H&K MP7A1
「DWJ」2004年8月号に、かつてモデルアップしたH&K PDWの進化した形であるMP7A1に関する記事が掲載されていました。
MP7はクラシカルなサブマシンガンとアサルトライフルの間のギャップを埋める
集中した火力
戦争における兵士への要求は変化した。そしてこれによって適したハンディな火器への要求も。口径4.6mmx30仕様のMP7A1はそれに適合したものであり、アサルトライフルと従来型サブマシンガンのギャップを埋める。
イラク。そこでは米軍がほとんど毎日、都市の狭い通りで小火器、そしてRPG−7「対戦車防御兵器」による不意打ちの射撃を受けている。戦闘距離は多くの場合0〜50mの間である。
アメリカ兵はたいていM16のショートバージョンであるM4アサルトライフルと口径9mmx19のベレッタM9で武装している。M4は車両上での使用において、特にドライバーキャビン内での射撃方向変更の際に扱いにくすぎることが証明されている。その上反動のために片手でのコントロールされた射撃は近距離においてさえほとんど不可能である。
部隊がきわめて急速に撤退を余儀なくされることはしばしばあり、この結果ドライバーはその運転中に片手による射撃を強いられる。
M9は兵が片手で射撃できるが、このシステムは傷弾道学的に不充分である(頑住吉注:ドイツでは最近まで9mmパラベラムのフルメタルジャケット弾が警察用に使われていたので、それが不充分な効力しか持たないことをよく知っているわけです)。同時にイラク戦争では少ないマガジンキャパシティとフルオートオプションがないことが不充分であると批判された。高い火力を持つ特殊部隊、指揮部隊、支援兵力用個人防御兵器の緊急な必要性はこれによりまたしても明白となった。
弾薬サイド同様銃サイドの実戦使用要求を満たすため、H&Kは口径4.6mmx30の近距離領域銃器システムMP7A1/UCPを開発した。
出発点
モダンな陸軍では約20%の兵士だけが直接実戦用と想定され、一方部隊の残る80%は指揮、支援のための人材である。こうした支援部隊では自衛のためにほとんどハンディな火器のみが用いられ、たいてい不意に出現する敵と近距離で戦わねばならない。特殊部隊の多様な攻撃的使用パターンや「重い銃」を操作する歩兵、建築物内部での戦闘、偵察活動においても同じことがあてはまる。そのようなシチュエーションでは戦闘距離は経験上0〜100mの間である。したがってこうした兵は銃身長と弾薬がこれよりずっと長い射撃距離を想定している従来型アサルトライフルを持つことがやむを得ないとは言えない。
むしろこうした約100mまでの近距離領域はサブマシンガンの古典的使用フィールドである。これらはより小さな銃器重量とよりコンパクトな寸法という長所を提供する。だが、アサルトライフル弾薬と比べ、9mmパラベラムのようなコンベンショナルな(マシン)ピストル弾薬(頑住吉注:他の箇所ではサブマシンガンと訳していますが、ドイツ語ではマシーネンピストーレです。マシンピストルと訳さないのはこの語にはピストル強化型のフルオート銃を指すようなイメージがあるからです)は50m以上の戦闘距離において命中精度が明らかに劣るという欠点を示す。
その上コンベンショナルな(マシン)ピストル弾薬の防御されたターゲットに対する傷弾道学的効果は、5.56mmx45(.223レミントン)のターゲット内弾道学的性質と比較して制約されているという難点がある。(頑住吉注:軍用に使用されるフルメタルジャケットラウンドノーズの)9mmパラベラムは人体というソフトターゲットに侵入した際に(骨にあたらない場合)、約30パーセントのエネルギーしか伝達せず、そのためマンストップ効果もそれに見合った不満足なものとなる。
5.56mmx45と9mmパラベラムの弾薬重量はほとんど同じである。別の言い方をすれば、9mmパラベラム弾薬は同じ重量でかなり少ない成績を提供するということだ。
銃側では、セミオートであろうがフルオートであろうが、片手でコントロールされた、そして狙った射撃ができる従来型サブマシンガンはほとんど1つも存在しないという問題がある。この理由はコンパクトさに欠ける構造方式、相当に大きな銃器重量、そしてピストルグリップが銃器の重心の外側に取り付けられていることが従来型のサブマシンガン弾薬の比較的大きな反動と組み合わさっていることである。
だが、銃を近距離から(フルオートですら)発射することがどうしても必要になる多くの実戦使用シチュエーションが存在する。
