MGDサブマシンガン

 「Waffen Revue」22号にあまり知られていませんが非常にユニークな特徴を持つサブマシンガンに関する記事が掲載されていたので内容を紹介します。



MGDサブマシンガン
P.M.9

前文
 1950年代、Grenobleに所在するフランスの会社「Societe pour L’explotation des Brevets M.G.D.」はあるサブマシンガンをビジネスにしようと試みた。これは外観が個性的であるだけでなく、特別な構造上の特徴によっても目を引くものだった。より正確に言うならこの銃には従来型の閉鎖機構の代わりに一種のはずみ車が使われていた。これは疑いもなく特別な長所を示すものだった。

 サブマシンガン(MP38/40)メーカーとして良い評判を持っていたが、1951年になって初めてその本拠地をソビエトゾーンから西側内に移すことができ、本当にそううまくは活動できていなかったエルマ社内部では、このM.P.9の生産と販売のための良いパートナーを見つけたと信じられた。

 このとき1953〜55年における全般的な悪い状況、あるいは特殊な構造、あるいは当時150ドルといういくらか高い価格ゆえにか、エルマは興味を持つ人を見つけられなかった。そしてP.M.9のMGDサブマシンガンとの改名も成功をもたらさなかった。

 おそらくこの不成功の決定に参加したものの中には、この複雑なサブマシンガンの生産による比較的高い価格があったと思われる。このサブマシンガンが他のサブマシンガンが持つ多くの欠点をとりのぞくことができたにしてもである。

 わずかな挺数がプロトタイプとして生産されただけなので、我々はこの銃を我々の読者に紹介し、そしてそうすることによってこの銃を後世に伝えたい。

説明
 このサブマシンガンは次のような部品群からなっている。

1.=フレーム(レシーバー) 2.=打撃部品(頑住吉注:ボルト) 3.=カバープレート 4.=はずみ車 5.=クランクアームピン 6.=スプリングケース 7.=らせんスプリング(頑住吉注:ゼンマイ) 8.=クランクアーム 9.=レール 10.=ヒンジ 11.=ヒンジ固定具 12.=バレル 13.=フタ(頑住吉注:M16のような開閉式ダストカバー) 14.=マガジン 15.=スリーブ 16.=チャンバー 17.=空洞えぐり 18.=ファイアリングピン 19.=トリガー 20.=折りたたみストック





 選択により木製または金属製の短い、そして長いストック、およびいろいろな銃身長(一部はマズル抑制器付き)が提供された。さらに社は希望次第で何らかの変更や追加設備の取り付けを確約することを望んでいた。



特別な特徴
 装填のためにははずみ車上のクランクアームを下に動かす。この際らせんスプリングが圧縮され、ファイアリングピンケースとファイアリングピンの付属した打撃部品が後方に動き、コックされた状態でロックされる。

 トリガーを引いた際、打撃部品は前方に急速に動き、その前面(包底面)を使ってマガジンからの弾薬をつかみ、これをバレルのチャンバー内へと押し込む。このときクランクアームピンによって打撃されたファイアリングピンが弾薬に点火し、発射が起こる。

 発射時に生じたエネルギーの一部が打撃部品を(弾丸がバレルを去ってしまった後で)再び後方へと駆動する。この際空薬莢がチャンバーから引き抜かれ、投げ出される。この際スプリングが圧縮され(トリガーが引かれている場合は)打撃部品は再び前方に動き、再び弾薬をマガジンから取り出し、これをチャンバー内に導入し、点火する。

 この経過はトリガーが引かれたままでいる限り(そして弾薬がマガジン内に存在する限り)繰り返される。

 トリガーは非常に工夫を凝らして設計されている。トリガーはセーフティ状態のため単純に前方にたたまれ、そしてこれにより閉鎖機構はブロックされる。つまり銃が地面に落下した時でも発射が起こる可能性はない。というのは打撃部品は後方でブロックされ、そしてバレル内には周知のように弾薬はない。何故なら弾薬は前方に滑る打撃部品によって初めてチャンバー内に導入されるからである。実際のところもはやこれ以上安全になることはない!

