MP-446バイキング

VISIER「Visier」2003年2月号

 ドイツの銃器雑誌「Visier」2003年2月号に、国内ではまだレポートされていないロシア製最新鋭オートピストル、MP446バイキングのレポートがあったので内容を簡単にお伝えします。
 MP446バイキングはバイカル製で、次期ロシア軍制式拳銃MP443グラッチの姉妹モデルのようです。メカニズムも大筋同じらしいので、まだ情報が少ないグラッチの詳細を推測する手がかりにもなるはずです。ちなみにMP446の左右側面写真は床井雅美氏の「現代軍用ピストル図鑑」P138に掲載されているので参照してください。なお、「Visier」と「現代軍用ピストル図鑑」に載っている銃の外観はリアサイト(前者は固定、後者はアジャスタブル)、アンダーマウントレール(前者は凹み、後者はフレーム前方まで抜けている)など細部が異なっています。「Visier」の方が情報として新しいので、こちらが量産型ではないかと思います。ちなみにメーカー(バイカル)の公式サイト中のページはここです。
http://www.baikalinc.ru/eng/prod/hguns/mr446/
ここにはたいした情報はないですが、検索するとけっこういろいろの情報が出てきますので、興味のある方は探してみてください。


 小火器に対するプラスチックの使用は今後も進み、鉄やアルミニウムの役割は小さくなっていくだろう。ピストルの分野ではグロックが先駆者となった。最初は「プラスチック製ピストル?」と笑われたり批判されたりもしたが、その後いたるところに亜流製品が出現し、現在ではプラスチックフレームの機種を作っていないピストルメーカーはほとんどなくなった。
 ロシアからもこの流れに属する銃がやってきた。MP446バイキングは安価で信頼できる公用ピストルとして使われることを狙ったものだ。ロシア流のタフネスと、西側流のハイテクの融合を図ったものともいえる。
 我々はこれをスイス経由で入手し、この1挺は自由に使えるが、今後継続して入手できる見通しはない。輸出向けのマニュアルや公式サイトにはスポーツ、トレーニング用のような説明があるが、銃自体は明らかに実用向けだ。
 一見して、MP446はすでに存在する銃のコピーではないことがわかる。ただ、設計はオーソドックスでプルーフされたもので、単にグリップフレームの材質をプラスチックに換えたという感じだ。現在実用銃には17発くらい入るダブルカアラムマガジンが求められている。MP446のマガジンもダブルカアラムだが、ユニークなことに上まで2列のダブルフィードになっている。このためフィーディングランプは左右に2本彫ってある。しかし、フィードは確実だ。私の考えでは、この銃はファミリー化されており、シリーズ内にはマシンピストルがあってロングマガジンが選択できるのではないかと思う。
 MP446のサイトは頑丈な固定式で、3ドットタイプだ。リアサイトはアリミゾ結合なので叩いて微調節できる。マニュアルにはフロントサイトも調節可とあるが、実際には鋳造スライドの一部なのでできない。
 バレルの直後にはローディングインジケーター兼用のエキストラクターがある。装填されていると少し突出し、赤い表示が見え、触って確認することも出来る。排莢方向が真上なのはあまりよくない特徴だ。熱い空ケースが目に当たる可能性があり、シューティンググラスかひさしのある帽子が不可欠となる。
 ロッキングはエジェクションポートとチャンバーが直接かみ合う形式で、ロックはタイトな方だ。スライドとフレームのかみ合いもタイトだ。ただ、フレーム側のレールは前と後ろに分かれ、計24mm(前15mm、後ろ9mm)しかなく、途中はかみ合っていない。最近の製品では珍しくない特徴だが。フレームのレールは独立したレールがプラスチックフレームに埋めこんである形式ではなく、トリガーメカの一部になっていて、ピンで結合されている。セーフティはアンビで、コック&ロックができる。マガジンキャッチは左右交換できる。
 マニュアルには25mからの4発のグルーピングは150mmとある。しかし我々のテストでは全ての弾薬で例外なくそれ以下にまとまった。いちばん結果がよかったのはフィオッチで、全てのターゲットが100mm以下にまとまった。信頼性も問題ないようだ。

データ

モデル名:MP-446バイキング
種別:ダブルアクションオートピストル ブローニング式ショートリコイル改良型
メーカー:イジェブスキー・メカニチェスキー・ザボド(このカタカナ表記は床井氏のそれにならった)
口径:9mmルガー
銃身長:112mm
サイト:3ドットタイプ、固定
マガジン装弾数:17
トリガープル:SA 2.2kg  DA 5.7kg
全長:196mm
全高:140mm
全幅:38mm
重量(エンプティ):0.850g
素材:スチール(ブルー仕上げ) グリップフレームはプラスチック製
価格 CHF 850.-