●負傷によって片手が全く使えないとき。
●片手が、「対戦車防御兵器」、スナイパーライフルのような主要な兵器、または機材の運搬によってふさがれているとき。
●負傷した戦友を救助しているとき。
●建物やヘリコプターからラペリング(頑住吉注:ドイツ語では「Abseilen」、つまり「ザイルを使って降りること」)で降下しているとき。
●ヘリコプター、車両、船舶内部で操縦桿または機器類を操作中であるとき。例えば歩兵を降ろしたり収容したり、ダイナミックな攻撃、乗物内からの展開を行っているとき。
開発着手
近距離領域兵器の起源は1980年代の遅い時期までさかのぼる。当時H&Kは略称「NBW」(Nahbereichswaffe=近距離領域兵器)の下にそれに適した器具(頑住吉注:このゲラートという言葉は例えばフリーゲルファウストBのような兵器や距離測定器具など広い範囲のものを指します)の開発を開始していた。当時開発の最終段階にあった4.73mmx33ケースレス弾薬仕様G11アサルトライフルを考慮に入れ、「NBW」のコンセプトも4.73mmx25ケースレス弾薬仕様として設計された。
1990年代の早い時期におけるG11プロジェクト終了と、その間に制式採用されたG11が今度はそれにもかかわらず調達されないという突然の決定とともに、ケースレスコンセプトによる「NBW」プロジェクトも中止された。
だが、近距離領域兵器のアイデアは残った。すなわちNATOのエキスパートが1990年代の初め以後、上に解説した実戦使用必要条件に由来する、いわゆる「PDW」(Personal Defence Weapon、個人防御兵器)に向けた要求プロフィールを作成したのである。
その結果、こうした大枠の基準を背景に、H&Kは「NBW」の開発を「PDW」の名の下に続行した。だが、今回この銃はコンベンショナルな弾薬用に設計された。
弾薬開発の領域のため、H&KはイギリスのRoyal Ordnance/Radway Green社と協力関係を結んだ。
開発に際しては、以下のいろいろな重点項目が設定された。
銃
●セミオート、フルオート設備
●ピストルとしてセミオート、フルオート時、コントロールされた射撃が片手、両手射撃姿勢で可能であること。同様にコンベンショナルなサブマシンガンとしての射撃姿勢でも。
●できるだけ小さな全体寸法。
●できるだけ小さな全体重量。
●コンベンショナルなサブマシンガンより高められたマガジンキャパシティ。
●完全にアンビの操作性。
弾薬
●コンベンショナルなピストル弾薬に比べ相当程度高められた貫通成績。
●コンベンショナルなピストル弾薬に比べ相当程度高められた傷効果。特に防御されたターゲットに対して。
●コンベンショナルなピストル弾薬に比べ高められた命中精度および射程。近距離領域では5.56mmx45に匹敵する命中精度。
●コンベンショナルなピストル弾薬に比べ低下させた反動。
●コンベンショナルなピストル弾薬に比べ明らかに減少させた弾薬重量。
調整されたシステム
銃と弾薬は、ユーザーにリアルなトレーニングを可能にし、しかも考え得る全ての実戦使用要求の充足を可能にするシステムとして構想された。
これらは「複線の」銃器システムによって保証された。すなわち一方は同じ弾薬を使用し、大きな付属品の選択幅があるサブマシンガンとオートピストルであり、他方は弾薬タイプの大規模な多様性である。
これら調整されたシステムの開発にあたっては特に次の主要ユーザーグループの需要が考慮された。
●軍人(指揮、支援要員、歩兵、車両、航空機等クルー)
●警察官
●軍、および警察の特殊部隊
●軍、および警察の個人護衛者
●ヘリおよびジェットパイロット
●航空機護衛官
作動と閉鎖機構
H&K MP7A1はG36アサルトライフルファミリー同様閉鎖用突起つきの回転ヘッドが付属した閉鎖機構のあるガス圧ローダーであり、これはアメリカのM16、イギリスのSA80で知られているものである。
