月号に、「ステアー版グロック」のようなオートピストル、M-A1に関する記事が掲載されていました。


ステアーの公用ピストルMがニューモデルとして、そして新しい外観で入手可能となった。

控えめな最適化

公用銃マーケットは狭い。ほとんど全ての大メーカーは昨年、官庁の新たな要求に適合させたニューモデルを売り出した。こうした観点から、ステアーは「M」シリーズのピストルに手を加えた。技術的に新しくなったこととならんで、視覚的に「おいしいもの」が加わっている。

 ステアー「M」の革新的なコンセプトについては1999年にすでにレポートした。そうこうするうちに、オーストリアの銃器メーカーであるステアーは、「M」(ミディアム)とならんで、さらにサブコンパクトバリエーションであるピストル、ステアー「S」(スモール)を定着させている。このたびステアー「M」の改良版が登場したが、旧製品がよいものでなかったからさらなる改良が可能になったのではない。限定的な変更による改良が行われたが、それは重大なものではないのでこれはニューモデルということはできず、むしろある種「手を入れた」ものである。最適化された銃には完全に新しい名称はつけられておらず、いわば新しいバージョンナンバーとしての追加名称がつけられただけである。
 ステアーM-A1は、ピストル分野ではアーミーピストルM12、サブマシンピストルTMPのような非常に成功したモデルをすでに生んでいる、伝統に富む銃器メーカーの最も新しい「新芽」と言える。この命名は然るべき理由があってのものであると言うことはできない。というのは、追加された「A1」はアメリカにおいて、少なくともコルトM1911A1以来改良、モデファイされたモデルシリーズの同義語として有効なものだからだ(頑住吉注:米軍制式でもなんでもないこの銃にステアーがつけるのに筋の通った理由はない、ということのようです)。
 ステアーM-A1はいくつかの変更点を示しているが、これは特に国際的な公用マーケットからの、変化してきた要求を考慮に入れた結果である。だが、まず第一に、基本的な技術がいかにそのままであるかをもう一度確認しておく。

システマティックな
 マーケットに存在するほとんど全ての最新流行のニューピストル同様に、ステアーM/Sシリーズも改良型ブローニング閉鎖システムを示している。それはすなわち、スライド内でロックされたバレルが短距離直線的に後退し、続いてバレル下に取り付けられたカーブにあやつられて下方に傾き、そしてロックが解除されるというバレルを持つ反動利用銃である。このシステムは百万回もプルーフされたものであるが、「泳ぐ」バレルにより(頑住吉注:「優」ではなく)「可」としての命中精度を明らかにしている(頑住吉注:この記述ってけっこうよく出てきますね。ドイツの伝統的メーカーであるワルサーやH&Kがティルトバレルを主力にするようになっても、やはりドイツ人にとって「理論的には固定バレルや直線的に後退するバレルより命中精度が劣る」ことはいまだにちょっとひっかかる点なのかもしれません)。
 この銃はモジュールとして組み立てられている。フレームはグラスファイバーで強化された純プラスチックである。例えばグロックやH&Kといったものと異なり、プラスチックの中にメタルパーツは一体化する形で組み込まれていない。鋼鉄のスライドレールとトリガーグループはプラスチック製シャーシの中に単にはめ込まれ、数本のピンとディスアッセンブリーレバーで保持されているだけである。似た方法は今日ザウエル&ゾーンが新製品のP250DCcで取っている(頑住吉注:ここをずっと読んでいる方ならご存じのように、ロシアのMP446バイキングもそうです)。ディスアッセンブリーレバーはトリガーとともに単純なキーでブロックできる。この追加設備は単純に輸送時の、あるいは子供用安全装置として役立つ。
 M/Sシリーズのピストルはハンマーを持たない純ストライカー式で、内部に落下安全装置がついている。この銃はモデファイされた一種のDAオンリーシステムとしての「一部コック」で機能する。トリガープルは約3kgである。(頑住吉注:H&K P2000のトリガープルのみ異なる「一部コック」モデルのバリエーション展開のように)異なるスプリングセットが考えられるが、現在のところ利用できない。トリガー内にはさらなる一つの安全要素が組み込まれている。内蔵されたトリガーセーフティが、トリガーが故意でなく、例えば吊り紐によって引かれることを阻んでいる。これは明らかにグロックが元である。
 グリップ形状は人間工学に基づいて設計されており、グリップ角度は素早い「指さすような射撃」に有利に働く。大きくえぐられた形状のビーバーテイルにより、バレル軸線は親指付け根のすぐ上に位置する。ピストルは他にほとんど例がないほど深く手の中に位置する(要するに極端なハイグリップということです。パルディーニよりこちらの方が明らかに上で、この点ではハンマー式よりストライカー式が有利であることがよく分かります)。人間工学的に斜め前下方に移動したトリガー位置と合わせ、銃は発射時のマズルジャンプが非常に小さく、これは素早い連射に有利に働く。サイトとしてステアーはパテントを取得した、その三角形の頂点をサイト上に持って来られる台形サイトを提供している(頑住吉注:これについては公式に画像があるのでそちらを見てもらったほうが早いです)。だが筆者は同じく入手可能な長方形の従来型サイトの方を好むし、夜光トリチウムインサートがある方を好む。

