ワルサーモデル3


モデル3

 そうこうするうちにより強力な7.65mmブローニング弾薬(ジョン M.ブローニングによって1897年に設計され、ベルギーの会社「Fabrique Nationale d'Armes der Guerre, Herstal」(FN)によってブローニングセルフローディングピストルM1900用に導入された)がますます警察や軍に採用されるべきピストル用として使われるようになった。だがそれだけでなく効果の高いピストルを自衛用に持ちたいと考える民間人もこの弾薬に興味を抱いた。そしてこのためワルサーもこの弾薬用のピストルを作らないわけにはいかず、これはモデル3として1910年にマーケットにもたらされた。

 結局のところこの銃はいくつかの変更があったにせよモデル2とほぼ等しい構造だった。

 当然発火機構部品は、いくらか大きくしかもより強力なこの弾薬用に変更され、残りの部品もより頑丈に造形されていた。しかしワルサーが何故薬莢投げ出しのための開口をスライドの左サイドに設けた(これは射手の妨げになるだけである)のかは全くの謎のままである。

 彼はトリガーバーをモデル1の場合のように再び左サイドに移した。一方発火機構は内蔵ハンマーのままだった。

 バレルはまたしてもフレームに固定されている。復帰スプリングはやはりバレルに巻かれ、後部で短い筒と結合され、前部はやはり短いバレル筒(閉鎖機構筒)にあてがわれている。ただしこのバレル筒は変更されている。つまりバレル筒には前方に向け強いテーパーがかかっているが、もはや滑り止めの削り加工は備えていない。もはやねじって外されることはないからである。その代わりバレル筒は刻み部を備えている。この中にロック金具がかみ合う。ロック金具は滑り止めのギザギザをつけられたスライダーであり、スライド右サイド先端近くに配置されている。

 スライド(閉鎖機構部品)後部の滑り止めミゾも変更され、回転レバーセーフティもいくらか変更された。

 閉鎖機構部品の誘導方法も新しい。このために2つの突起がグリップフレームの後部に取り付けられた。ワルサーはこの設備も重要と見たので、彼はこれを1911年10月22日にパテント申請した。これに関して彼に

パテント書類 ナンバー256,606

が1913年2月17日に与えられた。この「固定バレルおよびグリップフレーム上で誘導される、その前部が筒状に形成された閉鎖機構部品を持つリコイルローダー」のパテント申請の際には同時にモデル2の場合に使われたものと似た短いバレル筒も考慮に入れられていた。

このパテント書類は次のような文面だった。

この発明は固定バレルおよびグリップフレーム上で誘導される閉鎖機構部品を持つリコイルローダーに関係するものであり、特にハンマートリガー機構を持つピストル用と規定される。

 この発明は、閉鎖機構部品のストロークを制限するグリップフレームの突起が、「普通の方法でノッチと突起によって誘導される閉鎖機構部品がバレルジャケットまたは前部のスプリング受けを形成する筒の取り去り後に持ち上げて、そしてその後いっぱいに引くことができる」ことによって当らなくなり、この結果誘導突起と横ノッチが向かい合って位置し、フレームからの閉鎖機構部品の取り去りを許す、というものからなっている。

 図ではこの新しいピストルの1つの型が図解されている。図1はハンマートリガーを持つリコイルローダーを側面から見た縦断面で示している。図2は後部から見た図、図3は閉鎖機構部品が持ち上げられた側面図を示している。

 閉鎖機構部品を定位置に保持するバレルジャケットはスプリングカプセルaとして形作られ、これとグリップフレームの間で誘導される閉鎖機構部品cを誘導するのに役立つだけでなく、同時にバレルbを取り囲む閉鎖スプリングfの受けとしても役立つ。閉鎖スプリングの他の端はバレルと同軸の筒h内に入れられている。この閉鎖スプリングカプセルaは描かれた型の場合ねじって外すのではなく、バヨネット結合方式で固着されている。これは部品aに備えられたノーズa1と閉鎖機構部品内に備えられた切り欠きa2からなる。さらに閉鎖機構部品内にはノーズa1が突き抜けて出られるためのノッチa3が備えられている。

 閉鎖機構部品cの誘導と阻止のため、その後端で突起kが役立つ。この突起はグリップフレームgに備えられ、閉鎖機構部品の縦方向のノッチk1内にかみ合っている。ノッチk1は前端がそれぞれ横ノッチk2で終わっている。これは突起kの通り抜けを可能にする。ただし閉鎖機構部品は銃の実用の間のスライド運動を行っている限り自然に外れる可能性はない。

 つまり銃が実用可能状態にあると、筒aは閉鎖機構部品と固く結合され、閉鎖機構部品をバレル上で誘導し、閉鎖機構部品はグリップフレームgの前端にある受けとして役立つ滑り面から持ち上がることはできない。閉鎖機構部品はその最後部位置においてグリップフレームの張り出しg1(バレル基部下にあり充分に長い)に当たる。これは突起kが横ノッチk2に達することを防ぎ、縦方向のノッチk1内に留めるためである。

 使用者が銃を分解したいときは閉鎖機構部品cの前端にロックされている部品aを、その突起a1がノッチa3の前に達するまで横に回さねばならない。するとこの部品は閉鎖スプリングfの力で飛び出し、筒hが付属したこのスプリングを取り去ることができる。その後閉鎖機構部品を引く。閉鎖機構部品をグリップフレームの張り出しg1を越えて持ち上げることによっていっぱいに後退させ、この結果突起kは横ノッチk2の前に来る。すると閉鎖機構部品をその最後部位置において持ち上げ、バレルから前方に抜くことができる(図3)。銃の組み立て時は逆の順序で行う。