ボルトヘッドは構造上G36と同じである。ボルトヘッドには6つの閉鎖用突起が使われている。「Ausstosser」(「突くもの」)はボルトヘッドに組み込まれ、強度の高いスプリングによって機能を満たす(頑住吉注:ボルトヘッドに組み込まれているものと言ったらエキストラクター、ファイアリングピン、プランジャー式エジェクターくらいしか思いつきません。「突くもの」という名称にふさわしいのは後2者です。しかしいずれも後で別の名称で登場します。別名ということも考えられ、エジェクターの可能性が最も高いと思いますが確信はありません)。エキストラクタースプリングの中心には、ボルト後退運動の最初と途中におけるアンコントロールなエキストラクターの振動を妨げ、そしてこれによって信頼性の高いファンクションを保障するゴムの棒がある(頑住吉注:エキストラクターを動かすスプリングの中に、スプリングガイドのような形でゴムの棒が入っていて、発射時の激しい振動によるエキストラクターの動揺を抑えて信頼性を高める、ということのようです)。スプリングで支えられたファイアリングピンは、向きを変えられる「Hebel」によって銃を落とした際の意図しない発火からの安全が確保される(頑住吉注:「Hebel」は「テコ」「レバー」などの意味があり、セレクター兼用セーフティレバーのことかとも思えますが、構造上これが直接ファイアリングピンに作用するとは考えにくく、内蔵された「テコ」状のパーツがオートマチックファイアリングピンのような機能を果たすということではないかと思います)。
ボルトの構造はG36と本質的に同一である。だが両銃器タイプの部品は交換できない。
MP7A1のボルトは工具なしで、より正確に言えば弾薬を使って分解できる。ボルトヘッドの間違った組み込みは不可能である(頑住吉注:方向を間違えて組み、発射してジャムするまで気付かない、というようなことがありえないように作ってある、ということで、これは重要なことです)。
リコイルスプリングはベースプレートから分離するフィールドストリップが可能で、組み立て時には前後の区別がない。
スペース上の理由から、メーカーはガスピストンと駆動棒がある2パーツのシステムであるG36の作動方式とは異なって、ピストンと衝撃伝達パーツが一体である、いわゆるショートストロークピストンシステムを採用した。
弾丸のバレル走り抜けの際、発射ガスの一部がマズル直後にあるガス穴から取り出され、駆動システム内に導かれる。そこでガスはショートストロークピストンを急激に後方に動かす。そのインパルスはさらにボルトキャリア前面に伝達され、これを同様に後方に動かす。ボルトキャリアの後退運動によって今、「あやつるボルト」がボルトキャリア内部に削り加工された「あやつるカーブ」内部で後方に走る。そして「あやつるボルト」とボルトヘッドの差しこみ結合に基いてボルトヘッドは自分の軸に沿って特定の角度に回転させられる。そしてこの結果ボルトのロックは解除される。今、ボルトキャリアとボルトヘッドは一緒に後方に動き、その際ボルトヘッドに取り付けられたエキストラクターがチャンバーから薬莢を後方に除去する。、ボルトヘッドがエジェクションポートを通過した直後、ボルトヘッド前面に取り付けられたエジェクターが薬莢を右方向へあやつる。そしてこれをエジェクションポートから投げ出す。ボルトはさらに後ろの位置へ走り、バッファーに激突して前進運動へと方向転換させられる。同時に、これまでボルトキャリアによって下に押し下げられていたマガジン最上部にある弾薬が解放されてマガジンスプリングとフォーロワによって上に押される。その前進運動の間にボルトヘッド前面はマガジン最上部の弾薬を持ち出し、チャンバー内に持ち込む。その際弾薬のリムはエキストラクターにかまれる。ボルトキャリアは今、再び「あやつるカーブ」によって「あやつるボルト」を動かし、これによってボルトヘッドは回転閉鎖してこの結果ロックされる。今銃は再び発射準備が整っている。
レシーバー
MP7A1のレシーバーはG36のそれと同じ高い硬度を持つグラスファイバーで強化されたポリアミドで作られている。閉鎖の役目と、同時にバレル受け入れの役目も持つ金属パーツとならんで、さらに3つの金属パーツがレシーバー内部に鋳込まれて安定性向上に役立っている。
レシーバーの射出成型過程はたった数秒である。その後レシーバーはすぐ組み立てられる。
バレル
コールドハンマー製法のバレルは高い命数を示す。その理由はハンマーによる打撃のくり返しによって高度に圧縮されたクオリティスチールとバレル内表面のハードクロームメッキである。メーカーによる15000発の連続試射後でさえ、命中精度の損失もマテリアルの損傷も記録されなかった。その上バレルは高い命中成績を示す。100mの距離まで頭部命中弾が可能である(頑住吉注:これならMP5でも可能なはずで、特別にいいわけでもないような気もしますが、まあ銃身長やサイズを考えれば確かにいいと言えるんでしょう)。