変更点
 だが、今や新しいA1バリエーションはどこが新しいのか? 最も目立つのはまず第一にフレームである。フレームはさらに人間工学的に改良され、いくつかの箇所がいくらか丸められている。トリガー上後方は今やいくらかより深く肉抜きされ、銃を握る手の人差し指がより良い角度でトリガーに向かうことを可能にしている。グリップ表面は側面がポンチ加工に似た「ケバ立て」になっている。グリップの前後面には横方向の溝が加えられている。グリップ下方は一段低くされ、固定されたマガジンを引き抜くのを容易にしているが、この部分は旧作より非常に大きくされ、上部の角はスライド上方の反映のようなエレガントな弓なりの線とされている(頑住吉注:これらグリップ細部の描写も文章ではよく分からないので公式の画像を参照して下さい)。
 トリガー前方のスプリングガイドケースとなっているフレームの前部にもいくつかの造形がある。ソフトな段差としてのカーブしたラインがここにもあり、この機種でもピカティニーレールとなっている。ピカティニーレールは昨年、明白なミリタリー、ポリス用アクセサリー固定用装備のスタンダードに発展した。ここにはレーザーポインターやホワイトライトを取り付ける。
 1つの技術上の興味深い変更はマニュアルセーフティ領域に発見される。つまりモデルによってはそれはそもそも存在しない! (頑住吉注:マニュアルセーフティのないモデルでも)トリガーガード前上方にある小さなくぼみは、製造技術的理由からいまだに存在する。しかし(頑住吉注:旧型ではそこにあった、また新型でもセーフティありのモデルではそこにある)アンビで取りつけられた小さなセーフティボタンは、それを受け入れる穴と共になくなっている。マニュアルセーフティのないこのニューバリエーションがプログラム内に採用されている理由は、警察署の要求項目リストではマニュアルセーフティが望ましくないと評価されていることが非常に多いからである(頑住吉注:これはあくまでドイツでの話ですね)。
 依然として供給可能なセーフティのあるステアーM-A1バリエーションにおいても改良が行われている。確認のため、ここで改めてもう一度セーフティの機能を簡単に説明する。トリガー前上方にある小さなボタンを下に引くことによってセーフティがかかる。これにより、セーフティ解除レバーがトリガー周辺領域の下方に出てくる。旧型のステアーMでは、これは幅の狭い、細長いレバーとしてトリガー直前の中心に位置していた。改良型のA1ではこのセーフティ解除レバーが非常に幅広くされているので、あらゆるケースにおいて、そしてトリガーの両側から、快適に指が届くようになった。射撃の前にはトリガーフィンガーで軽く上に押すだけでいい。ほとんどないことではあるが、幅広くされたレバーでもなお、ストレス下でセーフティ解除レバーがつかまらないというリスクは存在する。

外観上の細部
 人間は「目の動物」である。だからすでに原始時代から武器にも視覚的な向上が行われてきた。もちろんそれは常に、また至る所で行われたわけではない。軍用では機能性が外観を決める。すなわちマットブラックが支配的である。警察用の場合、少なくともアメリカではときとしてよりフレキシブルである。しかし全般的には警察用でもブラックが支配的で、これは特にコスト面の理由からである。そういうわけで、たいていの公用ピストルおよびそれをベースとしたスポーツモデルは同様にブラックである。だが、ハンドガン領域では、外観上の多様性が許される使用領域もある。例えば、ハンターとスポーツシューターは伝統的に、その銃の造形に装飾が多い傾向がある。新しい製法により、グリップには大幅に形成上の自由がきく薄いゴムのような層が追加でコーティングされている。そういうわけで、M-A1には2色バリエーションが存在する。この機種のスライドと金属製操作エレメントには特殊鋼外観の表面が与えられ、フレームにはレーシングスポーツで有名な「カーボンファイバー外観」を模写したコーティングがなされている。全体としてスポーティでエレガントな印象を与え、そして射手を印象づけるものとなっている。
 (北アメリカの)ハンター向けの多数は、たぶんDWJの手元にあるデザインバリエーションとは異なると思われる。そちらではよりノーマルなマットブラックのスライドと、アメリカで非常に人気がある「リアルツリー」迷彩パターンのコーティングがなされたフレームが組み合わされている。一方保守的なヨーロッパのハンターたちの間ではこうしたものはたぶん時々しか見られないというのは興味深いことに思える。ともあれこの両デザインは、新しい表面コーティングの持つ可能性を示している。
 フレームをコートしたゴムのような素材は、なじみはないが、劣ったものではない。表面がノーマルに比べて多孔質なので汚れがつきやすく、例えば、手のひらと触れる領域を水洗いする必要があるが、その程度のことはなんでもない。新しい表面は非常に良好な「くっつく性質」を持ち、ほとんど手に吸いつくようだからである。

