いわゆる「Mayor」ピストル その2

 「Visier」2005年5月号の「スイス銃器マガジン」ページに、先月号に続くきわめてマイナーなスイスオリジナルポケットピストルに関する記事が掲載されていました。


いわゆる「Mayor」ピストル

SWM(頑住吉注:スイス銃器マガジン)2005年4月号におけるこの記事の第1回において、我々はいわゆる「Mayor」ピストルに関し、この銃の歴史と背景に取り組んだ。その際我々は、何故参考文献内で普通である名称「Mayor」が誤っており、この銃を「Rochat」ピストルと見なすかに関しても詳しく説明した。今回、我々は記事の第2回において、個々のモデル、特にその構造について詳しく取り組む。

ochatピストルの3つのモデルは外観上、そして構造上、一部に関してはかなり異なっている。しかしこれらの銃は多くの領域において非常に似ているので、3つのモデルの共通の起源は見逃しえない。グリップフレームの人目を引く配置(頑住吉注:グリップが通常より前にある、と言うかケツが長い)についてはこの記事の第1回ですでに指摘した。少し突き出たバレルもRochatピストルの外観上の特徴である。ファースト、セカンドモデルでは、突き出たバレル部分は16mmであり、サードモデルでは12mmである。

 だが、分解の際になって初めて決定的な共通の構造要素にぶつかる。全てのモデルにおいてリコイルスプリングおよびファイアリングピンスプリングのオリジナルな配置が使われているのである。すなわち、リコイルスプリングはファイアリングピンスプリングの上に押し込まれており、両者は銃のスライド内に納められている(頑住吉注:素直に訳そうとするとこうなり、これだとスライド内の下にファイアリングピンスプリング、上にリコイルスプリングという配置を想像しますよね。写真がなかったら分からないところですが、実はそうではなく、相対的に細いファイアリングピンスプリングがあって、それを軸にするような形で相対的に太いリコイルスプリングがかぶっているんです。強力な弾薬を使用するサブコンパクトオートでよく使われるダブルのリコイルスプリングみたいな形です。ただし巻き方向は同一です)。この構造解決は、Ernest Rochatが1919年2月11日にパテントを取得した(パテントナンバー86863)。これはRochatピストルの新しい、革新的要素である。他の構造要素はパテントが取得されていない。バレルおよびチャンバーの後ろというリコイルスプリングの配置は、おそらくこの銃のユニークな外観の理由である。このために必要なスペースが、必然的に銃のグリップフレーム後方の延長を導いた。ちなみにErnest Rochatは彼のパテントの中でさらに、彼のピストルが当時知られていた他の全てのオートマチックピストルより部品数が少ないという大胆な主張を行っていた。この主張はかなりの費用をもってしか検証し得なかったはずである(頑住吉注:当時ブローニング設計によるM1906、コルトポケットの大ヒットにより類似品が世界中に無数に出現しており、そんなことは簡単には断言できなかったはずだ、ということでしょう。現在は昔と違って世界的にエアソフトガンが大人気で知名度の低いところも含めてメーカーが膨大にあるので、私が「P11水中ピストルを製品としてモデルアップしたのは世界中で頑住吉だけ」と断言しがたい、というようなものです)。

 リコイルおよびファイアリングピンスプリングのオリジナルな配置とならんで、Rochatピストルはさらなる興味深い注目すべき点を示している。例えばフレームも並外れている。すなわち、フレームの左サイドは単なる1枚の薄いプレートからできている。これは本来のフレームにネジを使って右サイドから結合されている。このフレームのツーピースの構造は、全3モデルで保ち続けられた。設計者の特別な関心事は、明らかに容易な分解だった。セカンドモデル用の取扱説明書にはこれに関し、「多くの銃器オーナーは彼らのピストルの分解によって過大な要求をされており、そしてこのため必要不可欠な手入れがないがしろになっている」と指摘している。特にRochatピストルのファースト、セカンドモデルはその簡単な分解により、全ての従来知られているピストルとも異なる。我々がこれから見るように、このことはサードモデルにはほとんど当てはまらない。

