ゲナーディ・ニコノフとAN-94

「Visier」2003年9月号
「Visier」20003年9月号

 「Visier」2003年9月号に、ロシアの新制式アサルトライフルAN-94とその設計者であるゲナーディ・ニコノフに関する記事が載っていました。


ゲナーディ・ニコノフ 1950〜2003

 過去数十年間ロシア軍の制式ライフルといえばカラシニコフだった。しかし1996年、秘密のうちに他の銃と交代した。この新ライフルAN-94の背後にいて、ほとんど知られていない人物、ゲナーディ・ニコノフが2003年5月14日に死去した。

 ニコノフは、ゆりかごにいるときから技術というものに深い理解を持つ両親によって育てられた。両親ともIschewskのIzhmashで技術者として働いており、ゲナーディが1950年8月11日に生まれたとき、すでにその歩む道はある程度決定されていたといえる。1968年に技術学校を卒業したのち、彼はIzhmashのの兵器設計チーフの部局で技術者として働き始めた。
 若き日のニコノフが得意としたのは水中ライフルの試作だった。彼が最初に図面を引いた特殊なトリガーシステムは、同僚たちに高く評価された。また、通う学生の多いIschewsk単科大学で兵器技術者として教育も行った。彼はコスト削減のノウハウを持っており、経済性について先見の明を持っていたので、Izhmashで早く昇進し、成功したキャリアとなった。圧縮空気銃、スポーツ銃、限定生産のハンティングカービンなどの生産も行った。
 彼は仕事で高い評価を受け、自分の責任の下の最初の大きなプロジェクトを完成させた。彼は設計にあたり、多くのパテントを取得するのが常だった。バイアスロンライフル用の直動閉鎖システムの開発で、彼は44のパテントを取得したことが知られている。全くロシア的なことに、彼は他の多くのロシア人設計者同様、金のかわりに名声と「Izhmash最高の設計者」「省最高の設計者」というタイトルを欲した。2人目の子供の出産で最初の妻が亡くなって以後、私生活は全く捨てて技術の道一筋に歩んだ人物だった。

秘密プロジェクト
 彼にとってかえって幸運なことに、スポーツ銃の仕事は不調となり、他の分野に転じることができた。1980年代の初め頃から、ゲナーディ・ニコノフはある秘密のプロジェクトに携わった。1993年、新しいロシア製アサルトライフルの噂が流れた。モスクワ近くのTaman近衛師団において、最初のモデルが目撃されたのだ。
 3年という長い沈黙の後、1996年、ロシア国防省はAN-94(アヴトマット ニコノバ)が部隊における全てのテストに合格したことを発表した。94は制式化された1994年を意味し、AK-47、AKM、AK-74の後任につくと見られている。

歴史
 AN-94の開発は、実際には70年代初め、AK-74と新しい高性能弾薬5.45mmx39が採用された頃、すでに決定づけられていた。現場部隊では改良されたAK-74にも依然不満の声が大きく、そして誰が見てもAK-74は「カラシニコフ」デザインの終着点であり、これ以上の発展可能性はないと思われたからだ。新世紀に向けての新アサルトライフルは、1800発/分の発射速度によって従来の1.5〜2倍の実効性を持ち、しかもリコイルがわずかであることが求められた。
 「アバカン」(多くの兵器のテストが行われたシベリアの都市)の名の下に、これらの高い目標を目指したプロジェクトが進行した。このプロジェクトは多くの西側ジャーナリズムの注目も集めた。ロシアの著名な銃器設計事務所のほとんどにあたる12のチームがこのプロジェクトに独自の設計で参加した。

夢と現実
 ミハイル・カラシニコフの夢は、息子のビクターに跡を継がせ、ロシアの次世代アサルトライフルを手がけさせることだったが、この夢はシャボン玉のようにはじけて消えた。カラシニコフは全力で息子の支援をしたが、失敗に終わった。採用されなかった最大の理由は、全く新しい口径(6mmx49)を取り入れたことだった。そうでなくてもすでにロシアは7.62mmx54R、7.62mmx39、5.45mmx39という3種ものライフル用弾薬を抱えており、一方国庫は常に空である。そんな中でこの案はコスト面で受け入れられるはずがなかったのだ。