バレルの前部には、スリット入りの独立したフラッシュハイダーがねじ込まれ、基部には平らにした部分があり、流通品のスパナで着脱できる。その上サイレンサーのマウントのために放射状の「Einstich」がある(頑住吉注:フラッシュハイダーのスリットの直後部分にくびれた部分があることを指しているようです)。
マガジン
G36のマガジンと違い、設計者はボリュームが小さくなるため、コンベンショナルなダブルカアラムのスチール薄板製マガジンを採用した。マガジンとしては20発および、40発キャパシティが使用可能である。40連マガジンには40、30発のロード状態インジケーターがある(頑住吉注:残弾確認窓ですが、写真で見る限り開口はしておらず、透明なな樹脂でふさがれているようです。たぶん異物の侵入を防ぐためでしょう)。
マガジンの分解は、(G3のそれのように)弾薬によってレストプレートを押し、同時に底板を横方向に除去することで行われる(頑住吉注:忠実に訳そうとすると分かりにくいですが、要するにマガジン底板にポッチがあって、それを弾丸の先で押してロックを解除しながら底板を横というより前に抜くというごく一般的な方法です)。
サイト
レシーバー上にはピカティニーレール(NATOスタンダード)があり、最も多様な昼間用オプティカルサイト、ナイトサイトの受け入れを可能にしている。特に有利なのは従来型スコープの代わりとしてナイトサイトを取りつける可能性だけではなく、そのような通常型スコープに暗視アタッチメントを組み合わせて使えることだ。これは例えばスナイパーライフルG22で知られている。この選択肢はコンパクトサブマシンガンではその限られた寸法から決して当たり前のものではない。比較可能な銃であるベルギーのFN/Herstal製モデル「P90」では、スタンダードバージョンの場合ナイトサイトのマウントは不可能である。P90の特殊部隊バージョンでは単に代替物としてのナイトサイトのマウントが可能なだけである。つまり射手はナイトサイト用マウントのための出費と、ナイトサイトの改めての試射をなしで済ませたければ、P90の場合暗視ゴーグルを使用することになる。これに対しMP7A1では選択が自由なのである(頑住吉注:これだけではよく分からないと思うので補足します。MP7A1の上面には長いレールがあります。この中間あたりに普通にスコープを取りつけて使うこともできますし、その後方に暗視アタッチメントを取りつけて暗視スコープとすることもできます。写真キャプションでは3倍のスコープとNSV80というアタッチメントを併用した状態であると説明されています。スコープとアタッチメントは長いレール上で前後にそれぞれピカティニーレールによって銃に固定されており、スコープにアタッチメントが固定されているわけではないのがポイントです。アタッチメントは単にスコープに暗視能力を持たせるためのアクセサリーですから着弾点は変化せず、あらためて試射する必要はありません。P90には東京マルイがモデルアップしたような2バージョンがあります。専用オプティカルサイトつきのスタンダードバージョンにはナイトサイトは搭載できません。ピカティニーレール装備の特別バージョンにはスコープもナイトサイトも装備できますが、レールが短いのでMP7A1のように前にスコープ、後ろにアタッチメントという形で搭載することは不可能だというわけです。「このオプションはコンパクトサブマシンガンではその限られた寸法から決して当たり前のものではない」というのはそういうことを言っているわけです)。
それに加え、2つの機械的サイトが使用可能である。すなわち、左右調節が可能なリアサイト(IDZ 頑住吉注:「未来の歩兵」プログラム)と距離調節サイト(KSK 頑住吉注:後の部分で説明があります)、および高さ調節可能なフロントサイトが存在する。
いわゆるKSKサイトは折りたたみ可能である。垂直状態ではEotechおよびAimpointのレッドドットサイトに干渉しない。水平位置ではフロント、リアの緊急サイトはHensoldt社製のRSA(Reflex−Sight for Small Arms)に干渉しない。
KSKバリエーションには、起こした際の明確に高いサイトラインのため防護メガネ、ヘルメットのバイザー、ガスマスク使用時にも問題なく使えるという長所がある。KSKはMP7A1をこの形で暗視ゴーグルと組み合わせても使用している。
いわゆるIDSサイトは折りたたみできないが、同様にHensoldt社製のRSAに干渉しない(頑住吉注:背が低いためドットには干渉しないものの、写真を見ると下部分の視野をやや妨げているようです)。