DWJの結論
 新しいオートピストル、ステアーM-A1は、すでに非常に良い銃であったものを、控えめに最適化したものである。組み込みのピカティニーレールにより、このピストルは公用に良く「身支度」されている。新しい選択肢である、大量注文可能なマニュアルセーフティなしのモデルは、多くの警察署の調達部門の「時代精神」に合っている。公用ピストルのトレンドは目下、追加のセーフティエレメントを持たないDAOシステムに向かっている(頑住吉注:ここで言う「セーフティーエレメント」とはマニュアルセーフティを指し、オートマチックファイアリングピンブロックは含まないようですが、トリガーセーフティやグリップセーフティがどうなのかはよく分かりません)。残念なことに、実戦のストレス下でストレスを忘れられるように訓練された警察官はしばしば少なすぎるからである。M-A1はセーフティなしバリエーション追加により、公用ピストルマーケットで再び一段とシリアスな競争者になった。だが、この銃には現在でもなおフレームまたはその一部を射手の手に合わせる可能性が欠けている(頑住吉注:これはワルサーP99やH&K P2000等で流行しており、しかもこの機種の場合SIGザウエルP250DCcのようにフレームのプラスチック部分のみそっくり交換してより有効に対応することが容易なのにそれがないのはもったいない、ということでしょう)。このシステムはこの銃にある種根本的な変化をもたらす。
 ただ、ハンターやスポーツシューターもこのオーストリア女に(頑住吉注:またこの例えですな)、マットブラックだけでなく、ひょっとすると別の色も選べるという面白さを発見しうる。

ステアーMA-1のテクニカルデータ
製造販売:Steyr-Mannlicher GmbH & Co. KG
口径:9mmパラベラム、.40S&W
メカニズム:セミオートマチック。ショートリコイル。閉鎖ブロックにはエジェクションポート内のマッシブなチャンバーを利用。ティルトバレル。内蔵ファイアリングピンによるストライカー発火方式。
フレーム:グラスファイバーで強化したポリアミドPA6。グリッピングを改良した新しい表面。
マガジン装弾数:15
バレル:長さ102mm。6条の山と谷のプロフィール。250mmで半回転のピッチ(9mmパラベラムの場合)
トリガーメカニズム:「リセットアクションシステム」、すなわちコンスタントな4mmのストロークを持つ「事前に一部コックされる」ダブルアクションシステム。トリガープル3.0kg
重量:766g
全長:183mm
全高:130mm
全幅:30mm
価格:683ユーロから


 ステアーの公式サイトはここです。

http://www.steyr-mannlicher.com/

 「Pistolen」→「Steyr Pistol M-A1」とクリックするとこの銃の紹介ページが見られ、セーフティや「台形型サイト」も見られますし、「360Grad」をクリックすると前後左右あらゆる角度からの画像が見られます。これは非常に各部の形状が分かりやすく、他のメーカーも真似してもらいたいくらいです。そして「Steyr Pistolen M&S」をクリックすると旧型の画像も見られるので細部を比較できます。記事にある通りA1は細部を改良しただけのモデルですし、旧型にしかないメリットというのはなく、たぶん旧型は移行期を終えたら絶版になるでしょう。

 新製品として紹介されていますが、すでに内容を紹介した「Visier」3月号の記事にすでに掲載されているので、ごく最近発売されたばかりではないはずです。ちなみに「Visier」では「M9A1」という名称で紹介されており、今回「DWJ」で紹介されている銃もスライドの刻印が「M9」になっていますが、今回の記事自体と公式サイトでは「M-A1」になっており、このあたりの事情はよく分かりません。