先進的メカニズム
 AN-94の遅い供給スピードは、いかに古いAKデザインの支持者が多いかを物語っている。AN-94は近代的な製造方法と、高性能プラスチックを採用しており、AKからの流用パーツは、マガジン、折りたたみストックの取り付け部、ピストルグリップ、スコープマウントベース、クリーニングセットの5点だけだ。
 AN-94の基本的作動原理は革命的に新しいものである。AN-94はガス圧、リコイル併用システム、バレル後座システムを採用している。一見するとフォアグリップ下を占めるスタビライザーがガスシリンダーのように見える。スタビライザーの後端は特殊なフルオート時のバレルグループの振動を小さくする。これにより、収束弾道による高い命中精度を得、火力も高めている。真のガスシリンダーは短く、バレルの上にある。これはフォアグリップに覆われている。ストックグループは内部の作動部分のガイドレールとして働き、そのキャリアの役目を果たしている。

ダブル打撃
 この銃には前後にバッファーがある。これは射撃時のショックを吸収するだけでなく、新しい2発射撃オートマチックの重要な機能を担っている。
 バッファーは以下のような働きをする。最初の発射の結果生じたリコイルによって、バレルグループは後方へ動く。前のバッファーを圧縮しながら、ボルトキャリアは後方へすべる。バレルとボルトはこの時点ではまだロックされたままである。膨張するガスがボルトキャリアをさらに後方へ動かし、このときエジェクトが行われる。ボルトキャリアは、より重く、負荷のかかったバレルグループ全体より高速で後退する。バレルグループ全体がまださらに後ろのバッファーに向けて後退を続けている間に、2発目がボルトによって装填され、閉鎖され、発射される。この後バレルグループ全体は後ろのバッファー位置まで後退する。
 ダブル発射オートマチックは、理論上毎分1800発の発射速度を達成する。フルオート時には、指がトリガーを圧している間は最初の2発の発射以後、発射速度は毎分600発に制限される。トリガーを素早く引きなおし続ければより速い発射速度が得られる。

戦術的思想転換
 AN-94はダブル発射オートマチックを導入することにより、戦術的有効射程が100〜150m伸長した。最初の一撃での命中率はAK-74の1.5〜1.7倍となっている。AN-94は明らかにロシアの戦術を変えた。これにより、敵を不正確なマシンガン、アサルトライフルの弾幕射撃で包むのではなく、わずかな弾薬で正確に捉えることができるようになった。その上、AN-94は、AKの約3万発に対し、約4万発の耐久性を持ち、1/3増しとなっている。
 ただし、AKの支持者も根強く、AKの時代が完全に終わるにはまだかなりの時間がかかると見られる。


 これは本文の要約ですが、他に写真キャプション等もあるので補足説明等をしていきます。ゲナーディ・ニコノフ本人については最初の項目で触れられています。ニコノフは厳しい独ソ戦を体験した技術者を両親に持ち、おそらくは英才教育を受け、早く出世した人物だったようです。彼の設計したものはユニークなひらめきに満ちたもので、既存の技術を堅実にまとめあげ、20世紀最高のアサルトライフルとも言いうるものを作った努力の人といったイメージのカラシニコフとは対照的な、天才肌の設計者だったと思われます。こう書くととっつきにくい人物が頭に浮かびますが、写真は温厚そうに見えますし、キャプションによれば親しみやすい、人に好かれる人物だったようです。死因には触れられていません。異常なものなら触れられているはずなのでたぶん病死でしょう。ロシアの平均寿命は日本より短いはずですが、それにしても52歳というのは早死にと思われます。きわめてユニークな新兵器を開発し、その評価が定まらないうちに早死にした早熟で天才肌の設計者、というのはちょっとミステリアスなイメージですね。ちなみにゲナーディにはニコライとユーリという2人の息子がいて、彼らも銃器設計者であるようです。