付属品
(頑住吉注:レシーバー上部のサイト用レールに加え)MP7A1のレシーバー左右にもさらなるピカティニーレールの取りつけが可能である。これらはランプ、レーザーサイトおよびその他の照準補助器具の受け入れを可能にする。
サイレンサー
サイレンサーは工具なしで、ダイレクトにフラッシュハイダーにかぶせ、ワンタッチで固定される。音響学的抑制とならんで、さらにマズルフラッシュを隠すことに役立つ機能も残る。
こうした機能上の特徴は、特にMP7A1を隠密な作戦の枠内で使用する場合を考慮したものである。敵中に孤立したパイロットにとってもサイレンサーは特に重要な意味を持つ(頑住吉注:ソ連領空内で撃墜されたU2スパイ機のパイロットがサイレンサーつきのハイスタンダード.22オートを所持していたのは有名な話ですね)。
現在、パイロットはたいていまだ9mmパラベラムか.45ACPのピストルで武装している。こうしたコンベンショナルな弾薬の4.6mmx45と比べての弾道学的欠点とならんで、ピストルの極端に制約された射程は最大の問題である。よく訓練された射手ですら、ハンドガンではマンターゲットと確実性をもって戦えるのは最大50mである。別の言い方をすれば、射手は純ディフェンシブな活動に制限されるということである。敵がロシア式の防護ベストを着用していたら、効果的戦闘距離は20m以内にさえ大きく短縮される。ドイツスタンダードによる防護クラスTに匹敵するベストを着用していた場合は、重大な傷が生じることはほとんどない!
これとは異なり、射手はサイレンサーを結合したMP7A1を使って200mの距離で信頼性を持ってマンターゲットと戦える。サイレンサーにより、100m以上の距離では音響的にも、視覚的にも射手の位置測定はほとんど不可能である。夜でさえ。ピストルを使用する場合と違いMP7A1とサイレンサーの組み合わせは、孤立したパイロットに、敵から逃れ去る可能性、あるいは小グループの追跡者なら完全に無害化する可能性すら開くのである(頑住吉注:「ニュートラル化」という妙な言葉が使われていますが、要するに全滅させることができるということですね)。MP7A1は射手に攻撃的活動を可能にするということだ。
目下アメリカ海兵隊はサイレンサーつきMP7A1をヘリコプタークルー用にテストしている。このコンセプトは乗員が銃を「太腿ホルスター」に入れて常時携帯することを想定している。それに付属するサイレンサーは分離してサバイバルベストに収める。この方法はクルーが敵地に不時着した直後にサイレンサーを装着することを可能にする。敵がすでに近くて、サイレンサー装着の時間がもはや残されていないときは、ヘリコプターを捨てる際にすでに(緊急時には片手でも)火力戦闘が行える。クルーはこうしたケースではどっちみちすでに敵に発見されているのだから、発射音も大きなマズルフラッシュも役割を演じない(頑住吉注:したがって無理にサイレンサーを装着する必要はない)。
重量520gしかないサイレンサーはスイスの会社Brugger&Thomet(頑住吉注:「u」はウムラウト)製である。ケースと薄板(頑住吉注:「Lamellen」。減音のための内部の多数の仕切り板のことでしょう。冷却機のひれ、クラッチの円盤もこう呼ぶそうです)はアルミニウム製で、後部の薄板はスチール製である(頑住吉注:たぶん後部はより高温高圧にさらされるからでしょう)。サイレンサーも大きな発射数およびフルオート射撃をたやすく乗り切る。サイレンサーは特殊なサブソニック弾だけでなく戦闘用弾薬も使用することができる。銃器のファンクションは両弾薬タイプで保証される。
超音速弾薬を使った場合でさえMP7A1にサイレンサーを装着した場合の騒音レベルはサイレンサー装着時のMP5K PDWおよびMP5SD以下である。後者の銃は純サイレンサー銃であるにもかかわらず。そういうわけで、サイレンサー装着状態のMP7A1はイヤープロテクターなしでも、閉鎖空間内部でさえ射手が音による外傷(頑住吉注:「トラウマ」)に苦しむことなく射撃できる。また、射手はその聴覚をフルに保つことができる。分隊または小グループ内のコミュニケーションは妨げられないままである(頑住吉注:地下室などで射撃を行うと発射音によって耳を傷めたり、一時的に聴覚が低下して味方との会話や敵の出す物音が聞き取りにくくなるが、サイレンサーつきのMP7A1ならそれがない、ということです。また、ここには書かれていませんがマズルフラッシュで目がくらむことがないという効果もあるはずです)。
