S&W PC952 マスターピース

 「Visier」2004年8月号に、S&WのPC952「マスターピース」6インチに関する記事が掲載されていました。この銃はパフォーマンスセンター製のマッチガンで、ドイツで非常に高い人気を持つ「ターゲットチャンピオン」(ダブルカアラム)のシングルロー版といったところです。要するに「ターゲットチャンピオン」はM59の発展型、「マスターピース」はM39の発展型ということですね。メーカーによる公式紹介ページはここです。

http://www.swfirearms.vista.com/store/index.php3?cat=293577&item=865412&sw_activeTab=1

 ただし、以前にも触れたようにドイツでは6インチバレルの9mmオートが競技用として大人気ですが、アメリカでは需要が少ないようで、公式には5インチモデルしかありません。「Visier」で紹介されている銃と公式で紹介されている銃は、スライド、バレルの長さとスライドの滑り止めパターン(公式のは通常のグルーブ、「Visier」のは波型)以外に差はないようです。


Schmalhans (頑住吉注:またしても「Visier」によくあるひねったタイトルです。「Schmal」は「スリムな」、「Hans」は男の名前ですが、男の名前の代表として「男」、「奴」といった意味になることも多いということです。無理やり訳すなら「痩せ太郎」でしょうか。「ターゲットチャンピオン」よりフレームが薄いPC952「マスターピース」をこう例えているようです。)

9mmパラベラムピストルS&Wターゲットチャンピオンが手にぴったりこないという人にとって、新製品PC952「マスターピース」は一見の価値ありである。

&Wのマッチピストルであるターゲットチャンピオンは、そうこうするうちに使用弾薬9mmパラベラムの出身地(頑住吉注:ドイツ)において「Oberliga」(頑住吉注:辞書には「サッカーの2部リーグ」といった意味が載っていますが、ここではシューティングマッチ関係のはずです。しかしドイツのマッチ事情が分からないので具体的な意味は不明です)で最も人気のあるマッチガンの地位を獲得している。特に152mmバレルつきロングスライドバージョンは。しかしS&W自身が設けているパフォーマンスセンター製のその「他人に自慢できる馬」は、そのダブルカアラムマガジンと、それに合わせたワイドなステンレスグリップフレームから、中程度から大きな手にしか最適でない。小さな手、または短い指を持つスポーツシューターは、従来むしろ競技銃としてスリムな1911系グリップフレームか、スポーツピストルの古典であるP210系をを選択してきた。

 しかし、きゃしゃな9mmファンのためにはパフォーマンスセンター製の代替案としての新製品も存在する。すなわち、S&W製品の輸入業者Wischoが高級モデルPC952マスターピースを提供している。この銃はシングルローの9発マガジンとそれに見合ったほっそりしたグリップフレームにより、小さな手にも適合する。ナンバー名称は.38スペシャル(ワッドカッター)口径の伝説的競技モデルM52.38マスターと結びつけられている。S&Wはこの銃を1961年に発売した。だが、その際最初の銃はまだ(スポーツ銃としては)嫌われる9mm公用ピストルM39のDA/SAトリガーを備えていた。しかしそのかわり工場渡しで距離50ヤードからコントロールされたまとまりになった。射撃マシンを使い、5発のグルーピングが5cmを越えた場合、ピストルは改修のため生産現場に送り返された。高いコストを見れば、S&Wが1961年内に90挺だけ、そして2年目でさえ1,100挺のM52しか生産できなかったことはほとんど不思議ではない。

 新しいマスターピースは2つの基本的ディテールによってVisier2000年11月号でテストされた先行モデルPC952から逸脱している。すなわち、1インチ延長されたバレルならびにスライド、そしてステンレス製のスライドおよびフレームである。パフォーマンスセンターはブルーイングの952系でもバレルはステンレス合金で製造している。この他の点ではニューモデルはアメリカでも提供されている5インチのPC952とほとんど変わらない。S&Wはロングスライドモデルをほとんどヨーロッパ向けにのみ輸出している。