 カラシニコフの息子による採用されなかったアサルトライフル案というのはちょっと興味がありますが、具体的にどういうものかは分かりません。ただ、設計者というものは外的要因によって自分の作ったものが変更を余儀なくされた場合、客観的に見るとそれが改良であっても、それに批判的で、原型の方がよかったと考えることが往々にしてあるようです。例えばユージン・ストーナーがM16A1やA2に批判的であるとされるようにですね。これは全くの私の想像ですが、カラシニコフは改良されたAK-74は威力不足であり、7.62mmx39を使うAKの方がいいと考えていた、そしてビッグネームの親父を持ち、それと同じ道を歩んだ息子も同じ考えだったんではないでしょうか。6mmx49弾薬というのはどういうものか全然わかりませんが、5.45mmx39より強力なものであることは間違いないはずです。アサルトライフルを新世代に更新するにあたり、カラシニコフ父子は使用弾薬の威力をやや7.62mmx39寄りに戻したものを強硬に推し、それが命取りになったのではないかという気がします。また、これも推測にすぎませんが、その銃というのはたぶん進化のどんづまりに来たと見られていた従来型AKのデザインから脱却しきれないものだったのではあるまいかと思います。他の資料によればカラシニコフは息子の案の落選に激怒し、全力で決定を覆そうと運動したものの、それは不成功に終わったということです。現在は旧ソ連時代のように衛星国に自国の兵器を押しつけられる時代ではありません。外貨獲得のため兵器を輸出する際、「あのカラシニコフの息子が開発した21世紀型の画期的アサルトライフル!」とやった方が売りやすいと思うんです。しかもカラシニコフはネームバリューだけでなく実際にかなりの影響力を持っていたようです。そんな中でニコノフの新アサルトライフルが実戦経験豊富な部隊での全てのテストに合格して採用されたわけですから、少なくともまるっきりダメな銃ではないはずです。ちなみに「アバカン」をAN-94の別名としている資料もありますが、実際にはこれは新ライフル開発プロジェクトの名前で、AN-94イコールアバカンとするのは誤りらしいです。

 記事にはAN-94の試作状態からの写真が載っていました。知りませんでしたが、AN-94は最初ブルパップからスタートしたそうです。この最初の試作品にはすでに1800発/分・600発/分の切り替えシステムがあり、ただしこのときは3発バーストだったということです。部隊テストで操作性の悪さが指摘され、左利き射手にも不便だということでコンベンショナルデザインになり、その後RPKのようなデザインのストックになったり、AK-74に似たマズルブレーキになったりといった変遷を経て現在のような形に固まったようです。ちなみに他の資料によれば8の字を横にしたような変わった形のマズルブレーキはフラッシュハイダー、発射音、反動軽減の効果をあわせ持ち、セルフクリーニング機能があるっていうんですが、どういうものなのかはわかりません。AK-74のものとと交換可能ということですから、AK-74にこれをつけることも可能なはずです。どこかのパーツメーカーで作りませんかね。

 AN-94のメカニズムに関しては、詳しいイラストや写真による説明がなく、簡潔な文章だけなので正直よくわからず、またドイツ語力の問題から解釈が正しいか不安でした。そこで英語の資料やネット上の最新の情報で少し調べてみました。このメカは、やはりここで書かれているように「前後にバッファーがあり、これはショックを吸収するだけでなく作動に関わっている」「最初の発射によってバレル、ボルトがロックされたままリコイルによって後退し、この途中でガス圧によってボルトがより速い速度で後退して排莢し、後退しきる前にボルトが前進して2発目を発射する、その後フルリコイルする」というもののようです。

AN-94フィールドストリップ状態

 今回の「Visier」には、今まで見たことがなかったAN-94のフィールドストリップ状態の写真が掲載されていました。たぶんロシアの紙質や印刷のよくない雑誌か何かからとったものでしょう、かなり不鮮明で細部はよく分かりません。ただ、このイラストでもおおざっぱなパーツの分割は分かると思います。いちばん大きいパーツグループであるストックまわりは基本的にプラスチック製で、現代のアサルトライフルとしては重量が過大と思えたAKシリーズより軽量になっています。フォアグリップの太くなっている部分にレバー状のものがありますよね。手持ちの側面写真と比べてみてください。組み立て状態ではこのレバーは前を向いています。これを時計方向に130度くらいでしょうか、このイラストの位置までぐるっと回すと一番上のAKのレシーバーデッキにあたるようなパーツ(たぶんこれもプラ製でしょう)が外れ、バレルグループが取り出せる、ということらしいです。グリップまわりはどうやって外すのか不明です。バレルグループの真ん中あたりには、見慣れない非常に大きいホイール状のものと、それにつながったワイヤー状のものがあります。これはボルトキャリアのリターンなどに関係するようです。