「安全演習弾薬器具」
演習弾薬の射撃のためには、いわゆる「安全演習弾薬器具」(SMPG)が想定されている。これはドイツ連邦国防軍バージョンの場合フラッシュハイダーのかわりにねじこまれる。輸出用のSMPGとしては(サイレンサーのように)フラッシュハイダーにダイレクトにかぶせることができるものがある。
SMPGの使用はマズル前方にいかなる安全領域も要求せず、このため非常にリアルに近い近距離戦闘トレーニングを可能にする。
5発までの戦闘用弾薬を発射してさえ、SMPGは射手および銃口の前にいる人の安全をフルに提供する。弾丸は続けてSMPGのマッシブな前部の中にキャッチされる。この際射撃がフルオートであるかセミオートであるかは意味を持たない。これに加え、特殊な、色でマーキングされた演習弾薬マガジンも使える。これは前後の内部ボリュームが減らされ、このため2発の戦闘用弾薬の追加装填だけを可能にする。
つまり、操作者が1発の弾薬をマニュアルでチャンバーに装填し、ボルトを閉鎖し、ついで2発の実弾が装填された演習弾薬マガジンを挿入したときでさえ、結果的に最大3発の実弾射撃が行えるだけである。これはSMPGにキャッチされる。
H&K構造のSMPGの起源は、G3のスウェーデン向けバージョンであるAK4とイギリスのSA80である。この前H&Kが実施したSA80の「中年の改良」の枠内で、イギリスの調達者からSMPGが要求された(頑住吉注:H&Kが行ったL85A2に向けての改良のことだと思われます。すでにある程度旧式化が進んでいる銃の改良であるためこう呼んだんでしょうか)。その背景は1990年代、戦闘訓練の間に多数のイギリス兵がその戦友に撃ち殺されたという事情である。その原因はうっかりして演習弾薬の代わりに戦闘用弾薬を装填したことであった。G36用、そしてHK4軽機関銃にもこの種のSMPGが使える(頑住吉注:これもよく分からないと思うので補足します。とは言うものの説明不足で私にも分からない点が多いんですが。SMPGとはサイレンサーのような形をしたアクセサリーです。明記してありませんが性質上たぶんスチール製の肉厚な構造で、弾丸とほぼ同じ径の穴が内部に続いていますが、先端から目測で3cmくらいのところで行き止まりになっています。たぶん基本的にはこれはブランクアダプターだと思います。イギリスにおける過去の事故は通常のブランクアダプター使用時のもので、誤って実弾を装填した際に弾丸がブランクアダプターを破壊して飛び出し、味方兵士を殺傷したためにこういうものが要求されたということではないでしょうか。SMPGの場合、誤って実弾を発射しても弾丸は当然行き止まりになった部分で強制的に停止させられます。連射するとどんどん弾丸が内部で圧縮されて溜まっていきますが、容積に限度がありますから演習用マガジン内部は前後幅が小さくされて2発以上は実弾が入らないようにしてあるということのようです。何故1発も入らないようになっていないのかは分かりません。あるいは誤ってではなく意図的に3発までの実弾を発射することを想定したものなのかもしれませんが、この場合再使用は無理だと思われます。空砲でも近距離では危険ですが、SMPGを使えば銃口の前の人に一切危険がなく、屋内戦闘などのリアルな訓練も可能だということのようです。)。
携帯システムと射撃姿勢の種類
できる限り全ての考え得る実戦使用コンセプトを想定するため、MP7A1用としてたくさんの携帯ベルト、携帯「Geschirre」(頑住吉注:辞書には「馬具」などの意味が載っています。金具類だと思いますがはっきりしません)、ホルスターが自由に使える。
●G36のような「急速取り出し可能性」つきのコンベンショナルな携帯ベルト。
●「一点吊り」付きのフレキシブルな携帯ベルト(いろいろな他のシステムとコンビネーションした一種の特大の「罠ベルト」としても使える)。
●クイックドロウ携帯システム(特にコンシールドキャリー方法を想定)。
●「太腿ホルスター」
(頑住吉注:ごめんなさい。私はこのあたりの知識が乏しいんでこの部分はよく分からないです)
MP7A1の実戦使用に際しては、以下の射撃姿勢の種類が区別される。
●ショルダーストックを押し込み、フォアグリップをたたんだ、あるいは起こした状態での片手保持(ピストルのように)。
●ショルダーストックを押し込み、フォアグリップをたたんだ、あるいは起こした状態での両手保持(ピストルのように)。