ファーストモデル
 ファーストモデルは上部がオープンのスライドを示している。前半分は小さなブリッジ部まで削り取られ、このためセパレートなエジェクションポートの開口は必要としない。スライドの後部にはRochatのパテントに対応したファイアリングピンスプリングつきのファイアリングピン、そしてその上に押し込まれたリコイルスプリングがある。ブリッジ上には尖ったフロントサイトがセットされ、スライド最後部の上にはごく小さなV字型のリアサイトがある。バレル後端はスライドに対応するよう太く成型され、スライドの削り加工部の後部を締めくくっている。エキストラクターはスライド上部に取り付けられており、エジェクターは存在しない。セーフティはセレーション入りの頭部を持つ回転可能なレバーからなり、銃の左サイド、トリガーとグリップパネルの間に存在する。このピストルは銃を握った手の親指で快適にセーフティのオン、オフができる。フレーム下サイド前部には分解レバーが取り付けられている。これを上へ圧すると、スライドは前方に抜き取れる。分解レバーの操作にはいくらか力を必要とするにもかかわらず、携帯時にジャケットのポケット内でこれが押され、銃が意図せず分解する可能性が完全には排除し得ない。マガジンキャッチはグリップフレーム下端に取り付けられている。

 次のファーストモデルのシリアルナンバーが我々によって確認された。42、158、168、186、207。

機能方式‥‥
 この銃は装填されると、ツメがファイアリングピンのシャープなエッジを持つ隆起部を下からコック位置につかまえる。このロード運動は力強く行われなくてはならず、これで初めてファイアリングピンはスライド最後部位置でツメによってホールドされうる。トリガーを引くことによって、トリガーにスプリングのテンションをかけられて結合されている、先の尖ったレバーが、スライド右内部の軸に取り付けられた「傾く梃子」の先端を圧する。この「傾く梃子」は、スライド後端でスプリングのテンションをかけられている円筒状部分内に取り付けた横切る小さなピンを持ち上げる。この円筒状部分はスライドを後方から栓している。ピンは直角に折れ曲がり、前述のシャープなエッジを持つツメを形作り、円筒状末端部品の縦穴内に位置している。ツメは沈下し、ファイアリングピンを解放し、弾薬は点火される。リコイルスプリングはファイアリングピンスプリングの上に押し込まれているので、セパレートなリコイルスプリングガイドを必要としない。前進時、スライドはその最終位置において、先端が尖りスプリングのテンションがかけられたレバーを、「傾く梃子」先端の前に圧する。これにより、セパレートなディスコネクターを必要とすることなく、ダブル発射は信頼性を持って阻まれる。トリガーが離されるとスプリングのテンションがかけられた先端が沈下し、「傾く梃子」先端の下へ後退する。これで2番目の発射が可能になる。

‥‥そして分解

 銃のアンロード状態を自らに納得させた後、マガジンを取り除く。続いてフレーム前部にある分解レバーを上に圧する。その際セーフティレバーのポジションは関係ない。バレルおよびスライドはリコイルスプリングのテンション下で自動的に何mmか前方に滑り、続いてフレーム前方に押し動かすことができる。バレルはその後問題なくスライドから引き抜くことができる。これによりピストルはその4つの主要構成部分に分解される(フレーム、スライド、バレル、マガジン)。これ以上は銃の通常のクリーニングのためには必要ない。組み立ては逆順で行われる。全手順はきわめてユーザーフレンドリーである(頑住吉注:「benutzerfreundlich」。そのまんまです)。唯一我々が知る、同様に簡単に分解できる他のポケットピストルは、スペインの1910年型、Arizmendi y Goenaga社製Walmenである。この銃は容易な分解のためにフレーム右サイドに「圧するキー」を示している(頑住吉注:この銃は全然知りませんし、検索しても何も見つかりませんでした)。

テクニカルデータ
モデル:ピストーレR.N.(Rochat)ピストル、モデル1
銃器タイプ:重量閉鎖機構
(頑住吉注:ストレートブローバックシステム)を持つSAセルフローディングピストル
設計者:NyonのErnest Rochat
メーカー:ローザンヌのMayor(おそらく)
口径:6.35mmブローニング
銃身長:55mm
ライフリング:6条左回り
マガジンキャパシティ:6発
全長:120mm
全高:78mm
全幅:22mm
重量(アンロード):330g
グリップ:木製


 ここでちょっと中断してファーストモデルに関し補足します。



 ファーストモデルを分解したところです。言うまでもありませんがかなり簡略化した図です。バレル、スライド、フレームの前後位置はこの通りで、バレル先端がやや突出しているというのも分かると思います。実射テストは行われていませんが、バレルは前から差し込まれて固定され、フレームとスライドは完全に全長でかみ合っており、前回触れられていたようにパーツのフィットがタイトであることからも命中精度上有利な条件が多くなっているようです。まあこのクラスでは実用上どうでもいいことかもしれませんが。