 バルカン砲やH&K G11のように閉鎖方式自体を全く異なるものにし、発射速度を格段に高めるというのはなんとなく分かるんですが、この銃ではボルトが前後動して装填、ロック、発射、アンロック、排莢するというプロセスには変わりがないわけで、どうして発射速度が通常では不可能なほど速まるのかがよく理解できないです。ボルトのストロークが最小になっている、後部のバッファーに当たったボルトが高速で蹴り返される、直動ハンマーが非常に作動の早い特殊なものになっているなどと説明した資料もありますが、いまいち納得いかないというか、それは普通の銃でもそういう設計にできないことはないだろうという気がします。ただ、1800発/分というのは通常システムで最も速いものの1.5倍くらいですから細かい改良の積み重ねでなんとかなる範囲なのかもしれません。理由はともあれ、この非常に速い発射速度のおかげでバレルグループが後退する間に2発の発射が行われます。バレルグループが後退しきって銃本体(バッファー)に激突するのは2発め発射以後であり、1発目のリコイルが直接銃に伝わらない(スプリング等を介して一部は伝わるはずですが)うちに2発発射されるというわけです。このため100mでワンホールが可能としている資料もあります。エアソフトガンで缶を撃つ場合でも、1発目では凹んだだけなのに、2発目では簡単に貫通することがありますよね。これと同じ理屈で、同じ場所に2発たてつづけに命中すると貫通力は飛躍的に高まり、ストッピングパワーも大きくなるとされています。
 ただ、デメリットもあるでしょう。まず構造が複雑になり、ガス圧とリコイルの2つの力で動かす以上作動不良の可能性も少なくとも理論上高くなるはずです。例えばバレルグループが速く後退しすぎてボルトが後退しきらないうちに後ろのバッファーに当たったりしたら当然ジャムするはずですよね。理論上命中精度が高いというんですが、少なくとも西側の人間がはっきり確かめたわけではないようです。一般に銃身が大きく前後動するロングリコイルは命中精度が低いとされています。バレルグループが長距離スムーズに前後動するためにはいくらかのクリアランスが必要ですし、あまりタイトにしたら砂などが入ったときストップしやすくなるおそれがあります。フロントサイトはバレル上にあり、リアサイトはストックグループ上にあり、両者にはクリアランスがあるわけですから、これは命中精度にはマイナス要素だろうという気がします。仮に2発がワンホールでも、そのグループ自体が散っているのではダメですよね。

 フルオート時、3発目以後の発射速度を制限するメカについては「不明」「短い文章では説明不能」「プロにしか理解不能」とか書いて説明を避けている資料が多く、結局よく分かりません。たぶんバレルグループ後退中の発射が起こらないようにするんだと思うんですが。とにかく極端に複雑なメカニズムであることは確かなようです。
 セレクターはセミ、2発バースト、フルの3ポジションとなっており、グリップ取り付け部分の左側面にあります。動きは前後にスライドするもののようで、前からセミ(表示「1」)、2発バースト(表示「2」)、フル(表示「AB」)となっています。グリップを握った手の親指で操作はしやすそうです。セーフティは反対の右側面にありますが、小さくてこれは操作しにくそうに見えます。また、ロシア文字による表示が下面にあるというのは確認しにくすぎではないかと思います。
 AN-94の最初のヒット率がAK-74の1.5〜1.7倍、有効射程が100〜150m伸長、ロシアの戦術そのものを変えたというのは本当にその通りなのか、誇大な評価なのかはわかりません。他の資料にはAK-74の2倍、M16の1.5倍としているものもありました。耐久性の差はリコイルをかなりストレートに受け止めるAKと、バレルまわりが大きく前後動することでショックが吸収されるAN-94の差なのか、材質や他の設計によるのかはわかりません。また、AN-94はまだまだバトルプルーフされたとはいえないはずですから、本当に信頼に足るかはこれからの問題でしょう。

バヨネット装着

 バヨネットはこんな風にマズルの右につきます。刃には穴があるのでワイヤーカッターの機能はあるんでしょうが、背中にノコ刃はありません。横につく形のため、AK-74では不可能だったグレネードランチャーとの同時装備が可能なことがメリットだとしている資料もありますが、現実的にグレネードランチャーつきのアサルトライフルで有効な銃剣格闘ができるのかという疑問はあります。バヨネットについてはもうひとつ大きな疑問があり、今回調べた中では分かりませんでした。AN-94のバレルはスプリングのテンションで前に押されており、リコイルで大きく後退します。この状態のバレルにバヨネットをつけても、刃が引っ込んで刺さったように見えるおもちゃのナイフ状態だと思うんです。突くとまずバヨネットはスプリングを圧縮しながら大きく引っ込み、バッファーに当たって止まり、そこからさらに力を込めて突くと刺さる…ってまさかそんなわけないですよね。バレルに手動のロックを設ける方法も考えられますが、近接戦闘では刺突と射撃を一瞬の判断で選択したり、交互に行ったりすることも多いはずで、これも考えにくいと思います。だとするとバレルは通常ロックされていて、作動時には自動的にロック解除になるんでしょうか。考えられるのはトリガーをわずかに引くとロック解除になる、ボルトキャリアがわずかに後退するとロック解除になる、といったところですが、私には考えつかない別の方法かもしれません。しかしいずれにせよあまり強固に固定するわけにはいかないのではないか、また周囲はプラスチックのストックですから、あまりハードな銃剣戦闘には向かないのではという気がします。