●ショルダーストックを押し込み、フォアグリップを起こした状態での両手保持(頑住吉注:原文ではここも「ピストルのように」となっていますが、ここで言っているのは明らかに片手はフォアグリップを握る、ステアーTMP、9mm機関拳銃のような保持方法です)。バリエーションとしてフォアグリップを握る手の掌を外側に向け、銃を前腕に載せて支える保持(頑住吉注:これについては後の囲み記事の項目で触れます)。
●ショルダーストックを引き出し、フォアグリップを起こした状態での両手保持(サブマシンガンのように)。
操作性
MP7A1の操作は意図的にコンベンショナルなままにされている(頑住吉注:ライバルのP90とは対照的に、ということでしょう)。設計者は特に両側からの操作性を重んじた。その結果射撃選択、マガジン解放、ボルトストップ解除、コッキングハンドルが左および右利き射手に等しく良好な操作性となっている。
銃が最終弾を発射し、ボルトが開放位置に留まった後、射手は射撃姿勢を保持したまま、そして目でターゲットをとらえ続けたままでいられる。彼は今空のマガジンをマガジンキャッチの操作によって落とし、新しいマガジンを挿入することができる。彼はボルトストップレバーの働きによって、すぐにさらなる射撃準備状態となり、コッキングハンドルの操作のため射撃姿勢から離れる必要がない。
こうした特徴は戦闘中の兵士に貴重な数秒を節約させ、近距離戦闘ではまさにこれが生死を決める可能性がある。
国際的使用
目下MP7はドイツのコマンド特殊兵力(KSK 頑住吉注:「Kommando Spezialkrafte」。最後の「a」はウムラウト)およびドイツ連邦国防軍内のフィールド猟兵(頑住吉注:「Feldjager」。「a」はウムラウト)の個人警護兵力(頑住吉注:「Personenschutzkraften」。「a」はウムラウト)によって使用中である。彼らはこの銃器システムをアフガニスタンにおける作戦で、コソボで、ボスニアで使用している。その上NATO軍事委員会メンバーの個人警護者はMP7で武装されている。
その他MP7A1は「Infanterist der Zukunft」(頑住吉注:「未来の歩兵」)プログラムの確固たる構成要素であり、この中でこの銃は特に小隊、および分隊長のメインウェポン、そして例えば「長射程ライフルG82A1」のような 「重い銃」の操作者の第二の武装として想定されている(頑住吉注:「未来の歩兵」プログラムではバレットも導入されているそうです。また、MG4の射手がこのMP7A1で武装される予定であることはすでにお伝えした通りです。)。
それだけでなく、H&KはMP7をすでに20以上のNATO諸国およびNATOと親交を結ぶ国々に輸出した(頑住吉注:とすると日本が含まれている可能性もありそうですね)。
例えばレギュラーな警察組織といった特定の実動部隊はサブマシンガンとならんでピストルも必要としている。だからすでに多数の特殊部隊はMP7A1のための同一弾薬仕様の「バックアップ」銃を要求している。H&Kは目下「UCP」(Ultimate Combat Pistol)の名の下に4.6mmx30弾薬仕様のオートピストルも開発している。
ドイツ連邦国防軍とMP7A1(囲み記事)
ドイツ連邦国防軍はRUAG Ammotech(頑住吉注:「アクション4」のメーカー)の新しいハードコア弾薬である「Typs DM11/AA30」とともに、4.6mmx30弾薬仕様のMP7A1をH&Kから調達している。これが始まったのは1904年、かつてのカイゼルの陸軍に、1902年にKarisruhe所在の「Deutschen Waffen−und Munitionsfabrik」(DWM)が開発した弾薬である9mmパラベラムが採用されてから、ちょうど100年後のことである。KSKと歩兵はそれぞれ自分の(頑住吉注:やや型が異なる)バリエーションのMP7A1を入手している。
この銃は最初アフガニスタンとバルカンの実戦投入兵力に重点的に配分されることが予定されている。ドイツ連邦国防軍は、ユーザーグループに応じてピストル、サブマシンガン、アサルトライフルの代わりになるユニバーサルな使用ができるコンパクト銃によって、そのハンディな銃のバリエーションを完全なものにした。
携帯ベルトと射撃姿勢(囲み記事)