 かなり小さいですがベレッタやワルサーP38のようにスライド前部の上が大きく開口しており、独立したエジェクションポートはありません。開口の前の上部分が「ブリッジ」と呼ばれているところで、その上には尖った小さいフロントサイトがあります。説明文のうち黄色で表示した部分は、バレル後部がこのように上向きに突出しており、これに対応するように開口部の矢印部分がさらに切り込まれているということを示しているようです。セーフティはベレッタM1934にやや似たこんな位置にあり、下を軸にしてM1934とは違って小さな角度動くだけなので銃を握った手の親指で操作しやすいということです。
 空色で表示したのが分解レバーで、青が軸です。レバーを上に押すとシーソー運動でバレル下の切り欠きとかみ合っている後部が下がり、バレルとスライドが前方に抜けるわけです。モーゼルHScと似たきわめて容易な方法ですが、分解ラッチがトリガーガード内にあるHScと違ってもろに露出しているので、意図せず分解してしまう危険がぬぐいきれないというわけです。
 トリガーメカは次のようになっています。トリガーにスプリングのテンションがかかったトリガーレバーが付属しており、トリガーを引くとレバー先端がシーソー状のトリガーバー(「傾く梃子」)を押し、反対側がシア(「ツメ」)を動かしてレットオフするわけです。発射してスライドが後退してしまえばフレームに設置されたトリガーに付属しているトリガーレバーと、スライドに内蔵されているトリガーバーの関係は否応なく断たれるので、独立したディスコネクターは不要です。スライドが前進するとトリガーバーの先端はトリガーレバーの先端を前に押し倒しますが、トリガーを引くのをやめるとトリガーレバーは下降し、スプリングのテンションで再びトリガーバー先端の下にもぐりこむわけです。お分かりでしょうが、これはブローニングハイパワーの方法ときわめて似ています。ブローニングによる手作りまるだしのハイパワーの原型は1922年製とされており、また当初はRochatの設計と同じストライカー式でした。Rochatピストルは1919年にパテントが取得され、その後まもなく生産が開始されたようです。果たしてRochatピストルはブローニングに影響を与えたんでしょうか。それともブローニングは全く独自にこの方法を思いついたんでしょうか。


セカンドモデル
 セカンドモデルは本来のスライドを持たず、「閉鎖部品」を持つ。これはダイレクトにチャンバーを閉鎖している。その中にはファイアリングピンおよびファイアリングピンスプリングの上に押し込まれたリコイルスプリングがある。発射時、「閉鎖部品」の後退運動によって薬莢投げ出しのための開口が生じる。「閉鎖部品」の前にはバレルブロックがある。このバレルがブロック内に入れられているのか、あるいはブロック、バレル、チャンバーが一体でできているのかは、肉眼では確認できない(頑住吉注:前回書いたように、コルトウッズマンのようなスライドは後半だけといったスタイルです。ドイツ語の定義ではこれは本来スライドには当てはまらないようですが、それを確認した上で以後スライドという名称も便宜的に用いています)。

 バレル内には興味深いディテールが示されている。このバレルは施条されているが、ライフリングはない。4本の山部はストレートに走っている(頑住吉注:アサヒファイアーアームズのブッシュマスターウルトラカスタムや一部のカスタムパーツにある、いわゆるストレートライフリングだということです)。我々はたった1挺のみのセカンドモデルしか詳しく調査できないので、これが1つだけのケースであるという可能性が存在する。照準設備は1本のサイトミゾからなる。これは前部に小さなフロントサイトを持ち、後端はごく小さなV字型のリアサイトで終わっている。(頑住吉注:ほぼコルトポケットやブローニングM1910のような感じです)。スライド右サイドにはエキストラクターがセットされている。スライド左先端面にはフルに削りだされたエジェクターがある(頑住吉注:ファースト、サードモデルを含め、こうした銃の多くはファイアリングピンをプランジャー式エジェクターの代用としていますが、この銃は独立して設けているということです)。セーフティはファーストモデルと同じ場所にある。だが、もはや回転レバーからなってはおらず、ミゾつきの「かんぬき」からなっている(頑住吉注:電気製品のスイッチや低価格エアソフトガンのセーフティに時々ある、ストレートに前後にスライドするタイプです。ちなみにミゾは通常のセレーションではなく、同心円状です)。フレーム前部下側には、ファーストモデルのように分解レバーが取り付けられている。銃が携帯時にマントのポケット内で意図せず分解する危険はセカンドモデルでも潜在的に存在する。