パテント請求

 固定バレルおよびグリップフレーム上で誘導される、その前部が筒型に造形された閉鎖機構部品を持つリコイルローダーであり、普通の方法でノッチと突起(k、k1)によって誘導される閉鎖機構部品(c)がバレルジャケットまたは前部の受けを形作る筒(a)の取り去り後に持ち上げられ、後方に引くことができることによって閉鎖機構部品のストロークを制限するグリップフレームの突起(g1)とぶつからなくなり、この結果誘導突起(k)と横ノッチ(k2)が向かい合って位置し、閉鎖機構部品の持ちあげを許す、ことによって特徴付けられる。




 モデル3の全ての部品が非常に頑丈に加工されていたにもかかわらず、特別に成功した様子はない。少なくとも3つの小さなナンバーブロックが知られているだけである。

分解

1)マガジンを取り去り、バレル内に弾薬がないことを確認した後、スライド右側面先端近くの遮断スライダーを下に押し動かし、その後短いバレル筒を、そしてその後自分の筒が付属した復帰スプリングを取り除くことができる。

2)次にスライドをできる限り後方に引き、そして持ち上げ、その後スライドを慣れた方法で前方に引き抜くことができる。

 組み立てはちょうど逆の順序でなされる。





テクニカルデータ

名称:セルフローディングピストル ワルサーモデル3
設計者:Zella St. Blasiiのカール ワルサー
製作年:1910年より販売
口径:7.65mmブローニング
空虚重量:472g
全長:128mm
全高:90mm
全幅:27mm
銃身長:66mm
ライフリングの数:aは6本、bは4本
ライフリングのピッチ:bは300mmで一回転
ライフリングの角度:aは4.61度、bは5.18度
ライフリングの方向:右
ライフリング山部幅:aは0.84〜0.90mm、bは1.42〜1.55mm
サイト:サイトミゾ
セーフティ:回転レバー
マガジン:通常6発用
ロック機構:なし
閉鎖機構:スプリング・重量閉鎖機構、ファイアリングピン発火機構を伴うインナーハンマー
刻印:写真を見よ


 どうもよく分からない点があります。この銃の発売は1910年とされていますが、その翌年のしかも10月22日になってこの銃に関連するパテントを申請するというのは変ではないでしょうか。

http://www.whog.org/originals/Model_3.htm

 このページでは生産時期が「1913?〜1914?」となっており、その方が自然な気がします。ただこのページの筆者はモデル2とモデル3がほぼ同時に発売されたと推測しているようですが、それだとモデル2でバヨネット結合方式だったスライド前部のパイプ状部品(以下スライドエクステンション)がモデル3で独立したロックの付属したものに改良(?)されていることの説明がつかない気もします。

 図では分かりにくいので補足しますが、このパテントではスライドエクステンションの下部に突起a1があり、これがスライドからの脱落を防いでいますが、スライドエクステンションをひねると一点において突起とミゾが一致して前方に抜けるようになっています。



 要するにこういうことです。ただしこれはモデル2の方式に近いものであって、実際のモデル3では上の写真のように独立したロック金具が付属し、これを押し下げることでスライドエクステンションが前方に抜けるようになっています。ただ、スライドエクステンションには強力なリコイルスプリングのテンションがかかっていているわけですから例えばポケットから引き抜く時に糸か何かがロック金具にひっかかって動き、スライドエクステンションが勢い良く飛び出してしまう、といったことがないのかちょっと疑問に思います。実際以後のモデルではバヨネット結合方式に戻っています。

 この銃にはもう1つ地味ながら変わった点があります。



 通常スライドとかみ合うフレームのレールは左のような形状になっています。これなら凹部を機械加工で削って簡単に作れます。ところがモデル3のレールは右のような、厚みのある素材からそこを残して全体を削って薄くしないと作れない形になっています。あるいは凸部を何らかの方法で後付けしているんでしょうか。

 特に当時において、この銃は.32ACPを使用する銃としてはきわめてコンパクトな部類に入るピストルでした。「シュワルツローゼピストル」の項目で、この銃の取扱説明書に「ブローニングと同じ銃身長において短く、丸みを帯びた形状。そういうわけでより小さい重量」というメリットが強調されていた点に触れ、実際に両者のデータを比較してみました。この表にほぼ同時期の銃であるワルサーモデル3を加えてみます。

ブローニングM1910(7.65mmタイプ) シュワルツローゼM1909 ワルサーモデル3
全長 153mm 140mm 128mm
銃身長 88mm 105mm 66mm
重量 590g 530g 472g
マガジン装弾数 7発 7発 6発

 メリットが強調されていたシュワルツローゼピストルよりずっと小型軽量であるのが分かります。銃身長はシュワルツローゼの方がずっと長いですが、用途からして実用上さほどの差にはならないと思われます。現在アメリカでは.32ACPを使用する、ベストポケットよりやや大きいサイズの銃(上のサイトで挙げられているシーキャンプなど)が人気のようですが、何故この銃が当時比較的少数の生産で終わったのか、ちょっと不思議な気もします。なお、ケルテックのP32ピストルは公式ページによると全長129mm、銃身長68mm、重量186g、マガジン装弾数7発とされています。サイズはほとんど同じながら重量が約1/2.5と決定的に軽くなっており、さすがに技術の進歩を感じます。



戻るボタン