アルゼンチン製「ミニファイアストーム」

 「Vsier」2004年3月号に、アルゼンチン製の比較的コンパクトな.45オート、「ミニファイアストーム」のレポートが掲載されていました。私の知るかぎりアルゼンチン製品は日本の専門誌で紹介されたことがなく、どんなものか興味を持って読んでみました。その評価はやや意外に思えるものでした。


ミニファイアストーム 口径.45Auto

約20年前から
ベンソとルーカスのボナディマーニ兄弟がブエノスアイレス郊外のRamos Mejiaで注目すべき拳銃を製造している。その会社の名は「Bersa S.A.」であるが、最近彼らは「ファイアストーム」という新しいブランド名を導入した。アメリカにおける販売は以前からニュージャージーの輸入業者SGSが行っている。「スイス銃器マガジン」の通信員J.B.Woodがコンパクトピストル「ミニファイアストーム」を紹介する。
 

 マガジン容量に関するアメリカのナンセンスな規制は、多くのメーカーが大型ピストルのコンパクトバージョンを開発するきっかけになった。ベルサ社も2002年、このカテゴリーに属する.45口径の「ミニファイアストーム」を登場させた。同社はそれ以前から9mmパラベラムおよび.40S&Wの「ミニファイアストーム」を製造していた。
 「ミニファイアストーム.45」は真正のコンパクトピストルであり、全長は173mm、全高は129mmしかない。
 トリガーシステムは初弾においてダブルアクションとハンマーをコックしてのシングルアクションが選択できるDA/SAであり、トリガーのなめらかな表面は理想的な形である。マガジンには7発装填でき、解除のための押しボタンは通常のスタイルだ。左利き射手用には左右を入れ替えることができる。
 この銃は左利き射手にはパーフェクトである。マニュアルセーフティとスライドストップはワルサーP88に似たスタイルで銃の両面にある。だが、「ミニファイアストーム」の価格はP88のたった1/3程度でしかないという点は強調しておきたい。
 「ミニファイアストーム」にはオートマチックファイアリングピンブロックがあり、トリガーの動きの最終段階で解除される。マニュアルセーフティをセーフ位置である上に押し動かすと、トリガーバーがディスコネクトされ、同時に丈夫なスチール製パーツが上に動いてハンマーをブロックする。その後シアが動いてハンマーは安全に落ちる。
 現在製造されている多くのピストル同様、キーロック式のセーフティがフレーム左面、ディスアセンブリーレバー直下にある。同封されているキーでポイント「F」から「S」に回すとトリガー、スライドなど全ての操作が遮断される。私の息子はこのような安全設備を「Kriminellensicherungen」(「防犯セーフティ」)と呼んでいる。必要な場合は子供のいたずらを防ぐセーフティとしても使える。
 ワンピースのプラスチック製グリップは側面および後部に形のよいチェッカリングがあり、両側面に控えめなフィンガーレストがある。アルミニウム製グリップフレーム前面には垂直のグルーブおよびフィンガーチャンネルがあり、挿入されたマガジンボトムの延長部と合わせて3本の指全てにかける場所が確保されている。総合的に見てグリップデザインは人間工学的に非常によくできている。
 リアサイトの角ばった形状は特徴的である。このサイトはノバックタイプの変形で、アリミゾ結合されている。後部にははっきりした白の縁取りが入り、一方フロントサイトにはホワイトドットが入っている。私の銃はニッケルフィニッシュだが、両サイトはブラックだ。
 この銃にはまだ2つの特徴がある。まずハンマーは重量軽減のため内部が大きくくりぬかれている。そしてエジェクションポート後部が大きく面取りされている(頑住吉注:前者はわりと高級なコンバットカスタムなどに多い、ハンマーの作動速度を速めてロックタイムを短くするもの、後者は少しでも排莢不良を少なくするためのもので、まあ特徴と言えばそうでしょうが特別に珍しいものではないですね)。
 私のテストピストルはダブルアクションのプルが非常になめらかで、引ききるまでプルが次第に重くなる感じはまったくしない。シングルアクションのプルはシャープで1.8kg、これはセルフディフェンス用にぴったりである。私は「ミニファイアストーム」をいろいろな弾薬でテストしてきたが、ホローポイント、セミワッドカッターも含め、いかなる問題も起きたことがない。私は片手で、25mの距離からレストなしで射撃した。
 ノルマの200グレイン+Pホローポイントのグルーピングは14cmになった。その際4発はターゲットのセンター、黒い部分に見事に集中していた。ダブルアクションで撃った最初の1発のみ少し右にそれた。しかし実際の使用距離を考えれば問題にならない程度である。
 この銃はこの弾薬を使用するにはかなり小型であり、重量は0.765kgしかない。それでも強装の弾薬ですらリコイルは実にマイルドに感じられる。これは当然優れたグリップ形状のおかげであるが、同時にリコイルスプリングがダブルであること、、ロッキングの機能が良好であることも原因だ。
 ここに示したニッケルフィニッシュの他に、「ミニファイアストーム.45」にはツートンカラーおよびマットブルーも提供されており、価格はいくらか安い。しかしこのマットニッケルフィニッシュこそ強くお勧めする品だ。このクオリティと装備でこの価格は実に良心的である。(スイスにはオフシャルな輸入代理業者は存在しない)

