「アクション4」ピンチか? MENの新弾薬

「DWJ」2004年5月号にMENというメーカーの新しい警察用弾薬に関する記事が掲載されていました。


いろいろなバリエーションで公的証明書が交付されたMEN製警察弾薬

証明書と公印つき

メーカーは利益の大きい官庁の大規模注文を求めて、「警察弾薬に関する技術的指針」に基づく証明書を得るために大いに努力している。MEN社は今、その実戦投入弾薬だけでなく、訓練弾薬でも公的証明書の交付を受けた。

 警察による実戦投入および訓練目的の9mmパラベラム領域で、今MENは渇望していた書類を手に入れた。すなわち、4つの弾薬バリエーションがウルム射撃試験局による完全な形での公的証明書交付を受けたのだ。これは各州の内務大臣たちが設置している複数の研究グループの一つである、第2研究グループ「内的安全」の中の下部委員会「操作および実戦投入手段」(「UA FEM」)が作成した技術的指針(Technischen Richtlinie、略して「TR」)、「有害物質が削減された9mmx19弾薬」(2001年9月成立)に基づくものである。この公的証明書発行の手順には、弾丸の構造、ターゲット内弾道、有害物質負荷、火薬による「証拠の付与」(頑住吉注:後述)に関する要求とテストが含まれている。これに関しては2003年10月号70ページに記述した(頑住吉注:これは以前お伝えした「アクション4」の記事のことです)。

新弾薬への道
 長年フルメタルジャケット・ソフトコア弾を持つ弾薬がドイツ警察のスタンダード型だった。だが、年月が過ぎる中でノーマル弾薬の問題が明確になってきた。その一つは従来のフルメタルジャケット弾薬によって健康が危険にさらされることだ。警察は訓練目的にたいてい閉鎖空間である射撃施設を使う。1980年代、多くの調査により警察官、特に射撃教官が射撃による空気中の高濃度の重金属および鉛の粉塵にさらされており、ことにそれが血液中から検出される可能性がある、ということがつきとめられた。これが考えの転換をもたらした。すなわち、弾薬に関しては有害物質を削減したプライマーを使用することと鉛のコアをカバーすることで、そして射撃場に関してはフィルター設備を設置することとブレットトラップを変更することで対策とした。
 この間にさらに示されたことがあった。それはフルメタルジャケット弾薬の使用が周囲への高い危険というリスクをはらんでいるということだ。そしてある決定的な事件が1999年にミュンヘンで起きた。銃器使用を伴う警察投入が、犯人だけでなく1人の無関係な人間をも殺してしまったのだ。そのフルメタルジャケット弾は犯人の体を貫通したのち、その後ろに立っていた人間も殺した。この事件が内務大臣の会議が開かれるきっかけとなり、この会議で20年以上続いた「より適した警察用実戦投入弾薬の採用」に関する議論が決着したのである。全連邦構成州が関与してきている「技術的指針」の中では、効果の大きい警察用実戦投入弾薬に関する要求が定められている。それまでにいくつかの特殊部隊はこの種の弾薬をすでに使っていた。だが今では全ての警察官が実戦用にはそのようなモダンな弾薬によって装備されるべきであることが定められている。

弾薬が指紋を手に入れる
 その間に、鑑識による重点的な分析により、銃器使用後の特殊な痕跡を検出することが可能になる、刑事技術的手法の進歩もあった。そういうわけで、この領域でも弾薬に関する新たな要求が「技術的指針」内で規定された。すでに知られている薬莢および弾丸に関する痕跡とならんで、今では硝煙の痕跡による証拠も要求されている。従来のスタンダード弾薬でも物質による硝煙の痕跡は残る。だが、困ったことにその物質は環境内において銃器使用なしでも検出されてしまう可能性があるのである。硝煙を証拠にすること、そしてある弾薬の種類を明白に特定することは従来のスタンダード弾薬では不可能に近い。そこで新たに要求されたのは、弾薬内に短時間で失われない硝煙の要素を収容すること、そしてその要素は環境内にはまれにしか、あるいは全く存在しないことだった。そうすれば未来において、薬莢、弾丸、銃および手、衣服、射入孔などから硝煙の痕跡を明白につきとめることができ、銃または射手が分類されることになる。さらに、発見された粒子の特定が、距離規定1.5mまで可能でなければならない、という要求が行われている。このような要求により、非常に正確な銃器使用の再構築ができる。
 この弾薬によるマーキングを「Dotierung」(頑住吉注:辞書には「贈与」「寄付」「報酬」などが載っていますがどれもふさわしくないので、以下「証拠の付与」と訳します)と言う。当然だが、この「証拠の付与」機能は弾薬の他の性質を損なってはならない。同様に当然だが、有害物質も含んではならない。「証拠の付与」のためには、2つの基本的な解決可能性が存在する。すなわち、「証拠の付与」マテリアルをプライマーに収容してもよいか、それとも発射薬に混ぜるかである。MENは後者の方法に決定した。「証拠の付与」マテリアルをプライマー内に収容することは可能だが、これは非常に少量でしかないからだ。大規模な実験では最適の結果を達成するには発射薬への混入が必要であった。「証拠の付与」マテリアルの調合を決定した後で、これを信頼できるように発射薬と結合する、確実な方法が発見されなければならなかった。
 「証拠の付与」マテリアルの考案者とのより密接な共同作業と火薬メーカーにより、やがてこれらの試みは成功した。「証拠の付与」マテリアルも、それを発射薬に塗布する手法も、この間にパテントによる権利として保護された。