 トリガーが軽く引かれると、セミオート射撃ができる。フルオートのためには完全に引かねばならない。つまり特別なセミ・フルオートの調整は必要ない。このことは全く特別なメリットとして取り上げられねばならない。

 閉鎖メカニズムであるはずみ車設備(これはわずかにホイールロックを思い起こさせる)は独自の方式だが、最高度に意味深く設計されている。発射時に発生するリコイルショックは受け止められるだけでなくはずみ車の回転(そしてスプリングの圧縮)に使われ、つまり大量に変換される。この結果リコイルショックはもはやほとんど感じられず、静かな射撃(頑住吉注:音が小さいという意味ではなく動揺が小さいという意味です)が可能となっている。

 我々はいわゆる重量閉鎖機構を扱ってきている。つまり固定したロックは行われない。

 閉鎖機構部品は空洞えぐり内部を滑るクランクアームピンによってはずみ車と結合されている。

 折りたたみ可能なマガジンは(折りたたみストックがさらに追加的にそうであるように)銃を運搬のためによりハンディにさせるだけでなく、同時にこの折りたたみによって銃はさらに安全になる。







テクニカルデータ
名称:MGDサブマシンガンPM9
メーカー:MGDおよびミュンヘン・ダッハウのエルマ工場
口径:9mmパラベラム
ショートストックを伸ばした状態の全長:650mm
ロングストックを伸ばした状態の全長:720mm
ショートストックをたたんだ状態の全長:365mm
ロングストックをたたんだ状態の全長:380mm
銃の全幅(たたんだ状態):95mm
銃の全高:120mm
銃身長:215および500mm
木製ストック付きの重量:27000g
スチール製ストック付きの重量:2300g
空マガジンの重量:260g
満たされたマガジンの重量:635g
マガジン内の弾薬:32発
発射速度:700〜750発/分


 サイト「WaffenHQ.de」における紹介ページでは1949年に採用されたMAT49は開発時に航空機内などへの積み込みのためコンパクトになることが重視されたと書かれていますし、床井雅美氏の「最新サブ・マシンガン図鑑」P165に掲載されている「ホチキス・タイプ・ユニバーサルSMG」も「1949年に発表した〜ストックやマガジン・ハウジング(マガジン装備部)が折りたためるだけでなく、グリップも折りたため、さらに、バレルをレシーバー内に押し込んで全長を小型にして格納することができた」とされています。これにやや遅れて登場したこのMGDサブマシンガンでも収納時のコンパクトさが重視されており、当時のフランスのトレンドであったことが伺えます。ドイツ人もよく変な銃を作りますしこの銃も変な銃なんですけど、面白いものでこの銃のデザインセンスは明らかにドイツ人のそれとは違うのが分かりますよね。

 何故か本文中で触れられていませんが、この特殊なシステムの最大のメリットは異常とも言えるほど機関部の全長が短くできることでしょう。この機関部の短さゆえ、たたむとほとんど半分の長さになってしまうのが最初の2つの画像で分かります。重量も例えばUZIなどよりかなり軽くなっています。ただしこの銃の場合ストックを折りたたんだ状態での発射は物理的には可能かもしれませんが実際問題としては不可能と思われ、屋内戦闘などの際に不利になることも考えられます。。

 重い閉鎖機構がゴットンゴットンと激しく前後動する通常のサブマシンガンと違い、この銃ではこれが回転運動に変換されるためリコイルショックが小さくなるというのも非常に興味深いところです。ただ、「ほとんど感じられ」ないというのはオーバーではあるまいかと思います。なお、「Faustfeuerwaffen」の著者流に考えると、この銃ではボルト後退中を通じてはずみ車を介して後退の運動量の一部がフレームに直接伝達され続けるとも思え、実際にはローラーロッキングに近いディレードブローバックなのかも知れません。

 前掲書によれば「ホチキス・タイプ・ユニバーサルSMG」は「これらの興味ある構造は、反面ホチキス・タイプ・ユニバーサルSMGの単価を押し上げる結果となり、1950年代に始められたフランス政府への納入や、海外への輸出もそれほど大きな成功を収められなかった」とされていますが、このMGDサブマシンガンも全く同様の理由で成功しなかったようです。なお「ホチキス・タイプ・ユニバーサルSMG」は写真から見る限りプレスを多用した構造に見えますが、このMGDサブマシンガンは後の登場であるにもかかわらず主に削り出しによって作られているようです。

 価格に見合うメリットだったかと言われれば首を傾げざるを得ませんが、プロトタイプで終わるにはあまりにも惜しい特長を持ったユニークな銃だったのではないかと思います。ドイツは1959年にUZIを採用しており、この頃良いサブマシンガンを探していたわけですからうまくすればこの銃が採用されてメジャーになっていた可能性もいくらかあったのかもしれません。ちなみに大昔MGCがぜんまいでブローバックのような動きをするグリースガンを作っていましたが、あのシステムはこの銃に最も合っているような気がします。作ってみたいですけど絶対売れないでしょうね。













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