モーゼルC86ピストル

 「DWJ」2005年7月号に、全く知らなかった非常にユニークな特徴を持つモーゼル製ピストルに関する記事が掲載されていました。


モーゼルC86



 モーゼル社初のピストルモデルは、いわくC96、C96、そしてC96。これが一般的考えである。単発のC77も知られているが、本当のピストルではない(頑住吉注:ん? 何故でしょうね)。77と96の間には86が位置する(頑住吉注:C78はリボルバーなのでピストルには含めないということでしょう)。事実モーゼルは1886年に連発ピストルのパテントを得ていた。唯一のサンプルが存在している。我々はこれをお見せする。

 モーゼル兄弟は1970年代、全くもって運命に不満を持ってよかった。彼らのゲベールモデル71(頑住吉注:モーゼルの本格デビュー作で、例外もあるようですが、ドイツ初の金属弾薬式軍用ライフルと言ってかまわないでしょう。黒色火薬弾薬仕様、ボルトアクション、単発式でした)は国家機密とされ、このため商品として市場に出すことはできなかった。検査所はモーゼルによって作られたこのゲベール用のわずかな部品を、通常ある範囲内の寸法誤差ゆえに後処置のために突き返した。このオベルンドルフ出身の兄弟は帝国建設後、ロングアームによって大きな利益を上げられていなかった。

 ショートアームでも成功は得られないままだった。単発ピストルC77は、連発の「ライヒスリボルバー」が採用直前にある時代に誕生した。1878年の革新的な「ジグザグ」リボルバーも1879年、プロシア王国国防省に却下されたし、ベルリンの警察本部でも同様だった。‥‥この銃は登場が遅すぎたのである。この却下が賢明であったかどうかは解決されない疑問である。第一次大戦になってもなお、ドイツ兵はアンティーク化したライヒスリボルバーを引っぱり出さねばならなかった。

 極度に装填が面倒なリボルバーモデルであるM79およびM83(頑住吉注:長短のライヒスリボルバー。コルトSAAのようなソリッドフレームなのにエジェクターがありませんでした)とは違い、ブレイクオープン可能な「ジグザグ」は真のクイックローダーだった。そのシリンダー運動の原理は今日なおユーロファイター2000の機載砲に使用されているのが見られる(頑住吉注:へー)。それはともかくこのオベルンドルフの人たちは当時、簡単に言って公的機関とのビジネスに、本当には入れてはなかったのである。ショートアームマーケットでの決定的成功は、ロック機構のあるセルフローディングピストルC96が初めてもたらした。

 ロングアームマーケットにおいて、モーゼル兄弟はオスマン帝国との契約によって初めて、企業の継続的な経済的保証を手にした。この時代、Loewe指揮下の大規模なドイツ軍需トラストへへのこの企業の編入も起こった。

 モーゼルが1877年から1890年までに手にした多くのパテントのうち、1886年7月24日のドイツ帝国パテントナンバー38007は珍しいものとして目立っている。このパテントは、連発経過がトリガーによってあやつられる、チューブラーマガジンを伴う閉鎖機構メカニズムの権利を保護した。

パテントナンバー38007


 モーゼルはこのパテントによって保護された構造により、ボルカニックリピーティングアームズカンパニーによって19世紀半ばに開発されたアイデアを発展開発した。このボルカニックピストルはチューブラーマガジンを持ち、弾薬はレバーが付属したトリガーガードの操作によってチャンバー後方に動かされた。この原理は最終的にウィンチェスターモデル94というブレイクをもたらした。

 パテントナンバー38007は「連発式でマガジンを持つ手で持って撃つ銃であり、この場合マガジンはバレル下に配置され、閉鎖は上下にスイングするブロックによってなされ、チャンバーはバレルと一体で、装填、コック、発射が自動的にトリガーリングの操作によって行われる。」と記述している。このメカニズムはショートアームだけでなくロングアームにも使用できるという意図だった。パテント書類内にはショートアームのメカニズムが図解され、ロングアームは全体の外観図としてのみ登場する。

このピストル

 カラビナーM86とならんで、オベルンドルフ博物館には我々がここに見せているピストーレC86の現物1挺が存在している。この銃はきれいに加工されている。刻印は全くない。表面には目立ったさびの瘢痕はなく、マガジンチューブは完全にピカピカである。この銃はブルーイングされていない。これは機能モデルの場合でも絶対に必要というわけではない。2本のネジで保持されているカバープレートを持ち上げればメカニズムを見ることができる。メカニズムの作動部品、膝レバー(b)、遮断レバー(k)、親指レバーのくちばし部(d1)、プッシュレバー(f)はきれいにブルーイングされている。銃口で計測されたライフリングは谷部径8.2mm、山部径は7.8mmである。

C86の機能

 C86のメカニズムはトリガーリング(あるいはハンマーのコック)によってのみあやつられる。機能は実に複雑である。後部で軸につながれたブロック(a)はコックされていない状態では下に位置する。このブロックは同時に装填スプーン(頑住吉注:ポンプアクションショットガンのいわゆるリフターも指す語です)としても機能する。射手がトリガーリング(z)を操作すると、スプリングのテンションをかけて収納されている遮断レバー(k)がパイプ内の弾薬をフリーにする。この遮断レバーはゲベールモデル71/84(頑住吉注:ゲベール71の改良型で、チューブラーマガジンを持つタイプです)と似た機能をする。弾薬はコイル状のマガジンスプリングによってブロック(a)上に押し動かされ、ついでこのブロックによってチャンバー後方に持ち上げられる。ここでトリガーリング(z)をさらに操作すると、膝レバー(b)がアクションに入る。トリガーの力は膝レバーによって水平運動に転換され、これにより膝レバーは弾薬をチャンバーに押し込む。この後銃はロッキングされる。この後トリガーに通された指がハンマーをコックノッチにかかるまでコックする。今や連発レバーはトリガーとなる。