公的証明書が交付された訓練弾薬
 理想としては訓練用に実戦と同じ弾薬を使うことが望ましい。だが、これは必ずしも実現しない。というのは、多くのブレットトラップはゴムまたはプラスチックのマットを装備している。ところが自動車のタイヤに対する使用を意図する変形弾は、ブレットトラップに最低でも大きさ4mmの孔を開けてしまうため、これに過度の損耗をもたらすのである。その上、価値の高いマテリアルから作られ、設計上注文が多いことから、変形弾は従来のフルメタルジャケット弾よりはるかに価格が高い。
そういうわけで、MENは射手に実戦使用弾薬との差をもはやほとんど感じさせない訓練弾薬を供給している。以下の弾薬である。

「MSR」(MEN「有害物質が削減された」の略)
 この弾薬は以前からあるフルメタルジャケット実戦投入弾薬を改良したバリエーションで、有害物質を削減し、弾丸の中の鉛製コアをカバーしたものだ。コストが安く、この理由から依然として訓練に使用されている。連邦内務省も独自の「技術的納入条件」(「TL」)DM41に基づき、下級機関のために調達している。だが、射撃訓練後の鉛を含むブレットトラップの廃棄物処理は結果的にコストが高くなる場合があり、またこれでも依然として明らかに健康負荷の危険がある。弾丸のジャケットはたいていハードターゲット(例えば鎖や金属の薄板を使ったブレットトラップ)への命中によって裂け、鉛が放出されて空気が汚染される。結局これでもこの弾薬の方式は警察領域にふさわしいと考えられ、この弾薬は現在でも公的証明書が発行された形での調達が可能なままとなっている。
(公的証明書番号 M030119/Z)

「PFP」(「警察用のこわれやすい弾薬」の略)
 これは本来戦時下の条件によるマテリアルの欠乏から生じた弾丸技術であるが、別の使用目的のために再発見された。実戦使用目的に関してはここでは海軍による船上作戦用と航空機護衛官用のみ言及する。訓練領域でもこの種類の弾薬は非常に好都合である。何故ならこの弾丸は約8mmの厚さの鉄板をブレットトラップとして使うことにより、銅の顆粒に分解し、跳ね返りや跳弾を生じないからである。「こわれやすい」弾薬の警察の訓練目的への使用のためのモデルケースとしては、フランクフルトの新しい警察本部内にある射撃施設が有効である。この弾薬はMENによってさらに改良されたものである(公的証明書番号 M030111/Z)。古い弾薬は最小限のプラスチックを含んでいた。新しい弾丸ではこれが錫に換えられている。新弾薬は弾丸の先端がライトブルーに着色されている。錫メッキしたフルメタルジャケット弾薬との取り違えを排除するためである。未燃焼の火薬が残る問題も新弾薬によって解決できた。その上重くなった弾丸(6.5g)と適した火薬量は信頼できる銃の作動を保証する。

「PTP」(「警察用訓練弾薬」の略)
 全ての方式のブレットトラップに非常に適した訓練弾薬がMENのPTPである。プライマーに重金属を含まず、弾丸に鉛を含まず、そしてPTPの弾丸重量は実戦使用弾薬のそれと等しい。この弾薬の開発は簡単な道程ではなかった。というのは、PTPの本来のバージョンはドイツの防護レベルTのボディアーマーの貫通を示したからだ。当然これでは許容されることはありえない。MENはPEPの弾丸構造をモデルにして今新たな弾丸を開発した。これはボディーアーマーも貫通せず、金属の薄板を使ったブレットトラップにも穴を開けない。それにもかかわらず弾道、命中点、銃の作動に関しては実戦使用弾薬QD-PEP(頑住吉注:後述)と最も広範囲に一致する(公的証明書番号 M030110/B)。
 この鉛フリー訓練弾薬のコストは従来のフルメタルジャケット弾薬より高い。だがそれでも公的証明書が交付された実戦投入変形弾薬よりは安い。忘れてはならないのは、この弾薬だけを使えば明らかにスクラップが出ない射撃場が実現する可能性があることだ。

公的証明書が交付された実戦使用弾薬

「QD-PEPU/s」(クイックディフェンス警察実戦投入弾薬U/sの略)
QD-PEPU/sはQD-PEP(公的証明書番号 M030079)の完全な形での公的証明書の交付が行われたバージョンだ。この新弾薬は、旧弾薬に発射薬による「証拠の付与」機能を加えたのとならんで、単に銃へのより良い送弾のために弾丸先端を最適化したものだ。これにより現在QD-PEPは、(頑住吉注:公用)マーケットで入手できる、「技術的指針」に基づいて完全な形で公的証明書が交付されたドイツ警察用実戦投入弾薬2種のうちの1つということになる。すでに何か月か前、RUAGの弾薬(頑住吉注:「アクション4」)が完全な形での公的証明書交付を受けている。だが、MENはこれに対し、硝煙の痕跡による信頼できる証拠手法が要求されている距離規定も含めて満たすことを要求している。この点に関するテストはさらに必要である。