 テスト銃の加工と仕上げは批判のきっかけをほとんど与えなかった。微細なガラス球を密に吹きつけたマット表面は、ポリッシュされたスライド側面と合わせてシックな外観を提供し、邪魔な加工跡はない。全く同様に、この銃は内面もきちんとして見える。これはアメリカ製では高価なピストルであってすらむしろ例外に属する。グリップのクオリティも本体とマッチしており、同様に手にも合う。Nill製の「punziert」されたクルミ材製グリップは、あるいはアメリカ製のチェッカリング加工された木製グリップよりいくらか滑り止め性が高いかもしれない(頑住吉注:「Nill」はグリップメーカーです。 http://www.nill-griffe.com/ 「punziert」は辞書に載っていませんが、似た単語から「打ち抜き器で模様などを刻印する」といった意味が考えられます。外観上は通常のチェッカリングに見えますが、ひょっとすると木材を高圧でプレスして成型しているのかとも思えますが…)が、価格をさらに押し上げている(頑住吉注:うーん、プレスならチェッカリング加工よりコストは低いはずですから違いますかね)。そして同社製競合モデル9mmターゲットチャンピオンの場合は工場渡しではナメたことにホーグ製ラバーグリップしかついていない。46ページに写真があるターゲットチャンピオン用Nill「Rhomlas」グリップは驚いたことに約100ユーロの追加料金がかかる。

 パフォーマンスセンターはバレル、スライド、フレームのはめあいに多くの労力を注ぎ込んでいる。スライドはタイトに、しなやかにフレームの誘導レール上を走り、閉鎖状態では横方向にも、上下方向にも動かせなかった。全く最高である。閉鎖状態の銃のバレルは、親指の圧力でエジェクションポート領域でも、(スライドに組み込まれた)「Briley」マズルブッシング内でもたわまなかった(頑住吉注:バレルの角度が変わってもセンターを一定に保つ例のベアリング状のブッシングです)。純シングルアクションシステムにも未解決の希望は残されていなかった。トリガーは短い事前のストロークの後に、ドライに、トリガープル1200g強で作動した。BDSあるいはDSBのようなスポーツ団体は、この銃に対応する大口径種目において、リミットを1000gに置いている。トリガーのオーバートラップはフレーム内のトリガーストップネジが防いでいる。

 これに対し、PC952の装備は操作エレメント領域では簡素になっている。左利き射手には全くカラである。そして手の大きい右利き射手のみ握り直しなしでマガジンキャッチおよびスライドストップに到達する。これに対し、大型化されたセーフティレバーは問題なく握ったまま操作できる。しかしセーフティオフのためには上に動かし、これは人間工学的に「間違った」方向への動きである。

 しかし、公正を期するなら、マスターピースはIPSCマナーのアクションスポーツ用に開発されたのではないということも記さねばならない。25mにおけるゆっくりした精密射撃のためなら大型化されたマガジンキャッチボタンやスライドストップは必要ない。理論的にはスポーツシューターは静的な種目では一般にセーフティを必要としない。だが、PC952はそれにもかかわらずサムセーフティとならんで追加のグリップセーフティを持っている。このグリップセーフティは、射手がピストルを固く握るやいなや、ファイアリングピンをフリーにするものである(頑住吉注:私はマッチに関する知識が乏しいんでここで何を言おうとしているのかいまいち分かりません。たぶんIPSCのような動的な競技用としては必要とされるロングのスライドストップやマガジンキャッチがなく、かといって静的な競技用には不要なグリップセーフティがあり、用途が不明確だということではないかと思います)。

 シューティングレンジにおいて、PC952は顧客が(非常に)高級な価格クラスの25m競技銃に課してもよいすべての要求を満たした。ランサムレストに固定しての、15のテスト弾薬における「最も悪い」10発グルーピングは、44mmと計測された。比較してみよう。1000ユーロ内外の多くの9mmパラベラム仕様スポーツ銃の命中成績は、その「個人的ベスト成績」(頑住吉注:多くの弾薬の中でベストのもの、という意味だと思います)が40〜44mmに達する。マスターピースのトップの結果は、抜きん出た18mmである。テスト銃は、その個別的先端価値を、ホーナディの4.0グレイン「Hodgdon Titegroup」をロードした重量125グレインホローポイント弾で達成した。

 工場製弾薬による命中精度結果は同様に「どこへ出しても恥ずかしくない」以上のものだった。Magtechの115グレインホローポイント弾は19mmと、それでもなおマジカルな20mm以下をマークした。同じく115グレインホローポイント弾であるSellierBellot製も30mm以下に留まった。ひっくるめて7/15のグルーピングが30mmないしそれ以下と計測された。これにより、コンベンショナルな「山と谷のプロフィール」を装備したPC952のバレルは、弾薬への協調性に関してベストの点数を稼いだ(頑住吉注:たぶんポリゴナルライフリングより弾薬の種類に対する適応性が高いということではないかと思います)。リコイルはマイルドだった。このピストルは障害フリーで連発作動したが、最低限の「運動量」を越えないSierra製の弱装弾、4.0グレインのN310をロードした95グレインの軽量なセミジャケット弾は、機能限度以下に留まった。

