正体不明のターレットリボルバー?

「デベロプメンタル カートリッジハンドガンズ イン .22キャリバー

 「Developmental Cartridge Handguns in .22 Calibre」という本を2003年夏のブラックホール、西山洋書のブースで購入しました。1855〜1875年まで、.22口径カートリッジ式の銃のみ扱っているのに、600ページ近い非常に分厚い本です。私は「ザ・プロテクター」の「実銃について」で、『「ザ・プロテクター」は(略)メタリックカートリッジ式ターレットリボルバーとしては銃器発達史上唯一の存在と思われる。』と書きました。ところが、この本には別のメタリックカートリッジ式ターレットリボルバーらしきものが載っていました。当面作るつもりの銃が載っていないのに16,200円という非常に高価な本を購入したのは、ひとつにはこの銃に興味をそそられたからでした。

謎のターレットリボルバー1謎のターレットリボルバー2

 この銃はメーカー、生産地不明、シリアルナンバー、刻印一切なしという正体不明の銃です。作られた時期も不明ですが、この本では1850年代半ばだろうと推測されています。フレームはいいとして、バレル、シリンダー(ターレット)までブロンズ製で、この本ではこれは試作段階で終わったもので、もし量産されたらバレル、シリンダーはスチールになっただろうと書かれています。この本では「バーチカル スポーク シリンダー」という仮の名称で呼ばれています。「スポーク」というと我々はまず自転車のそれを想像しますが、辞書で調べると船のハンドル(「操舵輪」というんでしょうか)のことも指すそうで、この銃のシリンダーの場合帆船の操舵輪の方が似ていますね。各チャンバーには長方形のくぼみがあり、板バネがこれとかみあって定位置でシリンダーを止めるようになっています。回転は手動です。ただ、シリンダーの反対面にはラチェット状のものがあり、自動回転メカを作ろうとして断念したらしいです。

 「ザ・プロテクター」の「実銃について」では、「ターレットリボルバーで弾頭を中心に向けることは不可能」「装填は中央の穴から行うしかないので穴の大きさは最低でも弾薬の全長分必要」と書きました。ところがこの銃の説明を読んでいるとどうも変です。中央の穴は妙に小さく、後方のハンマーから前方のチャンバーへ打撃を伝達する仕組みが見当たりません。読んでいって驚きました。この銃はハンマーによって後部のチャンバーの弾薬を発火させるものであり、弾頭は中心に向き、装填はシリンダーの外部から行うんです。

 「んなアホな」と首を傾げながら読み進めました。「シリンダーの軸には水平の穴が開いている。これは発射時に弾頭が通過するためである。チャンバーを出た弾頭はまず軸の穴を通過し、反対側のチャンバーを通過し、バレルを通過して発射される。いうまでもないが3つのチャンバーにしか装填することはできない。」 これでずっこけました。

 私はよく、ある銃のこの部分が不合理だの何だのと好き勝手を書いていますが、いくらなんでもここまで不合理な銃は初めてです。不合理すぎて「シュール」と表現したくなる感じです。量産されなかったのはあたりまえですが、この試作品(最低でも2挺以上作られたそうです)を作るにもかなりの時間と手間がかかったはずです。実際に形にする前にこれはダメだと気づかなかったんでしょうか。3発しか装填できないのならリボルバーにしたって厚みはそう変わらず、全長はずっと短くできます。それにいわゆるシリンダーギャップにあたるものが3つもあることになり、パワーロスも大きいでしょうし、たぶん精度にも悪影響があるんではないでしょうか。また、この銃は上に来たチャンバーに弾薬を装填するわけですが、構造上このとき反対側のチャンバーにすでに装填されているかどうか見ることができません。量産されていたら絶対弾頭をはちあわせさせる事故が多発したでしょう。黒色火薬時代の.22リムファイアですから銃が大きく破損して射手が大怪我を負うといったことはないかもしれませんが、だからいいという問題じゃありませんよね。チャンバーが上にあるとき、弾薬は摩擦によって保持されているだけなので携帯時にばらばら落ちてしまうおそれがあり、かといってタイトに固定されたら抜くのが大変です。軸がさえぎっているのでエジェクターのようなもので反対側から突き出すのは不可能ですから。

 何と申しますか、これは量産されていないことも含め、『「ザ・プロテクター」が史上唯一のメタリックカートリッジ式ターレットリボルバーである』ことを妨げる存在ではない、はっきりいえば無視してしまってかまわない存在だと思います。


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