公的証明書が交付されていない特殊弾薬

「QD1」(「クイックディフェンス1」の略)
 この弾薬はQD-PEPよりゼラチン内のより短い侵入進度での明らかに強い変形能力と、そしてこれによるはるかに大きいエネルギー伝達能力を持つ。その説得力ある効果から、この弾薬はドイツでは主に特殊部隊用およびセルフディフェンス用に使われている。だが、高い変形とエネルギー伝達のため、「技術的指針」に基づく全般的な実戦投入弾薬としての公的証明書交付は得られない。MENは顧客の希望に基づき、すでに「証拠の付与」能力のある発射薬を使ったバージョンも供給している。興味深いことに、他国は「エネルギー伝達と短い侵入深度」というテーマをより重視している。このため目下フランス地方警察の全警察官はこの「QD1」を装備している。

「QD2」(「クイックディフェンス2」の略)
 この弾丸タイプは、フルメタルジャケットより高いエネルギー伝達を希望するが、口径の数値を越えての変形は許容しないという顧客の希望に応じて特別に開発されたものである。この方式の弾丸構造は、わずかな国、例えばオランダなどで使用されているだけだ。このタイプの弾薬は「技術的指針」に基づく公的証明書の交付を受ける能力はない。要求されたエネルギー伝達を満たすことができないからである。この弾薬も希望により「証拠の付与」能力のある発射薬入りで供給を受けることができる。

DWJの結論
 新しい銃器法によるホローポイント弾の自由化後もMENはこれらの弾薬を官庁のみに供給している。民間人、そしてセキュリティ会社もこれらの弾薬を入手することはできない。それでもなおこれらMENの弾薬に対する公的証明書交付は重要かつ画期的な出来事であると言ってよい。目下MENがこれらを民間用にサービスしていなくても、公用領域の進歩は技術移転を通じて中期的に民間マーケットの製品にもポジティブに作用することを示すからである。


 MENの公式ページはここです。「Products」→「9mmx19」と進むとここで紹介されている製品群が見られます。
http://www.elisenhuette.de/uk/home/fr_home1.html

 最も注目すべきなのはMENの「QD-PEPU/s」という実戦用弾薬でしょう。イラストを見ればお分かりのように、「アクション4」の亜流と言っていいような弾薬です。「ホローポイント弾」の項目にあったように、多くのホローポイント弾には例えば薄いベニア板のような比較的「固くてもろくて薄いもの」を貫通してから人体に突入すると、先端の穴にドイツ語では「栓をする」と表現されるような現象が起こり、フルメタルジャケット弾のような高い貫通力を示してしまうという欠点があります。「アクション4」も「QD-PEPU/s」も、「あらかじめ最適なもので栓をした特殊なホローポイント弾」と見ることができます。あらかじめ栓をしてあるので前述のような問題は起こらず、人体に突入すると確実に一定の拡張を起こすと同時にそれ以上の拡張はせず、予定されたとおりのエネルギー伝達を行います。ここでは詳しく触れられていませんが、「QD-PEPU/s」も公的証明書を交付されている以上当然「技術的指針」に定められた、ゼラチンへのエネルギー伝達の数値、侵入深度、鉄板への貫通力、タイヤに穴を開ける能力、強化ガラスを貫通した後大きく屈折せず重量を大きく減らさない性質、などの要求項目を満たしているのは間違いありません。詳しくは「アクション4」の項目をもう一度ご覧下さい。「QD-PEPU/s」は「栓」が球状なのが特徴で、なんだかボールペンの先端みたいです。「アクション4」よりいくらかコストが安のではないでしょうか。
 そして後発の「QD-PEPU/s」には「アクション4」にはない強みがあります。「QD-PEPU/s」テスト時には、「アクション4」テスト時にはなかった新しい要求項目が加わっていました。それは、「『証拠の付与』マテリアルは1.5m離れていても確認できなければならない」というものです。MENは苦労してこれをクリアし、そして当局に「アクション4」にもこのテストをせよと要求しているということです。建前の部分では「『技術的指針』が本当に警察用弾薬に必要不可欠な内容を定めたものなら、先にテストをクリアしたものも追加要求をクリアしているか再テストするべきだ」という主張でしょう。しごくもっともです。そしてたぶん本音は「この要求をクリアしようと苦労した経験から、『証拠の付与』マテリアルをプライマー内のごく少量しか内蔵していない『アクション4』はこの要求をクリアできない可能性が高い。その場合、『証拠の付与』マテリアル自体も、添加方法も、我々がパテントを取得済みだから簡単な改良で『アクション4』が要求をクリアするのは難しいはずだ。『アクション4』の証明書が取り消されれば当面利益の高いドイツ公用ピストル弾薬の注文を独占できる。」というものではないでしょうか。さて、果たしてどうなりますか。

 




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