 セカンドモデルの次のシリアルナンバーが我々によって確認された。510、633。

機能方式および分解

 銃が装填されると、ツメがファイアリングピンのシャープなエッジを持つ隆起部を下からコッキングポジションにつかまえる。トリガーを引くと、スライド左サイド内に入っているバーがフレーム後部内の梃子を動かす。その下降運動の際、そのそばにある梃子が下に圧される。これが後端部で前述のシャープなエッジを持つツメを形作っており、リング状のスライド末端部品に沿った穴の中に下から突き出ている。ツメは沈下し、ファイアリングピンを解放し、弾薬に点火する。作動装置はファーストモデルのようにスライド内になく、フレームに内蔵されているので、この場合セパレートなディスコネクターも必要となる。これは左のスライドサイドに両梃子とならんで組み込まれ、同様に結合されている(頑住吉注:黄色部分は写真で見ても理屈からしてもフレームの間違いではないかと思います)。

 ピストルのアンロード状態を自らに納得させた後、マガジンを除去する。続いてフレーム前部にある分解レバーを上に圧する。その際セーフティかんぬきのポジションは無関係である。その後バレルブロックはフレームから前方に引き抜くことができる。「閉鎖部品」を抜き取ることができるようにするためには、トリガーを引かなくてはならない。ピストルはこれによりその4つの主要構成部分に分解する(フレーム、「閉鎖部品」、バレルブロック、マガジン)。これ以上は銃の通常のクリーニングのためには必要ない。組み立ては逆順で行われる。このモデルの場合も全経過はきわめてユーザーフレンドリーである。

テクニカルデータ
モデル:ピストーレR.N.(Rochat)ピストル、モデル2
銃器タイプ:重量閉鎖機構
(頑住吉注:ストレートブローバックシステム)を持つSAセルフローディングピストル
設計者:NyonのErnest Rochat
メーカー:ローザンヌのMayor(おそらく)、ことによるとNyonのRochatでも
口径:6.35mmブローニング
銃身長:55mm
ライフリング:4条ストレート(旋条ではない)
マガジンキャパシティ:7発
全長:119mm
全高:77mm
全幅:22mm
重量(アンロード):350g
グリップ:木製




サードモデル
 サードモデルは唯一のものとして上部に薬莢投げ出し開口を持つコンベンショナルなワンピースのスライドを示している。これはこれで後部にパテントが取得されたRochatのファイアリングピンスプリングおよびリコイルスプリングシステムを含んでいる。エキストラクターはスライドの上側に設置され(頑住吉注:やや左よりです)、エジェクターは存在しない。フレームの前部には、1本のピンで固定された、縦長の、横断面内の直角のブロックがぴったりはめこまれている。その後端には、初めての3つの「櫛」がバレル保持のため形成されている。2および3番目の「櫛」は右のフレーム部分の一部である。バレルは3つのリップを示し、1/4回転後、これらの「櫛」とかみ合い、固定される。このバレル保持原理はFN1906および多数の他のポケットピストルのそれと一致する(頑住吉注:要するにコルトポケットやブローニングM1910のようなバレル保持方法であり、「櫛」というのはフレームのリセス、「リップ」というのはバレルのラグを指しています。写真で見てもリセスは別体のブロックとしてはめこまれ、1本のピンで固定されているらしいんですが、2および3番目の「櫛」が右のフレーム部分の一部だという部分はどうもよく分かりません)。ファースト、セカンドモデルの場合のように、この銃でもバレルは前方にいくらか突き出ている。サードモデルにおいて目立つのはマズル領域の削り加工である。これは分解のためバレルをつかむことを容易にすることを意図している(頑住吉注:これもコルトポケットと同じバレル先端部周囲の滑り止め加工のことで、形もそっくりですが、この銃の場合バレル先端が突き出ているのでコルトポケットとは違い常時外から見えています)。このピストルのセーフティはセカンドモデルのそれと同一である。ファースト、セカンドモデルとは違い、フロント、リアサイトは欠けている。Rochatは明らかに、この銃が短距離のセルフディフェンスにのみ投入される場合、照準設備は不要であるということをそれまでに理解していたのである。

