ショットガン用ミニグレネード

 先に紹介した「Visier」の「コンバットショットガン」の項目に関連し、ショットガンについてちょっと調べたんですが、ずいぶん以前に購入し、ろくに中身を読んでいなかった「THE WORLD'S FIGHTING SHOTGUNS VOL.IV」(Thomas F. Swearengen著)という本にいくつか興味深い内容があるのを見つけました。今回はこの本に掲載されている特殊弾薬のうち、「Visier」の記事でも特殊弾薬の例として挙げられた「ミニグレネード」に関する内容を紹介します。


炸裂弾薬
 ショットガン用に作られた炸裂弾薬には2種類ある。1つは着発信管を持ち、爆発力が大きく、破片効果を持つタイプだ。もう1つは導火線によって発火し、爆発力は小さく、爆発によるショックのみの効果を持つタイプだ。(頑住吉注:後者は「別冊GUN PART2」で紹介されているものと同じ種類の、畑の害鳥を追い払う目的などに使う弾薬ですが、あまり重要ではないのでこれについては省略します。)これらは12ゲージ用だけで、炸裂弾としては小さいのでサイズ上の制約を受けているが、用途によってはきわめて有効だ。
 最も威力が大きいショットガン用炸裂弾薬は、アルゼンチン連邦造兵廠が作った口径12/70のミニグレネードだ。この弾薬は軍及び警察用に作られた弾薬ファミリーのうちの1つだ。アルゼンチン軍が使っているアルミ製シェルに爆発力の強い弾丸を装填してある。
 弾丸は基本的には円筒形だが、途中はくびれており、先端はやや丸くなっている。後部にはクッション状の素材がネジ止めしてあるが、これは弾丸の重心を前方にして空中で安定させるためだ。弾丸本体は肉厚のアルミニウム製だ。これにより爆発で効果的なサイズの破片が生じる。バレル内部へのアルミニウムのこびりつきや摩耗を防ぐため、プラスチック製のバンドが巻かれている。小型の、衝撃時の慣性によって作動する信管が弾丸内部の空洞部分の底部に位置している。信管は慣性式ファイアリングピン、これを後方に維持するスプリング、点火薬部分、過早発火防止セーフティピンから成っている。残りの空洞部分には、アルゼンチンで40TH60として知られる爆薬が充填されている。本体、信管、炸薬を含めた弾丸の全重量は1オンス(28g)だ。
 過早発火防止セーフティピンは弾丸本体の横穴部分にあり、先端はファイアリングピンの穴に通っている。これによりファイアリングピンは後方でロックされ、弾丸の運搬時、取り扱い時、発射時の安全が確保されている。過早発火防止セーフティピンは薬莢内部に接することで定位置に保持されている。発射時、弾丸が動き始めると過早発火防止セーフティピンはまず薬莢内をすべり、続いてバレル内をすべる。これにより、この間はファイアリングピンは機能しない状態に保たれる。弾丸がバレルを出ると、過早発火防止セーフティピンは付属のスプリングの力で飛び出し、ファイアリングピンをフリーにする。これにより信管は機能し得る状態となる。弾丸は飛行中空気抵抗によって減速するので、この間内部のファイアリングピンは慣性により弱い力で前進しようとする。ファイアリングピンに後方に保持するスプリングが付属しているのは、これによる過早な発火が起こらないためだ。弾丸が命中して衝撃を受けると、ファイアリングピンが前進する強い慣性が生じ、ファイアリングピンは点火薬を突いて発火させ、爆薬に着火し、本体は破片となって飛び散る。
 弾丸は0,04in(1mm)の鉄板を容易に貫通し、内部深くに致命傷を与え得る多数の破片を飛び散らせる。有効射程は80mである。自動車内部に撃ち込めば、乗員全員が死傷するはずだ。これは破片と爆発のショック両方の効果による。平均的なサイズの部屋に窓から撃ち込めば、内部のダメージはきわめて大きなものとなる。
 ミニグレネードカートリッジはチョークのない全ての12ゲージショットガンから発射可能だ。チョークのある銃は使えない。弾丸は円筒形であり、銃にダメージを与えず、正常にチョークを通過できないからだ。チョーク通過時に異常な減速が起こり、銃身内部、またはマズルを出た直後に発火が起きる可能性がある。このような近距離での炸裂は射手にとって致命的な結果となり得る。