 全体として見て、ニコノフという人物はあまりロシア的ではない、ドイツ的、もっといえばH&Kの技術者に近いキャラクターだったのではという気がします。AN-94のマガジンは下部が射手から見てやや右に傾いています。これはニコノフなりの考えで、この方が体に干渉しにくくて使いやすいと思ってそうしたんだろうと思っていました。そうなら左利き射手には不便だろうという気はしましたが、そういう理由ならもし結果的に使いにくくてもまあ許せる気がするんです。しかし、今回調べたところによれば、どうも内部メカの都合(バレルグループのリターンスプリングか何か)でこうなっているらしいです。そして、この部分の操作性について触れた資料は全て一致して使いにくいと評価しています。内部メカの都合は多少の妥協をすれば何とかなったと思うんです。それでもニコノフとしては新メカの都合を最優先し、使う人間のことを後回しにしてしまったわけです。このメカにそれなりの大きなメリットがあり、画期的といえるものであるのは認めます。しかしこれは技術というもののありかたとしてちょっとどうかなと思います。この他ストックをたたむと操作系の一部にアクセスできないとか、それ自体はAK-74と同じものながら角度が異なるグリップが握りにくいとか、全体として使い勝手については低い評価が下されています。理解や説明が不能なくらい複雑なメカといい、どうも理屈先行に見えるメカといい(この銃の説明では「理論上こうなる」という言葉が妙に頻出します。まあいまだ実態不明とい理由もあるんでしょうけど)、そして技術者の家に生まれて英才教育を受け、たぶん実戦経験はなく早い出世をした人物像といい、何というかメカおたくが作った銃、という気がし、独自色が強かった時代のH&K製品に対する違和感に似たものを感じるんです。カラシニコフが激怒した最大の理由は息子の案が落選したことでしょうが、たぶんそれだけではなく、「こんなオモチャみたいなものは実戦に使う軍用銃ではない!」という意味もあったんではないかと思うんです。「アンドロメダ」を見た真田技師長みたいなとでもいいますか。

 AN-94に大きな利点があるのは確かです。エリート部隊、特殊部隊は優先されて配備がほぼ終わっているらしいですから、その実力はたぶん本物なんでしょう。ただ、その性格から、AKシリーズに完全にとってかわるべきものであるのかどうかは疑問です。「ハイ・ローミックス」というか、今後当分一部はAN-94、大多数はAKシリーズという形で混在していくんではないでしょうか。また、ニコノフの死をきっかけにカラシニコフ父子が巻き返す可能性もあるかもしれません。

 ちなみに欲しい人もいるでしょうが、頑住吉はたぶんこれ作りません。調べるほど何かヤな銃ですし、バレルが大きく後退するいちばん特徴的な部分の再現が難しく(以前電動ガンのコッキングハンドルを連動させた方法でできないことはないでしょうが実用性がなくなってしまうでしょう)、作るのにものすごく手間がかかるのにできたものはだいたいAKに似ていていまいちインパクトがないといった理由です。まあ先のことに絶対はありませんが。

2003年11月3日追加
 ここをご覧の方にご指摘を受けました。AN−94の装填システムはきわめて特殊なもので、ボルト後退時に半分、前進時に半分の過程が行われます。ここまでは私も理解していたんですが、実はこの結果ボルトがマガジンの最後部まで後退する必要がないという点をうかつにも見逃していました。AN−94のボルトは、前進時にはすでにチャンバーへの過程の半分まで進んだカートをチャンバーに押し込むだけでいいわけです。これによりボルトのストロークは通常デザインの銃よりずっと短くでき、これが発射速度を速める効果を生んでいるようです。ただ、やはりこのシステムも作動不良の可能性を少なくとも理論上増加させるものである気がします。

2004年1月6日追加 
 これまで不明だったAN94のメカに関し、「特殊小火器研究所」の秋氏が解説されました。たぶんこれほど詳細な内容はメーカーの内部資料等は別として世界初でしょう。メカに強くない私には複雑すぎて正直よくわからない部分もありますが(笑)、文系の私とは全く異なる角度からAN94の正体に迫った、この貴重な資料を合わせて参照してください。






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