 記事には「ステアーM-A1は、ピストル分野ではアーミーピストルM12、サブマシンピストルTMPのような非常に成功したモデルをすでに生んでいる、伝統に富む銃器メーカーの最も新しい「新芽」と言える」という記述があります。前者は「グランドパワーK100」の項目で登場したばかりの銃で、マイナーと思いきや100万挺以上生産された大ヒット作だったというのは意外でしたけど、こんな大昔の銃を成功例として出してこなきゃいかんということは、逆にピストルの成功作は最近あんまりないということでしょう。また後者はすでに見切りをつけて他社に製造権を売却しているわけで、成功とはとうてい言いがたい気がします。同社の最近のピストルとして日本のガンマニアにも有名なものとしてはステアーGBがありますが、これも明らかに失敗作でしょう。伝統ある有名メーカー製でオリジナルな構造だったGBはピストル製造では全く無名の新規参入者グロックに敗れてオーストリア軍制式サイドアームの座を逃し、他でもあまり売れなかったと見えてやがて生産中止になりました。そして登場したMシリーズは明らかにグロック亜流でした。
 グロックの影響を受けたピストルは珍しくない、というかグロックの大成功以後完全新規で開発されたオートピストルでグロックに全く影響を受けていないものの方が少数派という気さえしますが、影響の度合にはもちろん差があります。例えばH&KのUSPはその後の発展型P2000ではよりハイグリップにし、「一部コック」を導入するなどよりグロックを意識したものにせざるを得なくなったとはいえ、当初はプラスチックフレームを使用しているという以外あまり強い影響を受けていないと思われるものでした。一方有名メーカーの製品の中で最も影響が色濃い、というかもうパクリに近かったのがS&Wのシグマです。ステアーMシリーズはまあシグマの次にグロックに近いものと言っていいんではないでしょうか。
 よりハイグリップにする、シグマ同様マガジンボディーは金属としてグリップを握りやすくするなどの工夫はあるものの、どう見てもグロック亜流で、伝統ある、しかもAUGやTMPを見れば技術力は非常に高いと思われるメーカーがこういうオリジナリティに欠けるものを出してくるのはやや寂しい気がします。

 三角形のフロントサイトがリアサイトのミゾにうまくはまったような形でターゲットの中心を矢印のように指し示す形になる「台形型サイト」というのはまあ面白いことは面白いですが、少なくとも実用銃では特段のメリットにはならないと思われ、この筆者も普通の方がいいと評価しています。それにしてもこんなんでパテントが取れるもんなんですね。

 シグプロもそうでしたが、ステアーMシリーズもフレーム前下部のマウントレールを自社製品を売りたいためか独自企画としていましたが、使用者側からこれではいろいろな普及品のアクセサリーが使えず不便という声が多かったんでしょう、新型のA1ではピカティニーレールに変更されています。記事にあるようにピカティニーレールは確かにこうした銃のスタンダードになりつつあるようです。

 東京マルイのコッキング式UZIは銃後部の上下が非常に狭い中にシアを組み込むため、垂直の軸を持っています。全体レイアウトが似た銃であるステアーのTMPはバレル軸線を下げ、上下を小さくしたレシーバーにシアを組み込む目的でやはり垂直の軸を持っています。昔アームズに、ひょっとしてTMPの設計に東京マルイ製UZIが影響しているのでは、と、まあ半分冗談で書いたことがあります。今回ステアーMシリーズを見て、このセーフティは(オリジナルとは異なる)MGC製グロックのそれに、位置といい操作法といい似すぎていないか、と似たような考えが浮かびました。まあどちらも偶然の一致である可能性が高いでしょうけど、ひょっとしてステアーの技術者に日本のトイガンからアイデアを得ている人がいるのでは、と考えるとちょっと楽しいかもしれません。ちなみに似ているのはセーフティをかけるところまでで、これを引き上げる操作には時間がかかりすぎるので記事にあるようなユニークな解除法が取られています。

 記事には透明な樹脂の中に縦横に織った布状のカーボンファイバーが透けて見えるようなフレームと、森林のような迷彩柄のフレームが紹介されていますが、公式には何故か見当たりません。フレームの表面はゴムのような感触の特殊コーティングがなされてグリッピングを向上させているそうで、これはなかなかいいアイデアだと思います。今後真似するメーカーが出てくるかもしれません。

 この記事を読む限り全体としてかなりいい銃であるように思われるんですが、実際はどうなんでしょう。その割に軍や警察で採用されたという話はあんまり聞かない気がしますけど。









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