ミニグレネード内部 

 これが「ミニグレネード」の構造図です。青い部分がアルミ製の弾丸本体で、着弾すると破片になって飛び散ります。途中がくびれているのは破片になりやすいようにでしょうか。
 緑色の部分は、上がバレル内部を保護するプラスチックのリング、下は飛行中安定させるためのクッション状の素材です。ただ、イラストでは3つに区切られているうちの真ん中だけがフェルトのような素材に見え、上と下はたぶん上のリングと同じプラスチックではないかと思います。薬莢内部の大部分を弾丸が占め、発射薬のスペースが非常に小さいのが分かります。

   弾頭の断面図

 弾丸のみの断面図です。上のプラスチックリングは肉が薄く、下のクッションは肉が厚くてアルミ製の本体にワッシャーをかませてネジ止めしてあります。黄色い部分はファイアリングピンで、後方に押すスプリングが付属し、さらに赤い「過早発火防止セーフティピン」が通って固定されています。上のイラストのようにピンの頭は薬莢に押さえられています。薬莢を出ると今度はバレル内部に押さえられ、マズルを出るとスプリングの力ではじき出されます。飛行中はスプリングがファイアリングピンを後ろに押していますが、命中するとファイアリングピンは慣性で強く前進し、スプリングを圧縮して点火薬を突いて発火させ、爆薬に点火するわけです。「こんなんでいいの?」と言いたくなるほど単純な構造ですね。浅い角度で着弾した場合炸裂しない可能性が高くなる気もしますが、この点には言及がありません。

 本体はアルミ製で、大きさの割に重量は軽くなっています。これはなるべく炸裂による威力が大きくなるように前後に長い弾頭にしなくてはならず、これに圧縮されて少量とならざるを得ない発射薬で充分な初速を得るためだと思います。口径が大きく比重が軽いので空気抵抗によって減速しやすく、射程は短くなりますが、80mなら一応の実用性はあると思われます。80mを超えると命中が期待できないということなのか、弾道が湾曲しすぎて事実上狙えないということなのか、速度が低下しすぎて慣性式のファイアリングピンが確実に作動しなくなるということなのかは分かりません。比重が軽いアルミは破片になった場合も有効距離が短くなってしまいますが、アルミによる傷は感染等を起こしやすく、治りにくいとする資料もあります。各国に性能の異なる類似弾薬がいくつかあるでしょうが、12ゲージという大きさ上の制約から、極端な性能差はないと思われます。
 ここでは大きな威力があるように書かれていますが、本当にそうでしょうか。1発の威力不足が連発によって補い得る程度のものであるなら、連発ショットガンと組み合わせて軍用として多用されていていいはずです。失礼ながらアルゼンチンなどという軍事技術面では先進国と言えない国のものが代表機種にならず、アメリカや旧ソ連製のものがもっと有名になっているでしょう。これがあまり知られていない存在であるということは、やはり軍用としては威力不足ということだと思います。12ゲージの弾丸は径が約18mmです。一方OICWのグレネードとして考えられていた弾丸は20mmです。火器の口径で一割の差というのは意外に大きく、形状が相似と仮定した単純計算でも約1.37倍の体積差になるわけですが、それでも12ゲージの榴弾が威力不足で軍用としての用途がごく限られるならば、それが20mmとなって仮に1.5倍程度まで威力が強化されても極端な差はないのではあるまいかなあと思うんですが。









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