 これは全体の要約です。私のドイツ語力は低いですが、意味が怪しい部分は飛ばしたのでこの範囲には重大な間違いはないと思います
 従来型のDA・SAオートのフレームをプラスチックにしただけのような、比較的オーソドックスなもののようです。フレームのレールは、要するにトリガー、ハンマーまわりを保持する金属シャーシの一部で、それがプラスチックフレームにピンで固定されているということであり、日本のトイガンによくある形に近いものだと思います。ユニークなのはやはりダブルフィード、排莢方向が真上という、現代の西側銃器にはあまり見られない特徴ですね。真上への排莢はスプリングフィールドアーモリーのXDピストルもそうですが、あれは西側で設計されたものではなく元々クロアチアの銃ですから例外でしょう。
 ダブルフィードの純ハンドガン(マシンピストル系とかではなく)は西側には現在ほとんどないはずです。そこでこのレポーターはあえてこうするからには何か理由があるはずだ→マシンピストルとファミリー化されているのでは、という推測をしたわけですが、個人的にはその可能性は低いように思います。ロシアの伝統的ダブルカアラムハンドガンであるスチェッキン(まああれもマシンピストルですけど)の特徴を引き継いだだけではないでしょうか。ところで、ダブルカアラムにおいて、シングルフィードとダブルフィードにはどういう長所、短所があるんでしょうか。
 たいていのハンドガンでシングルフィードになっているのは、マガジンの上を細くし、ここにトリガーバーなど必要なメカを配置することによってグリップフレームが細くできるという理由でしょう。ダブルフィードのマガジンは上まで太いですから、この外側にさらにメカを配置しなくてはならず、どうしても太くなります。スチェッキンはパワーの弱い弾薬を使用し、スチールフレームですからさほど深刻ではありませんが、MP446は強力な9mmパラベラムを使用し、フレームがプラスチックですからより問題は大きくなるはずです。ただ、このレポートにはグリップが太くて握りにくいといった内容はありません(握りやすいという内容もないですが)。
 シングルフィードはロード時、いちばん上のカートを下に押し込みながら新たなカートを前方からすべりこませる必要があります。実銃の
マガジンスプリングは非常に強いので、最後の方はかなりやりにくくなることが多いようです。一方ダブルフィードには、上からパチパチとはめ込むようにして容易にロードできるという長所があります。マガジンの製造もダブルフィードの方が容易なはずです。
 ダブルフィードは2方向からカートがチャンバーに進入するので、送弾不良の確率が高くなりやすいという記述を読んだことがあります。このレポーターも「ダブルフィードだが確実」といった書き方をしているので、たぶんそうなんでしょう。しかしアサルトライフルはほとんどダブルフィードになっていますし、アサルトライフルに求められる信頼性はハンドガン以上でしょうから設計や製造に問題なければ大丈夫なのではないかと思います。
 「マニュアルにはフロントサイトが調節できるとあるのにできない」という記述がありますが、「現代軍用ピストル図鑑」の写真には「Visier」の写真にはないフロントサイト固定ピンらしきものが見えます。初期モデルは調節可だったのが簡略化され、マニュアルの改訂が間に合わなかったのかもしれません。
 25mの公称グルーピングが150mmというのはやや悪いような気もしますが、弾を選んで100mm以内に集まるなら、実用銃としては充分でしょう。ちなみにいちばんよかったフィオッチは弾頭重量123グレイン(7.9g)のフルメタルジャケット、初速342m/s、466ジュールとなっています。
 全体に、従来ソ連、ロシア製品に多かった粗雑な印象が薄れ、かなりハイグレードなハンドガンに仕上がっているようです。西側のトップレベルと互角に近い実力を持ち、大幅に安ければ、今後強力なライバルになってくる可能性が高いでしょう。データの最後にある「CHF」って何だろうと思って調べると、どうやら「スイスフラン」のようです。スイス経由で入手とありますから、これが買った値段なんでしょう。さらに調べると1スイスフランは現在89円くらいのようです。とすると価格は7万6千円くらいになりますね。でもこれではピンと来ません。さらにドルに換算すると630ドルくらいになります。なんだ、あんまり安くないですね。これならスタームルガー製品の方が安いはずです。ただ、これは今後入手の見込みがない珍品ということでの特別価格で、安定して輸入されるようになればずっと安くなるのかもしれません。
 やや気になったのは、なぜロシア軍はこのMP446を採用せず、ごついスチールフレームで非常に重いMP443を採用したのか、という点です。タフネスの点で不安ということだったんでしょうか。案外どこの国でも軍人(特に陸軍)は頭が固いというだけなのかもしれません。

フィールドストリップ状態

 フィールドストリップの写真をトレースしたものです。リコイルスプリングガイドの先端がくびれているのは、分解時前方に引き出しながらスライドストップを抜くため、この作業がやりやすいようにでしょうか。バレルとチャンバーが別体で作られ、ピンで結合されているのも西側ではあまり見ないような気がします。

ハンマーまわり

 ハンマーまわりはこんな感じです。下手なイラストでわかるでしょうか。ハンマーが谷の底にあるといった形状で、抜くときひっかかりにくく、しかも親指でコックはしやすいといった配慮がされています。

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