ワルサーモデル5


モデル5

 1913年に再び6.35mmブローニング弾薬仕様でマーケットに登場したモデル5に関しては、参考文献の中でも、そしてUlm所在のワルサー社の戦後におけるパンフレットの中でさえ、この銃はモデル2とほとんど等しい構造で、純視覚的にここに見られるスライドの細かい滑り止めミゾによってモデル2と区別できるとされている。ワルサー社スタッフは、「初期のモデル5はスライド上にサイトミゾを持っていたが、これは後にquillochierter(頑住吉注:辞書に載っていません。語の成り立ちからすると「quil穴の開けられた」といった意味のようです)レール内の固定サイトに交換された」と記述している。だがこれは一部しか正しくない。

 モデル5の場合、例えば

1.オートマチックサイトがなく、そしてこれにより装填指示器がない

2.マガジンセーフティがない

 そしてこれにより本質的な部品が廃止されている(そう、これは機能にも影響する)ことを考えれば、「ほとんど等しい構造」と呼ぶことはできない。何故この銃の場合オートマチックサイトが放棄されたのか(これはモデル2の場合この銃の特別なメリットと強調されていた)、そして何故このときマガジンセーフティも放棄されたのか、人はただ推察できるのみである。

 2つの異なるグリップフレームが使われている(これはマガジン挿入穴内のフライス加工で分かる)、そして2つの異なるバレル筒(閉鎖機構筒)が見つかるという事実には言及する価値があるが、銃の機能には影響しない。

 これとは違い、このモデル5が4本のライフリング付きでも6本のライフリング付きでも見つかることは確認しておく必要がある。

 残りのパーツはモデル2と同一である。同様に分解も等しい方法で行われる。

テクニカルデータ

名称:セルフローディングピストル ワルサーモデル5
メーカー:Zella St. Blasii(後のZella-Mehlis)のカール ワルサー
製造年:1913年から販売
口径:6.35mmブローニング
空虚重量:273g
全長:約107mm
全高:79mm
全幅:22.5mm
銃身長:約54mm
ライフリングの数:4および6
ライフリングのピッチ:注釈を見よ
ライフリングの角度:注釈を見よ
ライフリングの方向:右回り
ライフリング山部幅:注釈を見よ
サイト:サイトミゾのみ、または固定フロントおよびリアサイト
セイフティ:回転レバー
マガジン:通常6発用
ロック機構:なし
閉鎖機構:スプリング・重量閉鎖機構。ファイアリングピン点火機構を持つインナーハンマー
刻印:写真を見よ

注釈

 以下にバレル内部の作りを挙げる。

工場ナンバー ライフリングの数 ライフリングの角度 ライフリング山部幅
36159 4 4.62度 1.66〜1.71mm
42702 6 4.32度 0.71〜0.79mm
59414 4 4.81度 1.54〜1.59mm
91189 4 1.65mm
94908 4 1.75mm
92141 6 0.71mm
100009 6 4.81度 0.53〜0.62mm

 上のデータに応じてライフリングのピッチもいろいろであるが、工場ナンバー59414の場合240mmで一回転である。



1.バレルの付属したフレーム、2.閉鎖機構部品、3.筒の付属した閉鎖スプリング、4.閉鎖機構筒、5.トリガー、6.誘導ボルトの付属したトリガースプリング、7.トリガーピン、8.ハンマー、9.ハンマーピン、10.トリガーバー、11.トリガースパイク、12.トリガースパイクスプリング、13.トリガースパイクネジ、14.スプリングの付属したファイアリングピン、15.ファイアリングピン保持ピン、16.エキストラクター、17.エキストラクタースプリング、18.エキストラクターピン、19.回転セーフティ、20.誘導ピンの付属した打撃スプリング、21.マガジンキャッチ、22.マガジンキャッチピン、23.右のグリップパネル、24.グリップパネルネジ、25.左のグリップパネル、26.マガジン、27.フォーロワ、28.マガジンスプリング(頑住吉注:汚い画像ですが、当時の取扱説明書から取ったもののようです)



(頑住吉注:バリエーションについての写真群は省略しますが、上の写真のようなスライドエクステンションの露出部分全面に滑り止めのチェッカリングがあるもの、前半だけのもの、ないもの(ただしこの銃には刻印もなく、何らかの事情で生じた未完成品くさいです)、サイトミゾだけのものとフロント・リアサイトを持つものなどがあります。「マガジン挿入穴内のフライス加工」が異なるというのは上の写真で雪だるまみたいな形をしている、グリップパネル裏の突起とかみ合ってずれを防ぐ穴が異なる形の3つの穴になっているものもある、というほとんど重要性のない差異です)


 この銃はモデル2の簡略化バージョンと言えるでしょう。モデル2の発売はここで論じられている1909年ではなく1913〜1914年頃ではないかとするサイトを紹介し、私は状況からしてそれにも説得力がある、ドイツ人のプライドからブローニングの後追いではないと強調したいあまり発売時期を早く見積もりすぎているのではとも思いましたが、考えてみるとモデル2の経験を踏まえて簡略化したモデル5はそれより一定期間後の登場でなければつじつまが合いません。やはりモデル2の登場は1909年、モデル5の登場は1913年で間違いないんでしょうか。こんな基本的なことが不明確というのは変ですが、これにはたぶん戦時中の混乱、被災や戦後ワルサー社がソ連占領地域から西ドイツ内に移転(逃亡?)した際に資料が失われたせいではないかと思います。ただそれでも当時の雑誌などの広告や販売店のカタログ等を調べれば分かるはずだと思うんですが。

 この銃に関してはこんなページがあります。

http://www.littlegun.be/arme%20allemande/walther/a%20walther%20mod%205%20gb.htm

 下の大きな画像の銃にはリコイルスプリング後部を受けるパイプ状部品が欠けています。エジェクションポートからリコイルスプリングが露出しているのはやはり変で、所有者が紛失しただけのような気がします。








戻るボタン