 次のサードモデルのシリアルナンバーが我々によって確認された。1023、1091、1115、1198。

機能方式および分解
 銃がロードされると、ツメがファイアリングピンスプリングのシャープなエッジを持つ隆起部を下からコッキングポジションにつかまえる。トリガーが引かれることにより、フレーム左内部に入っている棒が、軸にセットされているフラットな小プレートを、その左前部にある小さな先端部において持ち上げる。この小プレートの後端は、すでに言及した上向きのツメを形作っている。これはリング状のスライド末端部品の穴内部に下から突き出している。ツメが沈下するやいなや、ファイアリングピンは解放され、弾薬は点火される。棒は外れ、そしてスプリングがツメを持つ小プレートを再び始めの位置に引き戻す。
 
 サードモデルの分解はファースト、セカンドモデルのそれから大きく逸脱している。ピストルのアンロード状態を自らに確信させた後、マガジンを除去する。続いてスライドを固定されるまで引く。その際セーフティかんぬきのポジションは関係ない。サードモデルは分解レバーを示しておらず、セーフティかんぬきもこのために適していないため、Rochatは彼の構造に1つのさらなる革新的な要素をつけ加えた。マガジン挿入穴の中に、スプリングのテンションをかけられたレバーが突き出ており、これはツメを持つ小プレートの前端とならんで、フレーム右サイドの軸に取り付けられている。この軸は半分に削られた頭部で終わっており、フレーム側面を通ってスライド誘導レールの削り加工内まで突き出ている。マガジンがセットされると、マガジンはレバーを上に押す。これにより軸の頭は、削り取られた頭の半分がスライド誘導レールの一部を形成するまで回転する。スライド右サイドは下端にほぼ三角形の切り抜きを示している。この切り抜きがスライドの引きによって前述の軸の頭の高さに存在するやいなや、同様にスプリングの力によって、軸の頭の削り残された半分のエッジが切り抜き内にかみ合い、スライドが後部ポジションで固定されるまで回転する。これでバレルは左へ(射手方向から見て)1/4回転後に取り除くことができる。マガジンを押し込むことによって、軸の頭は回転し、スライドは圧縮されたリコイルスプリングの力で前方に押され、取り除くことができる。続いてマガジンも再び取り除ける。これによりこのピストルはその4つの主要構成部分に分解される(フレーム、スライド、バレル、マガジン)。これ以上は銃の通常の手入れのためには必要ない。組み立ては逆順で行われる。サードモデルの分解は、もはやファースト、セカンドモデルほど簡単ではないにしても、依然として単純である。個々のステップとその順序は正確に知らなくてはならない。前述の、Rochatピストルの分解は全ての従来知られている銃より簡単であるという主張は、サードモデルにはもはやほとんど当てはまらないだろう。しかしこれに関し、セカンドモデルにも当てはまらないという主張が誤ってなされていることは指摘されなければならない。


 ここでまた中断して補足します。分解方法に関わる独自アイデアに関する記述は非常に難しくて理解できません(たぶん訳も少なくとも一部間違っていると思うんであまり深く考え込まないでくださいね)。ただ、おおよそ次のようなことであろうと思われます。分解のためバレルを回すにはスライドを後退させて一定位置で固定しなくてはなりません。コルトポケットやブローニングM1910ではセーフティを使ってスライドを固定しますが、この銃の前後にストレートにスライドする「セーフティかんぬき」はこの目的に流用するのに適していません。そこでスプリングのテンションをかけたパーツをフレーム内に組み込み、マガジンによって押されているとスライドに干渉しないが、マガジンを抜くとスプリングの力で動き、スライドの切り欠きにひっかかってスライドを止めるようにした、ということのようです。この状態でバレルを回して抜き、マガジンを入れればスライドは再びフリーになって抜け、その後マガジンを抜けばいいわけです。



 記述からして実際とはパーツ形状や構成が全く異なるはずですが、ごく単純化すればこのようなことだと思われます。黄色がスライド、黄緑がマガジン、赤がRochatオリジナルパーツです。この状態はマガジンを抜いてスライドを固定している状態です。マガジンを挿入すると、オリジナルパーツは押されて時計方向に回転し、スライドは前進します。


テクニカルデータ
モデル:ピストーレR.N.(Rochat)ピストル、モデル3

銃器タイプ:重量閉鎖機構
(頑住吉注:ストレートブローバックシステム)を持つSAセルフローディングピストル
設計者:NyonのErnest Rochat
メーカー:ローザンヌのMayor(おそらく)、ことによるとNyonのRochatでも
口径:6.35mmブローニング
銃身長:56mm
ライフリング:4条右回り
マガジンキャパシティ:6発
全長:122mm
全高:77mm
全幅:22mm
重量(アンロード):355g
グリップ:ハードラバー