 主要な問題点の1つは給弾装置とトリガーが1つの操作エレメントになっている点である。その上この経過は短いレバー(頑住吉注:経験上これは文字通りの意味にとどまらず、梃子の逆という意味を含むようです)を使い、それに応じて大きな力を出してあやつられねばならないので、このカップリングは非常に問題を生じやすい。

 パテント書類は、これによってコック経過をトリガー経過から分けることを意図したコックレストに言及している。だが送弾経過と発射の間のきれいな分割は(手元にある)C86の場合「平時」にのみ可能である。いくらかの不注意はこの銃をコックレストのない「ダブルアクションオンリー」にする。連発時の「トリガー(ガード)抵抗」は大きい力を要求するので、その後の狙いを定めた安定した射撃はほとんど不可能となるだろう。

 

これに続く構造

 トリガーで連発操作をするアイデアは、ドイツ語圏において他のピストルメーカーの開発品にも現れた。

 オーストリア人Franz PasserおよびFerdinand Seidlは1880年代半ば、似たピストルを発表した。ただしこの銃では弾薬は前後に並んでではなく上下に並んで収納された。こうすることで、発射の運動量によって弾丸が前に位置する弾薬のプライマーを発火させることを回避したのである。

 Bohmen Bittner(頑住吉注:「o」はウムラウト)の連発ピストルと、Laumannのそれに似た構造は、Seidl/Passer構造に似ていたが、軸を中心に回転運動するのではなくすでに水平運動する閉鎖機構を持っていた。少なくともこれらのモデルは製造段階に進んだ。

編集部の結論

 モデルC86は垂直に動く閉鎖機構と水平に動く閉鎖機構の中間形態である。このピストルのシステムは、直前に誕生したゲベールシステム71/84、またセルビア向けに作られたモデル78/80が元になっている。しかしそれらよりずっと複雑である。主要な問題はトリガーおよび装填メカニズムの融合である。

 C86はおそらく、パケットローディング(頑住吉注:ストリップクリップによる装填)が全く新しい道を示す前における、装填スプーンとチューブラーマガジンを持つ最後の、最も洗練されたモーゼル構造である。装填スプーン製品ファミリーの生産終了が、1887年に始まったゲベール88に向けた熟考、あるいは1886年におけるLoeweによるモーゼル株大部分の買収の結果だったのかどうかは、もはや確認不能だろう。しかし、トルコとの契約のサインが全てのモーゼルの財源を長期的にロングアーム生産と結びつけ、企業の財政的成功を確立させたことは確実に言える。


 短い記事にもかかわらず、本題であるこのピストルと無関係な記述が多く、あまり詳しい説明ではないのが残念です。明記されていませんが、このピストルは試作のみで終わり、量産はされなかったんでしょう。メカニズム的にもデザイン的にもモーゼルらしさがあまり感じられず、アメリカ風のピストルという感じです。

 メカニズムに関しても細部に不明な点が残ります。これはたぶん私と同程度のメカ知識しか持たないドイツ人が読んでも理解しきれない、不充分な説明だと思われます。あるいは博物館からサイドプレートを外す以上の分解許可が出なかったからかも知れません。全長、重量等のデータもありません。

 弾薬の長さも不明なので送弾数も不明ですが、5+1以上ではないと思われます。これがバレル下のチューブラーマガジン内に収納されており、kの「遮断レバー」に抑えられています。トリガーを少し引くと、どことどう連動するのかよくわかりませんが「遮断レバー」が動いてマガジン内の最も後ろの弾薬が、後部を軸に前後が上下にスイングするブロックa上に飛び出します。さらにトリガーを引くとaは上にスイングします。この時この写真では明確でない部品(ボルト)が前進して弾薬をチャンバーに押し込みます。左の写真ではハンマーにbの記号が振られていますが、これは明らかに間違いで、右の写真が正しいと思われますが、この「膝レバー」が曲がった状態から伸びることと連動してボルトが前進し、d1が下から支えて「膝レバー」が曲がるのを防ぎ、結果的にボルト後退も阻止するのではないかと思いますが明確ではありません。ここでいったんクリックストップして狙いを定められるようになっているようですが、さらに引くとハンマーが落ち、発射します。

 トリガーを引く際だけでなく、前に押す際にもある程度の力が必要となるはずですが、どの程度の連射ができたのか、どうやってチューブラーマガジン内に装弾するのか、フレーム左側面のレバーはセーフティなのか、エジェクターはどういう形なのか、トリガーをゆっくり戻しても確実に真上への排出が行われるのか、コック状態から発射を中止してトリガーを戻すと弾薬も排出されてしまうのではないか、などいろいろ疑問が残ります。いずれにせよこの銃は明らかに失敗作であり、発売されても成功はあり得なかったでしょう。どう見てもC78リボルバーの方が実用的だと思われます。

 しかし、この銃はモーゼルがリボルバーから脱してオートマチックに進む発想の過程を暗示する、実に興味深いものであるとは言えるでしょう。







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