ミニファイアストーム
タイプ:ロッキングシステムを持つダブルアクションピストル
メーカー:FireStorm,Inc.(Bersa.S.A.) アルゼンチン
口径:.45ACP
マガジンキャパシティ:7発
銃身長:91mm
全長:173mm
全高:129mm
全幅:37mm
重量(未装填):765kg
素材:スチール。グリップフレームはアルミニウム。


 私はダメな映画等を酷評した文章など人の悪口を読むのが好きです(←おいおい)。「アルゼンチンのピストル」と言うといかにもダメそうな感じがして、この種の酷評をひそかに期待したんですが、拍子抜けというか、マイナス評価は何一つと言っていいほど書いてありません。「スイス銃器マガジンチーム」担当ページが特に評価が甘いということはなく、たいていは欠点も指摘してあるんですが。もっともこのJ.B.Wood氏の評価が特別甘いという可能性もあるでしょう。「ファイアストーム」公式サイトはここです。 http://www.firestorm-sgs.com 
ここを見るとベルサ社はミニファイアストームの他にこれをやや縮小したような(ただしセーフティはスライド上にある).380モデル、ガバメントのコピー品、S&Wのコピーらしいリボルバーなども販売しています。関係ないですが頑住吉としてはリボルバーの項目の中にある「スーパーコマンチ」という名前の一体何に使うのか疑問なシングルショットピストルが気になりました。床井雅美氏の「現代軍用ピストル図鑑」P83には「ベルサ・モデル・サンダー9ピストル」という機種が掲載されており、この銃は明らかに「ミニファイアストーム」のフルサイズバージョンと思われますが、現在販売されていないんでしょうか、この公式サイトには見当たりません。床井氏の本の右ページにはハイパワーのコピーモデルが掲載されており、アルゼンチン軍制式はこれだということです。ベルサ社としては旧式化したと思われるハイパワーに換えて「サンダー9」を採用してもらいたかったはずですがうまくいかず、一般にも売れず生産中止ということなんでしょうか。公式サイトホームページのミニファイアストームをクリックし、さらに.45タイプをクリックすると今回取り上げられている銃が出てきて、キーロック式セーフティおよびキーのアップ写真も見ることができます。sp-21と違って明らかに外観からキーロック式セーフティがここにあると分かる形になっています。
 サイズは.45ACPを使う銃としてはかなり小さく、中型オートと大差ありません。全体のデザインはベレッタから派生したタウルス風でもあり、ここで指摘されているようにアンビのスライドストップの特徴、割とカーブがきつく後部に突起があるトリガーデザインはワルサーP88にも似ています。ちなみにアンビのスライドストップは、スライドストップを抜くことで分解するH&K P2000のような場合ちょっとやっかいなことになりますが、「ミニファイアストーム」はベレッタと同じディスアセンブリーレバーがあるので問題はありません。sp-21もこの銃もグリップにフィンガーチャンネルがあります。フィンガーチャンネルは手のサイズに合わない人が使う場合疲労を早めるとも言われ、H&Kも以前はMP5に採用していたのに止めていますし、廃れたかなあと思いきや、最近またちらほら出てきている感じですね。
 ロッキングはSIGタイプで、リコイルスプリングは巻き方向が逆な細いものと太いものを2本長いリコイルスプリングガイドに通したものです。マニュアルセーフティは押し上げてオンにするタイプでデコッキング式です。コンパクトなこのサイズでは必要性は薄い気もしますがフレーム前部には流行のマウントレールがあります。最近では珍しくなくなったキーロック式のセーフティも備えています。まあ何といいますか寄せ集め的な、これといって強い個性のない、すごくカッコよくも悪くもない、個性の薄い銃です。
 検索してみるとアメリカでは9mmモデルが200ドル代、.45モデルが300ドル代で売られているようで、これは非常に安いと言っていいでしょう。これで本当にここに書かれているようなグレードならまさにお買い得品ですが、んー、どうでしょう。本当にそうならもっとメジャーになっていていいはずではという気もします。



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