コンベンショナルな携帯ベルトとフレキシブルなベルトは、ストックを押し込んだ銃を使用する際に射撃姿勢の安定用にも使える。これに関し、使用者は携帯ベルトの前部にある「急速解除メカニズム」を解除し、銃を前に押し出して適当な強さにピンと張って保持する。写真が示すように、銃をこのような射撃姿勢でほとんど90度ひねり、一方フォアグリップを保持する手の掌は外に向ける。これによってMP7A1は前腕の上に乗り、この射撃姿勢は極度の安定を与える。このレシーバーの角度によって狙う方法は、短い実戦距離では視界がサイトによって妨げられないという長所を提供する。示した種類の射撃姿勢は近距離においてフルオートでマンターゲットと戦うのに適している。また、セミオートでも25mの距離で上半身ターゲットに問題なく命中させられる(頑住吉注:この文章だけでは分からないと思うので補足します。頑住吉のH&K PDWがあれば最高ですが、なければMP5K、TMPその他バーチカルフォアグリップのある小型サブマシンガンを用意してください。まず仰向けに寝てください。銃は右手で持ち、銃もエジェクションポート側を上にして寝かせるように腹の上で保持してください。左手は銃の下を通して、通常とは逆、すなわち小指がフォアグリップの根元に来るように握ってください。銃が腹の上に乗った前腕の上に乗る形になって安定するということです。サイトは見ずにレシーバーの角度で狙い、これなら視界が妨げられず、近距離なら充分命中させられるということです。)。
MP7A1のテクニカルデータ
メーカー:H&K
名称:MP7A1
口径:4.6mmx30
作動方式:閉鎖用突起の付属した回転ボルトヘッドを持つガス圧ローダー(ショートストロークピストン)。
マガジンキャパシティ:20または40発
射撃の種類:セミ、フルオート
銃身長:180mm
ライフリングピッチ:160mmで半回転
重量:1.6kg
全幅:42mm
全長:34mm(ストック押し込み時)、54mm(ストック引き出し時)
いやー、とにかく非常に長いんで読むのがしんどかったです。ただ、ほとんど学術文献のような無味乾燥な文体は比較的読みやすく、不得意分野であるキャリングシステムや軍内部の組織に関する部分を除き比較的分かりやすかったのは幸いでした。
私がH&K MP7をモデルアップしてからすでに4年以上が経過し、ディテールもずいぶん変化しました。当時は4年以上も量産メーカーが作らないとは思わず、まあ2、3年くらいのうちには発売される可能性が高いだろうと思っていました。
MP7A1に関してはGUN誌2004年2月号に床井雅美氏によるレポートが掲載されているのでそちらも参照してください。床井氏が詳細にレポートされているのはMP7A1の一つ前のMP7で、P42、43にMP7A1の側面写真のみ掲載されています。MP7A1の改良点は、
●グリップ側面の滑り止めがUSPに似た形からP2000に似た形になった。
●スムーズだったグリップ前、後面にザラザラの滑り止めが追加された。
●フラッシュハイダーが突き出ている部分の上に直径8〜10mmくらいの丸い穴が開いた(「DWJ」は単に冷却のため通気をよくするものだとしていますが、「太腿ホルスター」などに入れて垂直に近い状態で身につけ、水につかったのちに内部の水が流れ出やすいという意味もあるのではないかと思います)。
●トリガーにグロックに似たトリガーセーフティが追加された(小さくて判別しにくいですが、GUN誌の写真にはまだこれがないように見えます)。
●レシーバーが約10mm延長され、発射速度が低くなった。
この他にも重要な意味はないと思われますが微妙に形状が変化している部分があるようです。また、サイトの違いの他、KSKバージョンには厚いボディーアーマー装着時のため、2箇所追加のストック固定位置がある、バットプレート両側面にもスリング固定用突起部があるなど多少の違いがあります。ちなみに本文には出てきませんが、パーツ展開図にはポリゴンバレルであると書かれています。
これだけ長い文章でありながらマイナス面に見事なまでに一切触れていないのはどうかと思いますが、確かにMP7A1はコンパクトで、軽量で、操作性がよく、写真で見る限り非常によくできたPDWであると思われます。個人的にはP90は形状や操作性が特殊すぎ、MP7A1と大差ない機能とすればサイズ的に大きすぎ、また最も軽量なアサルトライフルと大差ない重量は過大であるように思えます。私がこの銃に関し疑念に思うのは基本的にはただ一つ、4.6mmx30弾薬には本当に充分な効力があるのかという点だけです。これに関しては同じ号にこの弾薬に関する別の記事があるのでそちらで触れる予定です。