 繊細な加工、実用向きの装備、そして特にファーストクラスの射撃成績に直面して、PC952マスターピースの場合価格・成績比は妥当であると言える。この価格・成績比というものは実際高価な競技用ピストルにおいて必ずしもこういう結果にはならない。この銃の最もシャープなライバルであるSAN Swiss ArmsのP210-5ロングスライドとの差は総合的に見てわずかである。両メーカーは、その9mmマッチモデルに、トップの結果のための全ての必要なディテールを装備している。しかしこれらに対応するいくつかの有名な1911系提供品もまさに同じである。

 ガバメントピストル用の典型的なチューニングオプションパーツ、例えばアンビの、延長されたセーフティレバー、あるいは手作業で繊細にチェッカリング加工されたグリップパネルなどは、PC952の場合もP210の場合も見つからない。P210-5ロングスライドと比較して、パフォーマンスセンター製のこの銃は約200ユーロ価格が安いというポイントを稼いでいる。価格差は10%以下である。小さな、しかししばしば決定的なディテールは、むしろバランス、グリップフィーリング、トリガーキャラクターといった領域内に見つかる。そしてそこでは今だに個人の好みが決定する。

メーカー:S&Wパフォーマンスセンター
モデル:PC952マスターピース
価格:2480ユーロ
口径:9mmパラベラム
キャパシティ:9+1発
全長:241mm
バレル:152mm(5条右回り)
空虚重量:1180g
型:ステンレススチール。トリガーストップの付属したシングルアクショントリガー。Wilson-Mikrometerリアサイト。フロントサイトは横方向にアリミゾ結合されている。グリップフレーム前面には長い滑り止め溝がある。グリップ背面にはファイアリングピンセーフティがある。マズルブッシングはBriley製。チェッカリングされた木製グリップ。予備マガジン、アルミニウム製ケース付属。


S&W PC952 6インチ マスターピース:9mmパラベラム

弾丸(メーカー・弾丸タイプ) グルーピング(mm) 初速(m/s)
Magtech 95grs TC JSP 34(18) 435
S&B 115grs JHP 28 362
S&B 115grs FMJ 44 369
Magtech 115grs JHP 19 369
Magtech 147grs TC FMJ 42 299
IMI 158grs FMJ RN 39 301

略称の説明
TC JSPはフラットノーズジャケットソフトポイント。RN FMJはフルメタルジャケットラウンドノーズ。JHPはジャケットホローポイント。TC FMJはフルメタルジャケットフラットノーズ。グルーピングはランサムレストに銃を固定し、25mで測定。括弧内はトリガーが原因のそれ弾を除外した数値。※頑住吉注:ハンドロードの結果は省略


 「952」という名称はM52と関連づけられたものだということです。中年以上の方の中にはご記憶の方も多いでしょうが、M52は初期のコンバットマガジンにレポートが掲載されていましたし、発売当時に購入したマルシン製M39付属のパンフレットには発売予定として試作品の写真がありました(残念ながら発売には至らなかったはずですが)。25mとかではなく50ヤード(約45.7m)で50mmのグルーピングが保証されたM52は「伝説的マッチガン」であり、いまだにその高級イメージに利用価値があるというわけでしょう。

 「マスターピース」の命中精度は安価なUSPエリートはもちろん、以前「Visier」でレポートされたP210の6インチモデル(「USPエリート」の項目参照)より優れています。ドイツ人はおおざっぱな部分がありがちなアメリカ製品を辛く評価することが多いんですが、S&W製品は緻密で、特にこの系統のオートはややオーバーエンジニアリング気味でもあり、ドイツ人のセンスに比較的合うのかもしれません。ダブルカアラムの「ターゲットチャンピオン」は今やそのジャンルでは人気ナンバーワンを誇っているということらしいですし、この「マスターピース」も人気を得るはずです。ただし複雑で、加工に手間がかかっている分価格は一般的なプラスチックフレームを持つ実用9mmオートの約4倍、同クラスのマッチガンであるH&K USPエリートの倍くらいするわけです。ちなみに「ターゲットチャンピオン」も「マスターピース」も価格はほぼ同じです。

 本題からはちょっと離れますが、キンバーの項目で触れたグリップセーフティと連動するファイアリングピンブロックは、ほとんどキンバーのみが使っているのかと思ったら大メーカーであるS&Wも使っていました。ちなみにSW1911でもこのシステムが採用されています。特にマッチガンではトリガーと連動するタイプはトリガープルに悪影響を与えるので使いにくく、訴訟対策からなしというわけにもいかず、この方式が採用されているようです。ただ、記事にもあるようにマッチガンにグリップセーフティは邪魔というユーザーは多いはずです。グリップセーフティを殺したら必然的にファイアリングピンブロックも機能しなくなるわけで、難しいところです。








戻るボタン