終わりの考察
 Rochatピストルはスイスで設計され、製造された。この銃の「スイス製」という属性は、おそらくSIG P210よりなお的確である。P210の構造は周知のようにフランスのPetterを大幅に手本としている。Rochatの場合は革新的に設計されたピストルであり、その高品質な加工によって納得させるだけでなく、実用的な観点からもデザインされている。最終モデルにおけるサイトの欠如は、実地に近い設計者の考えを物語っている。

 明らかに、この銃は成功しなかったし、この興味深い構造を商業的に活用することもまた成功しなかった。Rochatとそのパートナーは大規模な大量生産ができなかった。その代わりこの設計者は彼のピストルを常に発展開発し続けた。何百挺の後、そのつど大幅に新しいモデルが導入された。同じモデルにおいても外観において、同様に内部においても小さな差があり、これはなお多く手作りされていたことを推測させる。我々によって調査された銃のうちほとんど1挺も、他と全てのディテールが同一でなかった。ひょっとすると、もしドイツまたはベルギー国内のより大きなメーカーがこの銃の面倒を見、そして何千または一万挺の銃を製造していたなら、この構造はより成功していたかもしれない。それに対しヴァートラントのライフル工の作業場内の製造物には、ほとんど競争力がありえなかった。

 筆者はコメントや補足に常に感謝している。追加の実物(シリアルナンバー、刻印等)は歓迎される(頑住吉注:よく分かりませんが取材中の協力に感謝する、そしてコレクター等の追加情報求む、といった意味でしょう)。


 この人の文章は非常に素直で私にも相対的に理解しやすいものではあるんですが、それにしてもメカニズムを文章だけで説明されるのはきついです。

 先月の段階では、外観が結構普通なのでたいした特徴はないのではないかとあまり期待していなかったんですが、想像以上に興味深い内容でした。

 外観もちょっと似ているんですが、実はこの銃は稲垣式拳銃に似た構造上の特徴を持っています。ストレートブローバックであるとかマガジンキャッチがコンチネンタルタイプであるとか当たり前の共通点は省略しますが、

●リコイルスプリングがスライド後部に配置されており、これに圧縮される形でバレルが短くなっている。
●バレルの短さを携帯性をなるべく損なわずに少しでも補おうとするためかスライド前方にややバレルが突き出している。
●スライドはバレルによって前進を止められ、バレルは下からの突起で前進を止められている。突起を下降させることで簡単に両者を前進させ、分解できる(Rochatピストルのサードモデルは除く)。


といった共通点は注目に値すると思われます。稲垣式の「実銃について」の項目で、銃の全長に対する銃身長のパーセンテージを表にしたのを覚えているでしょうか。ここにちょっと転載し、さらにRochatピストルのファーストモデルの数値を追加してみます。

モデル名 全長(mm) 銃身長(mm) 銃身の占める割合(%)
ブローニングM1910 152 87 57
マカロフPM 160 91 57
ワルサーPPK 156 85 54
モーゼルHSc 152 86 57
モーゼルM1934 155 88 57
ベレッタM1934 149 87 58
SIGザウエルP230 168 92 55
浜田式 159 88 55
稲垣式 165 72 43
Rochatピストル1st. 120 55 46

 稲垣式はリコイルスプリングをファイアリングピンの左右に配置していますが、ベストポケットピストルであるRochatピストルは全幅をできるだけ抑えねばならないためファイアリングピン(スプリング)とリコイルスプリングを同軸に配置するという大胆で非常に珍しいデザインを採用しています。しかし、リコイルスプリングをスライド後部に内蔵するという点は共通しており、この結果これに圧縮されて通常デザインではほぼ一定である銃身長のパーセンテージ(55%前後)が、稲垣式とRochatピストルの場合飛びぬけて小さくなっている(45%前後)のが分かります。

 分解方法はRochatピストルが独立したディスアセンブリーレバーを設けているのに対し稲垣式はトリガーガードを使っていますが、方法としてはよく似ており、意図せず分解してしまう危険性があることまで共通しています。

 銃器の歴史上には名前を聞いたこともないような、それでいて興味深い特徴を持つ銃がまだまだたくさんあるんだなあと改めて思いました。ちなみに前回と今回の記述から、意外にもスイス人が本当の意味でスイスオリジナルと呼べるオートピストルが少ないことにコンプレックスじみた思いを抱いているらしいことがおぼろに読み取れ、これもまた興味深かったです。

 









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